029『ねんがんの!』
地下採掘場、第10区画。
ここまで来ると、地上からの距離は相当なものになる。駅前のスロープのような感じで斜めに掘り進んでいるものの、この距離の坂を上ったり下ったりするのも結構大変になってきた。
先日は休憩スペースを整えただけで終わってしまったため、目の前には手付かずの土壁が広がっている。
「……いい加減、出てきてくれよ、鉄くん。お前が居ないと始まらないんだ」
私は壁に向かって祈るように呟いた。
鉄があれば、発電機が作れる。発電機があれば電気が生まれ、送電ケーブルで拠点を繋げば、夢の電化生活が待っている。
冷蔵庫、洗濯機、エアコン、そして防衛用タレット。全ての鍵は『鉄』が握っているのだ。
鉄で出来るものは多い。
そして鉄以外の素材は集まっているのだ。パズルの他のピースは揃っているのに、鉄というピースだけがない、そんな感じ。
「さあて、掘り進めるとするか」
期待と、それ以上の不安を抱えながら、私は第10区画の壁に万能スコップを突き立てた。
◇◇◇
「……やっぱり、ダメなのかなあ」
数時間後。
ある程度掘り進めたものの、出てくるのは石と土ばかり。第9区画までの確変モードが嘘のように、第10区画は静まり返っていた。
「でも、諦めないぞ……!」
私は汗を拭い、狙いを変えて反対側の壁を掘り始めた。
私のゲーマーとしての勘が告げている。ここまで深く掘って、何も無いわけがない。
ザクッ、ガキンッ。
硬い音が響いた。
スコップの先に、鈍い光を放つ鉱石の塊が現れる。
色は灰色に近い。また銀か? それとも鉛か?
「……どうせまた、銀だろうな」
期待して裏切られるのはもう御免だ。私は期待値半分、諦め半分で鉱石を掘り出した。ゴロンと転がった重い石を拾い上げ、ポーチの中に入れる。
ポーチの中に入れれば勝手に鑑定だかなんだかをしてくれるから便利なんだよな。入れた後にそれをポーチの画面で見れば名前などの詳細情報がわかるのだ。
「…………え?」
見慣れた『銀』でも『銅』でもない文字。そこに書かれていたのは、待ち焦がれた二文字だった。
「てっこうせき? ……鉄ぅぅっ!?」
地下空洞に私の絶叫が響き渡った。
ついに……ついに手に入れた!
現代日本でもありとあらゆるものに使われている、文明の骨格。産業の米。
「やった……! ようやく引いたぞ!!」
一度見つかればこっちのものだ。鉱脈というのは連なっているものだからだ。
私は興奮のあまり、無我夢中で周囲を掘り返した。
あるわあるわ。次から次へと、黒錆色の鉄鉱石が姿を現す。どうやら第10区画は、巨大な鉄鉱脈のど真ん中だったらしい。
「はぁ、はぁ……」
ポーチがいっぱいになるまで掘り尽くし、私は息を切らせながらも満面の笑みで地上へと戻った。
足取りは羽のように軽い。
拠点に戻ると、すぐさまクラフトテーブルの前へ。
見慣れたクラフト画面に、初めて『鉄鉱石』が登録される。作成できるのは、銅や銀と同様のインゴット。
「変換開始!」
作成ボタンを力強く押す。
光の収束と共に、テーブルの上に『それ』は現れた。黒鉄色に輝く、ずっしりとした重量感のある延べ棒。
「紛うことなき鉄……やっと会えたな」
私はそれを手に取り、ひんやりとした感触を確かめる。そして、テーブルの上に手持ちのインゴットを並べてみた。
赤金色の『銅』。
白銀色の『銀』。
軽くて白い『アルミ』。
そして、重厚な黒鉄色の『鉄』。
壮観だ。これで、近代工業に必要な素材はほぼ揃ったことになる。
さて、この鉄を使って最初に何を作るか。強力な銃器か、頑丈なツールか、それとも……。
いや、と一旦考えるのを止める。
確かに武器や装備なども大事だが、それ以前に必要なものがあるじゃないか。ここまでの中で何回か言った、あの文明のエネルギー。
そこまで考えたところで、私の視線は、自然と【電力・発電】のカテゴリーへと吸い寄せられていった。




