居場所
第七十九話
紆余曲折あって『迷宮』の試練を受けることになったフリエナ。
するとユキマルと彼女の意識は、なぜか『西方奴隷商』のアジトらしき場所へと飛ばされてしまった。
そこで目の当たりにしたのは、ボロボロの状態で拘束されている、当時のフリエナの姿だった。
「大丈夫かフリエナ?」
「.........問題ないわ。」
しばしの沈黙を置き、フリエナが返事する。
「それより、これが『迷宮』の試練なのだとしたら、私はなにをすれば合格できるの?」
確かにそうだ。
これが試練である以上、何かしら突破する手段があるはず。
しかし、現状は問題用紙すら配られていない状況だ。
どう動くのが正解なのか見当がつかない。
「うーむ....」
しばらく考えようとしたが、そういうのは苦手だったことをすぐさま思い出し、考えないことにするという英断をする。
「それにしても、泣かなかったんだな、フリエナは。」
驚きと少しばかりの賞賛を込めて言う。
俺たちの前にいる幻影(?)のフリエナはボロボロで、とても健康的な見た目はしていない。
この年代の子なら泣きじゃくって絶望してもおかしくはないが、彼女は怖いぐらい無言だった。
「まあ.....幽閉には慣れていたもの。」
「幽閉....か。」
彼女の言う幽閉とは、恐らく『フェアドラド』内にということだろう。
状況は180度違うが、確かにとも思ってしまった。
「よおガキんちょ!」
「うわぁ.....」
突然、男の声とともにギギギギという錆びた金属がこすれ合う音がした。
牢獄の扉が開く音である。
入ってきた人物は、俺たちが倒した『西方奴隷商』の元幹部ザグスだ。
「こんなことまでできるのかよ....すごいな『迷宮』。」
現代風にわかりやすく状況を説明するのであれば、ものすごくハイクオリティな立体映像を見せられている感じだ。
しかも、恐らくこれはフリエナの記憶をもとにした過去の再現。
そのせいか、かなりリアルで、触ったら感触すらありそうだ。
「お前の取引価格はすごいぜ。こんな高額商品だったとはな!死なれちゃあ困るからさっさと飯を食え。」
コツ。
地面に固いパンを放り捨てるザグス。
これで食事のつもりなのだろうか。
「ほんとにどうしようもない奴だな。」
しかるべき罰が下ったのだと改めて思い返す。
「なあ夢を見てた外の世界はどうだ?フリエナ?」
「.....?!」
ザグスの急な口調の変化に混乱するフリエナ。
「...どういうこと?!あいつにこんなことは言われてない!」
ユキマルも確かに違和感を感じていた。
実際ザグスはフリエナのことをついさっきまで知らなかったわけだし、彼女が抱えていた悩みを知るはずもない。
ならばこれを言っているのは....。
「『迷宮』か...!!」
「...!?」
おそらくこれも試練の一部なのだろう。
「そう言うことだ。」
今度はこっちに振り向いて、目を合わせてきた。
「貴様には『試練』を超えてもらう。」
「『試練』を超える....?」
次の瞬間考える隙も無く、場面が急転換した。
「これって......!」
ヒュオッと風を切る音が耳をかすめる。
俺たちは落下していた。
ザグスの部屋にて落とし穴に落とされたあの瞬間である。
「「『風魔法』<<エアークッション>>!!!!」」
衝突する直前にフリエナと同時に魔法を展開する。
これもまた、あの時の再現だ。
しかし、その後の展開は違った。
「また場面が変わったのか?!」
あたりを見渡すとそこはもうザグスとの最終決戦の地に変わっていたのである。
「外の世界に何を期待した?門の外に何を期待した?あるのはただの暗闇だぜ。『フェアドラド』の中にいた方が安全だったんじゃないかと思わないか?」
「質問が多いな!」
またもや記憶にない発言をするザグス。
上から一匹の『フレイムドラゴン』に乗って話しかけてくる。
前はワンランク下の『コモンドラゴン』に乗っていたはずだから、ここではちゃっかりグレードアップしているようだ。
「お前は魔法なんかに縛られてない、その境遇は恵まれてるんだ!いい加減運命を受け入れたらどうだ?」
「.......。」
「めんどくさいな、一旦追い払うか。」
そう言って拳を構えるユキマル。
しかし──
「おっと、お前は俺に攻撃できないぜ。」
「なに?」
「これはフリエナの試練だ。お前はそこに偶然介入したのにすぎない。」
「まじ?!」
一応試しに『アイシクルランス』を放ってみたが、ザグスを通り抜けてしまった。
どうやら本当に意味がないらしい。
「.......っ!!」
・・・・
・・
ユキマルたちが試練で苦戦しているころ、コラゴンとナナーリッヒもまたピンチを迎えていた。
「わわわわわ、こんなのどどどどうしろというんだ!!!」
前方からは数体の魔物、両脇からはゴーレムたち。
一人と一匹はユキマルたちが手を突っ込んで立ったままになっている柱を背にして囲まれていた。
「君は何ができるんだ?言っとくけど僕様は戦いは得意じゃないぞ!」
「俺っちだってこの鎖さえなければ!」
状況は最悪。
ユキマルたちが固まっている以上、彼らを残して逃げるわけにもいかない。
戦う以外他に道はなさそうだが、肝心の戦闘力は今ひとつといったところだ。
「だいたい君はなんなんだ!色々とすごいことが起きすぎてスルーしていたが、よくよく考えると喋る白いドラゴンなんて聞いたことないぞ!」
「そんなことどおでもええやろ!今はこの状況をどう切り抜けるかや!」
眼前に広がる敵を指差すコラゴン。
「と、とりあえず武器を構えとき!」
ナナーリッヒは言われるがままに新品同様に使い込まれていない剣を握りしめる。
「僕様だって、戦い方ぐらいは知ってるんだ!絶対に凌いでやる!」
「その意気や!」
こうしてコラゴンとナナーリッヒは勇敢にも魔物たちに立ち向かうことにしたのだった。
・・・・
・・
ドクドクドクドク
心拍が早まるのを感じる。
これは自分が一番触れたくなかったことだ。
ザグスの幻影が言ったことはまさしくフリエナの喉にずっと引っかかっていたことだ。
外の世界に出るとそこにはフリエナのことを狙う奴らばかり。
毎日が危険と隣り合わせだった。
ならば大人の忠告は正しかったのかもしれない。
外の世界なんかに憧れず、里の中でおとなしく過ごしていればよかったのだ。
それが最も安全で、最も『魔法の申し子』としての適切な生き方。
そうだ、私は最初から間違ってたんだ。
私は、私はただの──
「強がりだ........」
「そうだ!お前はただの強がりだ!必死に堪えた涙も、意地でも貫こうとした信念も!ただの強がりだろう。俺はお前が一番恐れていることを知っているぞ!」
「....っ!」
「居場所がないことに気づいてしまうことだろう!」
「........ちがっ...!」
何もかも図星だ。
抑えていた涙が溢れそうになる。
本当はずっと我慢していた。
牢獄に幽閉されていた時も、バニティーと対面した時も、『カヒューゼム王国』の時も。
無愛想というマスクで取り繕って、のらりくらりと自分に嘘をついてきた。
私は『フェアドラド』を抜け出した......。
『フェアドラド』の外の世界は私の思っていたような場所じゃなかった....。
──じゃあ私の居場所はどこ?
「っふ」
小さな笑い声が聞こえた。
「はっはっは!」
それはやがて大きな笑いへと変わった。
それはユキマルの笑い声だった。
「ユキ....マル...?」
困惑して、きょとんと見つめる。
なぜ?どうして?何がおかしかったの?
しかしその答えは案外すぐに分かった。
「おい『迷宮』の試練さんよお。フリエナの居場所がないって何言ってんだ?」
「....え?」
「そんなの──『タリスマンズ』があるだろ!!」
「......!!!」
ユキマルの言う居場所とは『タリスマンズ』のことだった。
──そうだ。
そうなんだ!
気づけなかったわけじゃない。
気づこうとしなかったのだ。
あまりにも恵まれているから。
私には勿体無いほど素晴らしい仲間達だから。
「それにフリエナ、お前のは強がりじゃなくてツンデレだろ?」
「......っ」
溢れかけていた涙を拭う。
もうこれで最後だろう。
「ええそうよ!別にユキマルに言われなくたってわかってたんだから!」
「だな!」
ははっと笑うユキマル。
「それじゃあ、突破といきますか。」
「ええユキマル。」
バッとユキマルの前に立つフリエナ。
その後ろ姿にもう迷いはなかった。
「『魔法の申し子』の力見せてあげる!」
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