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第4話 月影狼、外ではハスキーということにする

 土曜日の夜、俺は不動産会社から受け取った間取り図をテーブルに広げていた。


 昼間に見学した平屋は、なかなか良かった。3LDKに広い庭、物置まで付いている。今のマンションより家賃は高くなるが、これから異世界の装備や召喚獣が増えることを考えれば、十分に検討する価値がある。


 ただ、ひとつ気になることがあった。


 俺の膝の上では、SSRの月影狼であるサクが、気持ちよさそうに腹を見せて寝転がっている。


「お前、将来どこまで大きくなるんだろうな」


 問い掛けると、サクは青い瞳を開いて俺を見上げた。


 現在の体重は3kgほど。銀白色の毛並みと額の三日月模様が特徴的だが、見た目は少し珍しい犬の子供と変わらない。


 もっとも、ステータスには《成長段階:幼体》とある。成長すれば、大型犬どころでは済まなくなる可能性もあった。


「まあ、今から考えても分からんか」


 サクの耳の後ろを撫でると、尻尾が小さく揺れた。


 幸い、召喚獣には《送還》という便利な機能がある。サクは契約領域へ戻れば休息できるし、必要になれば再召喚できる。


 だから、普通の犬と同じように四六時中家の中で飼う必要はない。


 そもそも、今後ガチャから出てくる召喚獣が、すべて動物の姿をしている保証もなかった。


 ドラゴンや精霊、悪魔なんてものが出てきても不思議ではないのだ。そんな連中をまとめてペットとして扱おうとしたら、いくら広い家でも足りないだろう。


 ならば、考えるべきことは単純だ。


 人目を避けて召喚獣を育てられる場所と、自分の能力を試せる環境を確保する。


 大きな家を借りる目的は、それで十分だった。


「よし。物件探しはその方向で進めよう」


 間取り図を畳んだところで、スマートフォンの時計が午前0時に変わった。


《日付が更新されました》


《デイリーガチャの利用回数が回復しました》


《本日の残り回数:1回》


 日曜日になった。


 水曜日に突然ガチャスキルを手に入れてから、これで5日目になる。


 最初の無料ガチャではSR《鑑定の書》、木曜日にはN《清浄の布》、金曜日にはSR《身体強化の書》、そして土曜日にはN《剣士の職業書》を引いた。


 さらに有料ガチャからは、Rの収納鞄とSSRのサクを獲得している。


 たった数日で、ずいぶんいろいろなものが増えた。


「さて、今日の無料ガチャはどうかな」


 俺が画面を開くと、サクが膝の上から身を起こした。光の球が現れるのを覚えたらしく、興味深そうに耳を立てている。


 ガチャを実行すると、白い光がゆっくり回転を始めた。


 やがて球全体が青く染まり、細かな光の粒がテーブルの上へ降り注ぐ。


《R確定》


《魔道具を獲得しました》


《R 契約獣の交感指輪》


 現れたのは、銀色の細い指輪だった。


 中央に青い石が埋め込まれ、輪の内側には小さな文字が刻まれている。


「指輪か。今度はアクセサリーだな」


 さっそく鑑定を使う。


《契約獣の交感指輪》


レアリティ:R


分類:補助魔道具


効果:装備者と契約済み召喚獣の間で、双方向の精神会話を可能にする。


有効距離:10m


魔力消費:なし


制限:契約領域にいる召喚獣とは会話できない。


 説明を読み終えた俺は、思わずサクを見た。


「お前と話ができるようになるのか」


 サクは首を傾げている。


 俺が言っていることはある程度理解しているようだが、サクの意思を確かめるには、耳や尻尾の動きを見て判断するしかなかった。


 それが本当に会話できるようになるなら、かなり便利だ。


 俺は右手の中指に指輪をはめた。


 銀色の輪が指の太さに合わせて縮み、青い石が一度だけ輝く。


《契約獣の交感指輪を装備しました》


《契約対象:月影狼サク》


《精神会話が使用可能になりました》


 試しにサクへ意識を向ける。


『サク、聞こえるか?』


 すると、膝の上の小さな狼が勢いよく顔を上げた。


『あ、聞こえた。圭吾も僕の声が分かるようになったんだね』


「おお、本当に喋った」


『ずっと話し掛けてたんだけどね。圭吾には聞こえてなかったみたい』


 落ち着いた、少し軽やかな声だった。


 幼い子供のような喋り方でもなければ、妙に威厳を感じさせる口調でもない。


 目の前のサクが、普段から自然に考えていることを、そのまま伝えてきているようだった。


「悪かったな。今まではお前の言ってることが分からなかったんだ」


『うん、知ってる。だから、何かあると前足で教えてたんだよ』


「なるほど。あれにはちゃんと意味があったのか」


『当たり前でしょ。圭吾が気づいてくれないときは、何回もやってたんだから』


 言われてみれば、思い当たることがいくつもある。


 水が欲しいとき、遊びたいとき、撫でる場所を変えてほしいとき。サクは必ず何らかの仕草で俺に伝えようとしていた。


 俺が勝手に動物らしい行動だと解釈していただけなのだろう。


「これからは直接言ってくれ。その方がお互い楽だ」


『そうする。じゃあ、さっそくひとついい?』


「何だ?」


『さっきから耳を撫でてくれてるけど、もう少し後ろがいい』


 言われたとおりに指を動かすと、サクは満足そうに目を細めた。


『そこ。やっと伝わった』


「最初の注文がそれか」


『大事なことだよ。僕にとっては』


 確かに、本人にとって重要なら仕方がない。


 俺は笑いながら、しばらく耳の後ろを掻いてやった。


     ◇


 せっかく意思疎通ができるようになったのだから、確認したいことは山ほどある。


 まず気になったのは、サクがどこまで成長するのかということだった。


「サク、お前は大きくなったらどんな姿になるんだ?」


『今より大きくなると思うよ』


「それは俺にも分かる。どのくらい大きくなるか知りたいんだ」


『それは分からないな。僕もまだ大きくなったことがないから』


「……そりゃそうか」


 あまりにも筋の通った回答だった。


 自分が成長した経験のない幼体に、将来の大きさを尋ねても仕方がない。


 次に、召喚される前の記憶について聞いてみた。


 しかし、サクにははっきりした記憶がなく、気づいたときには俺の前にいたという。


『でも、別に困ってないよ。今の生活は嫌いじゃないし』


「それならよかった」


『ただ、もっと外を走りたいかな。部屋の中だけだと、どうしても狭いから』


「そこなんだよ。実は広い庭のある家を探してる」


 俺はテーブルに置いた間取り図を広げた。


 サクは紙の上へ前足を乗せ、興味深そうに見下ろしている。


「ここが家で、こっちが庭だ。今よりずっと広い場所になる」


『庭って、外を走れるんだよね?』


「そうだ。周りから見えないようにすれば、お前の能力も試せる」


『それなら早く行きたいな』


「気に入ると思うぞ。ただ、家を借りるには金が掛かるからな」


『お金なら、圭吾がガチャに入れてたやつ?』


「そうそう。あれを毎月払わなきゃいけない」


『じゃあ、ガチャを減らすの?』


 そこを突かれるとは思わなかった。


 月9万8000円の家賃に、引っ越し費用や生活費。ガチャを回すための予算まで考えれば、確かに余裕があるとは言えない。


「しばらくは無料を中心にするしかないな。でも、今の部屋で暮らし続けるより、広い拠点を確保する方が長い目で見れば得だと思う」


『僕もそう思う。圭吾だって、ここでは思いきり動けないでしょ』


「よく分かってるじゃないか」


『昨日も天井にぶつかりそうになってたし』


「それはできれば忘れてほしいんだけどな」


 身体強化を試したときの失敗まで、しっかり覚えられていたらしい。


 サクは楽しそうに尻尾を振った。


 口が利けるようになって分かったが、こいつは見た目ほど大人しくない。人の話をよく聞いているし、自分の考えも遠慮なく伝えてくる。


 ただ、相手を見下したり、無闇に反抗したりするわけではなかった。


 素直なところは素直だし、納得できなければ理由を聞いてくる。


 少なくとも、一緒に暮らしていて退屈することはなさそうだ。


     ◇


 日曜日の朝、俺はサクと一緒に近所のホームセンターへ向かった。


 もちろん、そのまま店内へ連れて入るわけではない。


 サクは一度契約領域へ送還し、俺だけで買い物を済ませる。購入したのは、大型犬用にも使える丈夫なハーネスとリード、それから庭で訓練するときに使えそうな柔らかいボールだった。


 現時点ではサクの身体は小さいが、調整できるものを選んだ。


 帰宅してから再召喚すると、サクは床に並べた道具へ鼻を近づけた。


『それ、僕の?』


「そうだ。外を歩くときに使う」


 ハーネスを見せると、サクはしばらく眺めてから俺の顔を見上げた。


『これを着けないと駄目なの?』


「人がいる場所ではな。お前が急に走り出したら、周りも驚くだろ」


『勝手に走ったりしないよ』


「分かってる。でも、周りの人間には分からないからな」


 サクは少し考えてから、納得したように前足を出した。


『じゃあ、外では着ける。走る練習をするときは外してね』


「もちろん。安全な場所を用意するよ」


 ハーネスを装着してみると、銀白色の毛並みに黒いベルトがよく映えた。


 サクは最初こそ少し気にしていたが、室内を歩いているうちに慣れたようだ。


 俺は近くの住宅地を軽く歩いてみることにした。


 サクはまだ幼体だし、長時間の運動は避ける。今日は周囲の環境に慣れてもらう程度で十分だろう。


 マンションの外へ出ると、秋の乾いた風が頬を撫でた。


 サクは地面に鼻を近づけ、植え込みや道路脇の匂いを確かめながら歩いている。


『外って、いろんな匂いがするね』


「そうだろうな。俺には分からない匂いも多いんだろ?」


『うん。さっき通った人の匂いも残ってるし、向こうの家には犬がいるよ』


「見えないのに分かるのか」


『匂いがするからね。あと、あっちに鳥がいる』


 サクが見上げた先では、電線に止まった雀が数羽、賑やかに鳴いていた。


 人間とは違う感覚で世界を捉えているらしい。


 しばらく歩いたところで、買い物帰りらしい女性が声を掛けてきた。


「あら、可愛いワンちゃん。ハスキーですか?」


 俺はサクを見下ろした。


 銀白色の毛並み、立った耳、青い瞳。額の三日月模様は少し珍しいが、確かにシベリアンハスキーの子犬に見えなくもない。


「ええ、ハスキーです。まだ小さいんですけどね」


「綺麗な毛並みですね。大きくなるのが楽しみでしょう」


「そうですね。どこまで大きくなるか、ちょっと楽しみです」


 女性は笑いながら通り過ぎていった。


 サクが俺を見上げる。


『ハスキーって何?』


『犬の種類だよ。お前に少し似てるんだ』


『じゃあ、僕は犬ってことになってるの?』


『人前ではな。その方が面倒な説明をしなくて済む』


 サクはしばらく考えてから、あっさり答えた。


『別にいいよ。僕が月影狼なのは変わらないし』


 まったく、そのとおりだった。


 本人が気にしていないなら、こちらも余計なことを考える必要はない。


 人前ではハスキーに似た犬として振る舞ってもらえばいい。


 もちろん、将来身体が巨大化したら別の方法を考える必要があるだろうが、その頃には《月影》の能力も成長しているかもしれない。


 今から起きてもいない問題を心配して、せっかくの能力を使わないのはもったいない。


     ◇


 散歩から戻った俺は、サクに水を飲ませてから、身体強化の訓練を始めた。


 今日は動きを確かめるだけでなく、剣士の職業スキルも試したかった。


 ホームセンターで購入しておいた柔らかい練習用の剣を手に取る。


 刃はなく、硬い芯も入っていない。人に向けるつもりはないが、室内で動きを覚えるには十分だろう。


《メイン職業:剣士 Lv.1》


《職業スキル《剣術基礎 Lv.1》が有効です》


 剣を握った瞬間、腕の使い方について、かすかな感覚が生まれた。


 握る位置、手首の角度、身体の向き。


 頭の中へ知識が流れ込んでくるわけではない。だが、構えたときの違和感が、以前より分かりやすくなっていた。


 試しにゆっくり剣を振る。


 右肩から腕へ力が伝わり、練習用の剣が空気を切った。


「なるほど。これが職業補正か」


 剣道や剣術の経験はほとんどない。


 それでも、ただ棒を振り回しているときとは、明らかに感覚が違った。


 続けて《身体強化》を発動する。


 胸の奥に熱が広がり、足の裏が床をしっかり捉える。


 同じ動作を繰り返すと、今度は剣を振ったあとの姿勢が安定した。


 身体強化によって筋力と敏捷性が上がり、剣士の職業補正によって身体の動かし方が補助される。


 この二つは、確かに相性がいい。


『圭吾、さっきより動きが速いね』


 サクが少し離れた場所から見ていた。


「分かるか?」


『うん。でも、振ったあとに身体が前へ流れてるよ』


「……そこまで見えてるのか」


『だって、止まるのが遅いから。今、僕が横から飛び込んだら避けられないと思う』


 言われてみれば、確かに重心が前へ移動していた。


 剣を振ることばかり意識して、次の動作を考えていなかったのだ。


「なるほど。剣を振ったあとも大事ってことか」


『そうじゃない? 僕なら、動いたあとすぐに次の動きを考えるよ』


 サクはそう言うと、軽く身体を低くしてみせた。


 次の瞬間、右へ一歩動き、すぐに左へ向きを変える。


 四足歩行の動物と人間では身体の構造が違うが、重心を崩さずに動くという点では参考になる。


「お前、意外といい先生になれそうだな」


『先生は別にいいよ。僕も一緒に練習したいだけだから』


「それなら、お互いに教え合うことにするか」


『うん。その方が面白そう』


 俺は剣を置き、足運びだけを繰り返した。


 サクはその動きを眺めながら、ときどき位置を変えて俺の背後へ回ろうとする。


 俺が振り返るより早く移動されることも多かったが、それがかえっていい訓練になった。


 ただし、サクが本気で走ったわけではない。


 まだ幼体だし、部屋の中で《風走》を使わせるつもりもなかった。


 それでも、十分に勉強になった。


 訓練を終えてステータスを確認すると、数字に変化があった。


《身体強化 Lv.1》


熟練度:14/100


《剣士 Lv.1》


熟練度:6/100


《剣術基礎 Lv.1》


熟練度:4/100


「お、ちゃんと上がってるな」


 剣士の熟練度も増えていた。


 職業を装備しているだけでは成長しないが、実際に職業スキルを使った訓練をすれば経験が蓄積されるらしい。


 しかも身体強化との併用も可能だ。


 これなら、今後の育成方針も考えやすい。


 剣士の職業レベルを上げながら、身体強化の熟練度も伸ばす。さらに魔法使いや別の戦闘職を手に入れれば、戦い方の幅は一気に広がるだろう。


「しかし、もっと広い場所が欲しいな」


 リビングの床を見回す。


 家具を壁際へ寄せているとはいえ、使える空間は限られている。


 練習用の剣ですら気を使うのだから、ガチャから本物の武器が出てきたら、とても扱えない。


『だから、広い家がいいんでしょ?』


 サクが当然のように言った。


「そういうことだな」


『圭吾も僕も、もっと練習できるようになるよ』


 俺は頷いた。


 今回の引っ越しは、単にサクを育てるためだけではない。


 俺自身が強くなるためにも必要な投資なのだ。


     ◇


 午後、不動産会社の野瀬さんから電話が入った。


 昨日見学した平屋について、大家さんと相談ができたらしい。


「稲見様、昨日の物件ですが、飼育される犬が大型になる可能性もあると伺っていましたよね」


「はい。見た目はシベリアンハスキーに近いんですが、成長後の大きさを考えて、広い庭のある物件を探しています」


「なるほど。大家さんとしては、大型犬の飼育自体は問題ないそうです。ただ、庭の囲いをしっかり整えることと、室内の傷への備えとして敷金を追加していただく条件になります」


「それなら検討できます。囲いについては、こちらで費用を負担しても構いません」


 大きくなる可能性があると伝えたうえで、受け入れてもらえるならありがたい。


 今後どんな召喚獣が出るかは分からないが、少なくとも現状のサクについては、無理に隠して暮らすよりずっと楽になる。


「それから、物置の扉も修理していただけることになりました。作業場として使う分には問題ないそうです」


「それは助かります」


「もし気に入っていただけているなら、入居のお申し込みを進められますが、いかがでしょう?」


 俺は少し考えた。


 家賃は月9万8000円。現在のマンションより負担は増えるし、引っ越し費用も掛かる。


 だが、庭と物置を利用できるなら、その価値は十分にある。


 賃貸契約である以上、将来的にもっと大きな拠点が必要になれば、別の場所へ移ることもできる。


 今は最初の訓練環境として考えればいい。


「申し込みをお願いします。必要な書類は今日中に揃えます」


「ありがとうございます。では、手続きについてご案内しますね」


 電話を切ったあと、俺はしばらくテーブルの上の間取り図を眺めていた。


 これで、ひとつ大きく前へ進めそうだ。


 もちろん審査や正式な契約はこれからだが、少なくとも広い場所を確保する目途が立った。


 今のマンションでは遠慮していた訓練も、新しい家ならずっと自由にできるだろう。


『圭吾、家が決まったの?』


 サクがソファから顔を上げた。


「まだ正式には決まってないけど、申し込むことにした。うまくいけば、広い庭のある家に引っ越せるぞ」


『本当? じゃあ、走れるんだね』


「ああ。周りから見えないように準備してからだけどな」


『それなら楽しみだな。風走もちゃんと使ってみたい』


「俺もだ。身体強化だけじゃなくて、本物の剣も試したいしな」


 サクはソファから降りると、俺の足元へ来て座った。


『ねえ、圭吾』


「何だ?」


『新しい家でも、僕の寝る場所は圭吾の近くがいい』


「契約領域の方がゆっくり休めるんじゃないのか?」


『あそこは静かでいいけど、圭吾が何してるのか分からないから』


「そうか。だったら、家にいるときは好きなだけ出てくればいい」


『うん。でも、邪魔なときはちゃんと言ってね』


「分かった。お互い遠慮なしでいこう」


 サクは満足したように尻尾を振った。


 こいつと話せるようになって、まだ半日ほどしか経っていない。


 それでも、随分と距離が縮まったような気がした。


 今までは俺が一方的に世話をしているつもりだったが、サクにはサクの考えがあり、俺のこともよく見ている。


 強力な召喚獣というだけでなく、頼りになる相棒になってくれそうだった。


     ◇


 夜になり、俺は改めてガチャの画面を開いた。


 今日の無料ガチャで手に入れた《契約獣の交感指輪》はR。


 レアリティだけを見れば、それほど高価なものではない。


 しかし、サクと直接会話できるようになったことで、訓練の効率も生活の楽しさも大きく変わった。


 こういう品物があるから、ガチャは面白い。


 単純に強い武器が出れば当たりというわけではなく、今の自分に必要な能力や道具が出てくることもある。


 俺は装備画面を開き、指輪の情報を確認した。


《契約獣の交感指輪+0》


レアリティ:R


限界突破:0/5


装備効果:契約召喚獣との精神会話


《限界突破可能》


必要素材:同一装備、または指定された代替素材


 指輪にも限界突破の項目がある。


 同じ指輪を引くか、代替素材を集めれば強化できるらしい。


 有効距離が延びるのか、それとも別の機能が追加されるのか。現時点では分からないが、今後の楽しみがひとつ増えた。


 さらに召喚獣の管理画面を開く。


《契約召喚獣一覧》


登録召喚獣:1体


・サク/月影狼/SSR/Lv.1


《召喚獣は複数登録できます》


《召喚・送還は個別に管理できます》


 以前から存在していた機能だが、こうして文字にされると実感が湧く。


 サク以外にも召喚獣を手に入れれば、この一覧に追加されるのだろう。


 フェンリル、ドラゴン、精霊、悪魔。


 どんな存在が出るのかは、実際にガチャを引いてみるまで分からない。


 ただ、今のところはサクが最初の相棒だ。


「お前のほかにも、いつか召喚獣が増えるかもしれないな」


『そうなの?』


「ああ。ガチャから出る可能性があるらしい」


『それなら、どんな相手か楽しみだね』


「お前より大きい奴が出るかもしれないぞ」


『大きいだけなら別に気にしないよ。僕より速いかどうかは気になるけど』


「そこは譲れないんだな」


『だって、走るのは得意だから』


 サクはそう言って、得意そうに尻尾を動かした。


 今はまだ幼体で、レベルも1。


 それでも、自分の得意なことには確かな自信を持っているらしい。


 俺は笑いながら、サクの頭を撫でた。


 ダンジョンも魔物も存在しない現代日本で、俺だけがステータスとガチャスキルを持っている。


 どうしてこんな能力が手に入ったのか、その理由は今も分からない。


 しかし、分からないからといって、使わずにいるつもりはなかった。


 毎日の無料ガチャで能力や道具を増やし、必要に応じて有料ガチャも利用する。


 職業を育て、装備を強化し、召喚獣と一緒に訓練する。


 そのための拠点も、ようやく確保できそうだ。


 俺はステータス画面を閉じ、ソファに深く腰掛けた。


「しかし、今週は随分いろんなことがあったな」


『圭吾、まだ終わってないよ』


「何が?」


『明日もガチャを引くんでしょ?』


「もちろん。毎日無料なんだから、引かない理由がない」


『じゃあ、また何か増えるかもしれないね』


 サクが嬉しそうに尻尾を振る。


 俺も自然と笑っていた。


 明日は何が出るだろう。


 武器か、防具か、それとも新しい魔法か。


 できれば収納容量の大きなアイテムボックスが欲しいところだが、ガチャである以上、思いどおりにはいかない。


 それでも、次の抽選が楽しみだった。


 俺がサクを抱き上げると、頭の中に声が響いた。


『圭吾、ひとつお願い』


「何だ?」


『次に食べるごはん、昨日のお肉がいい。あれ、美味しかったから』


「昨日の鶏肉か。分かった、明日また買ってくるよ」


『ありがとう。それと、さっきのボールでも遊びたい』


「注文が増えてきたな」


『話せるようになったからね。今まで言えなかった分もあるし』


 なるほど、そういうことらしい。


 どうやら俺の生活は、これまで以上に賑やかになりそうだった。


 サクは俺の腕の中で身体を丸め、気持ちよさそうに目を細めた。


 窓の外では、いつもと変わらない街の灯りが並んでいる。


 その平穏な景色を眺めながら、俺は翌日の無料ガチャを楽しみにしていた。



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