028『”衣”食住』
「ふぅ……」
地下採掘場から戻った私は、リビングの椅子に深く腰掛けた。
銃弾が作れるようになり、鉄へのモチベーションは爆上がり中だが、今日はあえて休日にしようと思う。
根詰めすぎは良くない。それに、地下ばかり見ていると地上の変化に疎くなる。
「小麦畑の収穫もしなきゃいけないし、綿もだいぶ溜まってるんだよな」
やはり、生活基盤というものはガッチガチに固めるべきだ。
これ以上の水準――電化製品や自動化ライン――を求めるなら鉄が必要だが、その前にやるべきことがある。
「銀が手に入ったんだ。アレを作らないと」
私はインベントリから銀のインゴットを取り出した。
銀といえば、装飾品や硬貨のイメージが強いが、工業的には「鏡」の材料として重要だ。ガラスの裏に銀メッキを施すことで、鮮明な反射面が作れる。
今までは手鏡や水桶の水面でしか確認できなかったが、ちゃんとした鏡で自分の健康状態(と、ビジュアル)をチェックするのは大事だ。
クラフトテーブルを操作し、銅のフレームに銀加工のガラスをはめ込んだ『銅のアンティーク姿見』を作成する。
カシャン、という音と共に、私の背丈よりも大きな立派な鏡が現れた。
◇◇◇
「……うわぁ」
設置した鏡の前に立ち、私は思わず声を漏らした。
そこに映っていたのは、ファンタジー映画から飛び出してきたような美少女だった。
月明かりのような白銀の髪、宝石のようなオッドアイ、透き通るような白い肌。
「改めて見ると、とんでもない美少女だよなぁ、私」
中身がアラサー手前のゲーマー男だとは誰も信じないだろう。ポーズを取ってみる。鏡の中の美少女も同じ動きをする。
うん、可愛い。客観的に見て素材が良すぎる。
だが、その完璧な容姿に対して、身につけている物が残念すぎた。
「……服、ボロボロだな」
最初から着ていた麻のチュニックと、予備のもう一着。この二着をひたすら着回して、森を開拓し、地下を掘り進めてきたのだ。
裾はほつれ、泥汚れが染み付き、全体的に薄汚れている。
せっかくの美少女アバターが台無しだ。
「流石に生活が安定してきたとはいえ、衣食住の”衣”を疎かにし過ぎたかもしれない」
今は畑で収穫したコットン(綿花)が倉庫に溢れている。これを使えば、まともな服が作れるはずだ。
私は鏡から離れ、クラフトテーブルの【衣服・防具】カテゴリーを開いた。
「おお、あるある。シャツ、ズボン、スカート、ワンピース……」
流石は万能テーブルくん。型紙なしで、素材を入れるだけで服が作れるとは。
まずは何を作るか?
「まあ、これだよな……」
男の尊厳はあるが、これがないとダメな気がする。
コットン製の下着セット。正直、今の今まで気にしてなかったが……ぺったんこだしな。美少女とはいえぺったんこ。
あったほうがいいだろうと思い、作ることにした。
「結構いい感じだな」
自分の身体の裸は見てももう何も思わない。姿見の前で下着を付けてみれば、中々いい感じの肌触りだ。
「よし、心機一転……というのもなんか違うな」
さて、次はアウター(外着)だ。
中身が男である以上、機能的なシャツとズボンでいいと思っていたのだが……。
「……うーん」
プレビュー画面で試着してみると、どうにも地味だ。
いや、悪くはないのだが、鏡で見たあの美少女ボディには、もう少し華やかなものが似合う気がする。
「この身体だと、スカートの方が動きやすいのか?」
股関節の可動域とか、通気性とかを考えると、スカートやワンピースの方が理にかなっている気もする。
私は葛藤の末、いくつかのパターンを作ってみることにした。
一つは、丈夫な厚手コットンの『作業用つなぎ(茶色)』。
もう一つは、動きやすさを重視した『キュロットスカート』と『白いブラウス』。
そして魔が差して作った、フリルのついた『エプロンドレス』。
鏡の前でファッションショーを開催する。
つなぎは安心感があるが、今の私には少しブカブカだ。エプロンドレスは……似合いすぎてて直視できない。誰かに見られたら爆発する。
「結局、これに落ち着くか」
選んだのは、キュロットスカートとブラウスのセットだ。
見た目はスカートっぽいが、構造はズボンなので下着が見える心配もないし、動きやすい。それに、冒険者っぽくて格好いい。
「どうだポチ、似合うか?」
「わんっ! わふぅ!」
ポチが尻尾をブンブン振りながら、私の周りをくるくると回る。どうやらお気に召したようだ。
「よしよし。じゃあ、明日はこの新しい服で地下へ行くぞ」
新しい装備(服)に身を包み、私は鏡の中の自分に向かってニッと笑いかけた。
たまにはこういう、のんびりとした休日も悪くない。




