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第22話 サクと並んで戦ったら、俺の方が邪魔だった

 サクが飛び込もうとした場所へ、俺が踏み込んでいた。


 銀白色の身体が急に向きを変え、木偶の横をすり抜ける。その間に俺の剣は盾へ受け止められ、押し返された勢いで姿勢が崩れた。


 追ってくる木剣を避け、俺は模擬戦闘を中断する。


『圭吾、僕が走るところまで、剣を振りに来ていたよ』


 木偶が停止すると、サクは離れた場所から戻ってきた。怒ってはいないが、言いたいことははっきりしているらしい。


「悪かった。サクが横へ回ったから、俺もそっちへ出た方がいいと思ったんだ」


『それだと、僕が回った意味がなくなるよ。圭吾と違う方から近づきたかったんだから』


 俺は剣を下ろし、さっきまでサクがいた場所を見た。


 木偶を挟んだ反対側には、誰もいない。


 2人で戦い始めたはずなのに、いつの間にか並んで盾の前へ立とうとしていた。


     ◇


 その日は、新しい訓練場を借りた翌日の日曜日だった。


 朝食を片づけ、出発前にサクたちを契約領域へ送還する。現地へ着いて門を閉め、周囲を確かめてから、改めて3人を呼び戻した。


 昨日片づけた中央には、十分な空間が残っている。


 木材を脇へ寄せた場所も、ネリが土を詰めた木片も、そのままだった。俺は日陰へ荷物を下ろし、《稽古用魔導木偶の核》を取り出した。


 今日はサクと一緒に戦ってみるつもりだった。


 事前にレベル2の鑑定で調べ直したところ、この魔道具は、使用者の契約召喚獣を交えた訓練にも対応していた。動かすための魔力は、これまでどおり俺が供給する。


 相手の数を増やせるわけではなく、選べる難度も初級と中級のままだ。


 まず初級で、サクも訓練相手として認識されることを確かめた。


 木偶は近づいたサクへ向きを変え、木剣を振る。サクが距離を取ると、今度は踏み込んだ俺へ対応した。


 動作を確認してから中級へ切り替え、2人で挑んだ結果が、先ほどの有り様だった。


「1人で戦うときより、動きづらくなっていたな」


 俺が言うと、木材の上から見ていたミトが脚を動かした。


『お互いを見てから、進む方を変えていました。圭吾がサクを追い、サクは圭吾を避けています』


『僕は木剣を避けたいのに、圭吾まで避けないといけなかったんだ』


「返す言葉がないな。俺が追わなければ、最初の踏み込みは通せたか」


『盾をこっちへ向けさせるくらいは、できたと思うよ』


 サクは木偶の左側へ歩き、俺の方を振り返った。


『圭吾がそこにいてくれたら、僕はこっちへ回れる。木偶が僕に向いたら、圭吾の方が空くでしょ』


 止まっている相手を挟めば、分かりやすかった。


 だが、動き始めると俺は自分で攻撃することばかり考えてしまう。サクが作った隙へ入るつもりで、サクの進路まで塞いでいた。


「俺は正面で相手を見て、サクが動く方へは追いかけない。木偶がそっちへ向いたら、空いた側から入る」


『うん。それなら、僕も途中で引き返さずに済むよ』


 俺は地面の上で、立つ位置を変えてみた。


 サクも歩いて回り込む。互いの顔が見え、剣を伸ばしても届かない位置だ。


 精神会話ができるからといって、動くたびに説明し合っていては間に合わない。先に決めておけば、見て判断できることも多そうだった。


     ◇


 再開すると、木偶は俺へ木剣を振り下ろしてきた。


 受け流しながら半歩引き、すぐには反撃しない。視界の端で、サクが左へ動いた。


 木偶の盾が、そちらへ向く。


 俺はサクを追わず、木偶の右側へ踏み込んだ。ところが、木剣が短く引き戻され、こちらの剣を打ち払ってくる。


 避けた先へ盾が押し出され、俺はさらに下がらされた。


『圭吾、僕が近づく前に入っていたよ』


 サクの声と同時に、銀白色の身体が木偶の側面へ走る。


 今度は木偶が、はっきりとそちらへ向き直った。


 その背中へ剣を伸ばそうとして、俺は踏み込みを止めた。サクが身体を低くし、木剣の下を抜けてくるところだったからだ。


 剣を引き、サクが抜けた後へ入る。


 間に合わなかった。


 盾が戻り、俺の剣を受け止める。木偶の反撃をかわして離れると、足元から土埃が上がった。


 分かっていても、簡単には合わない。


 俺はもう一度中断し、息を整えた。


『今、剣を止めてくれたのは助かったよ。あそこで振られると、僕が困っていた』


「攻撃できそうだからといって、全部振っていいわけじゃないな。俺の方からも、サクが抜けるところを見ておく」


 サクは頷くように鼻先を下げた。


 ミトが木材から降り、俺たちのいた地面を見た。


『サクは木剣を避けた後、圭吾の側へ抜けています。そこを逆にしてはどうでしょう。圭吾から離れる方へ抜ければ、剣の前を通らずに済みます』


『それならできるよ。僕も、圭吾の方へ戻ろうとしていたからね』


 俺だけの問題ではなかったらしい。


 サクは停止した木偶の周りを歩き、抜ける方向を変えてみせた。俺が動く場所との間に、余裕が生まれる。


「それで試そう。俺も、サクが相手を動かすまで待つ」


 3度目は、木偶が向き直るのを見届けてから入れた。


 サクが木剣をかわし、俺から離れる方へ抜ける。その後ろで、木偶の盾がまだ横を向いていた。


 俺は空いた胴へ剣を当て、すぐに離れた。


【有効打】


『今のは、動きやすかったよ』


 サクが回り込みながら言う。


 俺は返事の代わりに剣を構え直し、次の踏み込みを待った。


     ◇


 1戦を終えたところで、俺たちは日陰へ戻った。


 木偶へ勝つだけなら、俺1人でもできる。だが、2人で戦えば、それだけ楽になるというわけではなかった。


 互いの攻撃を邪魔せず動けた場面は、まだ少ない。


 俺が水を飲んでいると、ミトが核へ向き直った。


『私も、相手の動きを止める形なら参加できます。木偶の脚に糸をかけ、踏み込む瞬間を遅らせられるか試したいです』


「頼みたい。ただ、糸のあるところへ剣を振らないよう、先に位置を確認しておこう」


『はい。両脚をまとめて縛るより、片方の足運びを妨げる方が、私の負担も少なく済みそうです』


 ミトが示したのは、木偶の後ろ足を横から引く方法だった。


 力で引き倒すつもりはない。踏み出しかけた足を少し遅らせ、その間に俺かサクが動く。


 俺は固定に使う木材を地面へ置き、位置を確かめた。


 木偶がどこを通るか分からない以上、最初から糸を張って待つだけでは難しい。ミト自身が動きながら、かける場所を選ぶ必要があった。


 ネリが、その木材の根元を両手で押した。


『引いたら、こっちも動くぞ。下に隙間があるからな』


「木材がずれたら、ミトの足場まで崩れるか。先に落ち着かせよう」


 俺が木材を置き直すと、ネリは下の土を少しずつ寄せた。


 それだけで重い木材を完全に固定できるわけではない。俺も向きを変え、糸を引く方向へ転がりにくい位置を選んだ。


 最後にミトが糸をかけて張り、動かないことを確かめる。


『このくらいの力なら使えます。強く引く必要が出たら、無理に保たず緩めます』


 俺はミトのいる位置と、木偶を動かす範囲を見比べた。


 指輪で話せる10メートルから外れないよう、広い敷地の中央だけを使う。ネリは木材の向こうへ下がり、戦う範囲から離れてもらった。


「ネリ、準備は助かった。今はそこで見ていてくれ」


『分かった。終わったら、木材がずれていないか見ておく』


 休憩を終え、俺は核へ魔力を供給した。


     ◇


 木偶の木剣を受け流したところで、サクが側面へ出た。


 俺は正面から離れすぎず、木偶の動きを追う。


 盾がサクへ向き、その後ろ足が地面を蹴ろうとした。そこへミトの影糸がかかる。


 木偶の脚が一瞬遅れた。


 だが、俺は動けなかった。


 糸へ目を向け、ちゃんとかかったか確かめてしまったのだ。その間に木偶は足を置き直し、盾を戻している。


 俺の剣はまた防がれた。


『圭吾、糸を見なくても大丈夫です。かからなかったときは、こちらから伝えます』


 ミトの声が届く。


 俺は木剣をかわしながら、短く息を吐いた。


 サクに続いて、今度はミトの仕事まで確かめようとしていたらしい。


「分かった。相手の動きを見るよ」


 木偶が俺へ向き直り、前へ出る。


 受け止めず、横へずれた。サクが空いた側へ近づくと、木偶の上体もそちらへ動く。


 後ろ足の運びが、わずかに止まった。


 今度は糸を見なかった。


 盾の動きと木剣の位置を見たまま、俺は踏み込む。魔刃を使い、盾が届く前に胴へ刃を当てた。


【有効打】


 すぐに剣を引くと、足元の影糸も緩んでいた。


 ミトは木偶を縛り続けず、次に動くための余裕を残している。俺も魔刃を切り、間合いを取り直した。


 続けてサクが走った。


 《風走》を使った踏み込みが、先ほどまでより速い。銀白色の身体が木偶の横へ抜け、相手の盾を大きく動かした。


 俺は反対へ入ろうとして、足を止める。


 サクの進路は、もう俺の前を通らない。


 止まる必要はなかった。


 そのまま踏み込み直したところへ木剣が来たが、剣の角度を合わせて外へ流した。無理に大きく斬らず、伸びた腕の付け根へ刃を当てる。


【有効打】


『今、待たなくてよかったのに』


 サクが離れながら言った。


「分かっていたのに、身体が止まった。次は、そのまま入る」


 木偶が盾を構え直す。


 俺は正面で剣を見せ、相手の足を止めた。サクが動き始めても追わず、自分の間合いを保つ。


 木偶は俺とサクへ、盾と木剣を振り分けようとした。


 その後ろ足へ、ミトの影糸がかかる。


 踏ん張る位置がずれ、木剣を戻す動きがわずかに遅れた。


 俺は空いた側へ踏み込んだ。サクは反対へ抜け、ミトの糸は足元の低い位置にある。


 誰の進路も塞がずに、剣を振れた。


 刃が届く瞬間に魔刃を使い、戻す動きに合わせて魔力を絞る。


【有効打】


【模擬戦闘終了】


 木偶が止まっても、俺たちはすぐに近寄らなかった。


 俺が剣を下ろし、ミトが糸を外したところで、サクがこちらを向く。


『最後のは、僕も途中で避けなくて済んだよ』


「ああ。俺も、サクが戻ってくる場所を気にせず振れた」


『糸をかけてから圭吾が動くまでの時間も、短くなりました。長く引き続けずに済むので、私も楽です』


 ミトは影糸を解き、木材から降りてきた。


 木偶を止めていた時間は、ほんのわずかだった。それでも俺には、剣を届かせるだけの時間ができていた。


     ◇


 核へ戻した木偶を片づけ、俺は日陰へ腰を下ろした。


 今日はもう、十分だった。


 自分の身体強化と魔刃に加え、木偶を動かす魔力も使っている。余裕があるうちに終えるつもりだったが、座ってみると、脚にもかなり疲れが溜まっていた。


 ネリは木材の下を覗き込み、詰めた土へ手を当てている。


『少し沈んだが、横には動いていない。次も使うなら、ここを覚えておけばいいな』


「ありがとう。置いた木材まで動いていたら、ミトも糸を扱いづらかっただろうし」


『はい。引く方が落ち着いていたので、脚の動きに集中できました』


 ミトが答えると、ネリは土の付いた手を払って戻ってきた。


 サクは俺の前に座り、鼻先で膝を軽く押す。


『最初は、圭吾が1人増えたみたいに戦っていたね』


「自分が攻撃しに行くことしか考えていなかったな。サクが動いたら、俺も急がないといけない気がしていた」


『僕が近づいたら、圭吾は待っていてもいいんだよ。あっちが僕ばかり見ていたら、そこから来てくれればいいんだから』


 木偶へ最初に有効打を入れたのは俺だったが、その前にはサクが盾を動かしていた。


 ミトが脚を遅らせたときも、俺が糸の様子を確かめる必要はなかった。必要な場面で動けるよう、相手を見ていればよかったのだ。


 俺は水筒を置き、サクとミトへ目を向けた。


「次は、俺が相手を引きつける方もやってみよう。いつも2人に動かしてもらうだけでは、俺の役割が少なすぎる」


『それなら、僕もちゃんと当てに行けるね』


『私は、サクが入る場所へ糸を張らないように考えます』


 2人とも、もう次の動きを考えている。


 俺は笑って立ち上がりかけ、太腿の張りを感じて、そのまま座り直した。


「ただし、続きは別の日だ。今日は帰る前に、門まで普通に歩けるくらい休ませてくれ」


 サクは俺の脚を見てから、隣へ伏せた。


『分かった。木偶を追いかける前に、圭吾を避けて走った分もあるから、僕も休むよ』


「それは本当に悪かった。次は、そっちまで追いかけないようにする」


 ミトが木材の上で脚を畳み、ネリも日陰へ座った。


 俺は昨日と同じ場所から訓練場を眺めた。中央に残る足跡は、俺のものだけでなく、木偶の足跡とサクの足跡が入り交じっている。


 帰るときには、踏み荒らした場所を軽く戻しておこう。


 そう伝えると、ネリが先に立ち上がったので、俺はもう少し休んでからでいいと声をかけた。




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YouTubeでショート動画作ってみました

https://youtube.com/shorts/PCIU2r6HJ10?si=hcY4h-BqBD1biiTv

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