幻想
第七十話
長老にフリエナやトイガの過去と『迷宮』について聞いた翌日、俺たちは『フェアドラド』の観光を再開することにした。
自分から里を観光して来いと言ったくせに邪魔をしたトイガによって、結局あまり探索できていなかったのだ。
幸い、今回は邪魔が入らない。
なぜならトイガは反省中だからだ。
長老のトイコ曰く、どうやら森の中で一日中瞑想しているらしい。
トイガのことはさておき、今回はフリエナも一緒だった。
「それじゃあ、仕方ないから私が案内してあげる!」
フリエナが先頭を切って進む。
言っていることのわりに本人は楽しそうだ。
「頼んだぞフリエナ!」
「ふん、ユキマルは黙ってついてくればいいのよ!」
そうして、しばらく里を歩いた。
・・・・
・・
「ここよ。」
着いたのは一つの店だ。
店頭には不思議な果物が並んでいる。
「わあ、いい値段するな....こんなの誰が買うんだ?」
さっと財布を隠すソルナ。
俺はそれを見逃さなかった。
『アクアンティス王国』に着いた時もそうだったが、どうやらソルナは観光客向けの高額商品を買ってしまう傾向があるようだ。
まったく、どこでそんな金遣いの荒さを学んだのか....。
案の定、フリエナ曰くこれは観光客を狙った値段設定とのこと。
しかし、私に任せてと言い店主と話をしたのち、人数分のフルーツを持ってくるのだった。
「フリエナの人気はすごいんやな。」
果物を受け取りながらコラゴンが言う。
「まあね!」
フリエナが誇らしげに答えた。
そして、果物を食べる前に、落ち着いた場所に移動しようと提案する。
案内されたのは少し森に入ったところにある小さな丘だ。
丘の上に小さな木が一本生えている。
「人気がなくていい場所だな。」
「ユキマルに言われるまでもないわ!」
と木に腰かけるフリエナ。
「それじゃあ食べてみて!面白いわよ!」
フリエナに促されるままそれぞれ一口かじる。
「甘~い!」
最初に感想を口にしたのはソルナだった。
「え?」
それに驚いたのはルフテである。
「わ、私は酸っぱかったです.....。」
もしかして外れを引いてしまったのかもと落ち込むルフテだったが、それは勘違いなのだと発覚する。
「面白いでしょ!これはねミリリアといって、味を錯覚させる果物なの。『フェアドラド』の子供の間で人気な食べ物なの!」
「へぇ、道理で俺のは味がないわけか....。」
ユキマルはしょんぼりと自分のかじりかけの果物を見つめた。
『潜在能力』<<幻覚無効>>あたりが働いたのだろう。
偽りの味を感じることができなかったのだ。
『潜在能力』って良いことばかりじゃないなと感じたユキマルだった。
・・・・
・・
「この丘が、もう少し高ければな....。」
しばらくして『フェアドラド大森林』の木々を見つめながらフリエナが呟いた。
「どうした?突然に。」
「この丘がもう少し高ければ、里を出ずとも地平線の向こうが見えたのにって話。」
「....」
俺を含め全員が思わず黙ってしまった。
「聞いたんでしょ?長老から私のこと。」
「ああ、聞いた。」
「.....私は里の外の世界に憧れを持っていた。だから正直、ドラゴンに襲われている商人を見たとき、ラッキーだと思ったわ。やっと外に出られるって....。」
しかし、そのあとの出来事は最悪だ。
ザグスにつかまり、劣悪な環境で閉じ込められ。
いつ、何をされるのかわからない状況にひたすら苦しむ。
これは果たしてフリエナが憧れていた外の世界だったのだろうか....。
「罰だと思った。大人たちの言うことを聞かなかった私への。」
フリエナにとって外の世界は、強制的に課されるいろいろな縛りの中で唯一の救いだった。
外の世界への憧れや想像が彼女の心を支えていたのだ。
そして、牢獄に幽閉された。
・・・・
・・
「ちょっと湿っぽくなりすぎたわね!次のお店行くわよ!さっさとついてきなさいよね!」
フリエナは気を取り直して、次の場所へと案内を進めた。
それに遅れてついていくユキマルたち。
丘を下りしばらく森を歩くと、にぎやかな商店街に着いた。
『フェアドラド開門式』の影響でいろいろな種族が行きかっている。
「おお、いろんな店があるな。」
俺は先ほどの話題を一旦忘れるため、商店街の様子に触れた。
「ええ、確かこの道は真っすぐ進めば『迷宮』の門に着くはずよ。そのせいかもしれんないわね。」
「そうだけど、私たちの目的地は別。ここよ!」
そう言って店の看板を指さす。
それは洋服屋だった。
「服でも買うのか?」
「うん!」
どうやらフリエナは服を買いに来たようだ。
「よお、フリエナじゃないか!」
出迎えてくれたのは少し小太りで人がよさそうな男だった。
間違いなく服屋の店主だろう。
「あんたらは『タリスマンズ』だな。フリエナのこと、ありがとうな!」
「いや、大したことじゃないさ。」
「そうか。ところで今日はどういった用事で?」
店主が聞く。
「私からパーティーのみんなに服をプレゼントしたいの!」
「はあ、なるほど~!」
「「「「え?!」」」」
まさかの発言に驚くユキマルたち。
「い、いいのか?」
「まあね、感謝しなさい!」
フリエナがそう言うなら、と甘んじて提案を受け入れる。
そうして早速採寸が始まるのだった。
「ユキマルは服がボロボロだから完全に一新するわよ!」
どうやら俺だけ採寸が長引いたのはそれが原因らしい。
確かに俺の服はあまり状態が良いとは言えなかった。
この世界に召喚されて数か月が経つが、毎日このTシャツとジーンズで過ごしてきたのだ。
もちろん定期的に洗濯はした。
それでも、汚れは落とせても、傷や痛んだ個所は直らなかった。
正直そろそろ替え時だなと思いつつも、買いかえれずにいた。
ということで今が絶好のチャンスなのである。
「よし、それじゃあ後日取りに来てくれ。最高の服を仕立てておくよ!」
服屋の店主の自信に満ちた顔を背に、俺たちは店をあとにした。
外に出ると、隣のアクセサリー店から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「おい!僕様にこれを売れないとはどういうことだ!」
「で、ですがお客様....」
怒鳴っているのは身長低めのヒト族の男だ。
多分ドワーフ族ではない。
何やらアクセサリー店の店主に言いがかりをしているらしい。
「そうだぞクソガキ、俺が買うんだ。」
横にいるのはなんとも屈強そうな大男だ。
そいつも言い争いの渦中にいるらしい。
「だから、僕様が先に買うと言ったのに、後から来た君がなんでこれを買う権利を主張するんだ!!」
「知らねぇよ。俺が欲しいつってんだから、お前が譲れ。」
どうやら話を聞いた感じ、最初に小柄な方の男が購入しようとした商品を、後から来た大柄な男が譲れと強要したらしい。
悪いのは完全に大男の方だ。
「いいか、僕様は絶対に譲らないからな!!!」
「上等じゃねぇか!ならお前の小さな体をへし折ってやるよ!」
ただの言い争いが喧嘩へと発展した。
この勝負どう見ても小柄の男の方が不利である。
「ちょっとお客様!店前で喧嘩は困ります!」
さすがの店主も危険を察知したのか、喧嘩の鎮静化に努める。
しかし、二人の意思は固いらしい。
そんな中、不利かと思われた小柄な方の男が妙なことを言い出した。
「僕様に戦いを挑むとは哀れだね。」
「なに?!」
「っふ....僕様を守るんだ!」
小柄の男がそう言うと、周りから三名ほどの冒険者が集まってきた。
「っち、せっかく観光を楽しんでたのによ。」
「本当にね。」
「だる。」
これまたヒト族の男二名、女一人だ。
どうやら、この冒険者たちは小柄な男の護衛らしい。
よくよく見てみると、男は貴族の身なりをしていた。
体格差のある相手に自信満々でいられたのもこのおかげだろう。
「はっはっは、こんな奴ら三人集まったところで俺には勝てねぇよ!」
しかし、威勢がいいのは大柄の男も同じだった。
「かかってこいや!」
大柄の男が挑発する。
「やめといたほうがいいぜ!」
それを抑止したのはなんと冒険者のリーダーらしき男だった。
「あ?」
「俺たちはダイヤランクの冒険者だ。痛い目に合う前に、さっさと退散しろ。」
「......っち。」
なんと、冒険者の忠告を聞いた大男はあっけなく引き下がったのだった。
「よくやった僕様のパーティー!」
「あーはいはい、どういたしましてリーダー。」
「?!」
まさかのリーダーはあの貴族の男だった。
どうやら、彼も冒険者らしい。
「あーそれと、今のは追加料金な。」
冒険者の男が言う。
「わ、わかった。」
それにしぶしぶとうなずく貴族の男。
?
なんか不器用な関係だな....。
ユキマルは貴族と冒険者たちを見て、そう思ったのだった。
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