33 戦いは突然に……
「蘭次様~!早くしてください!」
「はいはい」
魔崎に促され、駆け足で転送装置へ向かう。
三回戦は不戦勝だったが、すぐそこに準決勝が迫っているのだ。
「それでは蘭次様!頑張ってくださいね!」
「ああ……」
俺たちは戦いの場に転送された。
……異世界戦も佳境に入りつつあったことを、何故かこのタイミングで強く感じながら。
「……もう準決勝か。思ったより早く感じるな」
「そうね。まあロクに戦ってなかったもの」
「……確かにな……」
バカップルと、俺が人質に取られたのと、不戦勝。思ったより酷い戦い(内一つは戦ってすらない)だらけだ。
次の準決勝は強い奴が現れるんだろうか。
「そういえば次の敵って、どういうやつなんだろな?」
「あたしは知らない。確かチーム名は……犬……だったかしら」
犬……またシンプルな名前だな。
「そのチームなら、見てはいないけど話は聞いたよ。人数は一人らしい」
椎名が誰かに聞いたか噂で聞いたと思われる話を聞かせてくれるが……
「一人らしいって何だよ。透明人間か何かなのか?」
「いや、一人ははっきりした人間だよ。でも、もう一人は造形は人だけど、それ以外は謎に包まれてるらしい。おそらくは人間ではないが人間に似た物……なんて話を聞いたけど」
「その話から全く想像に及ばないんだが……」
人型の何か?軟体動物か何かでもこの世界に入り込んでんのか?
てか、それなのにチーム名が犬?人型の犬を連れ込んだとか?いやいや、有り得んだろ。
「まあ、これから戦えばわかるよ」
「……そうだな。よし、頼むぞ凜!椎名!」
「あんたこそこっちの足引っ張らないようにね」
「う……」
この上なく屈辱的だが前の人質の件のせいで言い返せない!
「なんて、冗談よ。もうおふざけは通用しないだろうから。気合い入れていくわよ」
「お、おう!」
グッ。と拳に力を入れる。この準決勝を突破するんだと、気持ちも高まって行く。
(……そういえば良く考えてみたら大会って言うなら何か景品とかないのかな。これからの戦闘で役に立つものとか究極の魔法を授けられるとか。まあ、勝てばわかるか)
今更な考えが頭に流れ、目の前は転送が完了して光に包まれていた――
転送された後の場所は……何かの建物の中みたいだな。10メートル四方の部屋で、地面には小麦粉などが置かれていた。大きい倉庫……みたいな感覚だろうか。左右には他の部屋に繋がってるのかそれぞれ一つずつドアがあった。
室内での戦いか……とは言え多少の広さはあるし、そこまで気にすることもないか。
俺は辺りにに敵がいるか確認しようと左のドアに近付く――
「避けなさい!後!!」
甲高い凜の叫び声。避けろという声に反応し何かしらの行動をとろうとするが――ダメだ。後ろから何かが近づいてるのはわかるが、今からどう動いても当たる。俺は……避けられない!
やられた――
そう思い目を瞑る。しかし衝撃は来なかった。代わりに来たのは何かがぶつかった音。
俺は目をあけて後ろを見る。小麦粉か何かがあったせいでしばらく煙に包まれていたが、それらがす静まってきた時に見えてきたのは――
「おお?確かに男の方を狙ったんだがな……だがどうせ同じか。我の力に藻屑と化せ」
和服を着て、下駄を鳴らしながら現れた胴長短足の男。下に目を向けると……
凜がうつ伏せに倒れていて、ピクリとも動かなかった――
次の話から多くのアクションが繰り広げられます!蘭次たちの戦い、期待してください!




