『タリスマンズ』の魔術師フリエナ
第八十話
ユキマルの一声だけでは自分の居場所に気づけなかったとフリエナは思い返す。
あれはそう昨日の夜ソルナと語り合った時のことだ。
あの時ソルナはユキマル同様、『タリスマンズ』がフリエナの居場所であると言ってくれた。
そうだ、あの時から.....いや多分ずっとずっと前から、私には心の支えがあったんだ。
ならばもう落ち込んだフリはやめよう。
「『魔法の申し子』の力見せてあげる!」
これは過去の自分との決別だった。
今までの自分は『魔法の申し子』という運命を否定したいがために、魔法に対して忌避感をもっていた。
それでもこれまでの冒険で魔法を使ったのは、目の前で仲間を傷つけられたくなかったからだ。
それは逆に言うと、それ以上の魔法は使わなかったという意味でもある。
今、フリエナは初めての攻撃魔法を繰り出そうとしていた。
ゴオオオオオオと風が舞い上がる。
これは『風魔法』『ウィンドチャージ』。
昔、教育係の魔術師が使っているのを盗み見たことがある。
その時に習得した魔法だ。
「おいおい、いいのか?魔法を受け入れちまって!それは今までの自分を否定するってことなんじゃないのか?」
煽るように言うザグス。
いや、その中身は『迷宮』そのものであるのだから、本物のザグスにとっては濡れ衣もいいところだろう。
しかし、いずれにせよフリエナが全力をぶつけるには当然の相手だった。
「違う!私の芯はいつだって『タリスマンズ』よ.....!」
続いて『氷魔法』『アイシクルランス』を発動する。
「どうなってるんだ....?!」
ユキマルは初めて見る技術に驚きを隠せずにいた。
彼女の背後に組まれた魔方陣が別々の属性を表している。
なんとフリエナは違う属性の魔法を同時に展開したのだった。
それは考えたこともないことだった。
確かに理論上は可能である。
しかし、そんな芸当ができる人の母数が少ないため、この技術はあまり知られていない。
ではなぜフリエナはこのことを知っていたのか。
当然、彼女はこれを誰かに教わったわけではない。
自身で導き出したのだ。
そしてそれは彼女が『魔法の申し子』で、魔法の天才だからである。
しかも、その天才っぷりはここで終わらなかった。
「『合成魔法』──『アイシクルスパイラル』......!!!」
それは他属性の魔法同士を合成して繰り出す、まさに神業だった。
あれはデイザスの....?
いやそれより.....?!
ユキマルが思い出したのは『アクアンティス』で相手した『氷魔法』の使い手の魔王軍幹部だ。
そのデイザスという人物は、『氷魔法』を複数同時展開し、『多重氷魔法』を繰り出した。
それはフリエナがやっていることと似て非なるものである。
同じ属性の魔法をかけ合わせるのは単純な掛け算なのに対して、複数属性を掛け合わせるのは、複雑な式を掛け合わせるのと同義なのだ。
つまりこの瞬間、フリエナは魔王軍幹部を超える実力を発揮したのだ。
「消えて、私は『タリスマンズ』の魔術師フリエナよ!!!!」
「ぐああああああああ!!!!」
細かく固い氷のつぶてが螺旋状に回転しながらザグスの体を穿つ。
範囲が広い上に、防具を貫通するほどの威力を持つ『アイシクルスパイラル』はザグスに抵抗の余地すら残さず消滅させた。
「終わった.....。」
バサッと地面に座り込むフリエナ。
変に緊張が続いていたからか、急な疲労感に襲われたのだ。
そして、ザグスの幻影が消えた安心感によって力も抜けてしまったのだ。
「やったな!フリエナ。」
グッと親指を立てるユキマル。
「にしても、お前って結構すごかったんだな。」
「そうよ、当たり前でしょ?」
フンと少し怒ったようにそっぽを向くフリエナだが、照れ隠しなのがバレバレだ。
「にしてもこれで試練は終わりなはずだよな?」
「そうね、間違いないと思うわ。」
そう言った次の瞬間、意識が引き戻される感覚がした。
「問題は現実世界でどれくらい時間が経ってるかね。場合によっては急いで脱出しないといけないかもしれないわ。」
「ああ、そうだな──」
ユキマルの言葉を聞いたのを最後に、フリエナは自身が元の体に戻ったことを確認する。
間違いない、ここは現実世界だ。
しかし、問題があった。
「コラゴン?ナナヒカリ?」
なんと一人と一匹はかなりボロボロな状態で立っていたのである。
「どうしたの?何があったの?」
なんて聞きはしたが、原因はわかっている。
周りに横たわっている魔物やゴーレムの残骸を見れば一目瞭然だ。
「コレあなたたちでやったの?」
信じられないという気持ちで聞くフリエナ。
それもそのはず、コラゴンとナナーリッヒは五体満足だった。
二人の実力的に少し違和感があるのだ。
「いや、この人が助けに来てくれなければ危なかった。」
そう言ってナナーリッヒは部屋の隅を指す。
そこには壁に寄りかかりながら腕を組んでいるトイガの姿があった。
「フリエナ様.....?!」
フリエナが気づくと同時にトイガもフリエナの意識が返ってきたことに気づく。
「ご無事で何より!この者たちに話を聞いたときは冷や汗が止まりませんでしたよ。なぜあんな者を助けに行かれたのですか....?!」
「大事な仲間だからよ!」
「しかし.....」
何やら納得のいかない様子のトイガ。
「それで肝心の奴はいつ戻るんですか?」
変な質問をするものだとフリエナは思った。
だってユキマルは自分と一緒に現世に戻ってきたはずなのだから。
だから後ろを振り返り、ユキマルの姿を確認した。
すると──
「....どうして???」
確かに一緒のタイミングで意識が引き戻されたはず。
しかし、そこに立っているユキマルは、未だに意識が抜けたままだった。
「どういうことや!?」
「彼は大丈夫なのか??」
コラゴンとナナーリッヒが立て続けにユキマルの心配をする。
しかしフリエナにとってはそれどころではなかった。
私の試練は、私が一番向き合いたくなくて奥にしまっていたものを強制的に引きずり出したものだった。
正直不快だったし、もう二度と受けたくないように思う。
そんな試練を乗り越えられたのは傍にユキマルがいたからだ。
でも、もし仮にユキマルが今試練を受けているのだとしたら、そこには誰もいない。
自分だけ助けてもらっておいて、それはないだろう。
「フリエナ様?!」
フリエナは慌てて再び柱の近くまで駆け寄った。
しかし、穴は開かない。
「なんで.....?!」
いくら試そうが結果は同じだった。
おそらく一度試練を乗り越えた者に試練がもう一度課せられることはないのだろう。
「お願い...戻ってきてユキマル!!!」
あとはもうユキマルを信じるしかない。
迫りくるタイムリミットを背後に、ユキマルの帰還を祈るフリエナだった。
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