第15話:静かなる侵入者
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学園の昼休み。アレスは食堂の喧騒を避け、校舎裏の木陰へと逃げ込んでいた。
だが、そこには先客――あるいは、待ち構えていた者たちがいた。
「アレス・ヴァルフレア。昨日の実習の報告書、あなたの魔力消費量だけ計算が合わないわ。……一度、あなたの術式構成を精密検査させなさい」
リーネが眼鏡の奥の瞳を冷徹に光らせ、分厚い魔導書を開く。
「理屈はいいって。ねえ、あんたの腰のそれ、ただの鉄塊じゃないでしょ? 私の『風』が、その鞘の周りでだけ悲鳴を上げてる。……一撃だけでいい、私とやりなさいよ」
サキが不敵に笑い、しなやかな指先で弓の弦を弾くような仕草を見せる。
アレスの背後、木々の影からは、ノエルが声もなくその存在を主張していた。
「……昨日。影の主に、私の居場所を教えたのは……あなた?」
三方向からの包囲。アレスが拒絶の言葉を吐こうとした、その時だ。
「あー、見ーつけた! アレス、また女子に囲まれてモテモテじゃん! でも残念、アレスは僕と大事な『男の約束』があるんだよね!」
陽気な声とともに、レヴィアがひょいと木の上から飛び降りてきた。彼は女子たちの視線を意に介さず、アレスの肩に腕を回す。
「レヴィア、どきなさい。今は大事な調査中よ」
「まあまあ、リーネちゃん。そんなにカリカリしてると可愛い顔が台無しだよ? ほら、今日の限定チョコパン、一個あげるからさ!」
レヴィアがパンを放り投げ、女子たちが一瞬怯んだ隙に、彼はアレスを強引に連れ出した。
◇
「……助かった」
「いいってことよ! はい、これが本命の半分。一緒に食べようぜ」
校舎の屋上で、レヴィアはチョコパンを半分に割って差し出してきた。
「……甘いものは苦手だと言ったはずだ」
「えー、美味しいのに。……あ、もしかして、部屋にいる『あの子』にあげたいから我慢してるとか?」
その瞬間、アレスの心臓が大きく跳ねた。
パンを掴む指先に力がこもり、冷徹な視線をレヴィアに向ける。レヴィアは相変わらずの笑顔でパンを頬張っていた。
「……何の話だ」
「え? ああ、いやさ。保護施設の窓から、すっごく可愛い女の子が外を眺めてるのを見ちゃって。アレスが毎日そこに入っていくのも有名だよ。……あれ、もしかして君の妹さん?」
レヴィアに他意はない。だが、リーネのような鋭い連中に気づかれるのは時間の問題だ。ルナの存在が知れれば、彼女は『研究対象』や『人質』として狙われる。
「……ただの親戚だ。体調が悪いから、学園が預かっているだけだ。……二度とその場所へは近づくな」
アレスは立ち上がり、レヴィアを置いてその場を去った。
◇
その日の夕方。アレスが保護施設に戻ると、ルナが窓辺で待っていた。
「お兄ちゃん! おかえりなさい!」
アレスは無言でルナを強く抱きしめた。
その腕の震えを感じ取り、ルナは静かにその背中に手を回す。
「お兄ちゃん……大丈夫だよ、私はどこにも行かないよ。……それに、お兄ちゃんを困らせる『外の虫』さんは、私が全部追い払ってあげるから」
ルナの温もり。レヴィアの眩しすぎる善意。そして、外で目を光らせる追跡者たち。
アレスはルナを抱きしめたまま、誰にも見えない位置で、鋭い復讐の目を光らせていた。




