第13話:異端の守護者
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学園近郊にある『不浄の森』。
最初の屋外実習、アレスに割り振られた班は、名門の家柄ではない平民出身の生徒たちだった。
「あ、あの……アレス君、よろしくね。私、回復術士のミナ。これでも癒しの力には自信があるの」
おずおずと差し出されたミナの手を、アレスは「ああ」と短く流す。
「俺はカイル。見てろよ、俺の火属性魔法で獲物を全部焼いてやるからな!」
「カイル、先行しすぎだ。僕が防御魔法で守るから、落ち着いていこう。……ね、アレス君もそれでいいよね?」
盾を構えるジャックが苦笑いしながら同意を求めるが、アレスは腰の『インフェルノエンブレイド』の柄に手を置いたまま、無言で先頭を歩き出した。
◇
森の探索が始まって数時間。班の連携は意外にも機能していた。
「ジャック、右だ!」「任せろ、『アース・ウォール』!」
ジャックが土壁で魔獣の突進を防ぎ、カイルが不安定ながらも力強い火球で仕留める。危うい場面はミナが的確な治癒魔法でカバーした。三人は必死に、そして泥臭く協力して戦っていた。
一方のアレスは、ただ歩くだけだった。一度も魔法を使わず、剣を抜くことすらない。
「おい、アレス! お前さっきの演習では凄かったけど、実習をサボる気かよ!」
汗だくのカイルが毒づく。だが、アレスの視線は彼らではなく、森のさらに奥、異様な「静寂」が広がる一点に向けられていた。
「……下がれ。お前たちの手に負える相手じゃない」
「はあ!? 俺たちを馬鹿に――」
カイルの言葉は、森の木々が腐ったように崩れ落ちる音に掻き消された。
現れたのは、本来この森には存在しないはずの変異種――『深淵の死鎌』。
「な、なんだよこれ……黒い霧が、魔力を吸い取って……」
ジャックの防御壁が霧に触れた瞬間、紙細工のように霧散した。カイルが放った全力の火球も、死鎌に届く前に「消失」する。
「嫌ぁぁぁぁ!!」
死鎌の巨大な鎌が、逃げ遅れたミナへ振り下ろされる。
「ミナッ!!」
カイルとジャックが叫ぶ。だが、その凄まじい威圧感に縛られ、指一本動かせない。
カラン、と。
静かな、硬質な音が響いた。
アレスが、一歩だけ前に出たのだ。
(――失せろ)
アレスが剣を一寸だけ抜き、戻す。その間、わずか一拍。
カイルたちの目には、アレスが動いたことすら見えなかった。ただ、一瞬だけ視界から「光」が奪われたように感じただけだ。
次の瞬間、死鎌の巨体が糸が切れたように静止し――最初からそこには何もなかったかのように、サラサラと灰になって消滅した。
熱も、爆音も、断面すらない。ただの「無」がそこにあった。
「え……?」
ミナが腰を抜かし、カイルたちは震える指でアレスを見つめる。
アレスは無言で背を向けたが、その直後、ドクンと心臓が跳ね、視界が赤く染まった。
(……ぐっ、一振りでこれか。こいつは俺の『負の感情』を喰らってやがる……)
内側から湧き上がる破壊衝動。三年前、父の死に際に感じた絶望が、剣を通じてフラッシュバックする。
「アレス君、大丈夫……?」
ミナが心配そうに手を伸ばしかけるが、アレスはそれを鋭く拒絶した。
「……触るな。報告に戻るぞ」
差し伸べられた「善意」すら、今の自分には毒になる。アレスは荒い呼吸を殺し、一人で歩き出した。
◇
演習場の出口。
「おーい! アレス、お疲れ様!」
待っていたのは、レヴィアだった。彼はアレスの顔を見るなり、少しだけ眉を寄せた。
「あっちの方ですごい魔力の消失が起きたからびっくりしたよ。……顔色が悪いね。相当無茶したろ?」
「……関係ない」
「関係あるってば。ほら、売店でジュース買ってきた。これ、キンキンに冷えてるから」
差し出された缶をアレスが受け取ると、その冷たさが、剣の熱に浮かされた神経をわずかに鎮めた。
「……助かったよ。レヴィア」
「えっ、今名前呼んだ!? もう一回言って! 録音魔法使いたいから!」
おどけるレヴィアに、アレスは小さく、気づかれない程度の溜息をついた。
一方その頃。保護施設にいたルナは、胸の奥を締め付けるような不快感に襲われていた。
「……お兄ちゃん? いま、すごく悲しい匂いがした……」
兄が強くなるほど、その魂が自分から遠い場所へ行ってしまうような恐怖。ルナの瞳に、暗い独占欲の灯がともる。
「嫌だよ、お兄ちゃん。私を置いていかないで……」




