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第23話 12万円増えた賞与と、空っぽのSSR

 冬の賞与は、前の冬より12万円多かった。


 明細を開いたまま、俺は支給額をもう一度確かめた。控除後の振込額が、そのまま12万円増えたわけではない。それでも、並んだ数字を見比べると、自然に口元が緩んだ。


 訓練場を借り、サクやミトと一緒に木偶へ挑むようになってから、さらに6週間が過ぎていた。


 朝の庭には霜が降りるようになり、物置へ行くにも上着が必要になった。その間も無料ガチャは毎日引いているが、大半は素材や消耗品で、すぐに使い道の浮かばない物も少なくない。


 休日の訓練では、俺が木偶を引きつけ、サクが攻撃へ入る形も試すようになった。


 魔剣士はレベル3になったが、まだ思いどおりに動けるわけではない。ミトが糸をかける位置を見誤り、自分から進路を狭めた日もある。


 それでも、休日のたびに少しずつ変化はあった。


 そして会社では、ようやく新製品の操作ユニットが正式採用となった。


     ◇


 採用を決める会議では、森岡主任が試験結果を説明した。


 修理時に操作基板だけを交換できる構造は維持し、耐久性と組立作業性の評価も終えている。調達側で詰めた供給条件を含め、一台あたり約100円の原価低減を見込めることになった。


 年間8万台を生産する計画なら、約800万円。


 ただし、これから実際に作り、売っていく製品だ。会議で採用が決まっただけで、800万円が会社へ入ったわけではない。


 俺たちの仕事も、量産へ向けた手配に移る。


「共通コネクタの供給日程は、先方と確認できています」


 宮原が資料を開いた。


「初回分と、その後の立ち上がり分を分けて手配します。数量が変わったときに、どこまで対応できるかも回答をもらっています」


 少し前なら、俺が説明していたところだった。


 今は宮原が窓口を続け、判断が必要な箇所を整理して持ってくる。俺も資料を見ながら、補足すべきところだけを話した。


 会議を終えた後、森岡主任が試作品の操作部を持ち上げた。


「最初の案より、部品の持ち方まで整理できました。サービスの方でも、交換する範囲が分かりやすくなったと言ってもらえましたよ」


「宮原が見つけたコネクタが使えたのは、大きかったですね。新しく専用品を増やさずに済みましたから」


「使えそうな物が、すでにあったんですね。開発だけで探していたら、見落としていたかもしれません」


 宮原は少し照れたように、資料を閉じた。


「私も、部品表を調べていて見つけただけです。森岡さんに確認してもらうまでは、本当に使えるか分かりませんでした」


「見つけたところで止めずに、確認まで持ってきてくれたから使えたんですよ」


 森岡主任はそう言い、試作品を箱へ戻した。


 量産品が流れるのは、もう少し先だ。


 それでも、最初に一体化した操作ユニットを見たときから考えてきたことが、実際の製品の形になった。


 その日の夕方、課長から賞与の評価について説明を受けた。


 新製品の調達計画に加え、以前の固定クリップ不足への対応や、仕入れ先との調整も評価に入っているという。


「宮原も、自分で案件を追えるようになってきたな。稲見が全部抱え込まずに任せてくれたことも、見ている」


「私も助けられています。確認するところを押さえてくれるので、安心して窓口を任せられますから」


「その形で続けてくれ。量産に入れば、また別の課題が出る。2人で見られる範囲を広げておきたい」


 俺は頷き、席へ戻った。


 魔法で試験を通したわけでも、ガチャでコネクタを出したわけでもない。調べ、相談し、作ってもらった物を確かめてきた。


 手間のかかった仕事だったが、あの試作品を見た後では、やってよかったと思えた。


     ◇


 金曜日の夜、帰宅してサクたちを呼び戻し、夕食を済ませた。


 俺が賞与の明細を見直していると、サクが隣から顔を寄せてきた。


『今日は、その画面を見るたびに嬉しそうだね』


「賞与が増えていたんだ。会社で進めていた仕事も、ちゃんと評価してもらえたらしい」


『前に話していた、直すところを小さくした品物だね』


「ああ。あれが正式に採用された。宮原も、最後までよく動いてくれたよ」


 ミトは作業机で糸を扱いながら、こちらへ身体を向けた。


『作った物が使われると決まったのなら、森岡さんも嬉しかったでしょうね』


「会議が終わってから、わざわざ試作品を見せてくれたくらいだからな」


 俺は明細を閉じ、手元のノートを開いた。


 家賃や生活費に加え、訓練場の使用料もある。道具や材料を買う機会も増えたので、以前より出費は多くなっていた。


 賞与の大部分は、貯金へ残す。


 そのうえで、10万円だけ使うことにした。


 開いたのは、久しぶりのレアガチャだった。


『その金額、最初に僕が来た頃にも使っていたよね』


 サクが表示を見て言った。


「覚えていたのか。あの日は、ノーマルとレアで合わせて11万円使った」


『圭吾が何度も数字を見ていたからね。今日も、引いた後に見直すつもりかなと思って』


「結果が気になるのは仕方ないだろう。10万円なんだから」


 笑って答えたが、押す前になると、やはり少し迷う。


 SSR以上が出ることは分かっている。それでも、武器か、職業か、魔道具か、何が来るかは分からなかった。


 防具を指定しているのは、デイリーガチャの方だ。強化していないレアガチャでは、同じように分野を選べない。


 俺は金額を確認し、実行を選んだ。


 光が集まり、目の前に渦を作る。


 しばらく見ていなかった強い輝きに、サクも口を閉じた。ミトが糸から脚を離し、ネリは机の端から少し下がる。


 現れたのは、片手に収まる金属の輪だった。


【SSR 蓄魔の腕輪】


 俺はそれを受け取り、掌へ載せた。


 黒に近い灰色の金属に、細い溝が走っている。中央には、透き通った小さな石がはめ込まれていた。


 石の中には、何も浮かんでいない。


 光らないままの腕輪へ、俺は鑑定を使った。


     ◇


【蓄魔の腕輪】


 レアリティ:SSR

 分類:魔道具

 蓄積魔力:0/20


 使用者自身の魔力を蓄積し、必要に応じて使用者へ戻すことができる。

 充填と回収には、使用者による魔力操作が必要。


 魔力の自然回復量を増加させる効果はない。


 俺は最後まで読み、それから残量の表示へ目を戻した。


「……空っぽか」


『使って減ったものではなく、これから入れる道具なのですね』


「ああ。自分の魔力を貯めておいて、後から取り戻せるらしい。最初から20入っているわけじゃないんだな」


 ミトたちへ説明すると、サクが腕輪を覗き込んだ。


『圭吾が休んで元に戻っても、そっちには残っているんだね。それなら、長く外にいるときに使えそうだ』


「そういう使い方ができるはずだ。まず少し入れて、ちゃんと戻せるか確かめてみる」


 契約獣との交感指輪は右手に残し、腕輪を左の手首へ通した。


 大きすぎるかと思ったが、留め具を合わせると、動きを邪魔しない位置へ収まる。金属の冷たさを感じたのは、最初だけだった。


 俺は剣へ魔力を流すときと同じように、腕輪を意識した。


 指先へ向かわせるのではなく、手首の輪へ送る。


 最初はうまくつかめず、腕全体へ力が広がった。いったん止め、呼吸を整えてから、細い溝をなぞるように魔力を流した。


 中央の石へ、青い光が灯る。


【蓄積魔力:1/20】


 自分のステータスを見ると、魔力がその分減っていた。


 続けて流し、5まで貯めたところで止める。石の中には、細い青色の光が残った。


 俺が手を離しても、それは消えない。


『剣のときとは違って、流すのをやめても光っていますね』


 ミトが言った。


「貯まっている分が見えるのかもしれない。今度は、2だけ戻してみる」


 入れるときの感覚をたどり、腕輪から自分へ魔力を引いた。


 手首から腕の内側へ、温かいものが通る。急いで引こうとすると流れが乱れそうになったので、少しずつ受け取った。


【蓄積魔力:3/20】


 自分の魔力も、減っていたところから戻っている。


 剣へ魔力を通す練習をしていなかったら、もっと手間取ったかもしれない。思った以上に、流す方向を変える感覚が必要だった。


「入れた分を取り戻せるのは、確かだな」


 俺は腕輪へ触れたまま、表示を読み直した。


 勝手に魔力が湧いてくる道具ではない。今も俺の魔力と腕輪の残量を合わせれば、最初に持っていた量と同じだ。


 ただ、腕輪に残した3を保ったまま、俺自身が休んで回復できるなら、話は変わる。


 休日の訓練だけでなく、長く魔法を使う場面でも余裕ができる。


 回復薬のように、使ったら容器だけになるわけでもなかった。


     ◇


 翌朝、目を覚ますと、最初に左手首を見た。


 腕輪の石には、青い光が残っている。


【蓄積魔力:3/20】


 俺自身の魔力は、十分に回復していた。


 布団の中で表示を見比べ、昨夜より多くの魔力を持って朝を迎えたことを確かめる。


 思わずもう少し貯めたくなったが、今日は普通に家事もするし、サクとの散歩もある。いきなり空になるまで移す必要はない。


 3人を呼び戻して朝食を用意してから、追加で5を腕輪へ送った。


 中央の石が、昨夜より少し明るくなる。


『寝ている間も、減らずに残っていたんだね』


 説明を聞いたサクが、俺の手首を見た。


「ああ。俺の方は回復していたから、その分を少し足せた。20まで貯めれば、かなり助かりそうだ」


『木偶を動かして、圭吾も魔法を使うと、すぐ休憩になっていましたからね』


「それにも使える。ただ、魔力が残っていても、腕や脚の疲れまでなくなるわけじゃない。使える時間が増えたからって、倍走れるとは思わないでくれよ」


 サクは俺を見上げ、少し口元を緩めた。


『そこは覚えているよ。僕を追いかけて、途中で座り込んでいたからね』


「忘れてくれてもよかったんだがな」


 俺は笑い、袖を下ろした。


 腕輪は薄く、服の下へ隠せば目立たない。普段から少しずつ蓄えておけるのも、ありがたかった。


 ネリが食卓の端から、その手首を眺めている。


『今日は山へ行くのか。おれは、前に直した地面を見ておきたい』


「午後からにしよう。午前中は買い物へ行って、帰ったら昼を食べる。山では、片づけを少しだけ手伝ってくれ」


 ノートへ買う物を書き足していた俺は、途中でペンを止めた。


 山へ行くたび、朝に出て、夕方には帰ってくる。


 今まではそれで十分だったが、広い場所で過ごすのは、剣を振る時間だけでなくてもよいはずだ。


 俺はスマートフォンを取り、近くのキャンプ場を調べ始めた。


 日帰りではなく、一泊。


 食事を作り、暗くなった場所で灯りを使い、朝まで外で過ごす。訓練場へ通うだけでは、分からないこともありそうだった。


『圭吾、その写真の場所にも行くつもりなんだ』


 サクが画面を覗き込んできた。


「泊まりで出かけるのも、面白そうだと思ってな。使える場所や、持っていく物を調べている」


『夜も、帰らずに一緒にいるんだね』


「ああ。まずは、無理なく行けるところからだけど」


 サクはもう一度画面を見て、写真の中の広場へ鼻先を寄せた。


 俺は候補のページを保存し、買い物のメモへ戻る。


 食材と作業用品の下へ、キャンプ用品の売り場も見る、と書き加えた。




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YouTubeでショート動画作ってみました

https://youtube.com/shorts/PCIU2r6HJ10?si=hcY4h-BqBD1biiTv

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