第11話:差し伸べられた手
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アレスの学園生活が始まりました!
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圧倒的な実力を見せつけた演習の後、アレスは一人、学園の中庭にあるベンチに座っていた。
周囲の生徒たちは、アレスの放つ「実戦の気配」に気圧され、遠巻きに噂を交わすだけで、誰一人として近づこうとはしない。
(……これでいい。馴れ合う必要はない。俺は、戦うためにここにいるんだ)
アレスは瞳を閉じ、今日の魔法の精度を反芻する。復讐のために研ぎ澄ませた力。それは他者を遠ざけるための、高く冷たい壁でもあった。
「あーあ、やっぱりここか! 探したよ、アレス!」
静寂を破ったのは、先ほど演習場で雷を操っていた少年、レヴィア・エンヴィーだった。彼はアレスの隣に、断りもなしにドカッと座り込む。
「……何の用だ。他を当たれ」
「冷たいなあ。あんなすごい魔法を見せつけられたら、話しかけないわけにいかないだろ? あの精度、あの収束……君、死ぬ気で修行してきたんだね」
レヴィアは茶化すような口調だったが、その瞳は一瞬だけ、アレスの背景にある「覚悟」を理解しているかのような真剣な色を見せた。
「……お前には関係ない」
「関係あるよ! 僕もね、実はちょっと複雑な家でさ。期待に応えるために、ずっと自分を押し殺して雷の速度を磨いてきたんだ。だからさ……君の魔法を見た時、なんだか自分と同じ匂いがしたんだよね」
レヴィアはそう言って、袋から取り出した真っ赤なリンゴをアレスに差し出した。
「ほら、食うだろ? 修行の後は糖分が必要だよ」
アレスは不審げにリンゴを見つめ、それからレヴィアの顔を見た。そこには、裏表のない善意だけがあった。アレスが躊躇いながらもそれを受け取ると、レヴィアは嬉しそうに笑った。
「リヴァインやグラウスは堅苦しいだろ? でも僕は、君みたいな奴、嫌いじゃないよ。……この学園でくらい、たまには息を抜いてもいいんじゃないかな」
レヴィアは立ち上がり、夕焼け空を仰ぎながら手を振って歩き出した。
「じゃあな、親友! 明日の座学、寝坊すんなよ!」
去っていく背中を、アレスは無言で見送る。手の中にあるリンゴを一口かじると、驚くほど甘かった。アレスの胸の奥で、ほんの少しだけ、冷たい風が止んだような気がした。
◇
一方、学園の保護施設。
ルナは窓から夕暮れの中庭を眺め、アレスが誰かと話している姿を遠目に見つけていた。
「お兄ちゃん、もう友達ができたのかな……」
お兄ちゃんの心が少しでも休まるなら、それは嬉しいはずなのに。アレスが自分以外の誰かに心を許しているかもしれないという事実に、名前も知らない少年に「赤いリンゴ」を贈られたという光景に、言葉にできない焦燥が胸を焼く。
(……私だけじゃ、足りないのかな。お兄ちゃんの隣に立つのは、私じゃなきゃいけないのに)
ルナは、アレスから贈られた赤いリボンをそっと指でなぞる。
兄を想う純粋な愛情は、孤独な三年間の月日を経て、鋭い独占欲へと形を変えつつあった。
ルナは机に広げられた魔導書を、指先が白くなるほど強く握りしめる。
(頑張らなきゃ。もっと、もっと……。お兄ちゃんに必要とされるのは、私だけでいいんだもん)
一方のアレスは、レヴィアという想定外の存在に戸惑いつつも、学園生活という「日常」に少しずつ足を踏み入れていく。
それが、更なる波乱の幕開けになるとも知らず




