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ハヤトが『銃』を自慢するように左右に振る。
だが、イラついてもいるようであった。
「なんだって、この世界に合わせるようなことするんだか。普通に弾撃つようにしろや。あのアホガキっ!」
魔道具を作り出せる男であったが、自分で作った物では無いらしい。
今この場において脅威な道具であるのに、作った人物への苛立ちから舌打ちしていた。
タカヒロたちを前にして、油断していると言えた。
そこに、フクフクが上空から襲い掛かる。
タカヒロたちを舐めたような仕草をしていたが、ハヤトは警戒を怠っていたわけではなかった。
フクフクの爪を『銃』で防ぎ、『銃』を撃つ。
また上空へと飛び去っていくフクフクに、『銃』を持っていたとしても撃ち慣れているわけではないハヤトの攻撃は当たらない。
当たらないことの苛立ちを隠さないハヤトは、それでも空に向かって何度も撃ち続ける。
まったく当たらないことに更に苛立ちを強めたハヤトが、手に持っていた『銃』をしまい、別の『銃』を取り出して空に向かって撃ち出した。
先ほどまでの『銃』が石の塊を飛ばすものであったならば、今度の『銃』は雷を飛ばすものだったらしい。
紫色の光が波打ちながら、空に線を走らせる。
先ほどより何が起きているのか見えるが速いものだった。
フクフクは更に高く上がってなんとか避けていく。
「くそっ! もっと使えるもの作れやっ!!」
ハヤトが手元の『銃』を苛立たしげに何度か叩き、それからまた、空に向かって撃ちだす。
ハヤトが苛立って強く叩いたからか、今まで一つの線だったものが、複数の線が枝分かれするように空に伸びで行った。
本来の使い方ではそのような線を打ち出すことは無かったようで、ハヤトの周辺にも線が落ちて来て地面を削る。
フクフクに気を取られている隙に近づこうとしていたタカヒロであったが、土埃が激しく舞いあがっていて近づけなかった。
地面を削る轟音で、石の塊を撃ち出す『銃』に撃たれていたマイがその身を起こす。
空に走る複数の線が広がり、ついにはフクフクの羽に当たってしまう。
短い鳴き声をあげて、フクフクが落ちてくる。
「フクフクっ!」
マイが走り出し、滑り込むようにして落ちてきたフクフクを受け止める。
勢いをつけた飛込みは、フクフクを胸元に抱き寄せたマイを二回、三回と転がらせてから止まった。
「こんな危ないもん、持たせるんじゃねぇよっ!!」
空に撃ち出した線が周囲にも落ちて巻き上がった土や石とその衝撃に、ハヤトは体のあちこちに擦り傷を作っていた。
ハヤトはその原因を作った『銃』を地面に叩きつけ、何度も踏みつける。
タカヒロはその様子を見て思う。
こいつは物に当たるタイプで、ゲームで他の人や敵にやられたとき、相手を褒めるでも自身の下手さを悔いるのではなく、物の不具合のせいにするやつだと。
だから、他の人が作った物を信用せず、自分で作り出せるように願ったのではないかと思えた。
そんなことを考えながらも、今が好機とタカヒロはハヤトに向かって走り出して、剣を振り下ろす。
フクフクと違い、作り出す影も大きければ動きも遅い。
音も響かせる走り方では気づかれないわけは無く、ハヤトはしまっていた『銃』を取り出して受け止める。
「はい、残念!」
『銃』を剣を捻るように滑らし、タカヒロの体に石の塊を撃ち込む。
至近距離で当たる衝撃は大きい。
短い苦悶の声を漏らし、タカヒロは剣を手放して膝から崩れるようにして倒れた。
倒れたタカヒロを見て鼻を鳴らし、ハヤトはマイの方に振り向く。
マイは撃たれた肩とフクフクをかばうようにして転がったことで体を酷く痛めていた。
起き上がって、ハヤトから逃げ出すことが出来ず、動けたとしても逃げ切れそうにはなかった。
「まったく、手間かけんなよっ。おらっ、行くぞ」
ハヤトがマイの撃たれていない方の腕を掴んで引っ張りあげようとするが、マイはそこから動かないようにと抵抗する。
自分本位であり、他者を思いやることが無いハヤトは、右手の甲でマイの頬を力いっぱい打ち据える。
悲鳴を上げて、張り飛ばされるマイ。
抱き抱えているフクフクを放り出さないようにだけ、力を込めていた。
それだけ力を入れて叩けばすぐに動けないのは分かりそうなものだが、ハヤトはすぐに起き上がりもしないマイに更に怒りを募らせる。
「無駄に抵抗してんじゃねぇよっ!!」
今度はフクフクごと蹴り飛ばそうとする。
マイはフクフクを守るようにお腹から胸へフクフクを抱え上げる。
無防備になったお腹にハヤトの蹴りが突き刺さり、マイは苦悶の声を上げてまた転がる。
転がった先には、タカヒロが倒れていた。
ハヤトは口から血を流しているマイを気にすること無く、マイの髪を掴んで持ち上げる。
タカヒロは起き上がれず、それを見ているだけしか出来ずにいた。
間近で撃たれたのでは、身につけていた皮の防具では衝撃を防ぐことなど出来なかった。
当たった所を中心に全身に痛みが広がっている。
このまま寝ていれば、自分は助かるんじゃないか、という思いがよぎってしまう。
何をを一生懸命になっているのか。
そんなキャラではないし、生きることが大事な世界じゃないか、とも思えてくる。
だが、この世界にきて知り合ってきた人の中で、一番近くにいた人たちの姿が浮かんでくる。
物語の主人公のようにすごく強いとは言えないけれど、それでも自分の意思を貫こうと無茶をする人。
自身も辛いこと、悲しいことを抱えているのに、他の人を思いやる人。
こういう時でも、最後まで諦めなさそうなことを言う声。
そして、少し前に交わした約束が思い出される。
目の前でマイが蹴り飛ばされ、髪を掴んで持ち上げられている。
それを見て、このまま倒れているわけにはいかなかった。
腕に力をいれて、体を持ち上げる。
自分の体が、こんなに重いと感じたことはなかった。
体を起こすと言うたったそれだけのことに、タカヒロは歯を食いしばって力を振り絞る。
こういう時、良く雄たけびを上げるのものであるが、そんな力も勿体無い、とふいに思ったりもしてしまうが、そんな余計なことに意識を割き続けられる余裕は無い。
近くにあった剣を掴んで、立ち上がる。
タカヒロは如何にも満身創痍、と言えるような格好であった。
立ち上がったタカヒロに気づいたハヤトは、マイを捨てるように髪を掴んだまま腕を振る。
マイの髪からいくつか引き千切られる音が聞こえた。
マイは声も無く、ただ倒れる。
代わりに、フクフクの弱い鳴き声が聞こえた。
タカヒロは起き上がる時に掴んでいた剣を構える。
持ち上げて振り下ろすのも億劫なほどで、持ち上げる力も無いかった。
だからこそ、剣を腰ダメに構える。
後はどうなろうと、体ごとぶつかればいいと考えたのである。
後のことなんて考えず、タカヒロはただハヤトに向かって走り出した。
「そのまま死んでろ!」
ハヤトが『銃』をタカヒロに向けて撃つ仕草をする。
だが、タカヒロは倒れない。
いや、何も起きなかった。
ハヤトが何度か指を動かすが、石の塊が弾き出されることはなかった。
タカヒロの剣を防いだ時に大きく傷ついた箇所があり、それが原因のようだった。
「これだから他のヤツが作ったものなんて、信用なら無いんだよっ!」
ハヤトが苦し紛れにタカヒロに向かって『銃』を投げつける。
タカヒロの体に当たるが、それだけだ。
タカヒロは止まらない。止まるわけにはいかない。
剣がハヤトの腹に刺さる。
後は体の重さを乗せて貫けば良かった。
しかし、残念なことにタカヒロの体格は細身でそんなに重くも無く、満身創痍である今では、ここから力を込めるほどの残っている力は無かった。
走ってきた勢いがあってなんとか刺さったが、そこまでだった。
ハヤトは刺さったとわかってから後ろに跳び退く。
「ああああああああああああああっ!!」
そして跳ぶと同時に叫び声をあげながら、タカヒロを右手で殴り飛ばした。
もうしっかりと剣を握っていられるほどの力も無かったタカヒロは、剣を放して倒れてしまう。
「ぐあっ」
ただ距離を取るためだけで他に何も考えずに跳んだため、ハヤトは背中から落ちた。
背中を打った痛みと刺さった剣の痛みで、苦痛の声を上げるハヤト。
タカヒロは、ハヤトから数歩はなれた所でうつぶせに倒れている。
タカヒロはもう起き上がれず、ハヤトがゆっくりとその身を起こす。
「痛ぇ……。なんで俺が、こんな目に……。死んだらどうするつもりだ!! 馬鹿野郎がっ!!」
他者は傷つけても、自分が傷つくことをまったく考えていない者の言葉。
「くそっ……。これ抜いたら、余計に血が出て……。危ないやつじゃないか? そうだ。あいつ、まだ力があるんじゃ……。目の前に怪我人がいるんだ。治そうとするだろ」
自分がここまで痛めつけておきながら、悪いとも感じていないハヤトは、ゆっくりとマイに近寄っていく。
意識を取り戻し、うっすらと目を開けたタカヒロは、まだハヤトが動き、マイに近づいていることに気づく。
気づいても、立ち上がる力はもう沸いてこないし、武器も近くにない。
ここまでやって、何も出来ないで終わる。
すべて無駄になる。
それが悔しくて仕方が無い。
これまでも、諦めることが多かった。
だから、最初から期待しないようにしてきたし、距離を置くようにしてきた。
周りがどんどん先に進んでいくのを見ても、仕方がないって言い聞かせてきた。
……そんなわけ、無いのに。
だから、変えたいと願った。
今までに無い力であれば、まったく違うことが出来るようになる。
変わっていけるはずだ、と。
だから、タカヒロは諦めず、ハヤトに向かって手を伸ばす。
それは何かを求めて掴むようだった。
突風が吹いた。
ハヤトの背中を突き飛ばすように、強く。
ハヤトも怪我を負っていて、しっかりと立てていたわけではなかった。
突然、背中を突き飛ばすような風に体を持ち上げられ、バランスを崩して前のめりに落ちる。
「あ」
それがハヤトが発した最後の言葉となった。
しばらくして、マイが目を開ける。
胸のところで怪我をしたフクフクが力弱くはあるが身じろぎして、マイを心配するように小さく鳴き声をあげる。
「よかった……」
討伐の依頼だからと、何も考えずサヴァーの討伐に向かった。
しかし、人を襲ったのも決まった範囲だけで、生まれたばかりのフクフクを守り、育てるためだった。
それに気づかず、タカヒロの魔法を頼んで攻撃してもらった。
避け続けていたサヴァーであったが、フクフクに当たりそうだと気づくと、その身を挺して守った。
それを見たマイは、まだ小さかったフクフクを自分が守らなければと誓っていたのだ。
だから、フクフクが生きていてくれたことに、ただ嬉しかった。
傷む体をなんとか起こして周囲を見回し、近くに背中から剣の切っ先が生えているハヤトが目に入る。
ただ、もうそんな男のことは気にかけるつもりも無かった。
さら辺りを見回して、少し離れた所で仰向けに倒れているタカヒロに気づく。
よろよろと足を進ませ、タカヒロの近くにまで行くが、立っているのも辛く、へたり込むように腰を下ろす。
安心して気が抜けた、と言うのもあった。
タカヒロが笑っていたからである。
「ボロボロだね……」
マイが力無い笑みを浮かべる。
「……ちゃんと守れなくてごめん」
マイは小さく首を横に振る。
タカヒロに何か言おうとして咳き込む。
倒れていたことで喉が痛んでいた。
「手、出して」
タカヒロの言葉に疑問を持ちながらも、フクフクを膝の上に置いて両手を出す。
すると、ふわふわと目の前を水の塊が浮かんできて、マイの手のひらに落ちた。
マイはしげしげと見た後、口をつけて一口飲む。
「……美味しい」
自然と笑みがこぼれてくるマイに、膝元にいたフクフクが声をあげる。
「あ、ごめん。フクフクも欲しいよね」
フクフクの近くに手を持っていくと、フクフクが身を乗り出し、啄むように水を飲んでいく。
「タカヒロ君……。魔法、まだ使えたんだね」
「いや、また使えるようになったんだ。魔法がある世界だから。借り物じゃなくて、自分の力で、ね」
タカヒロは寝転がったまま、自分も水を飲もうと水の塊を生み出し、口に近づけようと動かして、顔の上で水を落としてしまう。
顔を水濡れにしたタカヒロに、二人は声を上げて笑う。
途中で、タカヒロは笑うのを止めて、マイを見ていた。
それに気づいたマイも笑うのを止め、そして自分が泣いていることに気づいた。
「あ、ごめん……。なんでだろ? なんで私、泣いてるの?」
涙を拭おうとするマイの手は震えていた。
気が抜け、安堵したことで思い出してしまったのだ。
人を殺したと言う事実に。
これまで冒険者として依頼を受けてきた中で討伐の依頼はあったが、モンスターだけであった。
マイは人の命を奪うと言うことを、したことが無かったのだ。
だが、フクフクを守るために。
この騒動が自分が持っていた力が原因とされていることに。
思いのたけをぶつける様にして、斬りつけた。
その相手もそこいらに倒れている。
タカヒロはゆっくりと体を起こして、立ち上がる。
体の土ぼこりを軽く払い、手を服で拭い、その手をマイに差し伸べる。
マイはどうしたらいいのかよくわからないまま、その手を掴む。
「僕が一緒に居るから。これからは僕が守るよ。逃げることも諦めることも止める。一緒に背負いもするから……。だから、行こう」
タカヒロはそう言って、マイを立たせるように引き上げる。
マイはそんなタカヒロが、ずるいと思った。
いつもの雰囲気と全く違い、とても格好良く思えてしまったのだ。
何も言葉が出てこなくて、マイはタカヒロの手を強く握ることで答える。
タカヒロはそれで笑い返す。
「行こう。まだあっちこっちで声が聞こえてる。きっと、あの二人は動き回ってる。今度は僕らが二人の助けにならないと」
マイは頷く。
体はまだ動くのだ。
なら、まだ出来る事がいくらでもある。
二人は並んで、まだ悲鳴のあがる場所へと歩き始めた。
ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。




