叶えるべき無謀な理想
第六十二話
『西方奴隷商』の幹部であったスファードは見事打ち取られた。
そしてそのスファードが奥の手として召喚した『ブリザードドラゴン』も無事退けた。
しかし、村は平穏にはならなかった。
数名の死者が出た。
負傷者はその何倍もでた。
『アイスドラゴン』と『ブリザードドラゴン』によって破壊された建物や地形はかなり多い。
それらのことから村人たちの気持ちは穏やかではなかった。
「何が『勇者』だ!あいつらのせいで、こっちは大変な目に合ったぞ!」
「そうだそうだ!あんな奴らが来なければ村も平穏だったのに!」
「あたしの夫を返して!」
そして、行き場のない怒りはルクスたちへと向かった。
「気にするなルクス。こういうものだ。」
ベッドに横になっているドルドが言う。
二人は現在村長の家にかくまってもらっていた。
村を救った二人が、村人たちからかくまわれているというのも変な話だが、実際そうなっている。
村人たちにとってルクスたちは英雄ではなかった。
むしろ村をめちゃくちゃにした張本人なのである。
「でもドルド、確かに俺たちがいなければ敵は『ブリザードドラゴン』とかを解放しなかっただろうし、被害はここまで大きくなっていなかったかも....。」
「それは違う。私たちがいなければ、そもそも村は『オーク』たちに蹂躙されていただろう。」
「そうです、ルクス様。わたくしもそれを理解しているからこそ、こうしてお二人をかくまわせていただいているのです。」
村長がドルドに同意する。
確かに二人は正しいのかもしれない。
でも──
「もっと、全員を救えるいい方法があったんじゃ....」
どうしても自責をやめられないルクス。
確かにルクスは良い結果を出したのかもしれない。
しかし、完璧ではない。
人命や人々の生活に関わることならば、常に完璧でなければならないとルクスは思う。
そして、そのための力なのだと。
『勇者』に選ばれた身として、人々を救えないのは全て自分の責任なのだ。
「いいかルクス、前にも言ったが、お前は背負いすぎる癖がある。だから.....ゲフッゲフッ!!!」
話の途中でドルドは咳込んだ。
もうその時が近いのだ。
「ドルド!」
「村長、すまないが少し外してもらえるか?」
「え、ええ。」
空気を呼んだ村長は部屋を出た。
残されたのは寝床に横になっているドルドと、横に座っているルクスだけだ。
「続きだ。お前には背負いすぎる癖がある。だからもっと気楽になってほしかった。妻を殺されて自暴自棄になってからの私のようにな.....。」
再びせき込むドルド。
しかし、ルクスはドルドの言葉に集中していた。
「昨日、なぜお前を庇ったのかと聞いたな。」
「うん。」
「あれはそうだな.....師が弟子を守ることに意味はいらないなんて言葉で片付けることもできるが....あえてこう言おう。」
天井を見つめるドルド。
その目は少し遠くのことを思い出しているようだった。
「お前の理想を諦めたくなかった。」
一度瞬きをしてから、ルクスの目をまっすぐと見るドルド。
その目には、この言葉が真実であると刻み込まれていた。
ルクスの瞳が揺れる。
「私は綺麗ごとを諦めていた。でももう一度信じてみようと思ったのだ。そうさせたのは他でもないお前だ、ルクス。」
ここで再び天井を見つめるドルド。
「だが、私の道もここまでらしい。」
「.....そんな....!」
「別に驚くことではない。私も覚悟していたことだ。だが、一つ心残りもある。」
「心....残り?」
三度せき込むドルド。
吐血量から、いよいよ最期が近いのだと誰もが察した。
「お前が理想を叶えるにはその責任感の強さは足かせとなる。だが、その責任感がないと実現しない理想でもある。」
「....それは....。」
「最初はお前が背負っているものを下ろしてやりたかった。でも違うのだ。気づくのがこんなにも遅れてしまったが──」
「ドルド....?」
ドルドの瞳から光が消える。
もう残された時間はほんの少ししかない。
「ルクス....。いつかこんな人物に出会え........お前の背負ったものを──」
そのときドルドが残した言葉はルクスの魂に刻まれた。
大粒の涙が頬を伝うのを感じる。
いつぶりだろうか、こんなに感情をあらわにしたのは。
その日、ルクスは師の亡骸とともに一日を過ごしたのだった。
・・・・
・・
日が明けて村長の家から一歩踏み出す。
今から背中に背負った師の遺体を埋めに行くのだ。
不思議と重みは感じない。
埋葬場所として選んだのは小さな丘だった。
ここは村を一望できる。
景色としては申し分ない。
埋め終わったあと、ドルドが生前使っていた剣を墓石代わりに地面に突き刺す。
これにて埋葬は完了だ。
本当はちゃんとした葬式を上げたいが、状況が状況なので、それは叶わないだろう。
きっとドルドも理解を示してくれるはずだ。
村に戻ると、相も変わらず村人たちが待ち構えていた。
それぞれ石やら、雪玉や、木片などを持っている。
「お前のせいで.....!」
「この村を出ていけ!」
「責任をとれ!!!」
一斉に物を投げられる。
痛い...なんてことはないが、心に響くという意味では痛い。
頭にこつんと石が当たる。
ああ、ドルド。
俺、できるところまでやってみるよ。
コツ
石が当たる。
ズサ
雪玉が当たる。
次もきっと.....
・・・・・・
・・・・
・・
「させねぇよ!」
投げられた石を止めたのはユキマルだった。
目の前には『カヒューゼム教国』の怒り狂った国民たちがいる。
そういえばそうだった。
なぜかあの時のことを思い出して、回想に耽ってしまったが、今はそれどころではないのだ。
三年前と同じ。
ルクスは全てを守れなかった。
その報いを受けているのである。
「ユキマル....。」
自身を守ってくれたことに驚きつつも納得するルクス。
「なあルクス!」
「な、なんだい?」
「なにしけた面してんだ?」
この場の空気間にそぐわないほど気丈にふるまうユキマル。
それは責め立てている側の調子を狂わせた。
「なんだアイツ?」
「なんであんな態度をとってるんだ?」
口々に疑問を呈する国民たち。
それは当然の疑問であった。
「おい!お前たち!!」
国民の注意がユキマルに向かう。
「いいか?こいつがいなければ、この国はもっと悲惨なことになってたんだぞ?」
「知ったことか!」
「そうだ!そうだ!我々の生活を壊したのは紛れもない事実だろうが!」
国民の怒りは収まらない。
むしろユキマルに負けずと反発して、激化しているようだった。
「じゃあどうすれば納得するんだ?」
ユキマルが本質的な質問をする。
「そりゃすべて元に戻したらよ!」
「そうだ!そしてそれには金がかかる!」
「お前ごときにそれが払えるのかよ?」
それを聞いて二ッと笑うユキマル。
「つまり金さえ払えば、納得するってことだな?」
ユキマルの態度におじけつく国民たち。
「そ、そうだ。払えるもんなら払ってみろ!」
「これだけの被害だ。ざっと三千万いや五千万ダルフはくだらないぞ!」
「いやもっと、七千万ダルフよ!どう?払えるの?」
それを聞くなり、ユキマルは『インベントリング』を起動し、『間』から七千万ダルフを取り出した。
これは『アクアンティス』にてマリアナを救い出したときに王様からもらった報奨金だ。
別に使う予定もないので、惜しみなく放出する。
「どうだ?きっちり七千万ダルフある!これで文句ないな?」
「........」
沈黙が流れる。
皆圧倒されているのだ。
目の前にあるお金の金額にだけではない、ユキマルという男の豪胆さにだ。
「ユキマル....。どうして君もここまで.....。」
ルクスは誰にも聞こえない声でつぶやいた。
そういえばドルドは最期になんて言ったんだっけ....。
あの時のことを思い出す。
(ルクス....。いつかこんな人物に出会え........お前の背負ったものを──)
ユキマルがドルドの言葉と重なる。
(お前が背負ったものを共に背負ってくれる友に──)
ブワッと感情がこみ上げてくる。
自分が背負ってきたものが一気に軽くなったような。
そんな気がした。
そういえばドルドは最期に笑っていた。
ドルドの笑顔はその時初めて見たのかもしれない。
やっと見つけたよドルド、理想への第一歩を......!
心の奥底で、師に届くことを願いながら呟くルクス。
それは、久方ぶりに見た希望の兆しであった。
「ルクス!」
ユキマルが呼ぶ声がする。
「お前が背負いたいもんは、俺が一緒に背負ってやる!」
「ああ!」
ルクスは満面の笑みを浮かべるのだった。
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