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第10話 職業統合、SR《魔剣士》誕生

 職業融合結晶を手に入れてから、俺はひとつのことを考え続けていた。


 剣士と魔法使いを統合したら、どれほど強くなるのだろう。


 単純に二つの職業を足した程度なのか。それとも、今まで使えなかった新しい能力が手に入るのか。


 答えを知るには、両方の職業をレベル三まで育てる必要がある。


「素材だけ先に揃うと、余計に気になるもんだな」


 月曜日の夜。俺はリビングのテーブルに置いた銀色の結晶を眺めながら、職業画面を開いていた。


《職業統合候補》


《SR 魔剣士》


必要職業:


剣士 Lv.3以上


魔法使い Lv.3以上


必要素材:


職業融合結晶×1 所持


《統合条件:職業レベル未達成》


 剣士も魔法使いも、現在はレベル二。


 どちらも初級の魔導木偶を相手に戦えるようにはなったが、職業を切り替えながら戦うのはまだ難しい。


 ただ、昼間の模擬戦闘で得た経験は大きかった。


 魔法使いで距離を取り、魔弾を命中させてから剣士へ切り替える。相手に接近されたら、剣術で対応する。


 無理に何度も職業を変更する必要はない。自分に有利な状況を作ってから切り替えれば、それだけで戦い方の幅が広がる。


 それでも、両方の職業スキルを同時に使えるなら、そちらの方が便利なのは間違いない。


『圭吾、まだ結晶を見てるの?』


 足元で寝そべっていたサクが、顔を上げた。


「ああ。魔剣士になったら何ができるか、ちょっと考えてた」


『まだ条件が足りないんでしょ?』


「そうなんだよ。だから明日から、少し訓練のやり方を変えてみる」


『今までと何が違うの?』


「剣を振る回数や魔弾を撃つ回数を増やすだけじゃなく、ちゃんと目的を決めて練習するんだ。限られた魔力と時間を無駄にはしたくないからな」


 サクは少し考え、それから俺の膝へ前足を掛けた。


『それなら僕も手伝えるよ。圭吾が変な動きをしたら教えてあげる』


「助かる。自分では分からない癖もあるからな」


『その代わり、僕の風走も見てね』


「もちろん。お互い様だ」


 俺が頭を撫でると、サクは満足そうに目を細めた。


 この小さな狼と暮らし始めてから、まだ二週間ほどしか経っていない。


 それでも、一人で生活していた頃とは随分違う。


 仕事から帰れば相手がいるし、訓練をすれば意見を言ってくれる。しかも、普通の人間では到底真似できない能力を持った相棒だ。


 こちらが教えてもらうことも、決して少なくなかった。


     ◇


 火曜日の夜、俺は物置の作業台へ木製の的を二つ並べた。


 一つは従来の固定された的。


 もう一つは、ホームセンターで購入した滑車と紐を組み合わせ、横方向へ動かせるようにしたものだ。


 もちろん、本格的な訓練設備ではない。


 だが、動かない的ばかり相手にしていても、魔弾の命中精度を高めるには限界がある。


 俺は《魔法使い Lv.2》を装備し、的から十分な距離を取った。


「サク、紐を引いてくれるか?」


『いいよ。速さはどのくらい?』


「最初はゆっくりでいい。俺が慣れてきたら少しずつ速くしてくれ」


 サクは紐の端を咥えると、横へ移動した。


 木製の的が滑車に引かれ、左右へゆっくり動き始める。


 俺は右手を前へ出し、魔力を集めた。


 胸の奥から指先へ流れる温かな感覚。


 魔力制御のスキルが働き、小さな青い光の球が形成される。


 動く的の中央を狙い、魔弾を放った。


 乾いた音が響く。


 しかし、命中したのは的の端だった。


「やっぱり動かれると難しいな」


『圭吾、的を見てから撃ってるでしょ』


「ああ。動いてるんだから、見ないわけにはいかないだろ」


『そうじゃなくて、魔弾が届くまでにも時間があるよね。今いる場所に撃ったら、その間に的が動いちゃうよ』


 なるほど。


 俺は改めて、的の動きを観察した。


 右へ進み、端まで行けば向きを変える。その繰り返しだ。


 だったら、狙うべきは現在の位置ではなく、魔弾が到達する瞬間の位置になる。


「サク、もう一度頼む」


『分かった。今度は少し速くするよ』


 的が動き始める。


 俺はすぐには撃たず、速度と移動方向を確かめた。


 魔弾を形成し、的が進む少し先へ狙いをつける。


 青い光が飛び出した。


 今度は中央付近へ命中した。


「よし。そういうことか」


『今のはよかったね』


 サクは紐を離し、こちらを見上げた。


『でも、僕だったら途中で向きを変えるよ』


「それを言われると困るな。今は基本から覚えてるところなんだ」


『うん。だから、慣れたらもっと難しくしてあげる』


 どうやら、遠慮するつもりはないらしい。


 俺は笑いながら、もう一度魔弾を形成した。


 その後も何度か試し、魔力が減ったところで訓練を終えた。


 ステータスには、魔法使いの熟練度が着実に蓄積されている。


 さらに《魔弾》だけでなく、《魔力制御》の熟練度も上がっていた。


 無駄に魔力を使うより、目的を持って動かす方が効率がいいらしい。


     ◇


 翌日のデイリーガチャでは、R《魔力回復薬(小)》を二本引き当てた。


 以前にも同じ種類を三本手に入れているため、これで手持ちは五本になった。


 魔力を消費する訓練が増えてきた今、回復薬はいくらあっても困らない。


 もっとも、毎回使用するつもりはなかった。


 一本で魔力を五回復できるとはいえ、ガチャからしか手に入らない消耗品だ。今のところ、同じものを好きなだけ買えるわけではない。


 俺は五本をアイテムボックスへ収納し、必要になったときの予備として残しておいた。


 平日は会社がある。


 帰宅してから使える時間は限られるし、無理をすれば仕事にも影響する。


 そこで、剣士と魔法使いを日替わりで鍛えることにした。


 火曜日は魔法使い。


 水曜日は剣士。


 木曜日は再び魔法使い。


 限られた時間で訓練する以上、あれもこれも同時に進めるより、一つずつ課題を解決した方がいい。


 水曜日の夜には、《受け流し》を中心に練習した。


 魔導木偶の初級を起動し、攻撃することより相手の剣を逸らすことへ集中する。


 最初は木剣を受けるたびに腕へ衝撃が走ったが、角度を変えるだけで負担が大きく違うと分かった。


 相手の剣が右上から来るなら、正面で受け止めるのではなく、外側へ流す。


 そのとき重要なのは腕の力だけではない。


 足の位置と腰の向きによって、剣へ掛かる負担が変わる。


 職業スキルの補助はあるものの、身体が覚えていなければ上手く使えない。


 何度か失敗し、肩へ軽い打撃を受けたところで、ようやく感覚が掴めてきた。


『圭吾、今のは上手くいったね』


 庭の端で見ていたサクが声を掛けてきた。


「ああ。正面から受けるより、ずっと楽だったよ」


『でも、相手の剣を見すぎると足が止まるよ』


「そこは気をつけないとな」


 俺は一度距離を取り、呼吸を整えた。


 木偶人形が再び踏み込んでくる。


 今度は剣の動きだけでなく、肩と腰の向きを見る。


 横薙ぎの攻撃を半歩下がって避け、そのまま相手の腕が伸び切ったところへ踏み込んだ。


 魔鉄の片手剣が胴体を捉える。


《有効打》


 木偶人形は後退し、すぐに剣を構え直した。


 俺も深追いせず、次の動きに備える。


 以前なら、攻撃が当たった瞬間に気が緩んでいた。


 今は少なくとも、相手が動きを止めるまで油断しないようになっている。


 初級の木偶人形に勝利したあと、職業画面を確認した。


《剣士 Lv.2》


職業熟練度:78/100


 レベル三までは、あと少し。


 俺はその数字を見て、翌日の訓練を楽しみにしながら剣を収納した。


     ◇


 木曜日の夜。


 仕事を終えて帰宅した俺は、夕食を済ませてから庭へ出た。


 秋の夜風は少し冷たく、物置の外灯に小さな虫が集まっている。


 サクは芝生の上で身体を伸ばし、俺が準備する様子を眺めていた。


『今日は魔法使いだよね』


「ああ。そろそろレベル三まで上げたいところだ」


『だったら、昨日の的を使う?』


「いや、今日は魔導木偶を相手にする。動く的にも少し慣れてきたし、実際に攻撃を避けながら魔法を使いたい」


 俺は木偶人形を起動した。


 選択するのは初級。


 ただし、今夜は最初から勝つことを目標にしない。


 魔弾を形成しながら移動すること。


 相手の攻撃を避け、魔法を撃つための距離を維持すること。


 この二つを意識して戦うつもりだった。


《模擬戦闘を開始します》


 木偶人形が動き出す。


 俺は右手へ魔力を集めながら横へ移動した。


 以前なら、この時点で魔弾の形成が乱れていた。


 しかし、魔力制御の熟練度が上がったおかげか、今は動きながらでも光の球を維持できる。


 木偶人形が踏み込む。


 俺は半歩下がり、相手の進行方向へ魔弾を放った。


 青い光が胸元へ命中する。


《有効打》


 そのまま横へ移動し、次の魔弾を形成する。


 木偶人形が向きを変えて追ってくる。


 俺は足を止めず、右手を軽く引いた。


 魔力を圧縮する。


 狙いを定める。


 放つ。


 今度は肩口へ命中した。


《有効打》


 木偶人形が一歩後退する。


 その隙に距離を取り、三発目を形成した。


 しかし、魔力の残量が減っている。


 ここで外せば、次の攻撃を避ける余裕がなくなるかもしれない。


 俺はすぐに撃たず、相手の動きを待った。


 木偶人形が踏み込む。


 右肩が前へ動き、木剣が振り下ろされる。


 俺は身体を横へずらし、攻撃が通り過ぎた瞬間に魔弾を放った。


 青い光の球が胴体へ命中した。


《有効打》


《模擬戦闘終了》


《初級訓練に勝利しました》


 木偶人形が停止した。


 俺は右手を下ろし、ゆっくり息を吐いた。


 以前は相手の動きに追われるばかりだったが、今は自分から攻撃の機会を作れるようになっている。


 まだ初級相手とはいえ、確かな進歩だった。


 そして、視界に新しい通知が現れた。


《職業熟練度が規定値に到達しました》


《魔法使い Lv.2 → Lv.3》


《魔力補正が上昇しました》


《職業スキル《魔力循環 Lv.1》を習得しました》


「おっ、来たな」


 俺は新しい職業スキルを確認した。


《魔力循環 Lv.1》


魔力を体内で効率よく循環させることで、魔法の安定性を高める。


魔法使い系職業を装備中のみ使用可能。


 魔力の回復量が増えるわけではないが、魔法を使う際の無駄を減らせるらしい。


 実際に発動してみると、胸の奥から指先へ流れる魔力の感覚が、以前より滑らかになった。


 同じ量の魔力を使っても、以前より安定した効果を発揮できそうだった。


『圭吾、何か変わった?』


「ああ。魔法使いがレベル三になった。新しいスキルも覚えたよ」


『じゃあ、あと剣士だけだね』


「そういうことだ。必要な素材はもうあるからな」


 俺はアイテムボックスに収納してある職業融合結晶を思い浮かべた。


 透明な内部に赤と青の光が走る、あの小さな結晶。


 ガチャからではなく、特殊実績の報酬として手に入れたものだ。


 剣士をレベル三まで育てれば、いよいよ魔剣士へ統合できる。


 俺は自然と笑みを浮かべた。


     ◇


 金曜日の仕事は、いつもより早く片づいた。


 調達部では来週の発注計画がほぼ固まり、仕入れ先からの確認事項も少なかった。


 午後六時前には会社を出られたので、帰りにスーパーへ立ち寄り、夕食の食材を買って帰った。


 新居へ引っ越してから、料理をする機会が少し増えている。


 台所が広くなったこともあるが、サクと一緒に食事を取る時間が楽しみになっていた。


 もっとも、サクは俺と同じものを何でも食べられるわけではない。


 本人の好みを聞きながら、無理のない範囲で食材を選んでいる。


『圭吾、今日は鶏肉?』


「そうだ。お前の分は味つけせずに用意するよ」


『ありがとう。昨日のも美味しかったけど、鶏肉も好きなんだ』


「お前、嫌いなものってあるのか?」


『変な匂いがするやつは嫌かな。圭吾が朝に飲んでる黒いのとか』


「コーヒーは食べ物じゃなくて飲み物だぞ」


『飲み物でも嫌だよ』


 サクはそう言って、俺の足元へ座った。


 何とも平和な会話だった。


 その後、食事と片づけを終えてから、俺は庭へ出た。


 今夜は剣士の訓練だ。


 魔法使いがレベル三になった以上、残る条件は剣士だけ。


 ただし、焦って無理な訓練をするつもりはなかった。


 俺は《魔鉄の片手剣》を取り出し、メイン職業を剣士へ変更した。


《メイン職業:剣士 Lv.2》


筋力補正:+3


敏捷補正:+2


《職業スキル》


剣術基礎 Lv.1


受け流し Lv.1


 魔法使いの補正が消え、身体の感覚が変わる。


 肩から腕へ力が通り、足元の安定感が増した。


 俺は魔導木偶を起動し、初級を選択した。


 木偶人形が構える。


 俺も剣を握り直した。


《模擬戦闘を開始します》


 相手の右足が踏み込まれる。


 続いて木剣が横から迫ってきた。


 俺は剣を斜めに合わせ、受け流しの補助を利用する。


 木剣が外側へ逸れた。


 その瞬間に踏み込み、魔鉄の片手剣を胴体へ当てる。


《有効打》


 木偶人形が後退する。


 追い掛けたい気持ちを抑え、俺は間合いを維持した。


 相手の攻撃を避ける。


 反撃する。


 次の動きに備える。


 以前はそれぞれを別々に考えなければならなかったが、今は身体が少しずつ反応するようになっている。


 木偶人形の二撃目を受け流し、左側へ回り込んだ。


 魔鉄の片手剣が相手の肩口へ命中する。


《有効打》


 続いて三撃目。


 相手が剣を大きく振り上げたところで、俺は身体強化を発動した。


 胸の奥から熱が広がり、脚へ力が通る。


 踏み込む。


 木偶人形の攻撃が振り下ろされるより早く、俺の剣が胴体へ届いた。


《有効打》


《模擬戦闘終了》


《初級訓練に勝利しました》


 木偶人形が停止した。


 俺は剣を下ろし、肩で息をしながらステータスを確認した。


《職業熟練度が規定値に到達しました》


《剣士 Lv.2 → Lv.3》


《筋力補正が上昇しました》


《敏捷補正が上昇しました》


《職業スキル《連撃補助 Lv.1》を習得しました》


「……よし。これで揃ったな」


 思わず声が漏れた。


 剣士レベル三。


 魔法使いレベル三。


 職業融合結晶も所持している。


 魔剣士への統合条件が、すべて満たされた。


『圭吾、おめでとう』


 サクが駆け寄ってきた。


「ありがとう。ようやくここまで来たよ」


『じゃあ、これから魔剣士になるんだね』


「ああ。ただ、統合すると元の職業がなくなるからな。何が引き継がれるか、最後に確認しておきたい」


 俺は剣を鞘へ戻し、アイテムボックスへ収納した。


 そして、職業統合画面を開いた。


     ◇


《職業統合》


統合元:


《N 剣士 Lv.3》


《R 魔法使い Lv.3》


必要素材:


《SR 職業融合結晶×1》


《統合条件を満たしています》


《統合先》


《SR 魔剣士》


 画面の中央に、赤と青の光が交差する紋章が浮かんだ。


 俺は詳細を開く。


《魔剣士》


レアリティ:SR


分類:複合戦闘職


特徴:剣術と魔法を同時に使用できる。


職業補正:筋力・敏捷・魔力・器用


継承可能職業スキル:


《剣術基礎》


《受け流し》


《連撃補助》


《魔力制御》


《魔弾》


《魔力感知》


《魔力循環》


新規職業スキル:


《魔刃》


備考:統合後、元職業は消費されます。


職業レベルは1から開始します。


 俺は説明を読みながら、思わず息を吐いた。


 継承可能な職業スキルが、すべて並んでいる。


 剣士で覚えた三種類と、魔法使いで覚えた四種類。


 さらに《魔刃》という新しいスキルまで追加されるらしい。


 ただ、習得済みの技能が残るからといって、失うものがないわけではない。


 剣士や魔法使いをレベル4まで育てれば、さらに別の技能を覚えるかもしれない。今あるスキルの熟練度を上げ、使い方をもっと確かめてから統合する選択もある。元の職業が消費される以上、その可能性は考えておく必要があった。


『圭吾、剣士のまま、もう少し鍛えるやり方もあるよね』


「ああ。ただ、今のままだと魔弾を撃つ間は剣術の補助が使えない。切り替えの隙は、訓練でも何度か突かれただろ」


 まだ覚えていない技能の内容も、いつ手に入るかも分からない。一方で、剣と魔法を同時に使える利点は、実際に戦った経験から判断できる。


 俺は継承される七つの技能を、もう一度見比べた。どれも、これからも使い続けたいものだった。


「元の職業を育て切れなくなるのは惜しい。でも、覚えた技能を一緒に使いこなす方へ進みたいんだ。両方をやり直せると思って選ぶわけじゃない」


『それなら僕も手伝うよ。剣と魔法が一緒になったら、動き方も変わりそうだし』


「頼む。職業レベルも1からになるし、慣れるところからだな」


 引き継げるものと、確かめられないまま手放す可能性を承知した上で、俺は統合を選んだ。


《職業統合を実行しますか?》


《はい/いいえ》


 内容を読み直し、《はい》を選択した。


 次の瞬間、アイテムボックスから銀色の結晶が自動的に取り出され、目の前へ浮かび上がった。


 結晶の内部を走っていた赤と青の光が、激しく回転し始める。


 同時に、身体の奥で何かが動いた。


 剣士を装備したときに感じる、筋肉へ力が通る感覚。


 魔法使いを装備したときに感じる、胸から指先へ魔力が流れる感覚。


 それまで別々だった二つが、ゆっくりと重なっていく。


 銀色の結晶が砕けた。


 細かな光が周囲へ広がり、俺の身体へ吸い込まれていく。


 胸の奥から熱が生まれ、肩、腕、腰、脚へと流れた。


 同時に、指先へ魔力が自然に集まる。


 俺は思わず右手を握り締めた。


 身体が軽い。


 それでいて、魔力の流れもはっきり分かる。


 これまで剣士と魔法使いを切り替えるたびに変化していた感覚が、今は同時に存在していた。


《職業統合に成功しました》


《SR 魔剣士を獲得しました》


《メイン職業を魔剣士へ変更しました》


《剣士と魔法使いの職業登録を統合しました》


《継承スキルを登録しました》


《新規職業スキル《魔刃 Lv.1》を習得しました》


 俺はステータスを開いた。


《ステータス》


名前:稲見圭吾


種族:人間


レベル:1


メイン職業:魔剣士 Lv.1


サブ職業:未解放


筋力:10(+5)


耐久:10


敏捷:10(+4)


魔力:10(+5)


器用:10(+2)


精神:10


《職業スキル》


剣術基礎 Lv.1


受け流し Lv.1


連撃補助 Lv.1


魔力制御 Lv.1


魔弾 Lv.1


魔力感知 Lv.1


魔力循環 Lv.1


魔刃 Lv.1


 思わず笑みがこぼれた。


 剣士と魔法使い、それぞれを装備していたときよりも、能力補正が大きい。


 しかも両方の技能が同時に有効になっている。


 職業レベルは一へ戻ったが、性能そのものは明らかに強化されていた。


『圭吾、何か雰囲気が変わったね』


 サクが俺を見上げる。


「そうか?」


『うん。さっきまでは魔力が身体の中を流れてる感じだったけど、今は身体全体から少しずつ出てる』


「なるほど。お前にはそんなふうに見えるのか」


『見えるっていうより、感じるんだよ』


 サクはそう言って、俺の周囲を一周した。


『でも、嫌な感じじゃないよ。前よりずっと自然だと思う』


「そりゃよかった」


 俺は右手を開き、魔力を集めてみた。


 以前なら、身体の奥から指先へ流すために意識を集中する必要があった。


 しかし今は、軽く念じるだけで魔力が集まってくる。


 さらに身体強化を発動しても、魔力の流れが途切れない。


 剣術と魔法。


 その両方を使うための職業であることが、はっきりと分かった。


     ◇


 俺はアイテムボックスから《魔鉄の片手剣》を取り出した。


 青黒い刃が外灯の光を受け、鈍く輝く。


 魔剣士の職業スキル《魔刃》を確認すると、興味深い説明が表示された。


《魔刃 Lv.1》


武器へ魔力を付与し、攻撃力と切断能力を上昇させる。


魔力伝導効果を持つ武器との相性が高い。


効果は魔力消費量とスキル熟練度に依存する。


「なるほど。魔鉄の片手剣とは相性がよさそうだな」


 この剣には《魔力伝導・小》という特殊効果がある。


 魔力を流すことで切れ味と耐久性が向上するというものだ。


 そこへ魔剣士の《魔刃》を重ねれば、さらに強い効果が得られる可能性がある。


 俺は庭の作業スペースへ移動し、剣を構えた。


 サクには少し離れた場所で待ってもらう。


「試してみるぞ」


『うん。気をつけてね』


 俺は魔力を剣へ流した。


 青黒い金属の表面に、淡い光が浮かび上がる。


 ここまでは以前と同じだった。


 次に《魔刃》を発動する。


 その瞬間、剣の輪郭に沿って青白い光が伸びた。


 薄い膜のような魔力が刃を包み、先端から細かな光の粒がこぼれていく。


 握っている剣の重さは変わらない。


 しかし、刃の周囲に集まった魔力は、明らかに以前より濃い。


「……これは、ずいぶん強そうだな」


 俺は近くに置いてあった古い木材へ剣を向けた。


 ただし、全力で振るつもりはない。


 まずは刃を軽く当て、反応を確かめる。


 魔刃をまとった剣先が木材へ触れた瞬間、ほとんど抵抗を感じずに表面へ食い込んだ。


 俺はそこで動きを止めた。


 木材には、細く鋭い切れ込みが残っている。


「……なるほど。普通の状態とは切れ味が違うな」


『圭吾、今の剣、魔力が刃の外側まで広がってたよ』


「やっぱりそうか。魔刃の効果なんだろうな」


 俺はスキルを解除した。


 青白い光が消え、剣は元の姿へ戻る。


 今の段階でも、十分に強力な能力だった。


 しかも、これはまだ魔剣士レベル一のスキルにすぎない。


 今後職業レベルが上がれば、さらに強力な技を覚えられる可能性がある。


「これは育てがいがあるな」


『圭吾、嬉しそうだね』


「そりゃ嬉しいさ。ようやく剣と魔法を一緒に使えるようになったんだからな」


 サクは満足そうに尻尾を振った。


 俺も剣を鞘へ戻し、アイテムボックスへ収納した。


 今夜はこれ以上試さない。


 統合したばかりの職業だし、魔力の消費量もまだ把握できていない。


 無理に使い続けて、怪我をする必要はなかった。


     ◇


 翌朝、俺は少し早く起きた。


 今日は土曜日。


 会社は休みなので、時間に余裕がある。


 朝食を済ませてから、サクと一緒に庭へ出た。


 秋の空気はひんやりとしていたが、陽射しは柔らかい。芝生には朝露が残り、足を踏み出すたびに靴底がわずかに湿った。


 俺は作業スペースへ魔導木偶の核を置き、起動した。


 これまで初級を相手に訓練してきたが、今日は中級を試してみたい。


 魔剣士という上位職を手に入れたのだから、どれほど戦えるようになったのか確かめたいのだ。


《稽古用魔導木偶》


戦闘難度:


初級


中級


《中級を選択しました》


 青白い光が地面へ広がり、木偶人形が組み上がっていく。


 初級と比べると、身体の形が少し違った。


 関節部分が太く、木製の装甲も厚い。


 右手には長めの木剣を握り、左腕には小型の盾が取りつけられている。


 明らかに、初級より手強そうだった。


『圭吾、あれ、昨日までのより強いよ』


「ああ。中級だからな。まずは動きを見るつもりだ」


『無理だと思ったら、ちゃんと止めてね』


「分かってるよ」


 俺は魔鉄の片手剣を構えた。


 メイン職業は魔剣士。


 筋力、敏捷、魔力、器用のすべてに補正がついている。


 身体強化も使えるし、魔弾も撃てる。


 さらに剣術基礎と受け流し、魔刃まで有効になっている。


 これまでとは明らかに条件が違う。


《模擬戦闘を開始します》


 木偶人形が動いた。


 初級より速い。


 踏み込みから攻撃までの動作が短く、剣の軌道も鋭い。


 俺は身体強化を発動し、相手の木剣を受け流した。


 以前なら衝撃で腕が揺れていたはずだが、今は余裕がある。


 そのまま横へ移動し、魔鉄の片手剣を振る。


 しかし、木偶人形は左腕の盾で攻撃を受け止めた。


 硬い音が響く。


 続けて反撃が来る。


 俺は一歩下がって距離を取り、右手へ魔力を集めた。


 魔剣士なら、剣を握ったままでも魔弾を形成できる。


 ただし、両方を同時に使う感覚には、まだ慣れていない。


 俺は剣を構えたまま、掌の先へ小さな光の球を生み出した。


 木偶人形が踏み込んでくる。


 その胸元へ魔弾を放った。


 青い光が盾へ命中し、木偶人形がわずかに後退する。


《防御成功》


「盾まで使うのか。これは厄介だな」


『圭吾、正面からだと防がれるよ』


 サクの声が届く。


「ああ。少し工夫が必要そうだ」


 俺は木偶人形の盾へ視線を向けた。


 右手に剣、左腕に盾。


 こちらが正面から攻撃すれば、相手は盾で防ぐ。


 だったら、盾を使わせたところへ別の攻撃を入れればいい。


 俺は魔弾を形成し、正面へ放った。


 木偶人形が盾を上げる。


 魔弾が盾へ命中した瞬間、俺は身体強化で右側へ踏み込んだ。


 相手の盾が正面を向いている間に、側面へ回り込む。


 木偶人形がこちらへ向き直ろうとした。


 だが、その動きより早く、俺は魔鉄の片手剣へ魔力を流した。


《魔刃》


 青白い光が刃を包む。


 俺は剣を振り下ろした。


 魔刃をまとった刃が木偶人形の肩口へ命中し、厚い木製装甲へ深く食い込む。


《有効打》


 木偶人形が大きく後退した。


 しかし、まだ動きを止めない。


 中級は初級より耐久力も高いらしい。


 俺は追撃せず、剣を構え直した。


 木偶人形の右肩が動く。


 横薙ぎの攻撃が来た。


 受け流しを発動し、剣の角度を変える。


 木製の刃が外側へ逸れた。


 その隙に踏み込み、魔鉄の片手剣を胴体へ当てる。


《有効打》


 さらに木偶人形が後退したところで、俺は魔弾を形成した。


 盾を構え直す前に、青い光を放つ。


 魔弾が胸元へ命中した。


《有効打》


《模擬戦闘終了》


《中級訓練に勝利しました》


 木偶人形が停止した。


 俺は剣を下ろし、大きく息を吐いた。


 肩と腕には疲労が残っている。


 魔力もかなり消費していた。


 それでも、中級の木偶人形へ初めて勝つことができた。


「……勝ったな」


『うん。今のはよかったよ』


 サクが駆け寄ってきた。


『剣も魔法も、途中で止まらずに使えてたね』


「ああ。職業を切り替えなくていいだけで、これほど違うとは思わなかった」


 俺は魔鉄の片手剣を鞘へ戻した。


 今の戦闘では、魔弾で相手の盾を使わせ、側面へ回り込んで魔刃を当てた。


 剣士だけでも、魔法使いだけでも、同じ戦い方は難しかっただろう。


 魔剣士という職業の強みが、ようやく分かった気がした。


 そして、視界に新しい通知が現れた。


《特殊実績を達成しました》


《初めての上位職業》


《達成条件》


異なる職業を統合し、SR以上の複合職を獲得する。


《達成報酬》


《ガチャ強化結晶×1》


「……おお」


 思わず声が漏れた。


 ガチャ強化結晶。


 以前、UR《ガチャ進化の核》を使ったときに一つだけ手に入れた素材だ。


 その一個で、デイリーガチャを一凸している。


 次の強化素材を探していたところに、まさか実績報酬として出てくるとは。


『圭吾、また何かもらえたの?』


「ああ。今度はガチャの強化素材だ」


『前に欲しいって言ってたやつ?』


「そうだ。これがあれば、デイリーガチャを二凸にできる」


 俺は報酬を受け取り、金色の結晶を手に取った。


 透明な内部に、細かな光がゆっくり循環している。


 ガチャの強化素材は、単に武器や魔法が増えることとは意味が違う。


 今後引くガチャの性能そのものが変わるのだから、早く手に入るほど価値が大きい。


「これは早速使おう」


 俺はガチャ育成画面を開いた。


《デイリーガチャ+1》


次の強化段階:+2


解放予定機能:排出分野指定


必要素材:ガチャ強化結晶×1


《強化可能》


 迷わず強化を選択する。


 手の中の結晶が金色の光となって崩れ、ガチャの画面へ吸い込まれていった。


《ガチャ強化に成功しました》


《デイリーガチャ+2》


《排出分野指定機能を解放しました》


 目の前に新しい項目が現れた。


《排出分野指定》


指定可能分野:


武器


防具


スキル


職業


召喚獣


魔道具


素材・消耗品


指定した分野の排出率が上昇します。


※指定分野の排出を保証するものではありません。


「なるほど。確定じゃないけど、欲しい種類を狙いやすくなるわけか」


 これはかなり便利だ。


 今までは、何が出るか完全に運任せだった。


 しかし、これからはある程度、自分の育成方針に合わせて排出分野を選べる。


 武器を強化したいなら武器。


 新しい職業が欲しければ職業。


 召喚獣を増やしたければ召喚獣。


 もちろん、指定したからといって必ずその種類が出るわけではないが、毎日無料で引けることを考えれば十分すぎる効果だった。


『圭吾、何にするの?』


 サクが興味深そうに尋ねてくる。


「そうだな。今は魔剣士になったばかりだし、装備を強化したいところだけど……」


 俺は少し考えた。


 武器も防具も、まだ十分とは言えない。


 魔鉄の片手剣はRの無凸だし、防具らしい防具も持っていない。


 しかし、召喚獣にも興味がある。


 サク以外にも強力な仲間が増えれば、戦い方の幅は大きく広がるだろう。


 何より、どんな存在がガチャから出てくるのか、一度は見てみたい。


「……よし。明日の無料ガチャは、召喚獣を指定してみようか」


『本当?』


 サクの耳が立った。


「ああ。ただし確率が上がるだけだから、必ず出るわけじゃないぞ」


『分かってる。でも、どんな相手が来るか楽しみだな』


 サクは嬉しそうに尻尾を振った。


 俺も笑いながら、排出分野を《召喚獣》へ設定した。


《デイリーガチャ+2》


指定分野:召喚獣


《設定を保存しました》


 画面を閉じると、庭には秋の陽射しが差し込んでいた。


 昨夜の魔剣士への統合に続き、今朝は中級の魔導木偶にも勝利した。


 さらにガチャそのものを二凸まで強化できたのだから、充実した週末の始まりだった。


 もっとも、俺自身のレベルはまだ一のままだ。


 職業も、魔剣士としてはレベル一からの再出発になる。


 それでも、確実に強くなっているという実感はあった。


 剣士として覚えた技術。


 魔法使いとして身につけた魔力制御。


 そして、サクと一緒に積み重ねてきた訓練。


 そのすべてが、今の俺の力になっている。


「さて、サク。今日はもう訓練を終わりにしよう。午後は少しのんびりするか」


『いいね。でも、僕はもう少し庭を走りたいな』


「ああ。無理しない程度ならいいぞ」


『じゃあ、あとで一緒に走ろうよ』


「俺もか?」


『魔剣士になったんだから、前より速くなってるんじゃない?』


 確かに、筋力と敏捷の補正は以前より大きくなっている。


 身体強化を併用すれば、今までより速く走れるかもしれない。


「分かった。少し休んだら付き合うよ」


『約束だよ』


 サクはそう言って、庭の向こうへ駆け出した。


 銀白色の毛並みが陽射しを受けて輝き、芝生の上を小さな影が走り抜けていく。


 俺はその姿を眺めながら、もう一度だけガチャの画面を開いた。


《デイリーガチャ+2》


《排出分野指定:召喚獣》


 明日は何が出るだろう。


 新しい召喚獣か、それとも別の品物か。


 どちらにしても、楽しみだった。


 そして何より、これから先もガチャを強化できる可能性がある。


 デイリーガチャはまだ二凸。


 残り三段階の強化が待っている。


 ノーマルガチャとレアガチャに至っては、まだ一度も強化していない。


 装備の限界突破も、職業の統合も、召喚獣の育成も、まだ始まったばかりだ。


 俺は小さく笑い、画面を閉じた。


 どうやら、この世界には俺が思っていた以上に、楽しめることが多いらしい。




第10話━改訂版了


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YouTubeでショート動画作ってみました

https://youtube.com/shorts/PCIU2r6HJ10?si=hcY4h-BqBD1biiTv

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