022『再認識』
「はぁ……極楽……」
石のバスタブから立ち上る湯気の中で、俺は心からのため息を漏らした。
結論から言うと、自分の裸を見ても特に何もなかった。
お湯を張る際、あまりに熱すぎたので『銅のバケツ』で川から水を運び、うめながら温度調整をした。その作業で忙しかったのもあるが、いざ服を脱いでチャポンと浸かっても、感想は「ああ、こうなったのかー」程度だった。
お湯をすくって、揺れる水面に自分の姿を映してみる。
大きな鏡はまだないからハッキリとは見えないが、胸は驚くほど平らだ。いわゆる「ぺったんこ」である。
股下を確認しても、当然ながら長年連れ添った相棒はいない。
「……まあ、邪魔にならなくていいか」
男の身からすれば、むしろ無いほうがスッキリしていて違和感が少ないのかもしれない。
もし巨乳だったりしたら、肩は凝るし動きにくいしで大変だったろう。
結局は、諦めだ。
女になってしまった事実は変わらないし、元に戻る方法も分からない。
嘆いても叫んでも、今の俺にできることは「この環境で生きていくこと」だけだ。そう腹をくくってしまえば、不思議とどうでもよくなっていた。
「……ふぅ」
そんなことより、今は温泉だ。
硫黄と塩分の香りがするお湯が、疲れた身体に染み渡っていく。シャンプーはないので、髪はお湯で流すだけだ。
これがまた大変だった。背中まである長い髪は、濡れるとずっしりと重い。元々短髪だった俺には扱いが難しく、湯船に浸かると毛先がプカプカと浮いてしまう。
「まあ、これも慣れるしかないか」
綿で作ったタオルをお湯に浸し、顔に乗せる。
見た目は異世界の美少女でも、中身は風呂好きの日本人だ。こうしてお湯に浸かって「ふぅ」と息を吐く瞬間だけは、俺は俺でいられる気がした。
◇◇◇
お風呂から上がり、さっぱりした俺は(驚くほど肌がスベスベになっていて少し引いたが)、早速『排水設備』と『水道工事』に取り掛かることにした。
「流石に、石鹸を使ってないとはいえ、生活排水をそのまま川に流すわけにはいかないよな」
お湯には身体の汚れが含まれているし、塩分も強い。そのまま川に垂れ流せば、生態系に悪影響が出るかもしれない。
浄水装置が作れない現状、最善策は『地下浸透』させることだ。
「万能スコップくん、出番だ」
俺は浴室の裏手、川からも井戸からも離れた場所に、深く大きな穴を掘った。そして、底に細かな砂利と、その上に大きめの石をぎっしりと敷き詰める。
これが簡易的な『浸透枡』だ。
浴室からの排水パイプをここに繋げば、お湯は石の隙間を通ってゆっくりと地中に染み込み、土壌バクテリアによって自然分解・濾過される。
最後に、空気抜きの穴を開けた石の蓋をして、土を被せれば完成だ。
「よし、これで環境汚染の心配はない」
次は、給水の方だ。お湯を入れる時、いちいちバケツで川から水を運ぶのは重労働だった。
幸い、銅の在庫は潤沢にある。
「川から引いている水路を分岐させて……」
俺はクラフトテーブルで大量の『銅のパイプ』と『チーズ(分岐管)』を作成。
屋外の貯水槽へ向かうパイプラインから一本分岐させ、それを浴室まで引き込んだ。
浴室の壁に穴を開け、温泉の蛇口の隣に、もう一つ蛇口を設置する。
「ひねればお湯、ひねれば水。……完璧だ」
これで、熱すぎる源泉を好みの温度に調整できる『混合水栓』システムの完成だ。
現代日本では当たり前の設備だが、ゼロから作った身としては感動もひとしおである。
まあ、あくまで水路からの水を入れているので飲めるかどうかはまた別だが。当分の間は熱湯殺菌した水を飲むほうが無難だ。
「風呂上がりの一杯、といきたいところだが……」
喉が渇いたが、まだ牛乳はない。俺は代わりに未だに熱湯殺菌で作った水を銅のコップに注いで一口飲む。
「早いところ浄水装置も欲しいな」
そう呟いて一気に水を飲み干すのだった。




