第5話 無料ガチャからUR。しかも、ガチャそのものが進化するらしい
無料ガチャからURが出た。
しかも、武器でも防具でも、召喚獣でもない。
手に入れたのは、ガチャそのものを強化できるという、とんでもない代物だった。
「……これ、ひょっとして普通のURより当たりなんじゃないか?」
俺が呟くと、隣にいたサクが銀白色の尻尾を揺らした。
『当たりならいいじゃない。何が出たの?』
「説明するから、ちょっと待ってくれ。俺もまだ理解できてない」
目の前には、これまで一度も見たことのない金色の画面が浮かんでいた。
日曜日から月曜日へ日付が変わった直後のことだった。
◇
日曜日の夜、俺はいつものようにソファでくつろいでいた。
明日は仕事があるので早めに寝るつもりだったが、午前0時のデイリーガチャだけは引いておきたかった。
この数日で、すっかり日課になってしまったらしい。
膝の上では、SSRの月影狼であるサクが寝転がっている。
銀白色の毛並みは相変わらず手触りがよく、額の三日月模様も綺麗だ。
今日手に入れた《契約獣の交感指輪》のおかげで、今では普通に会話できるようになっている。
『圭吾、今日はいいのが出ると思う?』
「それが分かれば苦労しないさ。ガチャなんだから、何が出るかは運次第だ」
『僕みたいなのが出るかもしれないんでしょ?』
「そうだな。ただ、お前は10万円のレアガチャから出たんだ。無料でSSRが出るかどうかは分からないぞ」
『出るって書いてあるなら、可能性はあるんじゃない?』
「まあ、それもそうだ」
俺は笑いながらガチャ画面を開いた。
デイリーガチャは毎日1回無料。排出対象はNからLRまでの6段階で、最高レアリティまで抽選対象に含まれている。
ノーマルガチャは1回1万円でR以上確定。レアガチャは1回10万円でSSR以上確定だ。
金さえあれば何度でも回せるようだが、当然ながら俺の財布には限度がある。
すでに初日に11万円使っているし、新しい家への引っ越しも検討中だ。しばらくは無料ガチャを中心にするつもりだった。
それでも毎日何かが手に入るのだから、十分すぎる。
時計が午前0時を示した。
《日付が更新されました》
《デイリーガチャの利用回数が回復しました》
《本日の残り回数:1回》
「さて、月曜日の運試しといこうか」
俺はいつものように《ガチャを引く》を選択した。
空中に白い光の球が現れる。
ここまでは普段と同じだった。
だが、球が回転を始めた瞬間、違和感を覚えた。
白い光が青へ変わり、さらに紫へ変化する。
「お、SR以上か?」
そう思った直後、紫色の光が一気に薄れた。
代わりに現れたのは、眩しいほど鮮やかな金色だった。
光の球を中心に幾重もの輪が浮かび、細かな文字が円を描くように回転する。部屋全体が金色に染まったように見えたが、テーブルや壁に実際の光が落ちているわけではない。
どうやら演出の大部分は、俺の視界にだけ表示されているらしい。
『圭吾、なんかすごい色になってるね』
「お前にも見えるのか?」
『うん。いつもよりずっと明るいよ』
サクが耳を立てて見上げる。
次の瞬間、光の輪が一斉に収縮し、中央へ吸い込まれた。
《UR確定》
《特殊強化アイテムを獲得しました》
《UR ガチャ進化の核》
テーブルの上に、小さな結晶が現れた。
六角柱に近い形をしており、透明な内部では金色の光がゆっくり循環している。手に取ると、見た目に反して金属のような重さがあった。
「URか……無料で本当に出るんだな」
これまでに手に入れた最高レアリティは、サクのSSRだった。
そのさらに上。
しかも、10万円を払ったわけではない。
俺は結晶を落とさないように握り直し、鑑定を発動した。
《ガチャ進化の核》
レアリティ:UR
分類:システム強化アイテム
効果:所有者のガチャシステムに《ガチャ育成》機能を追加する。
対象:デイリーガチャ/ノーマルガチャ/レアガチャ
強化上限:各ガチャ+5
強化方法:専用強化素材を消費する。
初回起動特典:ガチャ強化結晶×1
備考:ガチャの強化効果は種類ごとに異なる。
「……ちょっと待て」
思わず説明を読み直した。
ガチャの育成。
しかも、デイリーだけでなく、ノーマルとレアまで強化できるという。
俺は以前から、武器や防具を限界突破できることは確認していた。職業についても、合成や統合によって上位職へ発展する仕組みがある。
だが、ガチャそのものを育てられるとは考えていなかった。
『それって、圭吾が毎日やってるガチャが強くなるってこと?』
「そうらしい。問題は、どこまで強化できるかだな」
『強いものが出やすくなるなら、よさそうだね』
「それが本当なら、相当な当たりだぞ」
強い武器を1本手に入れるのも嬉しい。
強力な召喚獣が増えるのも歓迎だ。
しかし、今後引くガチャの中身を改善できるなら、話は別になる。
仮に今日だけでなく、明日も明後日も効果が続くなら、その恩恵は積み重なっていく。
「これは使わない理由がないな」
俺は結晶を握り、使用を宣言した。
◇
《ガチャ進化の核を使用しますか?》
《使用後、アイテムは消滅し、ガチャ育成機能が恒久的に解放されます》
俺が承認すると、掌の結晶がゆっくり崩れ始めた。
金色の光が指の間からこぼれ、空中へ浮かび上がる。
その光は視界の中央へ集まり、見慣れたガチャの画面へ吸い込まれていった。
《ガチャ育成機能を解放しました》
《初回起動特典を配布します》
《ガチャ強化結晶×1を獲得しました》
直後、ガチャの一覧が大きく変わった。
《ガチャ育成》
デイリーガチャ +0/5
ノーマルガチャ +0/5
レアガチャ +0/5
所持強化素材
ガチャ強化結晶:1
それぞれのガチャを個別に強化できるらしい。
俺はまず、デイリーガチャの詳細を開いた。
《デイリーガチャ》
現在の強化段階:+0
+1:Nの排出率低下、R以上の排出率上昇
+2:排出分野指定機能を解放
+3:指定アイテムの排出率上昇機能を解放
+4:天井ゲージを解放
+5:最低保証をR以上へ変更
そこまで読んで、俺は思わず口元を緩めた。
「なるほど。完凸すれば、毎日の無料ガチャがR以上確定になるのか」
初期状態ではNも出る。
実際、これまでに清浄の布や剣士の職業書といったNアイテムを引いている。
それが強化を重ねることで、最低保証そのものが上昇する。
しかも途中には、排出分野の指定や特定アイテムの確率上昇まで用意されていた。
欲しい武器を重ねて限界突破したい場合にも役立つだろう。
次にノーマルガチャを確認する。
《ノーマルガチャ》
現在の強化段階:+0
+1:SR以上の排出率上昇
+2:排出分野指定機能を解放
+3:指定アイテムの排出率上昇機能を解放
+4:天井ゲージを解放
+5:最低保証をSR以上へ変更
「こっちは1万円でSR以上確定になるわけか」
悪くない。
SRには身体強化や鑑定のような、現実でも十分役立つスキルが含まれている。
毎回SR以上が保証されるなら、1万円の価値は大きく変わるだろう。
そしてレアガチャ。
《レアガチャ》
現在の強化段階:+0
+1:URの排出率上昇
+2:排出分野指定機能を解放
+3:指定アイテムの排出率上昇機能を解放
+4:天井ゲージを解放
+5:SSR以上保証を維持したまま、URの排出率を大幅上昇
こちらは完凸しても、UR以上確定にはならないらしい。
10万円という価格を考えれば少し残念だが、SSR以上が確定しているのだから十分に強力だ。
何より、どのガチャもLR確定にはならない。
最高レアリティの特別扱いは、最後まで変わらないようだった。
「さて、どれを優先するかだな」
手元にあるガチャ強化結晶は1個。
説明によると、同じ強化結晶を消費して各ガチャの段階を1つ進められるが、強化後に別のガチャへ移し替えることはできない。
ノーマルを強くすれば1万円の価値が上がる。
レアを強くすれば、10万円でURを狙いやすくなる。
しかし、俺の使い方なら答えは決まっていた。
『毎日引くやつを強くするの?』
サクが隣から覗き込んできた。
「よく分かったな」
『だって、それなら明日も明後日も得するんでしょ?』
「そのとおり。しかも無料だから、強化したぶんだけ得が積み重なる」
いつ次の強化結晶が手に入るか分からない。
それなら、確実に毎日利用するデイリーガチャを優先する方が、今の俺には合理的だった。
俺は《デイリーガチャ+1》を選択した。
《ガチャ強化結晶×1を消費します》
《デイリーガチャを強化しますか?》
《はい/いいえ》
「はい」
画面に金色の光が走り、デイリーガチャの文字が一瞬だけ輝いた。
《強化成功》
《デイリーガチャ+1》
《Nの排出率が低下しました》
《R以上の排出率が上昇しました》
成功の通知を確認したところで、俺は満足してソファの背もたれへ身体を預けた。
今日のガチャは、まだ1回しか引いていない。
それでも、これまでで一番大きな成果を得た気がする。
「これで明日から、少しだけいいものが出やすくなるわけだ」
『じゃあ、明日は僕より強いのが出るかもしれないね』
「まあ、可能性はあるな」
『それはちょっと気になる』
「負けたくないのか?」
『負けたくないっていうか、どんな相手か知りたい。僕より速いのかな』
サクは興味深そうに尻尾を揺らした。
相変わらず、強さよりも速さが気になるらしい。
俺はその頭を軽く撫で、ガチャの画面を閉じた。
時刻は午前0時半を回っている。
さすがに明日の仕事へ響くので、これ以上の検証はやめておいた。
◇
月曜日は、いつもより少し忙しかった。
調達部では月末に向けた発注調整が始まり、仕入れ先との打ち合わせも続いている。
午前中は納期の確認に追われ、午後には来月の予算について上司から相談を受けた。
ただ、忙しい仕事の合間にも、昨夜のガチャ強化が頭から離れなかった。
あのURは、普通のガチャなら一度きりの大当たりで終わるところだ。
ところが、今回は違う。
ガチャの仕組みそのものが変わってしまった。
もし残り4段階を強化できれば、無料ガチャだけでも相当な戦力を揃えられる可能性がある。
問題は、強化素材の入手方法だった。
昼休み、俺は人の少ない休憩スペースで育成画面を開いた。
《ガチャ強化結晶》
分類:特殊強化素材
入手方法:ガチャ排出、特殊アイテムの分解、指定条件の達成
どうやらガチャから引くだけではないらしい。
不要なアイテムを分解して素材を得る方法も用意されている。
ただし、すべての品物が分解できるわけではなく、レアリティや種類によって得られる素材も違うと表示されていた。
さらに強化結晶を直接作るには、かなりの量の素材が必要になるようだ。
「なるほど。ハズレを引いても、完全に無駄にはならない仕組みか」
今までに手に入れた装備や魔道具はまだ少ない。
しかも、ほとんどが実際に使っているものばかりだった。
鑑定の書や身体強化の書は使用済みで、残っている清浄の布にも用途がある。
無理に分解してまで素材を集める段階ではないだろう。
だが、今後同じ装備が何個も出たり、使わない素材が溜まったりすれば話は別だ。
装備を重ねて限界突破するか、分解してガチャの強化へ回すか。
どちらが得かを考える楽しみまで増えた。
「稲見さん、休憩中ですか?」
顔を上げると、宮原が紙コップのコーヒーを持って立っていた。
「ああ。ちょっと趣味の計画を考えてたところだよ」
「例の大きな道具ですか?」
「今度は道具を手に入れる仕組みの方かな」
「また難しそうなことしてますね」
「いや、やってることは単純なんだ。最初に設備へ投資して、あとから回収する。仕事と同じだよ」
宮原は妙に納得した顔で頷いた。
「稲見さんらしいですね。趣味でも費用対効果を考えるんですから」
「そうしないと、財布が持たないからね」
冗談交じりに答えたが、まったくの本音だった。
今後何十回、何百回とガチャを回すなら、1回の結果だけでなく、長期的に何を得られるかを考えた方がいい。
少なくとも10万円を使ってSSRを1個手に入れるより、毎日無料で引くガチャの確率を改善する方が、今の俺には魅力的だった。
◇
帰宅したのは午後7時過ぎだった。
玄関の鍵を掛け、靴を脱いでから、俺はサクを召喚した。
銀色の魔法陣が床へ広がり、小さな狼が姿を現す。
『おかえり、圭吾。今日は遅かったね』
「月曜日だからな。週の初めは、どうしても仕事が増える」
『お疲れさま。ごはん、もう食べる?』
「先に風呂だ。お前も腹が減ってるなら、準備だけしておこう」
『まだ大丈夫。今日は僕も少し練習したいんだ』
サクはそう言って、リビングの奥へ視線を向けた。
そこには、週末に用意した滑り止めマットが敷いてある。
今のマンションでは十分な運動はできないが、身体の使い方を覚える程度なら問題ない。
俺も身体強化と剣士の訓練を続けたいところだった。
「よし。飯を食べて少し休んだら、短めにやろう。今日は俺も疲れてるからな」
『分かった。無理して怪我したら、練習できなくなるもんね』
こいつは意外と現実的だ。
しかも、俺が無理をしそうになると先に気づいてくれることがある。
召喚獣としての能力もそうだが、こういう気配りはありがたい。
食事と風呂を済ませ、午後9時前から30分ほど訓練した。
俺は練習用の剣を使って、足運びと姿勢を確認する。身体強化は必要な動作のときだけ発動し、魔力を無駄に消費しないようにした。
サクは俺の動きを見ながら、自分も左右への方向転換を繰り返している。
『圭吾、さっきより止まるのが上手くなったね』
「お前に散々指摘されたからな。少しは意識するようになったよ」
『でも、右へ動く方がまだ速い』
「左右の癖は簡単には直らないらしい」
『僕も左へ曲がるとき、ちょっと大きく回っちゃうんだ』
見ていると、確かにサクも左方向への切り返しが少し膨らんでいた。
それぞれ苦手な動きがあるらしい。
能力が優秀だからといって、何も練習せずに使いこなせるわけではない。
俺はそこに少し安心した。
努力したぶんだけ成長する余地があるなら、鍛える楽しみも生まれる。
訓練を終えると、サクは水を飲んでからクッションへ寝転がった。
俺もソファへ座り、ステータスを確認する。
《身体強化 Lv.1》
熟練度:18/100
《剣士 Lv.1》
熟練度:9/100
《剣術基礎 Lv.1》
熟練度:7/100
少しずつだが、確実に数字が増えている。
今はまだレベル1。
しかし、こうして毎日訓練を続ければ、いずれ職業レベルも上がるのだろう。
ほかの職業が手に入れば、合成や統合も試したい。
剣士と魔法使い。
あるいは、剣士と別の戦闘職。
組み合わせによって何が生まれるのか、想像するだけでも楽しかった。
ただ、ひとつ問題がある。
「そろそろ魔法も欲しいな」
『圭吾、まだ魔法は使えないんだっけ?』
「ああ。身体強化は覚えたけど、攻撃したり物を動かしたりする魔法は持ってない」
『魔力はあるんでしょ?』
「ステータスには10って表示されてるな」
『だったら、使い方を覚えればいいと思うけど』
サクは簡単そうに言った。
「そう言われてもな。俺には魔力が何なのか、まだよく分からないんだよ」
『身体強化を使うとき、身体の中で何か動く感じがしない?』
「するな。胸の奥が温かくなって、全身へ広がっていく感じだ」
『それが魔力だと思うよ。僕が風走を使うときも、似たような感じがするから』
なるほど。
確かにサクは《風走》という魔力を使う能力を持っている。
本人もまだ幼体なので詳しい知識があるわけではないが、感覚については俺より分かっているかもしれない。
「じゃあ、その感覚をもっと意識してみるか」
『うん。でも、今日はもう疲れてるんでしょ?』
「……そうだったな」
サクは当然という顔で尻尾を振った。
『続きは明日でいいよ。毎日少しずつやればいいんだから』
俺は苦笑して、訓練を切り上げることにした。
言われてみれば、ガチャも能力の育成も、毎日続けられることが一番の強みなのかもしれない。
◇
月曜日の午後11時58分。
俺はテーブルに温かい麦茶を置き、ガチャ画面を開いた。
《デイリーガチャ+1》
本日の残り回数:0回
次回更新:午前0時
強化効果:N排出率低下、R以上排出率上昇
昨日手に入れたURによって、画面の表示が変わっている。
無料ガチャを1段階強化しただけなので、劇的な変化があるとは限らない。
それでも、Nが出る確率が下がったのは嬉しい。
『圭吾、もうすぐだね』
サクがソファから顔を上げた。
「ああ。強化してから初めてのガチャだ」
『今日は何が欲しいの?』
「魔法のスキル書か、アイテムボックスだな。どっちも早めに手に入れたい」
『僕はもう1体、召喚獣が来ても面白いと思うけど』
「仲間が増えるのは歓迎だが、今はまだお前の育成も始めたばかりだからな」
『大丈夫だよ。僕、ちゃんと自分で練習できるし』
「そういうところは頼りにしてるよ」
サクは満足そうに尻尾を振った。
時計が午前0時を示す。
《日付が更新されました》
《デイリーガチャの利用回数が回復しました》
《本日の残り回数:1回》
俺は迷わずガチャを実行した。
白い光の球が現れ、ゆっくりと回転する。
やがて青色の光が広がり、そのまま収束した。
《R確定》
《スキル書を獲得しました》
《R 生活魔法の書》
「おっ、魔法だ」
思わず声が弾んだ。
テーブルに現れたのは、淡い青色の表紙を持つ小さな本だった。
中央には水滴と風を組み合わせたような紋章が描かれている。
すぐに鑑定を使う。
《生活魔法の書》
レアリティ:R
分類:スキル習得アイテム
効果:スキル《生活魔法》を習得する。
使用可能魔法:
《灯火》小さな明かりを生み出す。
《清水》少量の水を生成する。
《微風》弱い風を発生させる。
備考:効果と持続時間はスキルレベルに依存する。
「なるほど。生活魔法でも3種類使えるのか」
派手な攻撃魔法ではない。
しかし、現実では存在しない現象を自分の意思で起こせるなら、それだけで十分に価値がある。
俺はさっそく本を使用した。
青白い光が指先から腕へ流れ込み、胸の奥に温かな感覚が広がる。
《スキル《生活魔法 Lv.1》を習得しました》
続いて、ステータスに新しいスキルが追加された。
《生活魔法 Lv.1》
使用可能魔法:《灯火》《清水》《微風》
俺は右手を持ち上げ、まず《灯火》を試してみた。
指先の少し先に、小さな光が灯る。
懐中電灯ほどの明るさもないが、周囲の物を照らすには十分だった。
「……本当に魔法だな」
自分で発動しておきながら、しばらく見入ってしまった。
光は指を動かすと一緒についてくる。握り拳を作っても消えず、解除を意識すると静かに消滅した。
今度はテーブルに空のコップを置く。
「清水」
指先から透明な水が流れ落ちた。
量はほんの少しで、コップの底に薄く溜まったところで止まってしまう。
だが、紛れもなく水だった。
鑑定すると《飲用可能な清水》と表示されている。
蛇口も水道管もない場所で、俺が何もない空間から水を生み出したのだ。
「これは、思ってた以上に面白いな」
『圭吾、もう一回やってみて』
サクが近づいてきた。
「今度は風を試してみるか」
俺は掌をサクの方へ向け、慎重に《微風》を発動した。
柔らかな風が流れ、サクの額の毛がふわりと揺れる。
『あ、風だ』
「どうだ?」
『ちゃんと魔力が混ざってる。でも、すごく弱いね』
「生活魔法だからな。強い風を起こすためのものじゃないんだろう」
『それでも、圭吾が自分で風を出してるんだよ。昨日まではできなかったのに』
確かにそうだ。
サクの言葉に、俺は改めて掌を見つめた。
身体強化を覚えたときも驚いたが、あれは自分の身体能力が上がる感覚だった。
今度は違う。
何もない空間に光を生み、水を作り、風を起こす。
俺は本当に魔法を使えるようになったのだ。
しかも、これはまだRのスキルでしかない。
SRやSSR、さらにURの魔法がどれほどのものなのか、想像するだけで胸が躍った。
もっと試してみたかったが、すでに魔力残量は少なくなっていた。
生活魔法でも発動するたびに魔力を消費するらしい。
俺は無理に続けず、スキルを解除した。
「よし。今日はここまでだな」
『もう終わり?』
「明日も仕事だからな。それに、魔力を使い切ってどうなるかも分からない」
『じゃあ、休んだ方がいいね』
サクは納得したように頷いた。
俺はコップに残った水を眺めながら、ふと思い出した。
ガチャを強化してから最初に出たのが、生活魔法の書。
もちろん、+1になったからRが出たと断定できるわけではない。強化前でもRは排出されるし、たまたま運がよかっただけかもしれない。
しかし、こうして結果が出ると嬉しいものだ。
しかも、ガチャの強化はまだ1段階目にすぎない。
残り4段階。
さらにノーマルガチャとレアガチャにも、それぞれ5段階の強化が残っている。
これから何を集め、どこへ素材を使うか。
考えることはいくらでもあった。
「サク、俺たち、まだまだ強くなれそうだな」
『うん。僕も風走をもっと上手く使えるようになりたい』
「引っ越したら、広い場所で練習しよう。今の部屋じゃ、できることが限られてるからな」
『楽しみにしてる。でも、圭吾もちゃんと練習してね』
「もちろんだ。お前だけに頼るつもりはないよ」
サクは嬉しそうに尻尾を振り、俺の隣へ身体を寄せた。
水曜日に突然現れたステータスとガチャスキル。
まだ1週間も経っていないのに、鑑定、身体強化、剣士の職業、生活魔法を手に入れ、SSRの召喚獣まで仲間になった。
そして、ガチャそのものを育てる機能も解放された。
これだけの変化が、たった数日で起きている。
今後も同じように能力を増やしていけば、1か月後にはどうなっているのだろう。
半年後には。
そして1年後には。
そんなことを考えながら、俺は空になったコップを片づけた。
窓の外には、いつもどおりの夜の街が広がっている。
会社へ行き、仕事をして、帰宅する。
そんな普通の生活を続けながら、誰にも知られずに異世界の能力を育てていく。
少なくとも今の俺には、それが一番面白い遊び方だった。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
明日もまた、無料でガチャが引ける。
しかも、昨日までより少しだけ強くなったガチャを。
「さて、次は何が出るかな」
俺が呟くと、サクが隣から顔を上げた。
『圭吾、気が早いよ。まだ引いたばっかりでしょ』
「それはそうなんだけどな。次を楽しみにするのも、ガチャの醍醐味だろ?」
『じゃあ、僕も楽しみにしておく』
サクはそう言って俺の膝へ顎を乗せた。
その重みを感じながら、俺はもう一度だけガチャ育成画面を開いた。
《デイリーガチャ+1》
《次の強化まで:ガチャ強化結晶×1》
必要な素材は、まだ持っていない。
しかし、入手方法はある。
ガチャで引き当てるか、不要なアイテムを分解して集めるか。
急ぐ必要はないが、次の目標は決まった。
まずはデイリーガチャの2凸。
そして、いずれは5凸まで育ててみたい。
無料ガチャがR以上確定になる日を想像すると、自然と笑みがこぼれた。
どうやら俺は、しばらくこのガチャから離れられそうにない。
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YouTubeでショート動画作ってみました
https://youtube.com/shorts/PCIU2r6HJ10?si=hcY4h-BqBD1biiTv




