014『防衛大事』
「さて、本格的に地下へ潜る前に……まずは拠点の守りを固めるとするか」
俺は拠点の前に積み上げられた、大量の石材の山を見上げて腕を組んだ。
水路工事やブランチマイニングの初期段階で掘り出した石が、インベントリを圧迫するほど溜まっているのだ。
「木の柵……いや、これだけあるなら『石の柵』のほうがいいな」
木材は伐採すればまた生えてくるまで待つ必要があるが、石はこの世界の大地そのものだ。地面を掘れば幾らでも出てくるし、事実上無限のリソースと言っていい。
それに、木造の柵より石造りの塀のほうが、耐久度的にも安心感がある。
「この森、今のところ鳥以外の野生動物には遭遇してないけど……」
居ないはずがないのだ。これだけ豊かな森なのだから、イノシシや狼、あるいはもっと凶暴なファンタジー生物(熊とか)が居てもおかしくない。
俺が地下で作業している間に、地上の畑を荒らされたり、拠点を破壊されたりしたら目も当てられない。早いうちに対策をしておくべきだ。
俺は家の中へ戻り、クラフトテーブルの前に立った。
カテゴリーから【建築・防衛】のタブを開き、フェンスの項目をスクロールしていく。
「お、あったあった。『石のフェンス』。……ん?」
リストを眺めていた俺の手が止まる。
そこには、石や木のフェンスに混じって、明らかに異質な名前が並んでいた。
『電気フェンス(高電圧)』
『レーザーフェンス(対人・対物)』
「……は?」
二度見した。
電気? レーザー? ここ、剣と魔法(魔法はないけど)の異世界だよね?
いや、現代地球でも電気柵はあるけど、レーザーってなんだ。バイオハザードの映画でしか見たことないぞ。
いままあ、まだ魔法とか確認できてないからそんなありがちなファンタジー世界かも確信できないのだが。
「いやいや、電気が必要だろ。どうすんだよ」
呆れ半分で、関連カテゴリーとして表示された【電力・発電】のタブをタップしてみる。
そこには『火力発電機』や『ソーラーパネル』といった現代的な設備が並び……そして、一番下にそれはあった。
『小型核融合炉(要:重水素・超伝導コイル)』
「……ねえ、なんかおかしくなぁい?」
俺は美少女ボイスで盛大にツッコんだ。
核融合炉って、お前……俺が元いた現代日本ですら、まだ実験段階で実用化されていなかった「夢のエネルギー」だぞ?
それがなんで、こんな木のテーブルのレシピに載っているんだ。
「……やっぱりこいつ、SF映画に出てくる『惑星開拓用ナノマシン』か何かなんじゃないか?」
だとしたら、全ての辻褄が合う。素材さえあれば何でも作れるのも、未来の技術が含まれているのも納得だ。
「まあ、今の俺には逆立ちしても作れないけどな」
レシピを確認すると、見たこともないレアメタルや、複雑な電子部品が大量に要求されている。
これを作る前に、俺の寿命が尽きるほうが先だろう。今の俺はまだ、火を起こして喜んでいる原始人なのだから。
「夢を見るのはやめて、現実に戻ろう」
俺はそっと【電力】タブを閉じ、再び【防衛】タブに戻った。
今の俺に作れて、かつ最強の防衛設備はどれだ。
「……あ、これいいかもしれんな。『棘付き石フェンス(スパイクウォール)』」
普通の石のフェンスの頂点や側面に、鋭利に加工した石の棘がびっしりと生えている凶悪な代物だ。
殺傷力は高そうだし、これを乗り越えようとする獣(あるいは不審者)は、串刺しになる覚悟が必要だろう。
見た目は魔王城みたいで少し怖いが、背に腹は代えられない。
「よし、これだ。石材なら腐るほどあるしな」
俺は大量の石材を投入し、棘付きフェンスと、出入り用の『強化石材ゲート』を作成した。
早速、家の周りと畑、そして貯水槽を含めた生活エリアをぐるりと囲むように設置していく。
ドスン、ドスンと重厚な石の壁が並び、あっという間に俺の拠点は『森のログハウス』から『要塞』へと姿を変えた。
「……うん、中々威圧感があっていいな」
棘だらけの壁に囲まれた中心で、白銀髪の幼い美少女が仁王立ちしている光景。
客観的に見たら「深窓の令嬢が幽閉されている塔」か「魔王の幼少期の隠れ家」にしか見えないが、まあ防犯性能は完璧だ。
「これで地上は安心だ。心置きなく地下へ潜れる」
後顧の憂いを断った俺は、次なるステップ――鉄と銅を求める『産業革命』への準備を整えるのだった。




