024『明かり』
銅の時代の真っ只中にいる俺――いや、私か。
私は、初めてこの森に放り出された時とは格段に違う、充実した生活の基盤に感慨深いものを感じていた。
名前も『ステラ』と決めた。
そう名乗った瞬間から、借り物だったこの白銀髪の美少女ボディが、初めて「自分のもの」として馴染んだ気がする。
こうして異世界に飛ばされた理由は未だに謎だが、ひとまずは生きている。そして、結構楽しんでいる。そのことに感謝しよう。
「さて、と。まずは武器の更新だな」
「わふ?」
「今使ってるクロスボウの矢は、石だからな」
俺は手始めに、手持ちの矢を全て『銅の矢』にアップグレードした。
石の矢じりよりも鋭利で、貫通力が高そうだ。今のところフォレストボア以外の脅威には遭遇していないが、自衛道具は常に最新にしておくのがゲーマーの鉄則だ。
だが、銅の恩恵は武器だけじゃない。
むしろ、今の私にとって重要なのは「生活の質(QOL)」の向上だ。
「よし、次は照明のリフォームだ」
部屋を見渡す。
壁に掛けられているのは、最初期に作った『木の壁掛けランタン(樹脂式)』だ。
樹脂を使っているため火の粉は飛ばない仕様だが、木造の家の中で、木の受け皿の上で火を燃やすというのは、精神衛生上よろしくない。いつか引火しそうで怖いのだ。
「今の環境なら、銅もあれば、粘土を焼いた『ガラス』もある」
俺はクラフトテーブルの前に立ち、素材を並べた。
赤金色のインゴットと、透明なガラス板。
「木製カバーの手順は飛ばして……一気にオシャレなやつを作るぞ」
選択したのは、『銅とガラスのランタン(樹脂式)』。
決定ボタンを押すと、光の粒子が集まり、カシャンという小気味よい音と共に完成品が現れた。
「おお……! アンティークだ!」
それは、地球の雑貨屋や骨董品店に置いてありそうな、レトロで美しいランタンだった。
磨き上げられた銅のフレームの中に、厚手のガラスカバーがはめ込まれている。これなら倒れても火が外に漏れることはないし、何より見た目が最高にいい。
「結構オシャレじゃないか?」
「わん!」
「ポチもそう思うか?」
「わふわふ」
ポチも尻尾を振って同意してくれた(多分)。
早速、室内の木製ランタンを全てこれに取り替える。
火を灯すと、ガラス越しに揺らぐ炎が銅のフレームに反射し、部屋全体が温かく、どこか幻想的な色合いに包まれた。
山小屋から、一気に文明的な『洋館』へと雰囲気が変わった瞬間だ。
「よし、この調子で外も行くぞ」
日は落ちて、外は既に暗い。
今までは焚き火の明かりだけが頼りだったが、家から外を見るとよるとは当然のように真っ暗。暗黒と言ってもいいくらいだ。
月や星の明かりはあるがここは森の中というのもあってそこまでの恩恵がない。それに曇っている日だとそんな光さえもなくなるから真っ暗なのだ。
闇の中にいるような感覚は妙に落ち着かない。家の中は明かりがあるからいいが……まあそんなわけで外にも明かりが欲しいと思った。
「外には……これだ。『レトロな街灯(樹脂ランタン式)』」
石材のポールと、銅とガラスのランタンを組み合わせた街灯だ。
俺はこれを複数作成し、玄関からフェンスゲートまでの道沿いと、貯水槽の周りに等間隔で設置していった。
次々と明かりを灯していく。
闇に沈んでいた拠点の庭が、柔らかなオレンジ色の光で道筋を描き出した。
「……うわぁ」
思わず声が漏れた。
石畳の通路、ログハウス風の家、そして等間隔に並ぶレトロな街灯。
そこはもう、ただのサバイバル拠点ではなかった。まるでファンタジーRPGに出てくる『始まりの街』の風景そのものだ。
街ではないが……だって一軒家しかないし。どっちかというと森の洋館じゃね?
「すごいな。文明の明かりって、こんなに安心するんだ」
フェンスの外は、魔物が跋扈するかもしれない深い森の闇。けど、この柵の中だけは、光に守られた私の城だ。
「わふぅ……」
ポチも、街灯のガラスに鼻先を近づけ、キラキラと反射する光を不思議そうに見つめている。
「いい眺めだろ、ポチ」
「わん!」
美しくライトアップされた我が家を眺めながら、俺――ステラは、この世界で生きていく自信をまた一つ深めるのだった。




