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綾子先生の「分析」

彼は正直に『この練習方法は、同じクラスの山西莉緒ちゃんから教わった』と、綾子先生に答えました。


莉緒さんは、書道の大会で何度か入賞しています。綾子先生はもちろん莉緒さんの事を知っていました。そして「なるほどね」と納得しました。


だけど莉緒さんの通う書道教室は、綾子先生の所属する「櫻庭書道会」とは別流派…「望月書道会」の教室だったので、綾子先生は莉緒さんについては、あえて触れませんでした…。




綾子先生は、こんなに綺麗に◯や△や□が描けているのなら、何か漢字を一文字書いてみて、と彼にリクエストしました。


彼は、どんな漢字一文字を書けばいいのか悩み、黙り込んでしまったので、先生は『とりあえず「野井倉の"野"の字」を書いてみて』と彼に言いました。


彼は更に困った表情を見せ、『うーん…』と小さく(うな)りながら、◯△□ばかり描いていたノートに、初めて漢字を書きました。


…今までは走り書くように文字を書いていた彼が、今日はゆっくりと、丁寧に「野」の字を書いています…姉の紗香さんは声には出さず、心の中で『翔が…あんなに字を丁寧に書いてる…!』と、その様子に大変驚きました。


『できました!』と彼は自信有り気に、先生にノートを見せました。

先生と紗香さんは、そのノートに書かれた「野」を見ました…。




綾子先生は驚くこともなく『どこでもよく見る、ちょっと書字の苦手な一般小学3年生のレベルね…』そう思いました。


対して紗香さんは『凄い!ちゃんと読める!なんとか野の字になってるよ翔!』と、彼の字の急激な変化に、とても喜びました。


紗香さんは『先生、ちょっと貸してください』と、先生からノートを借りました。そして彼の勉強机に座り、彼が書いた野の字の下に、紗香さんは同じように「野」を書いてみました。


小学6年生の紗香さんは、同学年の他の女子たちと比べたら、字は少し綺麗なほうでした。


…彼は、姉の書いた「野」を、まじまじと見ました。


今度は彼が紗香さんからノートを返してもらい、勉強机にまた座って、もう一度、紗香さんの書いた「野」の横に「野」を書きました。



『えーっ⁉︎…先生!見てください‼︎』



忙しく手から手へと回されるノート。今度は紗香さんが机の上のノートを取り、また先生に渡しました。その字を見た先生も、今度ばかりは驚きました。


姉の書いた「野」の横に、ほとんど変わらない「野」の字がありました。



先生はノートに「野井倉翔」と書き、『次はこの私の字を見ながら書いてみて』と彼に言いました。


彼はまた学習机に座り、綾子先生の字を見ながら「野井倉翔」と丁寧に丁寧に…少し時間を掛けながら書きました。



『できました!』と、彼は意気揚々と綾子先生にノートを見せました。



『?……‼︎⁉︎』




綾子先生は…この状況を、自分なりに簡単に分析し、紗香さんと彼に伝えました。




…翔くんの「正確に字をイメージする力」と「正確に筆先に伝えること」…つまり「見本となる字を見ながら、その字を完璧に真似る能力」は、驚くほどにできているから。


だから綺麗な字の見本を見ながらの書き取り練習を、これからも何度も何度も何度も何度も…繰り返して、書字の上手さを完全に「翔くんのもの」として身に付けられることが出来れば、翔くんは何も見なくても、思いのままに字が綺麗に書けるようになる…かもしれない…と。

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