背負いし者
第五十九話
「いやー、助かりましたよ。流石は『勇者』様方。やはりお強いのですね。まさかオークたちを一撃で倒してしまうとは...。」
村人が二人に感謝を告げる。
「明日、お二人の歓迎会を開こうと思っております、今夜はぜひこちらの宿でお泊り下さい。」
そう言って村人はルクスたちの宿を用意してくれた。
・・・・
・・
「ルクス、お前はあの剣どう見る?」
外もすっかり暗くなり、部屋に並んだベッドに入ってあとは寝るだけという時だった。
ドルドが昼のことをルクスに聞く。
「そうだね、あれはナマクラなんかじゃないことだけは確かだね。」
「ああ、まず間違いなくな。そして私の見立てが正しければ、オークたちの発言からしてあの剣は『神武』と呼ばれるものだ。」
「『神武』.....って?」
ルクスは初めて耳にする単語に疑問を持つ。
「『神武』とは、この世に十三振り存在する、人智を超える力を持つ武器たちのことだ。私も初めて見たがな。」
「人智を超える...武器?それがオーク....いや黒幕が求めているものということか。だとすると、相手が誰にせよ渡すわけにはいかないね。」
「『神武』は使用者を選ぶ。黒幕の人物が剣に選ばれない限り抜いても切れないただのナマクラに留まるだろう。」
ルクスは村人が倉庫で丸太を切ろうとしたが弾かれたことを思い出した。
なるほど、あれはそういうことだったのか。
「ということはおとなしく渡して手を引いてもらうというのもありなのかな?」
「いや、ああは言ったが敵の使用目的が不明である以上、『神武』ほど強力な武器をそうやすやすと渡すわけにはいかない。」
確かにと思った。
万が一にでも相手が『神武』に選ばれてしまったのなら非常にまずい。
ならば渡さないのが賢明だろう。
「そろそろ寝よう。」
ルクスは外が完全に暗くなったことに気づき、明日に備えてベッドに入った。
そして目を閉じて、眠りに着こうとしたときである。
「ルクス、お前は私に対して思うことがあるのだろう?」
突然、ドルドが別の話題を切り出した。
しかし、これはルクスにとって無視ができない話題だった。
「少なくとも私はお前に対して思うことがある。」
ドルドはルクスが返事をするよりも先に続きを話した。
「お前は魔族を殺すことに未だに抵抗を持っているな?」
「それは....」
否定はできない。
魔族を殺すとき、それは大抵魔王軍の兵士なのだが、相手がどうしても一つの命に見えてしまうのだ。
魔王軍もこちらを殺すつもりでくるので、ルクスが相手を殺すことに筋は通っているが、それでもやっぱり思うところがあるのだ。
それは優しさなのだろうか?
いや、恐らくは違うだろう。
昔、地元の悪ガキ集団のリンチに遭った時、ルクスは当然無傷だったのだが、それと同時に恐怖も覚えた。
自分がこの世でも圧倒的な存在であると幼いながら理解したのだ。
この力には責任がある。
誰かに向けていいような力じゃない。
例えそれが敵であったとしても。
これは一種の自戒だ。
世の摂理から逸脱している自分が、世の摂理のなかで懸命に生きている命を簡単に摘み取ってはいけないという自戒なのだ。
今となっては魔王軍相手なら剣を抜くことはいとわない。
それは向こうにも『魔王』という世の摂理から逸脱した圧倒的強者がいるからだ。
だからルクスはドルドとこれまで戦ってきた。
抵抗はあるものの、これも人類を守る『勇者』としての責任だと思えば、迷うことなく戦うことができたのだ。
「ルクス、これはお前のことを思って言うことだ。その気持ちは捨てろ。これからの戦いで必ずお前を縛る枷となる。いいか、魔族は敵なんだ。」
ルクスは心を見透かされたかのような助言にぎくりとした。
「.....ドルドが魔族を恨む理由はもちろん知ってるよ。奥さんを殺されたからでしょ?」
「ああ、そうだ。」
「でもその考え方は間違ってると思う。もし仮に相手が魔族じゃなくて、人類だったら、ドルドは人類全体を憎んでいたの?」
「...それは....。」
ドルドは言葉に詰まった。
思いがけぬ反論が確かに的を得ていたのだ。
「長話をしすぎたな、お前の言う通りもう寝よう。」
そう言うとドルドは電気を消した。
そして、少し外の空気を吸ってくると言い残し、宿を後にしたのだった。
頭を冷やそうと、外気を触れに外に出たドルドだったが、彼には悩みの種がもう一つあった。
「ゴフッゴフッ」
軽くせき込む。
最近はその頻度がやたらと増えてきた。
口を押えていた手を見ると、そこには咳と一緒に出たであろう血がびっしりとこびりついていた。
これは病気や、外傷によるものではない。
単純に年なのだ。
人間が人間である以上、絶対に逆らえない”死”。
『勇者』であるドルドとてそれは例外ではなかった。
見た目ではわかりづらいかもしれないが、ドルドの年齢はすでに250を過ぎている。
『勇者』に選ばれた者は寿命が普通の人間よりも延びるのだ。
それでも、ドルドのお迎えの時間は近づいてきていた。
「ルクスにも、何か残してやりたかった.....。」
そう言うとドルドは屋内に戻り、眠りにつくのだった。
・・・・
・・
翌日目が覚めると、村は活気に満ちていた。
村人も100人ちょっとしかおらず、頑張れば全員の名前と顔を覚えてしまえそうなほど小さな村だが、彼らなりにルクスたちを歓迎してくれたのだ。
「いやー、うちみたいな小さな村ですとねぇ、伝統なんかありゃしませんから。こうして難癖付けてバカ騒ぎするわけですよ!」
村人の男が空いていた席に座ったルクスに話しかけてきた。
「それにしてもまさか『刹那の勇者』様が来てくれるなんて!こりゃ本当に記念日になっちまうかもしれねぇはっはっは!」
男はそう言うとジョッキに入っていたビールを飲みほした。
「それで『勇者』様、お連れの老人は誰なんです?」
男がドルドのことを聞く。
「ああ、ドルドは私の師でして、同じく『勇者』ですよ。」
と軽く説明する。
別にドルドの正体を隠していたわけではない。
実際この村の村長はドルドが『勇者』であることを知っている。
ただ、ドルドが認知されていたのは一昔前のことで、新しい世代にはもう認知されていないのだ。
それで言うとルクスはまさに新進気鋭の『勇者』として世界に知れ渡っていた。
今となってはルクスの知名度がドルドのを上回ったほどだ。
これに対してドルドは別に気にしていない。
世の中そんなもんだと割り切っているのだ。
「ほえ~まさか同じ『勇者』様だったとは、確かにドルド様という名前をどこかで耳にしたことがあります。」
「『更生の勇者』といった方が聞きなじみがあるかもしれません。」
そう言うと男ははっとなり、軽くお辞儀をしたのだった。
「ルクス、人の話を広めるのもその辺にしておけ。」
ドルドはそう言って手にした果実をかじった。
「お前にはこれまでいろいろなことを教えてきた。剣の扱い方、野営の仕方、魔族との戦い方。特に戦闘面においてお前は天才的だ。あと数年でお前は私を超えるだろう。私が教えてやれることも少なくなってきた。だが、これだけは伝えておこうと思う。」
「どうしてそんなにかしこまるの?ドルド。」
ドルドはしばらく黙ったのちに、意を決したかのように話し始めた。
「”正義”についてだ。」
「正義?」
「ルクス、お前が想像する正義とはなんだ?」
「う~ん、正しいことをすることかな?」
少し悩んでから返事をするルクス。
「そうか、では正しいこととはなんだ?」
「正しいこと....。人助けとか?」
「では、人助けをしたことによって、別の誰かが悲しんだら、それは正しいことといえるのか?」
「っ...!それは....。」
「そうだ、正義とは最も悪に近いものだ。皮肉なことにな。だから私はこう考える。正義とは自分の意思を貫くことだと。いいかルクス。『勇者』は正義の執行者とされている。だが人の数だけある正義を我々が背負いきれるわけがない。だから”背負うな”。」
その言葉はルクスの芯に響いた。
「お前は何かと背負う癖がある。それはいいことでもあるんだが、いつか限界が来る。その時に私はもう──」
ギュアアアアオン!!!
村中に咆哮が響き渡る。
それは魔獣から発せられたものだった。
「ドルド!」
「わかってる、今すぐ向かうぞ。」
そこからは一瞬だった。
村の端まで向かい、そこに集まった魔獣と対面する。
「まずい、この村は魔獣たちに囲われている!」
ルクスの感知した限りでは、魔獣の気配が村を一周する形で囲っていたのだ。
そして、それらが一斉に行進を始めている。
「ルクス、お前の足の速さなら問題なく対処できる量だ。ここは任せた。」
「わかった!ドルドはどうするの?」
「私は黒幕に用がある。」
そう言うとドルドは来た道を走り戻った。
残されたルクスだが、ドルドの発言通りつつがなく対処に回った。
村を包囲していた魔獣は大抵がCランクの魔物でその数はおよそ50体。
半径2kmの小さな村とはいえ、全方向を一気に対処するのは至難の業だ。
ましてや、魔獣たちはもう村のすぐそこまで近づいている。
普通なら対処のしようがない状況だが、ルクスは違った。
その俊足で一瞬にして魔獣たちを倒してしまったのだ。
その間およそ3秒。
「ふう、こんなもんかな?討ち漏らしがないといいけど。」
こんな早業をこなしてもなお、息一つ上げていないのが恐ろしいところだ。
しかも本気を出せばもっと早く走れるのだから、末恐ろしい限りである。
でも、これが『勇者』なのだ。
これが世の摂理から逸脱していると自称するわけなのである。
「それにしても、この数の魔獣なら、近づくだけで俺かドルドが気づくはずなんだけどな....。まるでいきなり出現したかのような....。」
ルクスは今回の件に関して違和感を感じていた。
そもそも、この村には魔獣がほとんど寄り付かないはずだ。
なのに先ほどはたくさんの魔獣たちがこれでもかというほど押し寄せてきた。
これは明らかに誰かの意思を感じる。
まあそこまではドルドと予想してたわけだが、問題は魔獣の等級と数だ。
それに、あの数の魔獣がひそかに村に近づけるわけがない。
ましてやルクスとドルドの感知包囲網を抜けてたどり着けるわけがないのだ。
だから、考えられることとしては、魔獣たちがいきなり村の周りに出現したということ。
謎は深まるが、黒幕が何かしらの手段でそうしたのだろう。
「誰が一体、何のために...。」
・・・・
・・
魔獣たちをルクスに任せて黒幕の元へ向かったドルドだったが、相手の目的を正確に見抜いていた。
向かう場所は村の倉庫だ。
「やはりそうだったか。」
やけに長いコートを着た男を前にドルドは立ち止った。
「貴様は何者だ?」
ドルドが質問すると男はゆっくり振り向いて答えた。
「キッヒッヒ。なんだよ老いぼれじいさん。よくここがわかったじゃねぇか。」
「何者だ?」
ドルドは相手のペースに飲まれないよう強めに聞き直した。
「おうおう、そう慌てんなって。わかったよ、ミーは『西方奴隷商』幹部、スファードってもんだ。キッヒッヒ。」
「『西方奴隷商』.....。西側諸国を拠点としている犯罪組織か。いつか相手する時が来るとは思っていた。」
「それじゃあ次はあんたが名乗る番だぜ。じいさんも只者じゃないだろ?わかるんだよそういうの。キッヒッヒ。」
「貴様に名乗る名など持ち合わせていない!」
そういうとドルドは一気に切りかかった。
「うお!」
ブシュ!
結果は一撃だ。
スファードと名乗った男は胴体を真っ二つに切られてしまった。
「狙いはこの『神武』というところか。」
ドルドは奥にある『神武』を手にした。
間違いなくスファードはこれを取りにここまで忍び込んだのだろう。
そして、そのために今回の騒動を起こした。
今までちょくちょく村を襲わせたのも、『神武』の位置を特定するためだと考えられる。
しかし、犯人は切り伏せた。
もう事件は解決したのだ。
そう思った時だった。
グサッ
「キッヒッヒ。」
ドルドの背中に深く剣が突き刺さった.....。
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