第12話:約束の再会
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学園生活が始まって一週間。
アレスが放課後の図書館で『ワールドエンド』に関する記述を調べていると、一人の教官が近づいてきた。
「アレス・ヴァルフレア。校長がお呼びだ。今すぐ校長室へ向かえ」
アレスは無言で本を閉じ、席を立った。
周囲の生徒たちが「また校長呼び出しだ」「特別扱いかよ」と囁き合う中、アレスの胸は期待よりも、かすかな「熱」に支配されていた。
(……ついに、この時が来たか)
◇
校長室の重厚な扉を叩くと、中からゼルヴァニウスの低い声が響いた。
「入れ」
室内には、あの日と同じように窓の外を眺めるゼルヴァニウスの背中があった。彼は振り返ることなく、壁の一部に手をかざす。すると、壁面に複雑な魔方陣が浮かび上がり、隠し部屋への扉が静かに開いた。
「ついてこい。お前に見せるべきものがある」
校長に促され、アレスは薄暗い隠し部屋へと足を踏み入れた。
部屋の中央。台座に鎮座していたのは、光を吸い込むような漆黒の鞘に収まった一振りの剣。
インフェルノエンブレイド。
三年前、あの日感じた不気味な脈動が、今はより鮮明にアレスの脳を揺さぶる。
「九歳になったその日まで預かると約束した。……お前がこの三年間で何を積み上げてきたか、その剣で証明してみせろ」
アレスはゆっくりと歩み寄り、柄に手をかけた。触れた瞬間、氷を押し当てられたような冷たさと、煮えたぎるような熱が同時に奔った。
ドクン!!
(……来たか。我が主よ)
頭の中に、以前よりも深い響きを持つ「声」が届く。
アレスは歯を食いしばり、一気に剣を引き抜いた。
キィィィィン!
空気が震える。三年前は重さに耐えるのが精一杯だった。だが、今の彼には泥に塗れて鍛え上げた鋼の筋肉がある。
アレスは漆黒の剣身を、片手で真っ直ぐに突き出した。
その瞬間、アレスの理性をドロリとした黒い熱が侵食し始める。視界が赤く染まり、目の前の校長さえも「消すべき対象」として認識しそうになる。
(……抑えろ。俺が……この剣の主だ!)
アレスは全神経を集中させ、暴走しようとする地獄の炎を内側に押し込めた。通常の魔導師なら数秒で精神が崩壊するほどの魔圧。だが、アレスは三年間で磨き上げた不屈の意志で、その「狂気」を強引に捩じ伏せた。
数秒の沈黙の後、剣から溢れていた黒い霧が引き、静寂が戻る。
「……見事だ。その狂気を、己の意志で御してみせたか」
ゼルヴァニウスが、わずかに満足げな笑みを浮かべた。
「だが忘れるな。それはあくまで、入り口に過ぎん。お前がその剣の真価を発揮する時、お前の魂は再び地獄の淵に立つことになるだろう」
「……分かっています。そのための、三年でしたから」
アレスは剣を鞘に納めた。
腰に伝わる確かな重み。ついに復讐のための「牙」を取り戻した。
◇
校長室を出たアレスは、寮へと続く廊下でふと足を止めた。
窓から見える夕日は、あの日燃え落ちた屋敷の火の色に似ていた。
腰にあるこの剣は、いつか自分を焼き尽くすかもしれない。それでも。
(……待ってろ。ワールドエンド)
少年の決意に呼応するように、鞘の中の剣が、密やかに、そして愉悦を湛えるように一度だけ脈動した。




