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第2話 SSRの召喚獣と、ペット禁止のマンション

 10万円のレアガチャで手に入れたのは、銀白色の毛並みをした小さな狼だった。


 レアリティはSSR。種族は月影狼。


 額には三日月の模様があり、青い瞳でこちらを見上げている。見た目だけなら、少し珍しい犬の子供で通りそうだった。


 ただし、ここにはひとつ問題がある。


 俺の住んでいるマンションはペット禁止だ。


「お前には悪いが、まずは住む場所から考えないといけないな」


 稲見圭吾、34歳。独身の会社員が、突然現れた異世界の狼を抱えて途方に暮れている。


 昨日までの俺に話したところで、酒の飲みすぎを疑われるだけだろう。


 腕の中にいる月影狼は、そんな事情など知らない。俺の胸元に鼻先を押しつけ、気持ちよさそうに目を細めていた。


 体重は3kgほどだろうか。子犬にしては足が大きく、耳も立派だ。将来どこまで成長するのか、今のところ想像もつかない。


「とりあえず、名前くらいは決めておこうか」


 青い瞳がこちらを向いた。


 月影狼。月に関係する名前がいいだろう。


 額の三日月を眺めながら、しばらく考える。


「朔……サクなんてどうだ?」


 朔は新月を意味する言葉だ。三日月とは少し違うが、夜に関係する名前として悪くない。


 小さな狼は俺の顔を見つめ、それから嬉しそうに尻尾を振った。


「気に入ったみたいだな。じゃあ、今日からお前はサクだ」


《召喚獣の名称を登録しますか?》


《月影狼:サク》


《はい/いいえ》


 迷わず《はい》を選ぶと、召喚獣のステータスに名前が追加された。


 どうやら正式に登録されたらしい。


 サクは俺の膝から降りると、部屋の中を探索し始めた。鼻先を床へ近づけ、テレビ台の裏を覗き込み、ソファの脚を嗅いでいる。


 見知らぬ場所に興味津々なのは、普通の子犬と変わらない。


 問題は、こいつが普通の子犬ではないことだ。


「サク、そのコードは噛むなよ。電気が通ってるからな」


 テレビの電源コードへ顔を近づけたところで声を掛けると、サクはすぐに振り返った。


 そして一度だけ首を傾げ、素直にコードから離れる。


「……言葉が分かるのか?」


 試しに、床へ置いたクッションを指さした。


「サク、こっちに来て座ってみろ」


 サクは俺の指先を見てから、クッションの上へ移動した。前足を揃えて腰を下ろし、何かを待つようにこちらを見上げる。


 偶然かもしれない。


 今度は反対側のクッションを示してみる。


 すると、また同じように移動した。


「これは賢いな。少なくとも、俺の言っていることはある程度理解しているらしい」


 SSRという評価は伊達ではないようだ。


 俺は召喚獣の管理画面を開いた。


《契約召喚獣》


名称:サク


種族:月影狼


レアリティ:SSR


レベル:1


成長段階:幼体


契約状態:正常


忠誠度:100


固有能力:《月影》《風走》


管理機能:《召喚》《送還》《成長履歴》


 送還という項目がある。


 詳細を開くと、召喚獣を契約領域へ戻す機能だと説明された。


 契約領域では休息でき、必要に応じて再召喚も可能。ただし、負傷を瞬時に治療したり、空腹を解消したりする都合のいい機能ではないらしい。


 召喚獣の健康管理は契約者の責任、と明記されていた。


「それなら、留守番させる必要はないわけか」


 俺は少し安心した。


 明日も仕事がある。昼間ずっとマンションへ置いておくわけにはいかないし、現時点で散歩に連れ出すのも難しい。


 もっとも、送還できるからといって、狭い部屋で飼い続けていい理由にはならない。


 成長すれば運動も必要になるだろうし、何よりサク自身が外へ出たがるはずだ。


 まずは送還が安全に使えるのか確認してみよう。


「サク、ちょっと試させてくれ」


 俺が管理画面の《送還》を選ぶと、サクの足元に小さな銀色の魔法陣が広がった。


 サクは不思議そうに足元を見下ろしていたが、次の瞬間には光の粒となって姿を消した。


 手を伸ばしていた場所には、もう何もない。


《サクを契約領域へ送還しました》


《状態:休息中》


 数秒待ってから、再び召喚する。


 床へ銀色の光が集まり、サクが姿を現した。


 俺を見つけると真っ先に駆け寄ってきて、膝に前足を掛ける。


「よしよし。ちゃんと戻ってこられたな」


 頭を撫でてやると、サクは満足そうに目を細めた。


 これなら移動中や仕事中は契約領域で休ませられる。召喚したまま目を離す必要もない。


 俺はスマートフォンを取り出し、ペット飼育可能な賃貸物件を検索し始めた。


     ◇


 午後10時を過ぎても、部屋探しは難航していた。


 都心から少し離れれば、ペット相談可の物件はそれなりに見つかる。


 ただし、ほとんどが小型犬か猫を想定した条件だった。


 サクは今こそ小さいが、成長後の大きさが分からない。種族も月影狼と表示されている以上、犬だと言い張って契約するのは危険だろう。


 そもそも狼に相当する動物を日本で飼育する場合、法的にどのような扱いになるのかも調べる必要がある。


 異世界の召喚獣に日本の法律をどう適用するのか。


 考えてみれば、なかなか厄介な問題だった。


「せめて成長後の大きさが分かればな」


 サクへ視線を向ける。


 本人は俺の悩みなど気にも留めず、床に敷いたバスタオルの上で丸くなっていた。


 夕食として、冷蔵庫にあった鶏のささ身を味つけせずに茹で、冷ましてから少量与えてみたところ、きれいに食べてしまった。


 水も普通に飲んでいる。


 ただ、人間用の食材で必要な栄養を満たせるとは限らない。何をどれだけ食べさせるべきか、そこも調べなければならなかった。


 俺はスマートフォンのメモ帳へ、必要な確認事項を並べていった。


 住居、飼育条件、食事、運動環境、健康管理。


 調達部の仕事と大して変わらない。必要な条件を洗い出し、使える予算を計算して、現実的な手段を選ぶだけだ。


 ただし今回は、仕入れ先へ電話を掛けても解決しない。


「まさか異世界の召喚獣に、こんなに生活力が要求されるとは思わなかったよ」


 独り言に反応したのか、サクが顔を上げた。


 俺が笑うと、尻尾を一度振ってから再び目を閉じる。


 その様子を見ているうちに、少し気持ちが楽になった。


 住居については急いで調べる。だが、焦って条件の悪い物件を契約する必要はない。


 サクが安全に暮らせる場所を、きちんと見つければいいのだ。


 時計を見ると、午後11時47分だった。


 そこで、ひとつ思い出した。


「そういえば、日付が変われば無料ガチャが引けるんだったな」


 ガチャの更新時刻は午前0時。


 あと13分ほどで、再びデイリーガチャが使えるようになる。


 昨日までなら、平日の午前0時など寝ている時間だ。


 しかし今夜ばかりは、少しくらい夜更かししてもいいだろう。


 俺はサクを膝へ乗せ、温かい麦茶を飲みながら時計を眺めた。


 初日に手に入れたのは、SRの鑑定、Rの収納鞄、SSRの召喚獣。


 これだけでも十分すぎる成果だ。


 だが、ガチャという仕組みを知ってしまうと、どうしても期待してしまう。


 次は武器か、防具か。


 それとも魔法のスキル書だろうか。


 できれば身体強化かアイテムボックスが欲しい。収納鞄は便利だが、重量制限があるし、いずれ強力な武器や防具が増えたときに困る。


 何より、自分自身が強くなるための能力を手に入れたい。


 サクだけが強くなっても、俺が足を引っ張っていては意味がないからだ。


 午前0時。


 視界の端に、小さな通知が現れた。


《日付が更新されました》


《デイリーガチャの利用回数が回復しました》


《本日の残り回数:1回》


「よし。じゃあ、今日の運試しといこうか」


 サクの頭を軽く撫でてから、デイリーガチャを実行した。


 空中に現れた光の球は、最初に引いたときよりも地味な色をしていた。


 白い光が数秒ほど回転し、そのまま静かに収束する。


《N確定》


《N 清浄の布》


 テーブルの上に、白い布が一枚落ちてきた。


「……布か」


 手に取ってみると、普通のタオルより少し薄い。手触りは柔らかく、細かな模様が織り込まれている。


 鑑定を使う。


《清浄の布》


レアリティ:N


分類:生活魔道具


効果:布で拭いた対象の軽度な汚れを除去する。


使用回数:残り10回


備考:使用回数を消費すると効果を失う。


 どうやら使い捨てに近い掃除道具らしい。


「まあ、毎日SSRが出るわけないよな」


 むしろ初日が出来すぎていたのだろう。


 ただ、魔法で汚れを落とす布というのは少し面白い。


 試しにキッチンのコンロへ使ってみた。


 油汚れのついた部分を軽く拭くと、薄く残っていた汚れが消えた。布そのものは白いままで、油を吸った様子もない。


 鑑定すると、使用回数は残り9回になっている。


「なるほど。便利ではあるけど、さすがに10回で1枚なら普段使いにはもったいないな」


 俺は布を丁寧に畳み、収納鞄へ入れた。


 Nでも使い道はある。


 そう考えると、365日間毎日引き続けたら、どれほどの品物が集まるのだろうか。


 もっとも、明日も明後日も無料で引けるからといって、必ず価値のあるものが出るとは限らない。


 ゲームでもガチャでも、期待しすぎないことが長く楽しむコツだ。


「さて、今日はここまでにして寝るか」


 サクを送還しようとしたところで、服の裾を小さな口で咥えられた。


 見ると、青い瞳がじっと俺を見上げている。


 まだ一緒にいたいらしい。


「困ったな。俺も明日は仕事なんだが」


 結局、俺は床へ敷いていたバスタオルを寝室へ移し、サクが眠るまで傍に座っていることにした。


 十数分後、規則正しい寝息が聞こえてきた。


 小さな体を丸めたサクを見ていると、10万円のガチャから出てきたものを、単なる景品とは思えなくなってくる。


 俺はそっと頭を撫でてから、サクを契約領域へ送還した。


 まだ始まったばかりだ。


 慌てず、ひとつずつ覚えていこう。


     ◇


 木曜日の朝は、普段より少し眠かった。


 それでも目覚ましの音で起き、いつもどおり朝食を済ませて出勤した。


 召喚獣の管理画面を確認すると、サクは休息中。状態も正常だった。


 職場では午前中に仕入れ先との価格交渉が入り、午後からは調達計画の見直しが待っていた。


 異世界の能力を手に入れたからといって、会社の仕事がなくなるわけではない。


 むしろ、今は安定した収入を手放す理由がなかった。


 ガチャを引くには金が必要だ。


 ノーマルガチャが1万円、レアガチャが10万円。昨日は勢いもあって11万円を使ってしまったが、毎日そんな金額を使っていれば、貯金などあっという間になくなる。


 俺は休憩時間に家計簿アプリを開き、今月の支出を確認した。


 家賃、食費、水道光熱費、通信費、保険料。


 そのほかに積立投資へ回している金もある。


 大きく生活を変えずに使える金額は、せいぜい月に数万円だ。


 昨日の11万円は、特別な買い物として考えるしかない。


「稲見さん、何か大きい買い物でもしたんですか?」


 隣の席から声が掛かった。


 同じ調達部の後輩、宮原だった。年齢は俺より7つ下だが、仕事は丁寧で、納期調整なども安心して任せられる。


「ちょっと趣味の道具を買ってね。予算を見直してたところ」


「いいですね。何を買ったんです?」


「説明が難しい道具かな。まだ使い方を覚えている最中なんだ」


「稲見さん、そういうの好きですよね。買ったあとで説明書を全部読むタイプでしょう」


「説明書が付いていれば助かるんだけどね」


 宮原は笑って、自分の席へ戻っていった。


 嘘は言っていない。


 説明書のない異世界の魔道具ほど、扱いに困るものもないだろう。


 午後には、昨日発見された配管継手の不良について、品質保証部から正式な報告が届いた。


 微細亀裂が確認された製品は、仕入れ先との協議で交換することになったらしい。


 原因調査は継続するとのことだった。


 俺は報告書を確認し、必要な発注調整を済ませた。


 鑑定で分かった情報を、そのまま会社へ説明することはできない。


 だが、今後も気づいた異常を適切な検査へつなげることはできる。


 こうした能力があるからといって、仕事の基本を忘れるつもりはなかった。


     ◇


 退勤後、俺は駅前の不動産会社へ立ち寄った。


 昼休みに連絡を入れておいたところ、郊外の戸建て賃貸なら条件を相談できる物件があるという話だった。


 応対してくれたのは、40代くらいの男性社員だった。


「稲見様でしたね。お電話で伺ったペット飼育の件ですが、いくつか候補を用意しました」


「ありがとうございます。できれば庭があって、周囲の住宅と少し距離のあるところがいいんですが」


「大型犬を飼われる予定ですか?」


「今は小さいんですが、成長後の大きさがはっきりしなくて。犬に近い動物ではあるんですが、種類についても確認が必要なんです」


 男性は少し考え、パソコンの画面を操作した。


「そうなりますと、一般的なペット可物件でも難しい可能性がありますね。飼育される動物の種類と、必要な届け出などが確認できてから、大家さんへ相談した方がいいと思います」


「そうですよね。隠して契約するつもりはないので、条件が合うところを探したいんです」


「それでしたら、庭付きの戸建てを中心に確認してみます。少し時間をいただければ」


 提示された候補のひとつは、駅から車で20分ほどの場所にある古い平屋だった。


 敷地は広く、隣家との間隔もある。駐車場付きで、家賃は月9万8000円。


 現在のマンションより通勤時間は延びるが、車があれば十分通える距離だ。


 ただし、飼育条件が確認できなければ契約できない。


「現地を見るだけなら可能ですか?」


「もちろんです。室内も確認できますので、週末にでもご案内しましょう」


「それなら土曜日にお願いできますか」


 予定を決め、資料を受け取った。


 まだ引っ越しが決まったわけではない。


 それでも具体的な候補が見つかっただけで、少し気が楽になった。


 帰り道、俺はふと考えた。


 レアガチャで強力な召喚獣を手に入れたとしても、育てる場所がなければ能力を十分に発揮させられない。


 武器や防具も同じだ。


 いずれ大きな剣や鎧が出れば、収納する場所も必要になる。魔法を使うなら練習環境も欲しい。


 現代日本で異世界の能力を育てようと思えば、意外と準備することが多いらしい。


「まあ、設備投資だと思えば悪くないか」


 調達部で働いていると、設備の重要性は嫌というほど分かる。


 どれほど高性能な機械を購入しても、設置場所や電源、運用体制が整っていなければ宝の持ち腐れだ。


 異世界の能力も、結局は同じなのかもしれない。


     ◇


 帰宅して最初にしたのは、サクの召喚だった。


 銀色の魔法陣が床へ広がり、小さな狼が現れる。


 サクは俺を見つけると勢いよく駆け寄ってきた。


「ただいま。いい子にしてたか?」


 しゃがんで頭を撫でると、サクは嬉しそうに尻尾を振った。


 状態を確認しても異常はない。


 契約領域で休息できるという説明は、どうやら信用してよさそうだ。


 夕食を用意し、サクにも食事を与える。


 俺が食べている間、サクは足元で大人しくしていた。


 普通の犬なら食卓の料理を欲しがりそうなものだが、こちらの食べ物を勝手に取ろうとはしない。


「お前、ずいぶん行儀がいいな」


 褒めると、得意そうに胸を張ったように見えた。


 食事が終わったところで、俺はサクの固有能力を調べることにした。


 昨日から気になっていた《月影》と《風走》だ。


 どちらも鑑定では詳細が分からない。


 ただし、召喚獣の管理画面から簡単な説明を確認できた。


《月影》


影を利用し、気配と姿を周囲へ紛れ込ませる。


使用効果は召喚獣の成長段階と熟練度に依存する。


《風走》


風属性の魔力を利用して移動能力を向上させる。


 どちらも戦闘や探索で役立ちそうな能力だ。


 特に《月影》が本当に姿を隠せるなら、現代社会でも使い道は多い。


「サク、ちょっと試してみようか」


 俺は部屋の照明を少し落とし、サクを壁際へ座らせた。


 そこで《月影》の使用を意識して指示を送ってみる。


 サクは耳を立て、俺を見上げた。


 次の瞬間、銀白色の毛並みが暗く変わった。


 まるで薄い墨を流したように、体の輪郭が壁際の影へ溶け込んでいく。


 完全に消えたわけではない。


 注意して見れば、そこに何かがいると分かる。


 しかし、一瞬目を離してから見直すと、サクの位置がすぐには判断できなかった。


「なるほど。これは確かに見つけにくいな」


 俺が近づくと、サクは影から顔を出した。


 銀白色の毛並みが元に戻る。


 使用時間はせいぜい数秒だったが、それでも十分に驚くべき能力だ。


 続けて使わせようとすると、サクはその場に座り込んでしまった。


 どうやら疲れたらしい。


《サク》


魔力残量:低下


状態:軽度疲労


 すぐに訓練を中止した。


「無理はさせられないな。まだ子供なんだから」


 サクは申し訳なさそうに耳を伏せたが、俺が撫でるとすぐに機嫌を直した。


 レベル1の幼体でも、これだけの能力を持っている。


 成長したらどれほど強くなるのだろう。


 今はまだ、その可能性を想像するだけでも楽しかった。


 俺はサクを休ませながら、召喚獣の成長画面を開いてみた。


《召喚獣成長》


対象:サク


現在レベル:1


成長段階:幼体


固有能力熟練度


《月影》Lv.1


《風走》Lv.1


進化条件:未達成


 能力を使えば熟練度も上がるらしい。


 戦闘経験だけでなく、訓練によって強くなれる可能性もある。


 それなら、今のうちからできることは多そうだった。


 ただし、召喚獣任せにするつもりはない。


 俺自身も強くならなければ、サクが危険な目に遭ったとき何もできなくなる。


 まず欲しいのは身体強化。


 できれば魔法も覚えたい。


 そして、収納鞄とは別にアイテムボックスがあれば、今後の装備管理が格段に楽になるはずだ。


「欲しいものが増える一方だな」


 苦笑しながらステータスを閉じたところで、サクが俺の膝に顎を乗せてきた。


 どうやら休憩は終わったらしい。


 俺はその頭を撫でながら、今夜はこれ以上能力を使わせないことにした。


 サクが小さく尻尾を振る。


 窓の外では、いつもと変わらない街の灯りが並んでいた。


 会社へ行き、仕事をして、帰宅する。


 そんな生活の中に、ほんの少しだけ異世界が混ざり始めている。


 昨日まで存在しなかった力が、こうして俺の日常を変えていた。


 そして日付が変われば、また無料ガチャが引ける。


 明日は何が出るのか。


 そう考えながら、俺はサクを抱き上げた。


「さて、今日は早めに寝よう。明日も仕事だからな」


 サクは俺の胸元へ鼻先を押しつけ、満足そうに目を閉じた。


 この小さな相棒と、これからどんな毎日を過ごすことになるのか。


 少なくとも、退屈することだけはなさそうだった。




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