016『出会い(?)』
「……今更だが、このクラフトテーブルの仕様は謎だらけだな」
地下採掘を一休みし、俺はリビング(兼作業場)で腕を組んで考え込んでいた。
議題は、この万能ツールの『レシピ解放条件』についてだ。
最初から『木の壁』や『核融合炉』といった膨大なレシピが表示されている一方で、『草糸』や『魚の切り身』のように、実物をテーブルに乗せて解析しないと表示されないレシピもある。
この違いは一体なんだ?
「うーむ……」
最初は「この世界に存在しない素材(未知の生物など)」は解析が必要なのかと思った。
だが、それなら『草繊維』はどうだ? 雑草なんてどこにでもあるし、テーブルのデータベースにあってもおかしくないはずだ。
逆に、なぜ『核融合炉』なんていう超未来技術の設計図が最初から入っている?
「特定の『現物』を認識させることで、関連する技術ツリーがアンロックされる仕組み……とか?」
食べ物は一旦解析しないと毒性が分からないから? いや、雑草は食料じゃない。
いくら考えても答えは出ない。開発者(神様?)の気まぐれなのか、あるいは俺がまだ気づいていない法則があるのか。
「まあ、考えるだけ無駄かぁ」
便利なのは間違いないのだ。今は「そういうもの」として受け入れるしかない。
そう結論づけて、お茶でも飲もうと立ち上がった時だった。
――ズドンッ!!
家の外から、何かが激突したような重い音が響いた。続いて、ブギィィッ! という短い断末魔のような悲鳴。
「……動物か?」
ついに、何かがやってきたか?
俺は即座に装備していた小型拳銃を構え、壁際に身を寄せながら窓へと近づいた。
ちなみにこの窓ガラスは、川辺で採掘した粘土質の土をクラフトテーブルで焼成して作った『透明な強化ガラス』だ。粘土からガラスができるなんて化学的にどうなんだと思うが、出来てしまったものは仕方がない。
窓の端から、そっと外の様子を伺う。
「……ふむ」
拠点を囲む『棘付き石フェンス』の一角。そこに、茶色い毛玉のような塊が突き刺さっていた。
鋭利な石のスパイクが深々とボディに食い込み、ピクリとも動かない。
「イノシシ……?」
遠目に見るシルエットはイノシシだ。だが、俺の知っているイノシシとは決定的に違う部分がある。
額のあたりから、一本の鋭い『角』が生えているのだ。
「ユニコーンならぬ、ユニ・ボアか。……完全にファンタジー生物だな」
どうやら、俺の作った要塞(自宅)の防衛機能は正常に作動したらしい。
俺はクロスボウと石槍を背負い、警戒しながら玄関のドアを開けた。
◇◇◇
外に出て、フェンス越しにその動物を観察する。
「……死んでる、よな?」
石の棘が急所を貫いているのか、あるいは激突の衝撃で首が折れたのか。その『角付きイノシシ』は完全に沈黙していた。
大きさは軽自動車のタイヤくらいだろうか。丸々としていて、中々にいい肉付きをしている。
「よし」
動かないことを確認してから、俺はフェンスゲートを開けて外へ回り込んだ。
棘から死骸を引き抜き、前足を持って持ち上げてみる。
「……ん? 意外と軽いな」
見た目の質量からして、50キロ以上はありそうに見えたのだが、持ち上げてみると米俵(30キロ)よりも軽く感じる。
いや、イノシシが軽いんじゃない。
この、細腕の美少女ボディが『異常に力持ち』なのか?
「マジかよ……」
試しに片手で持ち上げてみたが、ふわりと持ち上がった。
どうやら俺の身体スペック(STR)は、見た目に反してゴリラ並み……いや、何らかの身体強化補正が掛かっているらしい。これも転生特典の一つか。
「ツンツンツン」
念の為、石槍でツンツンしてみるが、やはりピクリともしない。
「よし。とりあえず中へ運んで、クラフトテーブルくんに鑑定してもらうか」
俺は角付きイノシシをひょいと肩に担ぎ(絵面はシュールだが)、意気揚々と拠点の中へ戻っていった。
これが食べられる肉なら、久しぶりのご馳走だ。それに、毛皮や角も新しい素材になるかもしれない。
俺の期待通り、クラフトテーブルに乗せた瞬間、空中のウィンドウが輝き出すのだった。




