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今年も豊穣祭が始まった。
戦争があって少なくは無い犠牲者が出たし、最近では人が凶暴になり暴れだす事件も起きている。
明るくはない話が絶えないが、それでもこの日は多くの人で賑わい、楽しそうに笑う声が聞こえてくる。
「さ~て、今日はどういったものに手を出すか」
レッドはあちらこちらで声を張り上げて、人を呼び込む出店や屋台を眺めつつ、惹かれる料理を探して回る。
一年に一度の宣伝の場であるため、店を長く続けているところは、自信のある定番料理か少しだけ変化をつけた料理を出しており、新規に店を持ちたいと動いているところは奇抜であったり、一風変わった料理を出している。
中には作りなれている料理であれば失敗することは無いため、無駄を出さないで稼ごうと言うので、家庭料理を出している店もあったりするが、年に一回の賑やかな祭りであれば並んでいる人も多い。
それだけ賑わいを見せるのが、豊穣祭なのである。
あちこちに掲げられているのぼりやメニューの札を眺めるが、やはり手間や準備を考えてか、焼くだけの料理や煮込んで置けるスープ類が多く見かけられた。
だがやはり、レッドはガツッと肉を食べたいと考えている。
まだまだ肉に惹かれる年齢なのだ。
「さすがに肉ばっかりだと、怒られそうなんだがな……」
ついぼやいてしまうが、そこはちゃんと考えるつもりではあるが、フォレストディアやボアなどが多く狩られてきたためか、肉を多く使っている店が多かった。
豪快に大きな肉を焼いている店や定番の料理で肉を多めにと謳っているのを聞きながら、レッドは少し大きめのソーセージを買うことにする。
ボアのいいところを使っているらしく、脂の焼ける良い匂いに惹かれたのだ。
おまけで、隣で薄く焼いた小麦粉の生地に、カボシェやカロタなどの野菜を薄切りにして刻んだものを巻いた料理も買っていく。
「さて、最初はこんなもんでいいか……。これなら文句も言われないだろ」
ついでに、ふと目に留まった料理も一つ買っていく。
両手で無理しないで持てる分を買ったレッドは、いつもの場所へと歩き出す。
この日だけは嫌なことを考えないようにしたい。
ただ祭りを楽しもうとするレッドの足取りは、軽くは無いがそれでも楽しもうとしていた。
「どんぐり亭」は普段以上の賑わいを見せているが、毎年のことである。
屋台や出店で、普段の王都では口に出来ない料理を食べると言うのはあるが、別段、酒場や飯処も豊穣祭で何もしていないわけではない。
この祭りの時だけ出す料理や酒があるのだ。
そして何より、外と違ってちゃんとテーブル席があると言うのが大きい理由の一つだろう。
店を見回すと、手際のよいリベルテがしっかりと席を確保していた。
「まずはこんなところで、どうだ?」
買ってきた戦果を自慢するように、レッドは買ってきた料理をテーブルに広げる。
リベルテは並べられた料理を一瞥して、評価を下す。
「大き目のソーセージに、カボシェなどを巻いたものですか……。手始めには良さそうですね」
「上から言われるのは、想像してたが気分はよくないな」
お互いわかっていて言っているものだから、口元には笑みがあり、険悪さなどはかけらもない。
「では、食べましょうか」
リベルテが先にと注文していたエールの入ったコップを軽くぶつけあってから、一口飲んで料理に手を伸ばす。
「ん~、これはまた脂がすごいですね。それにまだ熱い!」
はふはふと口を少しあけて、口中で冷ますように食べるリベルテに、レッドは口元が緩むのがわかる。
あまりにも平和らしく、そして可愛げのある仕草に釣られてしまったのだ。
リベルテの目が、微笑ましげにな視線に気づいてレッドに向けられる。
レッドはごまかすようにソーセージをカボシェなどを巻いた料理に突っ込んで、まとめてかぶりつく。
「ん。こうやってまとめて食うと美味いな。ちょうどいいかもしれん」
レッドの不調法な食べ方にリベルテは若干呆れてしまうのだが、レッドの食べ方はたしかに良さそうに思え、リベルテも真似をする。
「……まぁ、カボシェとソーセージを挟んだパンがありますからね。パンか薄めの生地かの違いだけです」
「でもまぁ、美味いだろ」
考えてみれば、丸っきり新しい食べ方と言うわけではないため、そこまで感動を覚えないリベルテに、美味い食い方であればそれでいいだろと笑うレッド。
直後にお互いから上がる笑い声は、周囲の賑やかさに混じっていく。
そこにまた例年のごとく陰が差した。
そして、テーブルの真ん中に置かれる鍋。
「……これは?」
いつものことであれば、備えは出来ている。
あまりにも量が多い料理を買ってこなかったのは、この店での料理を期待しているのもあったのだ。
「グーリンデの家庭料理だ」
大きな体に腕を組んで立つ姿は威圧感たっぷりだが、店主のことを知っていれば、流すことはできる。
「それで……、どうやって食べるものなんですか?」
リベルテが食べ方を問うのも仕方が無かった。
なにせ鍋に入っているのはチーズだけで、具も何もない鍋だったからだ。
店主は一度、厨房に戻り、別の皿を持ってくる。
そこには、小さめの四角に切られたパンと、それと同じ大きさに切ったパタタやカロタなどが盛られていた。
「これをそのチーズに絡めて食え」
言われるまま、串をパンに刺し、鍋に入っているチーズを絡めるように取り、そして口に運ぶ。
「お! 塩気の強いチーズがいいな!」
「あ、野菜は下湯でされてるんですね。塩気に野菜の甘さがわかりますね」
レッドたちの感想に満足そうな店主。
「まぁ、よくこれを出したな。チーズも安くはないだろ? と言うか、知ってるチーズとちょっと違うな」
オルグラント王国でもチーズはよく作られてはいる。
テイルクーというモンスターを飼育しているのだが、モンスターだけあって楽な仕事ではない。
取れる量も限られているし、最近はバターにしたり、ミルクとして飲む分にも流通されているから、チーズとして売り出される量は多く無く、少し値が張ってしまうのだ。
「……それに、このパンですが……。硬くなってませんか? 少しぱさついているような……」
リベルテの質問にももっともだと頷く店主。
「まずはチーズだがな。コルノシェーヴルと言うモンスターから採った乳を使っている。種類が違えば乳の味も変わるもんだ。そんで、あそこの国は土地が広く無いからな。チーズとか保存を効かせられるものを多く作る。それで、こういう祭りだとか新年だとか祝う時に、チーズを大量に使って食べるらしい」
そういった料理かと納得したように頷くレッド。
土地柄が違えば、取れる物、手に入れやすい物は変わる。
それに合わせて生活も変わっていくのだから、店主が言ったような生活はごく普通なことに思えたのだ。
「それからパンだが、乾燥したパンを美味く食べるためと言うのが、この料理が作られた理由だそうだ。まぁ、少しだけ乾燥気味してるパンの方が、チーズの味がよく分かって美味いだろ?」
やはり料理に関してはよく喋る店主が、細かに教えてくれてる。
王都でも安いパンだと固いものだし、数日経たせてしまうとやはりパサついてしまうものだ。
味をごまかす、と言うわけでもないが、このように溶けたチーズに絡めて食べるとあれば、そういったパンの方が向いているように思われた。
普段料理をしているリベルテも、使える手だと関心を寄せていく。
なるべく傷まないうちに使い切るのが普通であるが、日が経ってしまったり、使いきろうとすればどうしても、煮込んだスープ類になりがちになってしまうものだ。
それが一番手っ取り早く、そして、大量に消費できるからである。
硬くなったパンはスープに浸して食べることになるのだが、スープに浸して食べるのと、チーズに絡めて食べるのでは、全然変わってくる。
チーズの値は少し高いが、スープを作るより、チーズを溶かしただけでよいのなら、かなり手を抜けそうだとも考えられた。
もっとも、食べれるだけありがたいと言うことは、多くの平民は分かっているので、スープに浸して食べる日が続いても、この世界で生きている人は誰も文句は言わないのだが……。
一通り新作料理の説明をして、料理の感想も聞けた店主が満足そうに厨房に戻っていく。
おそらく他のテーブルにもこの料理が出される客がいるだろう。
「グーリンデか……。やっぱり他の国の料理が食えるってのは、面白いな」
「ええ。その場所で生きていくうえで考えられた料理ですからね」
去り際に、冷えてくるとチーズが絡まなくなってくると言われていたため、レッドたちは話をしながらも次々と鍋のチーズを絡め取って口に入れていく。
「ふぅ~。思いのほか量がありましたね」
リベルテが満足そうにエールを口にする。
「結構な量になったな……。あ、そうだ。まだ食えるか?」
レッドも満足そうにお腹を軽く撫でるが、まだ始まったばかりの豊穣祭である。
これで終わっては勿体無い。
まだ行けるかと、リベルテに確認する。
「ん~、少し休みを入れたいところではありますが、まだいけますよ? そのために、稼いで貯めてきた分があるんですから」
リベルテが、まだまだやる気と言う顔を見せて答える。
「まぁ、少し休むか。後であいつらのところにも、差し入れしに行かないとだしな」
「あ、そうですね。マッフル買って行かないと。今年も新作あるでしょうか」
レッドが後の予定を口にすると、リベルテも差し入れの話を思い出したようだったが、今しがたの食べ終わって満足そうだった顔は消えて、マッフルの新作に思いを馳せていく。
甘いものならすぐにでもいけそうに見えるものだった。
「まぁ、これでも食っとけ」
レッドは買っていた包みをリベルテの前に置く。
包みを取ると、そこには小さめに切った果実が、店に入る陽の光りで煌いていた。
「これは?」
「そのまま切った果実を溶かした砂糖に絡めて、固めたものだそうだ。いかにも甘そうなやつで、好きそうだったからな」
レッドが最後に買ったのはお菓子だった。
シュルバーンで作られている砂糖は、少しずつ増産されてきており、こうして大量に砂糖を使うお菓子も出始めるようになっていた。
果実は切ってあるとは言え、皮ごと砂糖で固めているお菓子は、メーラやオーラン、リモなど他種が混ざって串に刺されている。
リベルテが少し嬉しそうに先端をかじる。
「……ふふ。甘いですね」
砂糖を使ったものだけあって、ただくどい甘さと思われてしまうが、果実に絡めていることで、果実の持っている酸味と香りがあり、上品な味となっていた。
リベルテが微笑みを見せれば、レッドは買ってきたよかったと素直に思えた。
レッドも一つ手を出して大きく齧ると、しばらくして口をすぼめる。
「すっぱ~~」
レッドの串の先端はリモだった。
レッドの様子に笑い出すリベルテに、レッドもまた釣られて笑い出す。
「これ、マイさんたちにも買って行きましょうか」
「そうだな。あいつらも同じ目に合わせてやる」
マッフルだけでは祭りを楽しめないだろうと、このお菓子も持っていくことを提案するリベルテに、レッドは少し悪そうな目つきで応えて、リベルテに軽くたしなめられる。
それでも二人の表情は明るい。
今このときだけは、不安も何も脇に追いやって、楽しむことにしていたのだ。
「食いながら行くか」
レッドが席を立つ。
リベルテも立ち上がり、二人は揃って人波の中に入っていく。
人が増えたことで、昨年よりも賑わいを見せる豊穣祭であったが、先の戦争と身近に起き続けている事件に、王都で暮らす人々には不安が広がっている。
その不安は何も王都の人だけに限らず、村や町から来ている人たちも感じ始めていることでもあった。
どこかその不安が飛んでいくようにと大きく上げる声には、祭りの賑わいに少しだけ陰を含ませている。
祭りを楽しんでいる多くの人たちが、来年も変わらずに祭りが続くことを願っていた。
ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。




