025『大発見』
地下採掘場、第7区画。
第6区画は「源泉管理室」として封鎖したため、俺――いや、『私』は、その脇からさらに深くへと通路を伸ばしていた。
「……ふぅ。流石にこの深さまで来ると、蒸し暑いな」
額に滲んだ汗を拭う。
隣の第6区画にある温泉の熱気が、岩盤を伝ってきているのだろう。天然のサウナ状態だ。
普通なら酸欠や脱水症状を心配するレベルだが、不思議と息苦しさは感じない。
「私の身体、どうなってるんだ?」
重機のようなパワフルさで岩を砕き、サウナの中で重労働をしても息一つ切れない。
万能道具の補正だけではない。この「ステラ」という美少女アバターそのものが、環境適応能力に特化したチート仕様なのだろう。
「それに……」
独り言の一人称が、自然と『私』に定着しつつある。
ステラと名乗り、この生活に馴染むにつれ、元々の男言葉よりも、今の身体に合った言葉遣いのほうが脳への負担が少ないことに気付いたのだ。
精神が肉体に引っ張られている? かもしれない。
「でも、魂までは負けないぞ(キリッ)」
中身はあくまでゲーマーの魂だ。一人称が変わろうと、効率厨の思考回路は変わらない。
そう自分に言い聞かせ、私は黙々と第7区画の壁を掘り崩した。
ガキンッ。
万能スコップが、硬質な音を立てた。
土壁の中に、鈍い灰色をした鉱脈が走っている。
「……っ! この色、この硬さ!」
私は目を輝かせた。
銅のような赤みはない。石材のような白っぽさもない。重厚なダークグレーの輝き。
「ついに来たか!? 鉄鉱石!?」
慌てて掘ってポーチに突っ込み、その名前を確認したところ私はがっかりした。
”銀鉱石”と、インベントリ(ポーチ)には表示されていた。色合いが似ているから仕方がないが、悲しい。
「……銀かーい!!」
ズコーッ、と心の中で盛大にコケた。
いや、嬉しい。銀だって貴金属だし、銅よりも伝導率はいいし、何よりまだ見ぬ脅威(魔物とか?)への特効武器にもなる。
でも、今欲しいのはそれじゃないんだよ。鍋や建材になる鉄が欲しいんだよ。
「はぁ……まあ、いいか。確保確保」
気を取り直し、銀鉱石を根こそぎ回収する。
銀があれば、より高度な装飾品や、鏡、あるいは『電子回路』の配線にも使えるかもしれない。無駄にはならないはずだ。
◇◇◇
銀を掘り尽くした後、私はさらに奥へ進み、第8区画へと到達した。
ここの地層は、また少し毛色が違っていた。
「なんか、土が赤っぽいな?」
赤土のような、粘土のような奇妙な層だ。
試しに掘ってみると、ボロボロとした赤褐色の鉱石が取れた。
同じようにしてポーチの中に入れると、こう書かれていた。
『ボーキサイト』と。
「えっ、ボーキサイト!?」
二度見した。
ゲーマー知識が正しければ、ボーキサイトは『アルミニウム』の原料だ。
アルミといえば、一円玉やアルミホイル、そして航空機の機体にも使われる「軽くて錆びない」超有能金属だ。
「でも待てよ。アルミを精製するには、確か『電気分解』で大量の電力が必要なはずじゃ……」
まだ電気のないこの拠点で、どうやってインゴットにするんだ? でもあのクラフトテーブルなら何やっても驚かない。
試してみたくなり、早足に地上に戻ってクラフトテーブルに乗せてみる。
『ボーキサイトを解析。レシピ【アルミインゴット】が解放されました』
実行ボタンを押すと、一瞬で銀白色に輝く、驚くほど軽い金属の延べ棒が生成された。
「……電気いらずかい」
ある意味予想通りのクラフトテーブルくんだった。もはやツッコむ気力もない。このテーブル、物理法則をねじ曲げすぎである。
だが、これで『アルミ』が手に入った。鉄ほどの強度はないが、加工しやすく、何より軽い。お弁当箱や、錆びない建材、あるいは『ジュラルミン』のような合金への道が開けたわけだ。
「銅、銀、そしてアルミ……」
テーブルの上に並んだ三色のインゴットを眺める。色とりどりで綺麗だが、肝心の『鉄(主役)』がいないのが余計に際立つ。
「焦らしプレイが過ぎるだろ」
私は苦笑いしながら、地下への入り口を見やった。
第8区画までは外れ(いや当たりだけど)だった。だが、鉱脈の流れは変わってきている。次こそは。
「待ってろよ、第9、第10区画。次こそ本命を掘り当ててみせる」
私――ステラは、新たな金属の使い道を模索しつつ、鉄への執念を燃やすのだった。




