019『銅の時代の足音』
「……ふふふ。ポチよ、見ろ。ついに我が拠点に『銅の時代』がやってきたぞ」
「わふ?」
「今までが石器時代だったからな。これは歴史的な一歩なんだ」
首を傾げるポチに、俺は目の前に積み上げた戦利品を指差して説明する。
テーブルの上には、赤金色の輝きを放つ『銅のインゴット』が山のように積まれていた。
まあポチがこちらの言葉が通用しているかは謎なところだが。
地下採掘場の第4区画だけでなく、試しに掘り進めた第5区画も銅の鉱脈だったのだ。
残念ながら鉄は見つからなかったが、銅の在庫は一生分あると言ってもいいレベルだ。
「さて、何を作るかだが……」
レシピリストを開くと、銅製品のアイコンがキラキラと輝いて俺を誘惑してくる。
定番の『銅のツルハシ』『銅の斧』『銅のクワ』などが並んでいるが……正直、ツール系は今のところ必要ない気がする。
何せ俺には、岩盤すら豆腐のように切り裂く『万能スコップくん』や『万能ノコギリくん』がいるからだ。耐久度無限で切れ味抜群のチート道具があるのに、わざわざ劣化する銅の道具を使うメリットがない。
「となると、やはり生活用品一択だな」
俺は迷わず【調理・生活】カテゴリーをタップした。
「まずは『銅のフライパン』と『銅鍋(大)』。あと、お風呂用にお湯を運べる『銅のバケツ』も作成っと」
必要な素材は銅インゴットのみ。
決定ボタンを押すと、光の粒子が集束し、赤みがかった美しい金属光沢を放つ調理器具が現れた。
「おお……! 金属だ、紛れもなく金属の鍋だ!」
石鍋とは違う、薄くて硬質で、洗練されたフォルム。指で弾くとキーンと澄んだ音が響く。
これなら熱伝導率は抜群だし、汚れも落ちやすい。
ついでに『銅の包丁』も作ってみた。切れ味はステンレスには劣るかもしれないが、石のナイフよりは遥かにマシだろう。
「よし。早速このフライパンの実力を試してみるか」
俺はポーチから保存しておいた『フォレストボアの肉』を取り出し、銅の包丁で厚切りのステーキサイズにカットした。
焚き火の上に五徳を置き、銅のフライパンを熱する。
温まったところに脂身を引いて馴染ませ、肉を投入!
――ジュワアアアァッ!!
「いい音……!」
石板で焼いた時の鈍い音とは違う、軽快で食欲をそそるサウンドが森に響く。
銅の高い熱伝導率のおかげで、肉の表面が一瞬で焼けて肉汁を閉じ込めているのが分かる。
「ポチ、お前の分もあるからな」
「わんっ!(尻尾ブンブン)」
焼き上がったステーキを木の皿に乗せ、フォークで突き刺してかぶりつく。
「んむっ……! あつつ、美味いっ!」
表面はカリッと香ばしく、中はジューシー。火の通りが均一なおかげで、石焼きの時よりも数段レベルの高いステーキになっている。
素材の味(ボア肉の旨味)が口いっぱいに広がり、俺は至福の表情を浮かべた。
……しかし。
「……やっぱり、アレがないな」
飲み込んだ後、俺は少しだけ切ない顔で呟いた。
美味しい。美味しいのだが、決定的に足りないものがある。
「塩だよ、塩……」
肉の旨味を引き立てる、あの一振りの魔法。
ソースやスパイスなんて贅沢は言わない。せめて塩さえあれば、このステーキは星三ツの味になるはずなのに。
「近くに海はないし、川の水も淡水だ」
この世界の海がどうなっているかは知らないが、少なくともこの森周辺に塩水はない。
となると、希望は一つだけ。
「『岩塩』に期待するしかないか」
かつて海だった地層が隆起していれば、地中に岩塩層がある可能性がある。
銅が見つかったんだ。もっと深く、あるいは別の区画を掘れば、塩が見つかるかもしれない。
「よし、次の目標は決まったな」
俺は味のない(けど美味しい)ステーキを噛み締めながら、新たな欲望に燃えるのだった。
待ってろよ、塩。絶対に見つけ出してやる。




