貸す手
第六十七話
ユキマルの発言を受け、本気を出すことにしたトイガ。
シュ!!!
まずは最初と同じく、軽いジャブから入る。
今回の初速も早かったが、先ほどの連撃の最後の方よりは遅かった。
しかし、その速度も急変することとなる。
一、二、三、四.....ここら辺から速度の上り幅が大きくなった。
なるほど速さを売りにするだけはあるとユキマルは感心した。
ユキマルでさえ全く見えなかったルクスとは天と地ほどの実力差があるが、それでも今まで出会った人類の中では間違いなく最速だろう。
その上、トイガの速度は上昇し続けた。
そして、速度が亜音速に達したくらいで、上昇はピタリとやんだ。
おそらく、それが上限なのだろう。
ゴオオォ!!!
先ほどの風を切るような音も、今では轟音となっている。
周りの大気を巻き込んで、突風が起きているぐらいだ。
ステージに立っていない野次馬でさえ、転ばないように必死になっている。
「トイガさん!やりすぎですよ!」
「対戦相手が死んでしまいます!」
「俺たちも吹き飛ばされちまいますぜ!」
と必死に呼びかける部下たちだが、音のせいでトイガに届くことはない。
と、ここでどうでもいいことを思い出すユキマル。
そういえば、ルクスはあんなに速度を出していたのに、音すら立てていなかったな。
あれは一体どういう仕組みなんだ?
などと、考察していたのである。
そして唐突にトイガの猛攻と、ユキマルの回避の戦いは終わりを告げた。
理由はトイガの疲弊である。
巻き起こった砂埃が引くのを待つ両名。
トイガの視点では、この砂埃が引いたときに決着がついたかどうかわかるのだ。
「ハア...ハア.......」
息を切らしながらも、油断はしないトイガ。
それもそのはず──
「クソ....!」
砂埃が引いて、そこには相変わらず調子の狂うようなマヌケ面をしたユキマルが立っていた。
当然のように無傷である。
トイガも薄々は気づいていた。
拳が当たった感触がなかったのだ。
「お前のそれ、『固有スキル』だな?能力は.....連続で攻撃するたびに次の速度が上昇するといった感じか。」
「....そうだ。」
ここまでばれては否定する意味もないと思い、あっさり認めるトイガ。
「俺の『固有スキル』<<連撃加速>>は貴様の言った通りの能力だ。だが、それを知られたところでなんの問題もない。俺の能力に対処法はないからな。それに──」
『闘気』を一段と強めるトイガ。
「上限解放だ....!」
上限解放?
もしかして亜音速という限度を突破できるのか?
いや、それよりも──
「本気か....!?」
ただでさえ、周りの被害がすごいことになっているのに、これ以上やるとかさすがに周りが見えてなさすぎる。
こいつの名誉のためにもあまり乗り気ではなかったが、トイガを一撃で静めるしかないのかもしれない。
俺は拳を握りしめ、決心しかけた.....その時だった──
「やめなさい......!!!」
誰かが止めに入る声がした。
年齢はかなり高そうだ。
声のした方向を向くとそこにはエルフの老婆が立っていた。
エルフの老婆だ、相当年がいっているのだろうと推測できた。
「誰だ?」
いきなりの乱入者に困惑するユキマル。
しかし、その正体はすぐに判明した。
「ちょ.....長老!!!!」
一人が気づくなり、瞬時に膝をつき頭を下げるエルフたち。
それはトイガも例外ではなかった。
そのことから、突如現れた老人が本物の長老であることが察せられた。
「トイガよ、バカな真似はよせ。」
「っは、しかし....」
長老という最高権力者を前に引き下がらないトイガ。
意外と図太いやつである。
「良いかトイガよ。おぬしがここで上限解放でもしてみろ。対戦相手....なにより周りにいるおぬしの部下たちはどうなる?」
ハッとするトイガ。
実はユキマルへの対抗心に支配されて、そのことが完全に抜け落ちていたのだ。
「それに、その技はおぬし自身も無事ではすまぬだろうに。」
「そんなことは....それよりも、決闘を挑んできたのは相手の方です。全力を尽くすのは当然のことかと。」
おっと俺に罪を擦り付けてきやがったぞ。
あれも半ば強引だったから、いざという時は徹底的に抗議してやるからな。
などと口には出さないが、奮起したユキマルである。
「それも話を聞けば、相手は決闘申請の意味を知らなかったそうじゃないか?」
「....それは.....。」
「確かに決闘とは、我らエルフ族にとって神聖な義じゃ、しかし誰が見ても相手にその意思がなかったと判断できる場合、それは取り消される。おぬしもわかっていることじゃろうて。」
「......っ」
言葉に詰まるトイガ。
恐らくは図星なのだろう。
これに対するユキマルの意見は、やっぱそうだよね?だ。
「まあよい、今回はその辺にして解散じゃ。」
長老がそう言うと、野次馬は蜘蛛の子を散らすように解散した。
残ったのは俺とソルナたち、トイガと長老だ。
「立てるか?」
俺は先ほどのラッシュで疲弊していて、力が抜けてしまったトイガに手を差しだした。
今回は握手みたいにならにように手のひらを上に向ける。
我ながらスポーツマンシップあふれる対応だ。
これで少しは関係を改善できるのではという淡い気持ちも込めてある。
しかし──
バッ
初めて会った時同様振り払われる手。
「邪魔だ!憐みのつもりか.....!」
「違う、ただ手を貸そうと....」
どうやら怒らせてしまったようだ。
俺は余計なことをしてしまったなと痛感する。
「手を貸す?俺が貴様の手を借りることなど一生はない!!!」
さらにヒートアップするトイガ。
しかし、それに待ったをかける長老。
「トイガ、少し落ち着かんか。おぬしは一度頭を冷やしてこい。」
「──はい.....。」
おとなしく了承するトイガ。
「そしてユキマル少年とその仲間はワシについてきなさい。」
少年.....。
俺はもう少年と呼べるような年齢ではないが、エルフの長老からしたら10年くらい誤差なのだろう。
まあどう思おうと口に出したところで何も変わらないので、俺はおとなしくついていくことにした。
ちなみに頭を冷やせと諭されたトイガはしぶしぶどこかへ去っていくのだった。
・・・・
・・
これまた古そうな建物につく。
長老の家らしいのだが、もはやなにでできているのかもわからない。
他の新築の家屋同様巨大な木の実製なのだと考えられたが、腐り果てているので判別がつかない。
しかし、中に悪臭が蔓延しているなんてことはなかった。
むしろ懐かしいような、じいちゃんの家のようなにおいがするのだ。
「それで?なんで俺たちを呼んだんだ?」
家にお邪魔すると適当に腰を掛けていいとのことで、三人そろって苔製の長いソファーに座った。
コラゴンは毎度のことながら俺のリュックの中でおとなしくしている。
「まあ大した話はないわい。一番はおぬしたちの顔を見ておきたかったからじゃな。」
「俺たちの....?」
「そうじゃ。フリエナのことは聞いておる。世話になったな。」
「い、いえ、こちらこそ、いろいろと助けてもらいました....!」
『アクアンティス王国』でのことを思い出したのかルフテが言う。
「なんも用事がないのなら、俺からいくつか聞いていいか?」
「なんじゃ?」
イスに腰かけた長老が首をかしげる。
「なんで俺とトイガの決闘を止めに来たんだ?」
「ふむ...。」
長老はしばし考え込んだのち、こう答えた。
「それはあいつを止めたかったからじゃ。実はトイガはワシの玄孫に当たる子でな。」
「や....玄孫....???」
聞き馴れない単語に困惑するユキマル。
「孫の孫のことよ。」
さっとソルナが解説する。
さすが歩く辞書と褒めたいところだが、なんで知ってるの?という恐怖が勝ってしまった。
おれは軽く親指を立てて、ドン引きをごまかしたのである。
.......
──孫の孫.....?!
ワンテンポ遅れて衝撃がやってきた。
まあエルフの世界ではこういうこともあり得るのかと納得したが、衝撃であることには変わらない。
いわゆるカルチャーショックである。
「トイガは例の件でかなり周りからの信用を落としたからの。」
俺がカルチャーショックを受けている横で長老は話を続けた。
「おぬしに敗北してさらに無様を晒させるわけにはいかなかったのだ。おぬしが強すぎることはわかっておるからな。」
なるほど。
つまり、あの時はああ言ったが、結局はトイガを守るためにとった行動らしい。
実に玄孫思いなばあちゃんである。
「例の件?」
この単語に引っかかったのはソルナだ。
俺も言われて初めて気づく。
「そうか、おぬしらは聞いとらんのか.....。」
「......」
長老は思い出すように天井を見つめた。
「あれはそう......数か月ほど前のことじゃ。」
「まさか──」
俺は長老今からが話す内容を察した。
それは俺だけではない。
ソルナとコラゴンも感づいたようだ。
「ああ、そうじゃ。フリエナがいなくなった日のことじゃ.....。」
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