第9話 剣士と魔法使い、切り替えるだけでは足りない
剣士から魔法使いへ職業を変更した瞬間、俺の右手に集まっていた魔力が霧散した。
そのわずかな隙に、木偶人形の剣が迫ってくる。
「しまった!」
慌てて身体をひねったが、避けきれなかった。木剣が左肩を打ち、鈍い痛みが腕まで走る。
《有効打を受けました》
《模擬戦闘を継続します》
俺は数歩下がり、魔鉄の片手剣を構え直した。
正面では、木偶人形が次の攻撃に備えている。
剣士なら《受け流し》が使える。魔法使いなら《魔弾》を撃てる。どちらも便利な能力だが、肝心の職業を切り替える瞬間に、どうしても意識が途切れてしまう。
『圭吾、無理に両方使おうとしすぎじゃない?』
作業スペースの外からサクの声が届いた。
「どうやら、そのとおりらしいな」
俺は肩の痛みを確かめながら、目の前の木偶人形を見据えた。
剣士と魔法使い。
二つの職業を登録したことで戦い方は増えたはずなのに、実際に組み合わせようとすると、思ったほど簡単ではなかった。
◇
日曜日の午後。
庭の作業スペースには、朝から使っていた木製の的が置かれていた。
その表面には魔弾による丸い凹みがいくつも残っている。初級の攻撃魔法とはいえ、厚い板へこれだけの傷をつけられるのだから、威力そのものは十分だろう。
問題は命中精度と、攻撃を繰り返すための魔力だった。
俺は朝の訓練で《魔法使い》の職業を初めて本格的に使用し、《魔力制御》と《魔弾》の感覚を確かめた。
何もないところから魔力の塊を生み出し、狙った場所へ飛ばす。
それだけ聞けば単純な能力だが、実際には魔力を集める量、圧縮する時間、放つ方向によって結果が変わる。
何度か試すうちに、右手を正面へ向けるより、肘を軽く曲げて構えた方が狙いを定めやすいと分かった。
もっとも、的が動かないからこそできる工夫でもある。
「さて、次は動く相手か」
俺は《稽古用魔導木偶の核》を取り出した。
初級の木偶人形には何度か勝っている。しかし、それは剣士としての戦い方を覚えたからであって、魔法使いでも同じように勝てるとは限らない。
今のメイン職業は《魔法使い Lv.1》。
筋力と敏捷の職業補正はなくなり、代わりに魔力と器用が強化されている。
習得済みの《身体強化》は問題なく使えるが、《剣術基礎》と《受け流し》は剣士を装備していなければ発動しない。
俺は木偶人形を起動し、初級を選んだ。
『圭吾、今日は魔法だけで戦うの?』
サクが庭の端から尋ねてきた。
「最初はそのつもりだ。剣士とは違う戦い方を覚えたいからな」
『だったら、近づかれる前に当てた方がいいね』
「そうだな。ただし、魔弾を外したらすぐに距離を詰められる。そこが問題だ」
魔弾を撃つには、わずかな時間だが魔力を集めなければならない。
今の熟練度では、右手を向けた瞬間に発射するような芸当はできなかった。
それに魔力の最大値は十。魔法使いの職業補正で増えているとはいえ、無駄撃ちできるほど余裕はない。
《模擬戦闘を開始します》
木偶人形が動いた。
俺は右手を前へ出し、魔弾を形成する。
木偶人形が踏み込む。
その胸元へ狙いを合わせ、魔力を放った。
青い光の球が空気を裂き、木製の胴体へ命中した。
《有効打》
「よし!」
だが、木偶人形は止まらなかった。
衝撃でわずかに後退したものの、すぐに踏み込み直してくる。
俺は二発目を準備したが、魔力がまとまるより早く木剣が振り下ろされた。
反射的に身体強化を発動し、横へ跳ぶ。
木剣が空を切った。
着地したところで三発目の動作へ移ろうとしたが、身体を動かしながら魔力を集めるのは想像以上に難しかった。
意識を右手へ向ければ足運びが乱れ、相手の動きへ集中すると魔力が散ってしまう。
結局、二発目を撃つ前に木剣を受け、模擬戦闘は中断された。
「……なるほど。魔法使いって、思ったより忙しい職業なんだな」
俺が肩を回していると、サクが近づいてきた。
『圭吾、魔弾を当てたあと、その場に残ってたよね』
「ああ。もう一発撃てると思ったんだが、間に合わなかった」
『だったら、撃ったらすぐ離れた方がよくない? あの人形、走るのはそんなに速くないし』
サクの指摘は的確だった。
剣士のときは、相手の攻撃を避けたあとに踏み込むことを考えていた。
しかし魔法使いは違う。
攻撃するための距離を維持しなければならない。
同じ相手でも、職業が変われば戦い方も変わるということだ。
「お前、よく見てるな」
『圭吾の練習、ずっと見てたからね。それに、僕だったら近づかれる前に動くよ』
「確かに。狼の戦い方を参考にするのも悪くないか」
『人間と脚の数は違うけどね』
「そこは何とかするさ」
俺は水を飲んで休憩し、もう一度木偶人形へ向き直った。
◇
二度目の模擬戦闘では、最初から距離を取った。
木偶人形が近づいてくる前に魔弾を形成し、踏み込んだ瞬間に放つ。
命中したら横へ移動し、相手が向きを変えている間に次の魔弾を準備する。
単純な方法だったが、最初よりずっと上手くいった。
一発目は胴体へ命中。
二発目は肩口をかすめ、三発目は相手の踏み込みに合わせて胸元を捉えた。
《模擬戦闘終了》
《初級訓練に勝利しました》
木偶人形が動きを止めた。
俺は右手を下ろし、大きく息を吐いた。
魔力は残りわずかだったが、今度は一度も攻撃を受けていない。
「距離を取れるなら、魔法使いの方が楽な場面もありそうだな」
『でも、相手がもっと速かったら困るよね』
「ああ。お前みたいな相手だったら、三発撃つ前に追いつかれるだろうな」
『僕なら最初の魔弾も避けると思う』
サクは悪びれずに言った。
実際、風走を使うサクの速度を考えれば、今の魔弾で命中させるのはかなり難しいだろう。
「だからこそ、近づかれたときの備えが欲しいんだ」
俺は職業画面を開いた。
《登録職業》
剣士 Lv.2
魔法使い Lv.1
《同時装備可能数:1》
職業の変更そのものに、費用や素材は必要ない。
切り替え操作も、慣れれば短時間で済む。
ならば、敵が遠いときは魔法使い、近づかれたら剣士に変更する戦い方ができるかもしれない。
理屈としては悪くない。
問題は、実際に戦いながら切り替えられるかどうかだった。
俺は魔鉄の片手剣をアイテムボックスから取り出した。
『圭吾、今度は両方使うんだね』
「ああ。できるかどうか、一度試してみたい」
『怪我しないでよ』
「それは俺も同感だ。危なかったらすぐに中断する」
俺は木偶人形との距離を十分に取り、三度目の模擬戦闘を開始した。
◇
最初は順調だった。
魔法使いとして魔弾を放ち、木偶人形の胸へ一撃を与える。
次に相手が近づいてくるのを見て、職業を剣士へ変更した。
《メイン職業を剣士へ変更しました》
身体の感覚が変わる。
魔力の流れを捉える感覚が薄れ、代わりに筋力と敏捷の補正が有効になった。
同時に《剣術基礎》と《受け流し》が使用可能になる。
俺は魔鉄の片手剣を構え、木偶人形の攻撃を受け流した。
ここまでは狙いどおりだった。
問題が起きたのは、その次だ。
相手が後退したところで魔法使いへ戻し、魔弾を撃とうとした。
しかし、職業の変更に意識を向けたことで、剣を構えていた腕の力がわずかに緩んだ。
さらに魔弾の形成を始めたところで、木偶人形が再び踏み込んでくる。
慌てて剣士へ戻そうとした瞬間、集めかけていた魔力が散ってしまった。
そして、冒頭の一撃を受けたわけだ。
『圭吾、無理に両方使おうとしすぎじゃない?』
サクの声を聞きながら、俺はようやく理解した。
職業変更そのものは難しくない。
だが、相手が攻撃してくる最中に、戦い方を切り替えるのは別問題だった。
剣士なら相手の動きと間合いへ意識を向ける。
魔法使いなら、それに加えて魔力の形成と制御が必要になる。
しかも職業が変われば身体能力の補正まで変化するため、同じ距離を動こうとしても感覚が微妙に違う。
「便利な機能だけど、戦闘中に使うには慣れが必要だな」
俺は模擬戦闘を中断した。
これ以上続けても、今の段階では同じ失敗を繰り返すだけだろう。
魔剣士という職業が存在する理由も、少し分かった気がした。
単に剣士と魔法使いを交互に使うだけなら、今でもできる。
だが、二つの能力を同時に使える職業なら、戦い方そのものが変わるはずだ。
◇
昼食を済ませたあと、俺は新居の物置で一枚の紙に数字を書き込んでいた。
剣士 Lv.2。
魔法使い Lv.1。
目標は、両方をレベル三まで育てることだ。
それに《職業融合結晶》を一つ用意すれば、SR《魔剣士》へ統合できる可能性がある。
ただし、元の職業は統合時に消費される。
職業スキルがどこまで継承されるかも、まだ分かっていない。
だからこそ、統合条件を満たすまでに、それぞれの特徴をしっかり覚えておきたかった。
調達部の仕事では、複数の仕入れ先を比べることがある。
単価が安くても品質が安定しなければ困るし、性能が優れていても納期に間に合わなければ意味がない。
職業も似たようなものだ。
単純なレアリティだけでなく、実際に何ができるのかを確かめておきたい。
俺が考え込んでいると、サクが物置の入口から顔を出した。
『圭吾、まだやってるの?』
「ああ。どうすれば魔剣士になれるか考えてた」
『練習してレベルを上げればいいんでしょ?』
「それも必要だけど、職業融合結晶っていう素材もいるんだ。ガチャから出るらしいんだが、いつ引けるか分からない」
『じゃあ、そっちは運次第だね』
「まあ、今のところはな」
俺はガチャ育成画面を開いた。
デイリーガチャは現在一凸。
もう一段階強化すれば、武器や防具、職業、素材などの排出分野を指定できる機能が解放される。
そうなれば職業融合結晶を狙いやすくなるかもしれない。
しかし、強化に必要な《ガチャ強化結晶》も手元にはない。
「欲しいものを手に入れるために、別の素材が必要になる。なかなか上手くできた仕組みだよ」
『でも、圭吾はそういうの好きでしょ』
「よく分かってるじゃないか」
『ガチャの画面を見てるとき、いつも楽しそうだから』
どうやら、すっかり見抜かれているらしい。
俺は笑って紙を畳み、物置の棚へ置いた。
焦っても仕方がない。
今できることは、職業を育てることだ。
素材が手に入ったときに、すぐ統合できる状態にしておけばいい。
「さて、もう少し魔法の練習をするか」
『僕も風走の練習をしていい?』
「ああ。ただし、疲れたらちゃんと休むこと」
『それ、圭吾にも言っておくよ』
「……ごもっとも」
サクは満足そうに尻尾を振り、庭へ駆け出していった。
◇
午後の訓練は、魔弾の命中精度を上げることに集中した。
午前中に比べて魔力は回復していたが、それでも使える回数には限りがある。
そこで一発ごとに構えを変え、命中位置を確かめることにした。
木製の的には、中央へ白い円を描いてある。
最初の一発は左へ逸れた。
二発目は円の端。
三発目で、ようやく中央付近に命中した。
何度も撃っているうちに、魔力を集める感覚が少しずつ分かってくる。
最初は右手へ力を込めすぎていたが、今は魔力の流れを整えることを意識している。
その方が、光の球が安定する。
また、腕を大きく振るより、肘を固定して放つ方が狙いも定まりやすかった。
俺は魔力が減ったところで訓練を切り上げ、ステータスを確認した。
《魔法使い Lv.1》
職業熟練度:94/100
《魔力制御 Lv.1》
熟練度:71/100
《魔弾 Lv.1》
熟練度:63/100
「あと六か。もう少しで職業レベルが上がりそうだな」
『圭吾、もう一回やるの?』
庭の端で休んでいたサクが声を掛けてきた。
「いや、今日はここまでだ。魔力も減ってるし、明日に回すよ」
『珍しいね。あと少しなら続けるかと思った』
「昔の俺ならそうしたかもしれないな。でも、明日も仕事があるし、無理して体調を崩す方が困る」
サクは納得したように頷いた。
俺は魔鉄の片手剣と魔導木偶の核をアイテムボックスへ収納し、庭の片づけを始めた。
そのときだった。
《条件を確認しました》
《特殊実績の達成状況を更新します》
突然、視界の中央に新しい通知が現れた。
「……ん?」
これまで見たことのない表示だった。
《特殊実績》
名称:二職を扱う者
達成条件:
異なる二種類の戦闘職業を登録する。
両職業の固有スキルを使用する。
同一の模擬戦闘中に職業を変更する。
異なる職業で模擬戦闘に勝利する。
《達成状況:3/4》
俺は表示を読み直した。
二種類の職業を登録し、それぞれの固有スキルを使い、戦闘中に職業を切り替える。
そこまでは今日の訓練ですでに達成している。
残る条件は、異なる職業で模擬戦闘に勝つことだった。
剣士では勝利している。
魔法使いでも、先ほど初級の木偶人形を倒した。
だが、条件が三つしか達成されていないということは、別々の戦闘で勝つだけでは足りないのだろう。
俺は条件の詳細へ意識を向けた。
《補足》
同一の模擬戦闘において、複数の職業固有スキルを使用し、勝利する必要があります。
「なるほど。そういう意味か」
午前中の最後の模擬戦闘では、剣士と魔法使いを切り替えて戦ったものの、途中で中断している。
そのため、最後の条件を満たせなかったらしい。
そして、実績の報酬欄には、見覚えのある名前が表示されていた。
《達成報酬》
《SR 職業融合結晶×1》
「……おいおい」
思わず声が漏れた。
職業融合結晶。
まさに、今探していた素材だった。
『圭吾、どうしたの?』
「サク、面白いことが分かった。職業融合結晶は、ガチャ以外でも手に入るらしい」
『本当?』
「ああ。ただし、条件を満たさなきゃいけない。剣士と魔法使い、両方の能力を使って模擬戦闘に勝つんだ」
『じゃあ、さっきの続きをやればいいんじゃない?』
「そういうことになるな」
俺は思わず笑ってしまった。
まったく、よくできている。
職業の統合に必要な素材が、複数職業を使いこなすための実績報酬になっている。
ただガチャを回すだけではなく、手に入れた能力を実際に使うことにも意味があるらしい。
もっとも、今の俺には魔力がほとんど残っていない。
無理に挑戦しても、また途中で失敗するだけだろう。
「明日だな。今日はちゃんと休んで、仕事から帰ってきてから挑戦しよう」
『分かった。僕も一緒に考えるよ』
「ああ。頼りにしてる」
俺は木偶人形の核を収納し直し、新しい実績画面を閉じた。
これで、魔剣士への道が一段とはっきりした。
◇
月曜日の午前零時。
俺は寝る前にデイリーガチャを引いた。
白い光の球が青へ変わり、そのまま静かに収束する。
《R確定》
《消耗品を獲得しました》
《R 魔力回復薬(小)×3》
「お、これはありがたいな」
テーブルに現れたのは、小さなガラス瓶が三本だった。
透明な液体の中に、青白い光がゆっくり漂っている。
鑑定すると、一本につき魔力を五回復する効果があると表示された。
《魔力回復薬(小)》
レアリティ:R
分類:消耗品
効果:使用者の魔力を5回復する。
制限:最大魔力値を超えて回復しない。
備考:短時間での連続使用には注意。
初めて手に入れた魔力回復アイテムだ。
これがあれば、今までより長く魔法を使える。
ただし、三本しかない。
訓練で全部使ってしまうのは、少しもったいない気がした。
『圭吾、何が出たの?』
ソファで寝ていたサクが、片目を開けて尋ねてきた。
「魔力を回復する薬だ。三本も出たぞ」
『それなら、明日の練習で使えるね』
「そうだな。ただ、貴重なものだから、まずは自然回復で足りるか試してみるよ」
『圭吾、そういうところは結構慎重だよね』
「一万円で何が出るか分からない世界だからな。使いどころくらいは考えたいさ」
俺は三本の瓶をアイテムボックスへ収納し、寝室へ向かった。
◇
翌日の仕事は、いつもどおりだった。
午前中は発注書の確認、午後は仕入れ先との納期調整。宮原から相談された部品の代替調達についても、いくつか候補を洗い出した。
昼休みには、昨日の特殊実績について考えていた。
必要なのは、戦闘中の職業変更を成功させることではない。
そのあと、最後まで勝つことだ。
ならば、わざわざ難しい切り替え方をする必要はない。
相手の動きが止まる瞬間や、距離が十分に離れている場面を利用すればいい。
俺はスマートフォンのメモ帳へ、簡単な手順を書き込んだ。
まず魔法使いで魔弾を当てる。
木偶人形が後退したところで距離を取り、剣士へ変更。
近づいてきた相手の攻撃を受け流し、剣で有効打を与える。
もし相手が後退したら、そのまま剣士で決着をつけても構わない。
必要なのは、両方の職業固有スキルを使って勝利することだからだ。
無理に何度も切り替える必要はない。
「……考えてみれば、随分単純な話だな」
午前中は切り替えること自体に意識を向けすぎていた。
戦闘を有利に進めるための機能なのに、機能を使うことが目的になっていたわけだ。
そう考えると、失敗した理由もはっきりする。
◇
帰宅したのは午後六時半だった。
着替えを済ませてサクを召喚すると、銀白色の狼はすぐに俺の足元へ寄ってきた。
『おかえり。今日はやるんでしょ?』
「ああ。昨日の実績に挑戦する。今度は無理に切り替えないことにしたよ」
『それなら、ちゃんと勝てそうだね』
「勝てるかどうかはやってみないと分からんけどな」
軽く食事を済ませ、少し休んでから庭へ出た。
夕暮れの空には薄い雲が広がり、周囲の畑から湿った土の匂いが漂っている。
俺は作業スペースに魔導木偶の核を置き、初級を選択した。
メイン職業は《魔法使い Lv.1》。
まずはこの状態で開始する。
『圭吾、昨日のこと覚えてる?』
「ああ。攻撃を当てたら、余計なことを考えずに距離を取る」
『そうそう。僕は見てるから、落ち着いてやって』
「頼むよ」
木偶人形が起動した。
《模擬戦闘を開始します》
俺は右手を前へ出し、魔弾を形成する。
相手が踏み込む直前、青い光の球を放った。
魔弾は胸元へ命中し、木偶人形がわずかに後退する。
《有効打》
俺はすぐに距離を取った。
木偶人形が向きを変える。
その間にアイテムボックスから魔鉄の片手剣を取り出し、職業を剣士へ変更した。
《メイン職業を剣士へ変更しました》
身体の感覚が変化する。
魔力の流れを捉える感覚が薄れ、代わりに筋力と敏捷の補正が有効になった。
木偶人形が近づいてくる。
今度は慌てない。
相手の肩が動いた瞬間、剣を構え直した。
木剣が振り下ろされる。
俺は《受け流し》の補助を利用し、刃を斜めに合わせた。
硬い音とともに、相手の木剣が横へ逸れる。
その隙に踏み込み、魔鉄の片手剣を胴体へ当てた。
《有効打》
木偶人形が後退する。
俺は追い掛けず、剣を構えたまま次の動きを待った。
相手の右足が前へ出る。
続いて左肩が動いた。
横薙ぎだ。
俺は身体を半歩下げ、木剣が通り過ぎたところで前へ出た。
魔鉄の片手剣を振る。
《有効打》
《模擬戦闘終了》
《初級訓練に勝利しました》
木偶人形が停止した。
俺は剣を下ろし、ゆっくり息を吐いた。
「……よし」
『圭吾、今度は上手くいったね』
サクが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ああ。切り替える場面を決めておけば、無理に操作する必要もなかった」
『最初からそうすればよかったのに』
「それが分かるまでに、少し時間が掛かったんだよ」
俺が苦笑したところで、視界に新しい通知が現れた。
《特殊実績を達成しました》
《二職を扱う者》
《達成報酬を配布します》
《SR 職業融合結晶×1》
足元に銀色の光が集まり、小さな結晶が現れた。
手に取ると、透明な内部に赤と青の光が交互に走っている。
「……これが職業融合結晶か」
鑑定結果は、昨日確認した説明と一致していた。
職業統合に必要な素材。
ガチャ以外でも入手できることが、これではっきりした。
俺は結晶をアイテムボックスへ収納し、職業画面を開いた。
《職業統合候補》
《SR 魔剣士》
必要職業:
剣士 Lv.3以上
魔法使い Lv.3以上
必要素材:
職業融合結晶×1 所持
《統合条件:職業レベル未達成》
必要素材の表示が変わっている。
残る条件は、二つの職業をレベル三まで育てることだけだった。
「よし。これで魔剣士が現実的になってきたな」
『あと少しだね』
「ああ。ただ、焦って失敗する必要はない。剣士も魔法使いも、ちゃんと使いこなせるようになってから統合したい」
『それなら、明日も練習だね』
サクは嬉しそうに尻尾を振った。
俺はその頭を撫でながら、ふと別の可能性を考えた。
今回の実績報酬は、職業融合結晶だった。
ならば、装備の限界突破やガチャの強化に必要な素材も、何らかの実績によって入手できるのではないだろうか。
もちろん、すべての素材がそうだとは限らない。
だが、試してみる価値はある。
ガチャから出たものを集めるだけではなく、能力を使い、条件を満たすことで新しい報酬を得られる。
この仕組みなら、俺が思っていた以上に成長の方法は多いのかもしれない。
そして、もうひとつ。
今回の模擬戦闘で、魔法使いの職業熟練度も規定値に達していた。
《職業《魔法使い》のレベルが上昇しました》
《魔法使い Lv.1 → Lv.2》
《魔力補正が上昇しました》
《職業スキル《魔力感知 Lv.1》を習得しました》
「おお、こっちも上がったか」
思わず笑みがこぼれた。
魔力感知。
名前からして、周囲の魔力を感じ取る能力らしい。
使い道はまだ分からないが、新しい職業スキルが増えたことは間違いない。
しかも、これで魔法使いはレベル二。
剣士もレベル二だから、両方とも次のレベルまであと一段階だ。
「サク、どうやら明日から、また忙しくなりそうだぞ」
『圭吾、仕事もあるんだから、ちゃんと休んでね』
「分かってるよ。無理をして怪我したら、元も子もないからな」
俺は剣を鞘へ戻し、アイテムボックスへ収納した。
夕暮れの庭には、少し冷たい風が吹き始めている。
魔剣士への道が、ようやく見えてきた。
剣士と魔法使いを統合したとき、どんな能力を使えるようになるのか。
その答えを確かめる日が、今から楽しみだった。
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YouTubeでショート動画作ってみました
https://youtube.com/shorts/PCIU2r6HJ10?si=hcY4h-BqBD1biiTv




