『迷宮』の主
第八十一話
目を覚ますとそこは現世ではなかった。
あれおかしいなと思い、今一度周りを見渡す。
「俺は確かに意識が引っ張られるような感覚がして.....」
そしてこの場所に来た。
真っ暗な空間だ。
目の前にテーブルが一つ。
それに椅子が二席、テーブルを挟んで向かい合うように設置されている。
その片方に俺は座っていた。
「どこだここ.....?」
【ここはまだ”試練”の中だよ】
気が付くと、正面には十代後半の若者が座っていた。
白色の長髪に先端には青色のグラデーションがかかっている。
顔も整っており、美青年といった感じだ。
注目すべきはその特徴的な目だ。
まるで純度の高い宝石のような、カクカクとした幾何学的な模様でできている。
その青年はユキマルの疑問に答えた。
人間じゃ......ないな....?
「誰だ......?」
【ごめんごめん、まだ自己紹介をしていなかったね。僕はこの『迷宮』の主、いや『迷宮』そのものと言った方がいいかな?名前はラビリンスとでも呼んでくれ。】
「お前が....?!」
俺は『神獣図鑑』に書かれてあることを思い出した。
[神獣図鑑]
・『オリアマ』/『水蛇』
・『ラビリンス』/『迷宮』
・/
・/
・/
・/
・/
・/
ラビリンス.....この『迷宮』の別名だ。
つまり目の前にいる青年は間違いなく『迷宮』そのものであり──『神獣』。
【驚かせちゃったかな?まあまさか人型になれるとは思わないよね。】
あははと苦笑いをするラビリンス。
彼の言動からはどことなく気さくな印象を受ける。
「それで、俺は何でここにいるんだ?俺たちは試練を終えたはずだぞ!」
早速本題を持ち掛けるユキマル。
【うーんとね、君にも本来試練を課すつもりだったんだけど.....思いつかなかったから...かな?】
「ん?」
【えっと....君への試練が思いつかなかった。】
てへっと手を頭に当てるラビリンス。
何とぼけたことを言ってるんだと思ったが、ツッコミをすんでのところで呑み込む。
【君はさ、ずいぶん変わってるよね。】
「まあ、よく言われる。」
【あのエルフの女の子みたいな精神的なとっかかりがあるわけでもないし、何か具体的に目指している目標があるわけではない。君はただ、退屈じゃない人生を求めているようだ。】
「へぇ、俺のことに詳しいんだな。」
【まあね、『迷宮』の中に入った人のことはある程度知ることができるんだ。でもその点、君は分からないことの方が多かった。こんなこと初めてだよ。】
「.......?」
はて、俺に何か隠し事があったのだろうか?
少なくとも俺自身にそんな自覚は無い。
【君は異世界から来たんでしょ?】
「ああ、そうだ。」
隠す必要はないと思い正直に答える。
ちなみに、『アクアンティス王国』で出会った『神獣』の一柱である『オリアマ』も俺のことを異世界人であることを見抜いていたから、別に驚きはしない。
【例えばさ、異世界から来たのなら、残された親族はどう思っているのか?みたいな試練を課せたはずなんだけど.....。】
「まあ、俺の両親は俺が生まれてすぐに事故で無くなってるし、育ててくれた唯一の親族であるじいちゃんも何年か前に他界してるからな。」
【.....だね。】
少し申し訳なさそうにうなずくラビリンス。
「自分で言うのもなんだけど、俺って結構大雑把な性格してるから、そこらへんはすでに乗り越えたぞ。」
【もちろんそれは知ってる。だから君に課す試練に悩んだのさ。】
ここにきて不覚にも納得してしまったユキマル。
「それでこの話し合いってわけか?」
【そう言うこと!】
ご名答と言わんばかりに指を鳴らすラビリンス。
【ここまで来たらさ、むしろ僕のほうが君のことを知りたくなった。教えてよ、君はどんな人なんだい?】
「俺がどんな人か.....?難しい質問をするな。それが試練なのか?」
【かなり特殊なケースではあるけど、そういうことにするよ!】
う~む。
どうするか少し悩むが、フリエナ曰く、試練は突破しないと『迷宮』内に取り残されてしまうらしい。
それに『迷宮』が閉じるまでに時間もない。
ならば悩んでいる暇もないだろう。
「わかった。」
俺はラビリンスの提案に納得し、一度深く深呼吸をした。
さて、俺はどんな人物なのだろうか。
・・・・
・・
ユキマルが試練を受けている一方、それを待つフリエナたちは焦りを隠せずにいた。
「こ、こんなところにいたら、いつ次の魔物が襲ってくるかわからないぞ!」
ナナーリッヒが必死にユキマルに訴えかけているフリエナに言う。
「そうですフリエナ様。そんなやつここに置いてさっさと脱出しましょう。あなたは見事試練を乗り越えたのです!」
それに同調したのはトイガだった。
ユキマルのことを指さし、フリエナに手を差し伸べる。
「お前らほんまになぁ.....」
呆れ気味に言い放ったのはコラゴンだ。
この場は現在二つの意見が混在しているといえるだろう。
一つはナナーリッヒとトイガの、ユキマルを置いてさっさと『迷宮』を脱出してしまおう、という意見。
もう一つはコラゴンとフリエナの、仲間を置いてはいけないという意見だ。
実はかなりタイムリミットが迫っている状況の今、意見の真っ当さで言えばナナーリッヒとトイガに分があるだろう。
しかし、それはユキマルとの関係性が浅いからこそ言える意見だ。
どんなに状況が切迫していようと、決して仲間を見捨てないのがユキマルである。
それをコラゴンとフリエナは身をもって知っていた。
ならば自分たちもそうするのが道理であろう。
自分たちは『タリスマンズ』で、『タリスマンズ』は決して仲間を見捨てないのだから。
「トイガうるさい。私はここに残るから、脱出したいのであればそうしたら?」
フリエナの芯まで凍るような冷たい一言が発せられる。
「......っ!!」
これにはさすがのトイガも効いたようだ。
「......わかりました。」
そうしてトイガもここに留まることにしたのだった。
・・・・
・・
「見えたわ!」
そう言って光の指す方を指さすソルナ。
それは『迷宮』の出口だった。
「結構遠回りしたから時間がかかったな。」
そう言ったのはソルナたちとともに行動をしている『カリオストロ隊』のジンだ。
『迷宮』の内部構造は常に変化を続けているため、タイミングが悪いときはかなり迂回しないと上の階層にあがる階段にたどり着けないことがる。
今回のソルナたちはまさしくこのパターンで、相当時間をかけて脱出までこぎつけたのだ。
「まあ、結果オーライか。あとはあいつが地上にいるといいんだが....。」
満を持して地上へ生還するソルナ、ルフテ、ジン、リコ、フィンズの五人。
既に地上には何組かのパーティーが脱出を果たしており、ナナーリッヒを見つけるためには注意深く見わたす必要があった。
「居ないな。」
「ゆ、ユキマル君たちも、い、いません!」
慌てたようにルフテが言う。
しかし、それをなだめたのは意外にもジンだった。
「安心しろ、まだ『迷宮』が閉じるまでに6時間くらいある。お前らの仲間も、うちのボンボンも少し待てば出てくるだろう。」
そう言ってルフテを安心させる。
大丈夫よねユキマル君.....。
あなたに限ってそんなことはないだろうと思うけど。
少し嫌な予感がよぎるソルナ。
それが当たらないことを必死に願う。
しかし、そんな願いをあざ笑うかのように数刻後、事態は最悪の事態を迎えることとなる。
この時のソルナは知らなかった、『迷宮』の門が閉じるまでに、ユキマルたちが地上に帰還することは叶わないことを.........。
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