021『温泉』
採掘場の第6区画。
そこは今、ちょっとしたサウナ状態になっていた。
「あつっ、熱い熱い!」
俺は噴き出す蒸気とお湯を避けながら、必死に作業を進めていた。
驚くことに、ここで温泉を掘り当ててしまったのだ。嬉しい誤算ではあるのだが、問題が一つ。
このまま放置すると、この採掘場がお湯で水没してしまうのだ。
「早く蓋をしないと、第5区画まで浸水しちまう!」
俺はポーチから、急造した『銅のキャッピング・ユニット(蓋)』と『銅のパイプ』を取り出した。
クラフトテーブルで作成した特注品だ。
勢いよく噴き出す源泉に、銅のドーム状の蓋を被せる。
カンッ、と音がして、蒸気の行き場がなくなる。その瞬間、蓋に接続された銅パイプの方へ、「ゴウッ!」と音を立ててお湯が吸い込まれていった。
「よし、圧力は十分だな!」
上に持っていくのにポンプとかが必要かと思ったが、結論から言えばポンプは必要なかった。
ここの温泉は、地下の圧力で勢いよく噴き出す『自噴泉』だったのだ。パイプで密閉してやれば、その自然な圧力だけで勝手に地上まで登ってくれる。
それにパイプの中に入れておけば、結局は溜まるにつれて上に押し出されていくから、最終的に地上に行くことは可能だ。
むしろ圧力が強すぎてパイプが破裂しないか心配なくらいだが、そこは逃し弁をつけて調整することにした。
「……ふぅ。なんとか水没は免れたか」
配管作業を終え、俺は汗だく(蒸気のせいだが)で一息つく。
第6区画はこれで完全に「源泉管理室」になってしまった。これ以上奥へ掘り進めるのは不可能だ。
「まあ、当分は『銅の時代』かなぁ……」
「わふ?」
「鉄が欲しいんだよな。それが中々見つからんのだよ」
首を傾げるポチに愚痴をこぼす。
温泉も銅も手に入ったが、産業革命の要である『鉄』だけが未だに見つからない。第6区画が潰れた以上、次は方向を変えて新しい採掘ルートを掘らなければならないだろう。
◇◇◇
地上に戻った俺は、早速パイプラインの終点である『お風呂場』の建設に取り掛かった。
「露天風呂も憧れるけど……やっぱり最初は『屋内』だな」
開放的な露天風呂も捨てがたいが、今の俺にはハードルが高い。
ポチがいるとはいえ、いつ森の動物や、万が一の来訪者が来るかわからない場所で、乙女の裸を晒すわけにはいかないのだ。
俺は母屋の横に増築する形で、小さな『浴室棟』を建てることにした。
石材を敷き詰めた床に、排水用の溝を掘る。そして中央には、贅沢に石材を削り出して作った『石のバスタブ』を設置。
そこに、地下から引いてきた銅のパイプを接続し、最後にクラフトテーブルで作った『銅の蛇口』を取り付ければ完成だ。
「よし……通湯式といこうか」
期待に胸を高鳴らせて、ひねるタイプの蛇口を回す。
――ボフッ、ジョロロロ……ドババババ!
最初は空気の抜ける音がして、すぐに白濁した熱いお湯が勢いよく吐き出された。湯気が浴室に充満し、硫黄と潮の香りが鼻をくすぐる。
「おおおおっ……! 温泉だ、マジで温泉が出た!」
感動で少し泣きそうになる。
石のバスタブにお湯が満たされていく間に、俺はもう一つの実験を行った。銅鍋にお湯を入れ、外の焚き火にかけて水分を蒸発させる。
しばらく煮詰めると、鍋の底には白い結晶が残っていた。
「……舐めてみるか」
指ですくって口に入れる。
ガツンとくる塩辛さと、微かな苦味。
「塩だ……!!」
精製していないのでミネラルたっぷりの粗塩だが、紛れもなく塩だ。これで味気なかった焼き肉生活ともおさらばできる。料理の革命だ。
この塩をクラフトテーブルに持っていけば塩ができるかもしれない。いや、たぶんあのクラフトテーブルくんのことだ、塩なんて作るのはお茶の子さいさいだろう。
むしろ、わざわざ自分の手でやらずとも作れるのでは? 後で試してみるか。
「鉄はないけど、今日は最高の記念日だな」
バスタブから溢れ出るお湯(オーバーフローした分は排水溝へ流れる仕組みだ)を見て、俺はゴクリと喉を鳴らした。
さて、準備は整った。
いよいよ、覚悟を決めて『入浴』の時間だ。




