第8話 新しい職業は魔法使い。剣士との統合先が見えた
サクの身体が、庭から消えた。
いや、正確には消えたように見えただけだ。
つい先ほどまで俺の正面にいた銀白色の狼が、足元の芝を蹴った次の瞬間には、十メートルほど先で振り返っていた。
遅れて草が揺れ、地面を這うように風が駆け抜ける。
『どう? 今の、ちゃんと見えた?』
「見えたと言いたいところだけどな。途中はほとんど分からなかったよ」
『まだ本気じゃないんだけど』
「それで本気じゃないのか。大したもんだな」
土曜日の夕方。引っ越したばかりの庭で、俺は改めてSSRというレアリティの恐ろしさを実感していた。
固有能力《風走》。風属性の魔力を身体へ巡らせ、移動能力を向上させるスキルだ。
「ただし、無理はするなよ。速く走るだけならともかく、止まれなくなったら危ないからな」
『分かってる。だから、さっきも手前で減速したんだよ』
サクが視線を向けた先には、庭の境界に設置された目隠しがある。
確かに、あれだけの速度を出していたのに、サクは障害物へ近づく前に減速していた。
速く走る能力だけでなく、身体を制御する感覚も優れているらしい。
「じゃあ、もう一度。今度は俺の合図で止まってみてくれ」
『いいよ。どこで止まればいい?』
「途中で声を掛ける。聞こえたら減速して、その場で止まるんだ」
サクは頷き、庭の端へ移動した。
銀白色の毛並みが風を受けて揺れている。前脚を軽く曲げ、身体を低くすると、周囲の空気がかすかに震えた。
『いくよ』
次の瞬間、サクが走り出す。
芝生を蹴る足音は驚くほど小さい。小柄な身体が地面すれすれを滑るように進み、その後ろを細い風の筋が追い掛けていく。
『サク、止まれ!』
精神会話で指示を送る。
サクは即座に身体を沈め、四本の脚で地面を捉えた。
芝が擦れ、土がわずかに跳ねる。
そのまま数歩進んだところで、完全に停止した。
「……いいな。ちゃんと止まれるじゃないか」
『圭吾、僕だって考えて走ってるんだから』
「それは失礼した。ただ、速度が上がれば止まるのも難しくなるだろ。そこはこれからも気をつけよう」
『うん。もっと上手く使えるようになりたいしね』
サクは自分の足元を見下ろし、何度か前脚を動かした。
どうやら本人にも、改善したいところがあるらしい。
俺は召喚獣のステータスを開いた。
《月影狼:サク》
レアリティ:SSR
成長段階:幼体
レベル:1
固有能力:《月影》《風走》
《風走 Lv.1》
熟練度:8/100
マンションではほとんど使用できなかった風走の熟練度が、短時間で上昇していた。
実際に能力を使うことが、成長へつながっているらしい。
ただし、魔力残量は減少していた。
サク自身も少し息が上がっている。
「今日はこのくらいにしておこう。まだ引っ越し初日なんだしな」
『もう少し走れるよ』
「走れるのと、続けた方がいいかは別の話だ。今の動きを覚えて、また明日試せばいい」
サクは少し考えてから、尻尾を振った。
『じゃあ、明日はもっと綺麗に止まってみせる』
「ああ。楽しみにしてる」
俺がしゃがむと、サクは近づいてきて額を手のひらへ押しつけた。
柔らかな毛並みの奥に、確かな体温がある。
これだけの力を持っていても、まだ幼体だ。
急いで成長させるより、少しずつ能力を使いこなせるようにした方がいいだろう。
もっとも、それは俺自身にも言えることだった。
◇
夕食までには少し時間があったので、俺は《稽古用魔導木偶の核》をもう一度取り出した。
剣士の熟練度は八十六。次のレベルまで、あと十四だった。
サクに助言してもらった動きを、今度は一人で再現しておきたい。ここまで来たら、今日のうちにレベルも上げておきたかった。
「サク、もう一度だけ木偶人形と戦ってみる。今度は俺一人で判断するから、危ないとき以外は声を掛けずに見ていてくれ」
『分かった。さっきより上手くできるといいね』
「少なくとも、同じ失敗を繰り返さないようにするよ」
俺は作業スペースの中央へ核を置き、初級を選択した。
木偶人形が組み上がるのを待ちながら、俺はアイテムボックスから《魔鉄の片手剣》を取り出した。鞘を外し、握る位置と肩の力を確かめる。
《模擬戦闘を開始します》
木偶人形が動いた。
右足が前へ出る。
俺は剣ではなく、相手の腰と肩の向きを見た。
木剣が振り下ろされるより先に、半歩だけ身体をずらす。
風を切る音が耳元を通り過ぎた。
続く横薙ぎには、魔鉄の片手剣を合わせる。ただし正面から力任せに受け止めるのではなく、刃の角度を変えて外側へ流した。
金属と木が触れ、硬い音が響く。
相手の剣先が逸れた。
そこで身体強化を発動し、前へ踏み込む。
狙うのは胴体。
刃が木偶人形の側面を捉え、青い光が走った。
《有効打》
木偶人形は一歩後退したが、すぐに態勢を立て直して突きを繰り出した。相手の肩が前へ動くのを見て、俺は横へ身体を外し、空いた脇腹へ魔鉄の片手剣を当てる。
《有効打》
ここまでは順調だった。
だが、木偶人形は二度攻撃を受けても動きを止めない。
今度は剣を大きく振り上げ、こちらへ踏み込んできた。
受け止めれば、次の攻撃が来る。
俺はあえて後ろへ下がらず、相手の剣が振り下ろされる瞬間に右側へ身体をずらした。
木剣が肩のすぐ横を通過する。
相手の腕が伸び切ったところへ、身体強化で踏み込んだ。
魔鉄の刃を木偶人形の胴体へ当てる。
《有効打》
《模擬戦闘終了》
《初級訓練に勝利しました》
木偶人形の動きが止まった。
俺は剣を下ろし、ゆっくり呼吸を整えた。
肩には疲労が残っているが、今度は一度も打ち据えられずに済んだ。
何より、今度は一度も大きく姿勢を崩さずに勝つことができた。
「少しはマシになったかな」
『うん。今度は慌ててなかったね』
サクが近づいてくる。
『でも、最後の踏み込みはちょっと危なかったよ。相手がもう少し早く動いてたら、ぶつかってたと思う』
「そこは俺も感じた。間合いを詰める判断が少し遅かったな」
サクは頷いた。
こうして指摘してくれる相手がいると、自分では気づきにくい癖が見えてくる。
俺は剣を鞘へ戻し、ステータスを開いた。
そこで、見慣れない通知が現れた。
《職業熟練度が規定値に到達しました》
《職業《剣士》のレベルが上昇します》
《剣士 Lv.1 → Lv.2》
「おっ、来たか」
思わず声が弾んだ。
続いて、職業の詳細が表示される。
《メイン職業:剣士 Lv.2》
筋力補正:+3
敏捷補正:+2
職業スキル:
《剣術基礎 Lv.1》
《受け流し Lv.1》NEW
新しい職業スキルまで増えていた。
《受け流し Lv.1》
相手の攻撃を受ける際、力の方向を見極めて逸らす動作を補助する。
剣士系職業を装備中のみ使用可能。
「なるほど。さっきの動きに近い能力だな」
攻撃をまともに受ければ、力の差がそのまま衝撃になる。
しかし、角度を変えて逸らせば、少ない力でも対応できる。
もちろん、相手の攻撃が見えていなければ使えないし、無理な姿勢からでは補助があっても間に合わないだろう。
それでも、防御の選択肢が増えたのは大きい。
『圭吾、何か変わったの?』
「ああ。剣士のレベルが二になった。新しいスキルも覚えたよ」
『いいね。じゃあ、僕も負けてられないな』
「お前はさっき、風走を随分上手く使ってただろ。競争する必要はないさ」
『競争じゃないよ。僕も自分ができることを増やしたいんだ』
サクはそう言って、庭の向こうへ視線を向けた。
まだ小さな身体に、不思議なほど強い意志が宿っている。
俺は笑って頭を撫でた。
「それなら、明日も一緒に練習しよう」
◇
午後十一時五十分。
新居の片づけを終えた俺は、リビングのソファで一息ついていた。
家具の配置もおおむね決まり、段ボール箱は残り二つだけになっている。
細かな荷物についてはアイテムボックスを使ったので、普通の引っ越しより随分楽だった。
今夜は少し早く眠るつもりだったが、日付が変われば無料ガチャが引ける。
その誘惑には勝てなかった。
サクは隣のクッションに寝そべりながら、俺がガチャ画面を開くのを眺めている。
『圭吾、次は何が欲しい?』
「そうだな。剣士のレベルが上がったし、次は別の職業も試してみたい」
『剣士をやめるの?』
「やめるわけじゃない。職業は付け替えられるんだ。今は剣士しか持ってないけど、ほかの職業があれば使い分けられる」
『それなら魔法を使う職業がいいんじゃない? 圭吾、生活魔法も持ってるし』
「確かにな。魔法使いの職業が出れば、今より魔力を扱いやすくなるかもしれない」
俺はステータスを確認した。
現在のメイン職業は剣士 Lv.2。
サブ職業の枠は、まだ解放されていない。
つまり、今の段階では同時に装備できる職業は一つだけだ。
だが、複数の職業を登録すれば、必要に応じて切り替えられる。
さらに《職業合成・統合》という機能もある。
どのような組み合わせが可能なのか、まだ詳しい条件は分かっていないが、剣士以外の職業を手に入れれば、少しは仕組みを確かめられるだろう。
時計が午前零時を示した。
《日付が更新されました》
《デイリーガチャの利用回数が回復しました》
《本日の残り回数:1回》
「さて、日曜日の無料ガチャだ」
俺は実行を選択した。
白い光の球が現れ、ゆっくりと回転する。
青色へ変わったところで、そのまま光が収束した。
《R確定》
《職業の書を獲得しました》
《R 魔法使いの職業書》
「……本当に出たぞ」
『魔法使い? さっき欲しいって言ってたやつだよね』
「ああ。こうも都合よく出ると、誰かが聞いてるんじゃないかと思うくらいだな」
もちろん、ガチャの排出品が希望に合わせて変化するという説明はない。
単に運がよかっただけだろう。
それでも、今の俺にとっては申し分のない結果だった。
テーブルに現れた本は、濃紺の表紙に銀色の装飾が施されていた。
中央には杖と六芒星の紋章が描かれている。
鑑定すると、職業の詳細が表示された。
《魔法使いの職業書》
レアリティ:R
分類:職業登録アイテム
登録職業:《魔法使い》
職業補正:魔力・器用
職業スキル:《魔力制御》《魔弾》
備考:職業レベルの上昇によって補正値と使用可能スキルが成長する。
「魔弾まで使えるのか。これは思っていた以上にいいな」
生活魔法は便利だが、攻撃に使えるものではない。
そこへ《魔弾》が加われば、剣に頼らない戦い方もできるようになる。
俺は職業書を使用した。
濃紺の本が光となって崩れ、身体へ吸い込まれていく。
《職業《魔法使い》を登録しました》
《登録職業数:2》
《メイン職業を変更しますか?》
「変更する」
それまで身体の奥にあった、剣士特有の感覚が薄れていった。
代わりに、胸の辺りから指先へ、温かなものが流れるような感覚が生まれる。
ステータスを開く。
《メイン職業:魔法使い Lv.1》
《サブ職業:未解放》
筋力:10
耐久:10
敏捷:10
魔力:10(+3)
器用:10(+1)
精神:10
《職業スキル》
《魔力制御 Lv.1》
《魔弾 Lv.1》
剣士を装備していたときの筋力と敏捷の補正が消えている。
その代わり、魔力と器用に補正がついた。
職業ごとに強化される能力が、はっきり違うらしい。
続いて習得済みスキルを確認する。
《鑑定》《身体強化》《生活魔法》《アイテムボックス》
こちらはすべて残っていた。
職業を変更しても、習得済みの汎用スキルは失われない。
ただし、《剣術基礎》と《受け流し》は使用できない状態になっている。
「なるほど。剣士の技能は、剣士に戻さないと使えないわけだ」
『でも、身体強化は使えるんでしょ?』
「ああ。そっちは職業に関係なく使えるらしい」
『じゃあ、魔法使いでも速く動けるね』
「そういうことだ。ただ、剣士の補正が消えたから、同じ強さとは限らないけどな」
俺は職業画面を閉じ、朝の訓練を楽しみにしながら眠ることにした。
◇
日曜日の朝、俺は庭の作業スペースへ木製の的を置いた。
昨日まで剣術の練習に使っていた場所だが、今日は魔法の実験をする。
的は厚い板を組み合わせた簡単なもので、万一外しても危険がないよう、背後には土を盛った受け止め用の場所を用意した。
サクは少し離れたところで待っている。
『圭吾、魔法使いになったんだよね。何が変わったの?』
「まずは魔力の扱いやすさだな。試してみるよ」
俺は右手を前へ出し、《灯火》を発動した。
指先に生まれた光は、以前よりも輪郭がはっきりしている。
大きさそのものは極端に変わっていないが、維持するための感覚が随分楽になっていた。
続けて《微風》を使う。
風は以前より安定し、狙った方向へ流せるようになっている。
「なるほど。《魔力制御》の効果か」
魔法使いの職業を装備することで、魔力の流れを捉えやすくなっているらしい。
何度か試してみたが、消費魔力が大幅に減ったわけではない。それでも、発動するまでの時間や効果の安定性には明らかな違いがあった。
俺は一度深く息を吸い、次のスキルを選択した。
《魔弾 Lv.1》
魔力を圧縮し、対象へ放つ初級攻撃魔法。
威力・射程・精度は魔力制御とスキルレベルに依存する。
掌を木製の的へ向ける。
胸の奥から魔力が流れ、右手の前に小さな光の球が現れた。
淡い青色の球はゆっくり収縮し、ビー玉ほどの大きさになる。
「魔弾」
発動を意識した瞬間、光の球が前方へ飛び出した。
空気を切る鋭い音が響く。
魔弾は木製の的へ命中し、乾いた音を立てて弾けた。
俺はすぐに近づき、命中した部分を確認した。
板の表面が丸く凹み、細かな木屑が散っている。
「……これは、ちゃんと攻撃魔法だな」
鑑定すると、木材の表面に打撃による損傷があると表示された。
初級とはいえ、普通の人間に向けて使っていい威力ではない。
俺は改めて周囲を確認し、魔法の射線と的の位置を調整した。
サクが近づいてきて、板の凹みを覗き込む。
『圭吾、結構強いね。これなら離れた相手にも攻撃できるよ』
「そうだな。ただし、まだ一発撃っただけだ。命中精度も魔力消費も、これから確かめる必要がある」
『じゃあ、剣士と魔法使いを使い分けるんだね』
「今はそうなるな。近接戦闘なら剣士、離れた相手なら魔法使い。どっちにも得意な距離がある」
俺は二発目の魔弾を放った。
今度は的の中央から少し外れた位置へ命中する。
三発目は、さらに右へ逸れた。
威力は十分だが、狙ったところへ正確に当てるには練習が必要らしい。
それでも、剣士だけだった頃とは戦い方の幅が大きく変わった。
俺は魔力に余裕を残して訓練を終えた。
魔法使いの職業熟練度が増え、魔弾の熟練度も上昇している。
職業を変更しても、剣士のレベルは二のまま残っていた。
さらに魔法使いから剣士へ戻すと、筋力と敏捷の補正が再び有効になり、《剣術基礎》と《受け流し》も使用可能になった。
切り替えに特別な素材は必要ない。
ただし、同時に装備できる職業は一つだけだ。
「これなら、状況に応じて変更するだけでも相当便利だな」
『圭吾、魔法を使うときは魔法使い、剣を使うときは剣士ってこと?』
「ああ。今のところはな」
『でも、両方を一緒に使えた方が便利じゃない?』
サクの言葉に、俺は頷いた。
「実は、俺もそう思ってたところなんだ」
剣士の身体能力補正と、魔法使いの魔力制御。
その両方を同時に利用できれば、戦闘能力は大きく向上するはずだ。
ただし、サブ職業の枠はまだ解放されていない。
ならば、もうひとつの方法を試してみる価値がある。
俺は《職業合成・統合》の画面を開いた。
◇
《登録職業数:2》
《職業合成・統合機能》
登録済み職業:
《剣士 Lv.2》N
《魔法使い Lv.1》R
画面には、二つの職業が並んでいた。
これまでは登録職業が一つしかなかったため、統合候補が表示されることはなかった。
しかし今は違う。
剣士と魔法使い。
その二つを選択した瞬間、画面の中央に新しい文字が現れた。
《職業の相性を確認しています》
《統合可能な職業を検出しました》
俺は思わず身を乗り出した。
《職業統合候補》
《SR 魔剣士》
統合元:
《N 剣士》
《R 魔法使い》
必要条件:
剣士 Lv.3以上
魔法使い Lv.3以上
職業融合結晶×1
統合後の職業:
《魔剣士》
特徴:剣術と魔法を組み合わせた複合戦闘職。
固有能力:魔力を剣へ直接付与し、近接戦闘と魔法攻撃を併用する。
注意:統合には元職業と指定素材を消費します。
「……やっぱり、あるんだな」
予想していた名前が、はっきりと表示されていた。
魔剣士。
剣と魔法を組み合わせる職業だ。
しかもレアリティはSR。
Nの剣士とRの魔法使いを育てれば、さらに上位の職業を作れるということになる。
これはかなり大きい。
今まではガチャで強い職業を引き当てるしかないと思っていたが、職業の合成や統合を利用すれば、低いレアリティの職業にも価値が生まれる。
もちろん、簡単に作れるわけではない。
剣士をレベル三まで育て、魔法使いもレベル三にする必要がある。
さらに《職業融合結晶》という素材まで求められていた。
現時点では、どこで手に入るのか分からない。
『圭吾、何か見つかった?』
「ああ。魔剣士っていう職業が作れるらしい」
『それなら、剣も魔法も一緒に使えるんだね』
「そういうことだ。ただし、作るには条件がある。剣士と魔法使いの両方を、もう少し育てなきゃいけない」
『じゃあ、練習すればいいんじゃない?』
「そこまではな。問題は、この融合結晶って素材だ」
俺は必要素材の名称へ意識を向けた。
鑑定結果に表示されたのは、簡単な説明だった。
《職業融合結晶》
分類:職業統合用素材
用途:複数職業の統合時に消費する。
主な入手方法:ガチャ排出、特殊報酬
ガチャから出るらしい。
それなら、手に入れる機会はある。
しかもデイリーガチャは一凸済みだ。
さらに強化すれば、欲しい種類の品物を狙いやすくなる可能性もある。
「職業も育成して、素材も集める。これはなかなかやりがいがあるな」
『圭吾、嬉しそうだね』
「そりゃ嬉しいさ。自分で職業を作れるなんて、ゲームでも結構好きな要素だからな」
『でも、今の剣士と魔法使いはなくなっちゃうんでしょ?』
「ああ。統合には元の職業を使うらしい」
俺は改めて注意書きを確認した。
統合すれば、新しい魔剣士が手に入る。
ただし、素材として使った職業は消費される。
強くなれるからといって、何も考えずに統合するのは危険だ。
統合前に使えていた職業スキルが、どこまで継承されるのかも確認しておきたい。
それに、職業を使い分ける方が便利な場合もあるかもしれない。
「まあ、まだ条件を満たしてないんだ。今は剣士と魔法使い、それぞれの特徴を覚える方が先だな」
『じゃあ、今日はどっちを練習する?』
サクが期待した様子で尋ねてくる。
俺は庭の方へ視線を向けた。
木製の的には、先ほどの魔弾による凹みが残っている。
その隣には、魔導木偶の核を置いた作業台があった。
剣士には模擬戦闘という練習方法がある。
魔法使いも魔弾を使えるようになった。
どちらも今の環境で十分に育てられる。
「午後は魔法使いだな。剣士はレベル二まで上がったし、今度はこっちを鍛えてみよう」
『分かった。じゃあ僕も、風走の練習をする』
「そうだな。ただし、魔法の的の近くへは来るなよ。流れ弾が当たったら困るから」
『分かってる。圭吾が練習してる間、僕は反対側で走ってるよ』
サクはそう言って、庭の端へ歩き出した。
俺はその後ろ姿を見送りながら、職業画面をもう一度確認する。
《統合候補:魔剣士》
《必要職業:剣士/魔法使い》
《必要素材:職業融合結晶》
今まで、ガチャから何が出るかを楽しみにしていた。
しかし、これからは少し違う楽しみ方もできそうだ。
欲しい職業を決め、そのために必要なものを集める。
低レアリティの職業を育て、上位職へ統合する。
さらに武器や防具は限界突破で強化できるし、召喚獣も育成によって能力が伸びる。
運任せで引くだけのガチャではない。
手に入れたものをどう組み合わせ、どこまで育てるかによって、結果が変わってくる。
俺は魔法使いの職業を装備し直し、庭へ出た。
サクが向こうから振り返る。
『圭吾、魔剣士になったら、僕と競争できるくらい速くなるかな?』
「どうだろうな。魔剣士は速さより、剣と魔法の組み合わせが得意そうだけど」
『それなら、僕が速さを担当すればいいね』
「そうだな。俺が剣と魔法、お前が索敵と機動力。役割を分ければ、できることも増える」
『うん。その方が面白そう』
サクは満足したように尻尾を振り、庭の向こうへ走り出した。
その背中を見ながら、俺は掌へ魔力を集める。
小さな青い光が生まれ、ゆっくりと球形に収縮していった。
狙うのは、先ほどと同じ木製の的。
ただし、今度は中央に描いた小さな円を目標にする。
威力だけでなく、狙った場所へ正確に当てられるようになりたい。
「さて。まずは魔法使いレベル三を目指すか」
俺は右手を前へ出し、魔弾を放った。
光の球は風を切って飛び、的の中央からわずかに外れた場所へ命中した。
まだ完璧とは程遠い。
だが、狙いは少しずつ定まってきている。
次の魔弾を用意しながら、俺は自然と笑っていた。
剣士のレベルを上げることも、魔法使いを育てることも、今の俺には純粋に楽しい。
そして、その先には新しい職業が待っている。
魔剣士。
いずれこの手で作り出してみたいと思った。
──────────────────
YouTubeでショート動画作ってみました
https://youtube.com/shorts/PCIU2r6HJ10?si=hcY4h-BqBD1biiTv




