3.一人の時間
サマリは帰路を歩いていた。夕焼けに染まる港町の景色は美しいが、彼女にとっては日常の風景だった。
突然、耳にジンの声が飛び込んできた。
「サマリ様!!」
サマリは声の主を見ると、息を切らせて駆け寄ってきたジンだった。彼女は息を整えると、サマリに向かって話しかけた。
「なに?」
サマリの問いに、ジンは口ごもりながら言葉を続けた。
「あの、少し、申し上げにくいのですが、請け負った仕事の予算が超えそうなので…その…」
サマリはジンの言葉を聞いて、眉をひそめた。
「予算が超えそうってこと?」
ジンは恐る恐る頷いた。
「はい、申し訳ございませんが、予定よりも予算がかさむ可能性があります。」
サマリは深く考え込んだ後、重いため息をついた。
「そうなのね…。了解したわ。後ほど詳細を報告してくれる?」
ジンは安堵の表情を浮かべた。
「はい、承知しました。ありがとうございます、サマリ様。」
ジンは松明棒をサマリに向けた。
「今日もお願いします」
サマリは微笑みながら、松明に火をつけた。
「いつものね。気をつけて行きなさいよ」
「ありがとうございます、サマリ様。」
サマリは離れゆく彼女の姿を見送った後、再び歩みだして自宅に戻った。
書類の入ったカバンを放りだして髪を束ねると、桶に溜まった水で顔を洗った。差し込む夕陽に反射する水面に映る自分の顔を見つめる。
「ひどい顔…」
ビスマスにこんな顔で話していたと思うと、身嗜みの整っていない自分が情けなく感じる。サマリは鏡を取り出し、そばに立て掛けて自分の容姿を再確認して髪を解いた。
髪油を手につけて、ゆっくりと髪を梳かす。
「あの人に少しでも似ていると思うと、それだけでも嬉しい気持ちになるかも…」
髪を梳かしながら、もっと髪を伸ばしたらあの人になれるかもしれない、そして真似なんかしたりして…。
サマリは腕を組んで息を吸い、モノマネを始めた。
「サマリ、あなた…自分の体調管理もできないの?まったく、いつも書類に埋もれてるばかりで、少しは外の世界を楽しみなさいよ。そんなんじゃ、何もかもが無駄になるわよ。」
一人で言い終わった後、サマリは自分で言った言葉に少しイラッとしながらも、どこか満足げな表情を浮かべた。
彼女は鏡を元の場所に戻し、書類の山に再び向き合う。だが、その前に一息つきたくて、窓辺に立ち外の景色を眺めた。
サマリは窓辺に立ち、港町の静けさに心が和むのを感じた。夕焼けから夜の帳が降り始める。
深呼吸をして、しばしの間、何も考えずにその景色を見つめていた。
「こんな静かな時間がもっと増えればいいのに…」
サマリは独り言のように呟き、目を閉じて心を落ち着けた。
書類の山を一瞥し、自分の責任の重さを改めて感じた。だが、その一方で、もっと自由な時間が欲しいという気持ちも捨てきれない。いつも仕事に追われ、心の休まる時が少ない自分を哀れに思った。
「私は一体何をしているのかしら…」
サマリは再び窓の外に目をやり窓を開けて、遠くの海を見つめた。
波の音が心地よく響き、彼女の思考をゆっくりと落ち着かせていく。
「もう少し、頑張ろう…」
そう決意すると、サマリは窓を閉じて椅子に座り、書類に目を通し始めた。だが、心の中ではまだ静かな波の音が響いていた。




