017『フォレストボアと狼(?)』
「『フォレストボア(魔物)』……ねえ」
ついに、ファンタジー要素とご対面したらしい。
拠点に運び込んだ角付きイノシシをクラフトテーブルに乗せると、解析結果にはハッキリと【魔物】という表記があった。
レシピにも『フォレストボアの肉』や『魔物の角』『魔物の毛皮』といった、ゲームでお馴染みの素材名が並んでいる。
「いや、まだ断定は出来ないが……これでほぼ確実だろうなぁ」
ここが剣と魔法のファンタジー世界である確率は99%だ。
懸念していたバイオハザードなポストアポカリプス世界ではなさそうで安心した。そんな世界だったら、こんな丸々と太った野生動物なんて居ないだろうし、居たとしてもウイルスに感染してゾンビ化しているはずだ。
「でもまあ、魔物だろうが何だろうが、鑑定結果は『食用可』だ」
どうやら美味しいお肉らしい。解体レシピを実行すると、スーパーで売っているようなブロック肉が大量に生成された。こいつ一頭だけで、俺一人の消費量なら一ヶ月分くらいの食料になりそうだ。
「問題は保存場所なんだよなぁ」
冷蔵庫なんて文明の利器はない。燻製や干し肉にする手もあるが、これだけの量を加工するのは手間だ。このまま置いておけばすぐに腐ってしまう。
「……ま、ポーチに入れとけば問題ないか」
俺はブロック肉を次々と万能ポーチへ放り込んだ。
以前、実験をしたことがある。沸騰した熱湯を木の器に入れてポーチにしまい、数日後に取り出してみたのだ。すると、お湯は湯気を立てたまま、全く冷めていなかった。
つまり、このポーチの中亜空間は『時間が停止している』か、あるいは『状態が保存される』仕様なのだ。
「最強の冷蔵庫(冷凍庫?)だな」
これなら腐る心配はない。
俺は今夜のディナー用に少しだけ肉を残し、あとは全て収納した。
ちなみに、まだ鉄板はないので、平らな石材を火で熱して『石焼ステーキ』にする予定だ。楽しみすぎる。
◇◇◇
その日の夕方。
拠点の外周を見回っていた俺は、またしても「お客様」の気配を感じた。
「……クゥ~ン」
「お、おう?」
フェンスの外、ゲートの近くにうずくまる影があった。
最初はまたフォレストボアが突っ込んできたのかと警戒したが、様子が違う。
銀色の毛並みをした、大型犬……いや、狼だ。
「……生きてるな」
狼はぐったりと横たわっていたが、俺の姿を見ると弱々しく鳴き声を上げ、すがるような瞳でこちらを見てきた。敵意は感じられない。
よく見ると、脇腹のあたりが赤く滲んでいる。何か別の魔物と戦って傷ついたのだろうか。
「怪我してるのか……」
「くぅん……!」
ここで見捨てて、翌朝死体の処理をするのは寝覚めが悪い。それに、妙に人懐っこいというか、知性を感じる瞳をしている。
俺は警戒しつつゲートを開け、狼のそばに近付いた。
「噛むなよ? 今手当てしてやるからな」
俺はポーチから『清潔な包帯』と水筒を取り出した。
畑で育てた綿をクラフトテーブルで加工した、出来たての包帯だ。消毒液はないが、綺麗な水で傷口を洗い流し、圧迫止血くらいなら出来る。
狼はされるがまま大人しくしていた。傷口を洗うとしみたのかビクッと震えたが、暴れることはない。俺は手際よく包帯を巻き、処置を終えた。
「よし、こんなもんか」
「わん!」
狼は嬉しそうに尻尾を振った。鳴き声は「わん」なのか。可愛いな。
まだ立ち上がるのは辛そうだが、峠は越えたようだ。
「うーん……」
この狼くん、どうするか。
怪我が治るまでは面倒を見てやってもいいかもしれない。広い家で一人きりというのも、少し寂しかったところだ。
「なあ、ちょっとモフってもいいか?」
「わふ!」
「よし、交渉成立」
特に嫌がる素振りもないので、俺はそっと狼の頭に手を伸ばした。
サラサラとしていて、それでいて冬毛のように柔らかく温かい感触。
「おお……いい手触りだ……!」
「はっ、はっ、はっ」
丁寧にワシャワシャと撫で回すと、狼くんは目を細めて気持ちよさそうに身を委ねてきた。
この温もり。一人ぼっちの異世界生活で、初めて触れた他者の体温だ。
「よし。お前は今日からウチの子だ。肉ならたくさんあるから食っていけ」
俺は嬉しくなって、夕飯用の肉を一切れ、狼の口元へ差し出した。




