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第14話:規定により、現行犯ですわ

 査問の期日が告示された晩、セドリック様が、地図を机に広げました。


「証拠は揃いました。残る弱点は一つ。ジョゼフ翁の航海日誌は、原本が灯台にある。写しは取りましたが——」


「ええ。あちらの手口は、もう二度、拝見しておりますわ」


 門番小屋。組合会館。

 彼らは、記録を消すのに、火を使いますの。


「ですが今回は、相手は王国直轄の灯台ですよ。さすがに放火は」


「灯台そのものは、燃やしませんでしょうね。船が困りますもの。……ですけれど、『老いた灯台守が、うっかり日誌を竈にくべてしまう』ことは、あり得ますのよ。本人の意思とは、無関係に」


 ジョゼフ翁を、王都へ証人保護で移す案は、ご本人が蹴っ飛ばされましたの。


「四十年、一晩も灯りを絶やしとらん。査問だか何だか知らんが、わしは小屋を動かんよ」


 ですから、こうなりましたわ。

 灯台の小屋に、ジョゼフ翁と——交代で泊まり込む、監査チームと護衛官。


 張り込み、三晩目ですわ。


「……ロザリンド様って、怖くないんですか」


 毛布にくるまったフィーが、ランタンの灯りの中で、ぽつりと申しました。


「燃やされたり、悪口言われたり、晩餐で買収されそうになったり……わたし、ほんとは、ちょっと怖いです。検査人の人たち、目が怖いです」


「怖いわよ、私も」


「……ロザリンド様も?」


「ええ。ですからね、フィー。怖いものは、数えますの」


「数える?」


「検査人は何人? 二十六人。雇い止めになったら、彼らに退職金を払う体力が組合にある? ない。なら査問の後、彼らは伯爵を守る? 守りませんわ。恐怖というものはね、内訳を書き出すと、ずいぶん小さくなりますのよ。……大きく見えるのは、合計しか見ていないからですの」


「内訳……」


 フィーは、しばらく考えてから、自分の手帖に何か書き付けて、すうっと眠ってしまいましたわ。

 あとで覗いたら(行儀が悪うございますわね、ええ)、こう書いてありましたの。


 『こわいもの内訳。検査人の目、二十六人ぶん。でもロザリンド様といっしょだから、引き算。のこり、ちょっとだけ』


 ……この子の帳簿は、ときどき、私のより正確ですわ。


 四晩目。

 来ましたわ。


 崖下の浜に、小舟が一艘。男が三人、油壺を提げて、岩場の小道を登ってまいりましたの。

 灯台の戸口で、先頭の男が油を撒こうとした、その瞬間——


「動くな! 王宮監査庁である!」


 岩陰から、護衛官と、港の憲兵隊。

 憲兵隊は、殿下が灯台局経由で、伯爵に知られぬよう手配してくださっておりましたの。指揮系統が別、というのは、こういうときに効きますわ。


 三人は、その場で取り押さえられました。

 油壺、火口箱、そして——前金の銀貨と、もう見慣れた筆跡の指示書き。


 セドリック様が、月明かりの下、指示書きを高々と掲げて、宣言なさいましたわ。


「監査妨害、証拠隠滅の予備、及び放火未遂。監査規程第三十一条、刑法第百十二条。——規定により、現行犯ですわ」


「…………セドリック様?」


「っ、失礼。現行犯、です。……移りました、あなたの口癖が」


 ふふ。ふふふ。

 フィーが噴き出して、護衛官まで肩を震わせて、ジョゼフ翁が「なんだ、賑やかな夜だね」と寝間着で出てまいりましたわ。


 翌朝。

 捕えた三人のうち、一人が、ぺらぺらと喋りましたの。雇い止めの怖さは、忠誠より強うございますのよ。ええ、内訳どおりですわ。


「指示は検査人頭から。頭は『従弟様』から。金は……月末の上納の余りから出てる。おれたちは、北の塩の町でも、同じ仕事をした」


 北と南、二つの放火が、一本の線で、証言として繋がりましたわ。

 これで、役者が揃いましたの。


 査問は、明日。

 お相手は、帳簿に嘘を書かない、設計上手の伯爵様。

 でしたら、こちらは——帳簿の外の記録を、全部、机に並べて差し上げますわ。

恐怖の内訳、皆様もお試しになって。案外、残高は小さいものですのよ。

次話、第2章の決算。伯爵に「追徴課税のお時間」と、もう一つ、特大の辞令が届きますの。

ブックマークと評価、夜警の交代要員としてお待ちしておりますわ。

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