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TS少女の異世界のんびりクラフト日記  作者: 月夜るな
3章:金属の時代(メタル・エイジ)

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20/25

020『まさかの発見』

 ……ここまで、あえて深く考えないようにしていたことがある。


「そう、風呂だ」

「わふ?」


 ポチが不思議そうに首を傾げるが、これは日本人としての尊厳に関わる問題だ。

 別に忘れていたわけではない。家を建てる頃には、既に「いつかはお風呂を」という算段はあった。


「くんくん」


 自分の匂いを嗅いでみる。

 ……無臭だ。

 このファンタジーな美少女ボディになってからというもの、驚くべきことに汗をかいてもベタつかないし、体臭というものが存在しないらしい。泥汚れなどは付くが、拭けば落ちる。

 だからこそ、今まで誤魔化しが効いていた。


「だが、日本人の魂が『湯船に浸かりたい』と叫んでいるんだ」


 清潔かどうかだけの問題じゃない。熱いお湯に肩まで浸かって「ふぅーっ」と息を吐く。あのリセットの時間が必要なのだ。


「銅が手に入った今、技術的な障壁はなくなった」


 クラフトテーブルのレシピには『銅のパイプ』や『銅の蛇口』がある。

 これと『銅のバケツ』や『銅のバスタブ』を組み合わせれば、川から水を引いて、室内で沸かすシステムは構築可能だ。


 だが、問題はもっと根本的なところにある。


「今一度、俺の身体について直視する必要がある……ってことか」


 俺は元々、しがない成人男性のゲーマーだ。

 だが今の俺は、白銀の髪にオッドアイ、華奢で柔らかな肢体を持つ美少女だ。元々の顔の面影など1ミリもないし、当然、ついているべきモノもついていない。


 お風呂に入る、即ちそれは、裸になるということ。

 川で手や顔を洗うのとは訳が違う。全身を晒し、この身体を隅々まで洗う行為は、自分が「女になってしまった」という現実を嫌でも突きつけられる儀式になるだろう。


「……はあ。いい加減、腹をくくるしかないか」


 もうこの身体になって結構経っている。戻れる見込みもない。

 羞恥心で風呂に入らず一生を終えるなんて、それこそただの変態だ。


「よし、やるぞ。まずは水源の確保だ」


 俺は気合を入れ直し、立ち上がった。

 川からパイプを引くのもいいが、冬場のことを考えると水温が低いのが難点だ。

 どうせなら、前回の目的だった『岩塩』を探しつつ、もっと深くまで掘ってみよう。あわよくば、水質のいい地下水脈に当たればラッキーだ。


◇◇◇


 地下採掘場、未踏の『第6区画』。

 俺は湿った土の匂いを感じながら、万能スコップを振るっていた。


「ここら辺、地層が変わったな……」


 第5区画までは硬い岩盤だったが、このエリアは少し脆く、そしてほんのりと暖かい気がする。

 岩塩は見つからないが、何かの予兆を感じる。


 ザクッ。

 スコップを突き立てた瞬間、そこから「プシューッ!」という音と共に、白い蒸気が噴き出した。


「うおっ!?」


 慌てて飛び退く。

 蒸気に続いて、ドボドボと勢いよく透明な液体が湧き出してきた。

 水だ。いや、この湯気は……?


「……あ、熱っ!?」


 そっと指先で触れてみて、確信する。

 熱い。火傷するほどではないが、40度以上はある。

 そして鼻をつく、微かな硫黄と潮の香り。


「これ……まさか……」


 俺は震える手で、湧き出したお湯を少しだけ舐めてみた。

 温かい。そして、しょっぱい。


「……温泉だあああああああああっ!!」


 地下の空洞に、俺の絶叫がこだました。

 地下水脈どころじゃない。まさかの『塩化物泉(食塩泉)』だ!


「嘘だろ!? 岩塩を探してたら、塩分入りの天然温泉掘り当てちゃったよ!!」


 これは革命だ。

 源泉かけ流しの温泉が入り放題。しかもこのお湯を煮詰めれば、念願の『塩』も手に入る。

 一石二鳥なんてレベルじゃない。一石百鳥くらいの神引きだ。


「……決めた」


 俺の中で、裸になることへの羞恥心や葛藤は、湯気と共に霧散した。


「今すぐここにパイプを通して、家までこのお湯を引く。絶対にだ!」


 日本人のDNAが叫んでいる。

 恥じらいなんて知るか。俺は今すぐ、この最高のお湯に浸かりたいんだ!


 俺は興奮のあまり万能スコップを握りしめ、ポチが待つ地上へ向かって全力疾走した。

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