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魔法の勉強が始まった。
ずっと、絵と読書と礼儀作法ばかりだった生活に、ようやく「異世界らしいもの」が加わる。
正直、ちょっとワクワクしている。
だって、魔法だ。手をかざして火を灯したり、水を出したり、物を浮かせたり。絵本でしか見たことがないそれを、自分の手でできるかもしれないのだ。
とはいえ、浮かれてばかりもいられない。
私は、いわゆる“悪魔の生まれ変わり”として、この屋敷の地下に閉じ込められている。
そんな私に、危険な「力」を与えていいのか?という疑問は当然ある。
「私は悪魔の生まれ変わりと言われているから、ここに囚われているだろう?」
「はい。」
マーリエはいつものように穏やかに頷く。その声には、恐れも軽蔑もない。ただ、静かな受け入れがあった。
「そんな私に魔法を教えてもいいの?」
聞きながら、自分でも皮肉だなと思う。
魔法というのは力だ。
人を癒すこともできるが、傷つけることもできる。
つまり、それは暴力にもなり得る。
そんな危険な力を、わざわざ「悪魔の子」に授けるなど、マーリエが怒られそうな話だ。
しかし、マーリエは軽く首を振った。
「ええ。むしろ教えなかった場合、魔力を制御できなくなり、暴走してしまいますから。」
「ああ、なるほど。」
暴走。
その言葉に、ぞくりとする。
力が自分の意志を超えてあふれ出す――そうなれば、周囲のものを壊してしまうかもしれない。
実際、幼い魔術師が暴走して村を焼いた、なんて昔話も聞いたことがある。
つまり、魔法を学ぶというのは、危険を増やすのではなく、むしろ“封じるため”の訓練でもあるのだ。
そう思うと、妙に納得できた。
「それに、魔法を教えると言っても、この部屋で行うのです。魔力の制御の練習や、簡単な魔法程度しか教えることができません。私も魔法があまり得意ではありませんしね。」
「それは残念だ。」
口ではそう言いながらも、少しだけ笑みが漏れる。
別にいい。外に出られないなら、この小さな世界でできることを全部やればいいだけだ。
絵も描ける。文字も読める。マナーも学べた。
次は、魔法だ。
「まあ、魔法が学べるだけで、嬉しいのだけど。」
マーリエは少し驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく笑った。
「……そう言っていただけると、救われます。」
魔法陣の描かれた小さな紙と、練習用の杖がテーブルの上に置かれる。
私は、震える指で杖を持ち上げた。
木の感触が手に馴染む。重さはほとんどないのに、なぜか「世界そのもの」を握ったような気がした。
――さて、どんな力が、この手から出るのだろうか。
胸の奥に、ほんの少しだけ高揚が灯る。
地下の空気はいつもより暖かく感じられた。




