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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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レッドたち冒険者の一軍がランサナ砦に着いた時には、すでにオルグラント兵がモンスターと戦っていた。

モンスターと戦うこと自体はおかしな話ではないのだが、オルグラント兵に混じって、アクネシアの兵も一緒になってモンスター相手に戦っている。

さらに、武器を持っていない人々も混じって見えていることが、何が起きているのか分からないものにさせていた。


「……どうなってんだ?」

誰から漏れたとも分からないが、今着いたばかりの冒険者の一軍、全員が思っている言葉である。

しかし、訓練を受けて来ている兵士と言うのは、状況対応の判断は冒険者たちより早く、すぐに冒険者たちに向かって声を張り上げた。

「状況は詳しく理解できていないが、倒すべき敵はまずモンスターである! あれらは話が通じる相手ではないからな。私たちの一軍はモンスターへ攻撃をしかける! よろしいかっ!!」

冒険者たちの一軍を指揮することを任された兵であるが、国の兵にしては珍しいことに頭ごなしに言ってくるような人ではなかった。

もし頭ごなしに言ってくるような者がこの一軍の上であったのなら、冒険者たちは命令を聞かなかっただろう。

冒険者たちはそれぞれが好き勝手に動き、上官は数が多い冒険者たちを制することが出来ず、戦場は皿に混乱することになるだろうことが想像に難くない。

冒険者たちは強制ではなく、あくまで戦争への参加依頼を受けて来たのであり、兵の命令を受けて戦うなど条件に無いのだ。

それが念頭にあって、頭ごなしに言わないようにしているのかはわからないが、よく通る声であり、冒険者たちを蔑まない言葉は冒険者たちにしっかりと届いた。


「問題ありません! いつでも行けます!」

「おう! やってやるわ!」

若い男性が身を正すように返事をすれば、少し年が経っている体格の良い男性が威勢よく返事をする。

それに釣られて、次々と他の冒険者たちも武器を構えて、指示を待つ。

暴走しない程度にやる気に満ちる冒険者たちを見て、指揮官となっている兵士が号令を掛ける。

「進めーーっ!!」

雄たけびを上げながら、冒険者たちの一軍が混戦し始めていた場に突っ込んでいく。


「あれは、例のモンスターで間違いありませんね」

走りながら、リベルテが前方に見えるモンスターについて口にする。

「だろうよ。背格好が兵には見えないが、武器を振るってやがるからな。だが……、他にやばそうなのもいるな」

レッドも前方のモンスターが醜悪なモンスターであることはすぐ気づいている。

リベルテの言葉は、同じ認識をしているか確認のための注意喚起であった。

しかし、この付近で見かけることなどなかった、どこからか呼び出されたのだろうモンスターも目にして、剣を握る手に力が入っていくのがわかる。

「なんだありゃ……。でかいのがいるぞ」

レッドの近くを走っている冒険者が、近づくに連れて大きさがはっきりとしてくるモンスターに思わず言葉をこぼしてしまう。


そのモンスターは、これまで見たとされる醜悪なモンスターより大きい体格をしており、そのまま木を引っこ抜いたのではないか、と思ってしまう棒を振り回していた。

膂力に優れているのだろうことは体格から想像できるが、盾で受けた兵がそのまま吹っ飛ばされたり、防ぎきれず叩き潰されるのが見えてしまう。

「あれはきっついな……。まず小さいのから、確実に減らしていった方が良いな」

レッドが状況を見て、大きなモンスターに向かうのは無茶だと判断を下す。

リベルテを含めて近くにいた冒険者たち全員が頷き、小さい方のモンスターに斬り込んで行く。


側面から仕掛けた冒険者たちの攻撃は、モンスターたちにとって当然の横槍であり戸惑わせるものとなり、正面から当たっていた兵士たちには援軍だと意気を挙げさせた。

モンスターたちの吠える声、兵士や冒険者たちの喚声。

静寂には程遠く、近くの声が、音がよくわからないものとなる。

「ふっ!」

小さいモンスターのがら空きな背中をレッドの剣が切り裂く。

痛みから来る声とモンスターの血が飛び散るが、モンスターは倒れない。

「人っぽいくせに硬いな! ……つうか、このなりで人っぽく感じるのが、嫌なもんだな」

不意をついたが倒せず、向かい合うことになる。

だがここは戦場。

レッドに向き合ったモンスターの横から、今度はリベルテが首元に向かって切り込み、大きく血を噴出させる。

モンスターはリベルテに目を向けて、そのまま倒れた。

「……本当に、嫌なものですね」

人であれば、卑怯だと言っていたのかもしれない。

本当に人であるかのように感じられてしまうのだ。

「まだまだたくさんいる。そういうのは後にするぞ」

レッドの言葉にリベルテは頷き、そして二人はモンスターと対峙している兵の近くへと向かっていく。


あちらこちらで、モンスターと打ち合っている音が響く。

モンスター相手であるはずなのに、どこかの国の兵と戦っているかのように金属同士がぶつかる音である。

すれ違い様に斬りつけたりしながら、なんなんだ、と思わずにはいられなかった。

小さいモンスターとは言え、冒険者がやられた話があったように、簡単には倒せない。

傷ついていく冒険者が多く、大きいモンスターに対峙していた兵士が次々と倒れていく。


「くそっ!」

倒れていく仲間が目に入り、焦りが募る。

力を込めて大きくなる振りが、高く鈍い音を立ててモンスターに当たる。

当たったモンスターは倒せたが、大きく振ったせいか思いのほか深く食い込んでいて、剣が簡単に抜けない。

力を失ってだらっとしているモンスターを踏みつけ、力を込めて剣を抜こうとするレッドであったが、混戦している状況下では大きな隙となる。

「っ!」

右から気配を感じて体を捻るが避けきれず、捻って躱そうとしたため、左腕に一本の線が引かれて、血が流れる。

深くは無いが、浅いと楽観視も出来ない。

戦場であれば、小さな怪我でも命取りになることがあるのだ。

おまけに自身の剣から離れてしまった。

剣はまだモンスターの死体に刺さったままである。

レッドの背中に冷たい汗が流れた。

普通の依頼であれば、身を翻してなんとか逃げればいいのだが、ここは戦場であり、あちこちで戦っているために、逃げるのも一筋縄にいかない。

武器が無い。

逃げるにも突然横から、攻撃を受けるかもしれないのだ。

武器を持っていないレッドに対して、自分の優位を感じ取ったのか、モンスターが笑ったように見えた。


より醜悪な顔でレッドに向かって剣を振り下ろす。

「なろっ!」

振り下ろされる腕を掴んで防ぐが、そこで拮抗する。辛うじて抑えている状況であった。

「……小さいくせに、力が、強いな……。やっぱり、モンスター、だよ、な」

少しずつ押し込まれていくレッド。

モンスターは見た目からはだけで判断してはいけない。

小柄でも膂力があるものもいるし、大きな体で俊敏に動くものだっているのだ。

このモンスターは小柄でありながら、成人男性より力が強いようだった。


「レッド!!」

そんなレッドの様子に気づいたリベルテが、大きな声を上げる。

リベルテも近くのモンスターを相手取っていて、レッドを助けに行けそうに無い。

「うおおっっ、っらぁ!!」

レッドは雄たけびを上げて、力を振り絞って押し返し、そして、モンスターの体を思いっきり蹴り飛ばした。

力は強かったが、さすがに体格以上の重さは無かったようで、レッドの渾身の蹴りでモンスターは大きく飛ばされていく。

その衝撃でモンスターは持っていた剣を手放していた。

レッドは息が上がって苦しいままであったが、モンスターが持っていた剣を拾って、起き上がろうとしていたモンスターの喉に突き刺した。

剣を抜こうともがくモンスターに対して、レッドは剣に力を込めて押し込む。

ほんの少し後、モンスターが力を失い、身体を地面に投げ出した。


「はぁっ……。はぁっ……」

その剣から手を離せず、支えにするようにして息を整える。

まだまだあちこちから、喚声と悲鳴と呻き声と聞こえる。

こんなに早く息切れして、立ち止まっているわけにはいかないと思うほどに呼吸が戻らない。

「レッド。まだこれからです。落ち着いてください」

焦るレッドに声を掛けるリベルテであったが、リベルテも息は乱れているし、幾ばくかの怪我をしているのが目に入る。

「大丈夫、なのか?」

レッドはリベルテの怪我を心配するが、レッド自身の怪我は省みていなかった。

気遣ってくれるのは嬉しいが、この場において自分を大事にしないレッドにリベルテは苛立ちを覚えてしまい、荒い手つきで応急的な手当てを始める。

と言っても、流れる血を止めるために、携帯している綺麗の布で縛るように巻くくらいである。


「私は得意な武器が武器ですからね。レッドより近づかなければいけません。そうなればより多く動くので……。ごちゃごちゃしてるので、動いている間に打ち付けたりしただけですよ」

レッドの傷が見えなくなったところで良し、と落ち着きを取り戻すリベルテ。

そんなリベルテを見て、レッドも少し気が楽になる。

先ほどまでよりずっと呼吸が楽になっていた。


周りでは元々、そんなに数が多くなかったのか、小さいモンスターがその数を減らしており、冒険者たちが大きいモンスターに向かっていく姿が少しずつ見える。

戦況は人側の勝利に向かっていた。


「もう少しだな。行けるか?」

「そちらこそ」

二人はまだ喚声が響く中に走り出す。

劣勢になっているのに何故か逃げだそうとする様子を見せないモンスターに、後ろから、横から死角から入り込んで斬りつけていく。

やがて、大きなモンスターが倒れる音が何度か聞こえ、歓声があがった。

アクネシアに攻め込むはずが、攻め込まれていた事態になっており、多数の怪我人と早くも死者を出しながら、オルグラント軍はアクネシアのモンスター軍勢を倒し終えたのだった。


兵は全てランサナ砦に入り込んだ。

あのまま攻め込むには、怪我人が多く、また、つい先ほどの事態がわからないまま攻め込むには不安が大きい。

今以上に失う兵が多いと判断されたのだ。

ほとんどの兵が座りこんでその体を休めていて、砦の一角には怪我を負った人たちが運び込まれていく。

従軍していた薬師たちが走り回っているが、手が足りそうには見えなく、冒険者の中で多少は心得がある人たちが手伝いに向かっていた。

その手伝いの冒険者の中にはリベルテの姿もあった。


一方のレッドは、冒険者たちの一軍を指揮していた兵士に話を聞きに行っていた。

あの場所にいた人たちとアクネシアの兵。

その状況と今後についてである。

「全てが確認されたわけではないですし、全てを話すことも出来ないのですが……。ひとまず言えることは、あの場所にいた武器を持っていない人たちと、モンスターにともに戦ったアクネシアの兵は敵では無いという事です。そして、これからですが……。あの大きなモンスターについて、情報はありませんでした。あれがまだ多くの数がいるとなれば、犠牲者の数が増えるだけになります。しばらくは偵察隊を出して、様子見になります」


冒険者たちの一軍を指揮していた兵はレッドに教えてくれたが、近くにいた他の軍人は良い顔をしてはいない。

冒険者にこれからの話などする必要もなければ、情報を与える必要も無いと考えているのが分かる。

そんな中でありながら、話しても差し支えが無いだろう部分を教えてくれた指揮官は、やはり良い人柄の持ち主と言えた。

レッドもその場で文句を言っても、それ以上の情報をねだっても、味方であるはずの兵から敵意を持たれるだけであることは理解している。

指揮官に礼を言って、その場から素早く離れる。

長居するのも良い目を向けられないのだ。


ランサナ砦は全ての兵が入れるほど、大きな砦では無い。

そのため、怪我人を優先して砦に搬送しているのだが、さらに砦の一角にはアクネシア兵と非武装の人たちが固まっていた。

保護したと言う話であるのだが、これから攻め込もうとしていた国の人たちである。

砦の一角に居ること、一部の兵と冒険者たちから向けられている目は険しいものになっている。

先の攻撃は守り勝てたが、また襲ってこないとは限らない。

となれば、先の激戦の後ともなれば、少しでも身を守れそうな砦の中に居たいと考える者も少なくないのである。


レッドは指揮官から話を聞くために砦に入っていたのだが、そのついでにとアクネシアの人たちにに足を向けた。

折角だから話を聞いてみたいと思ったのだ。

アクネシアの人たちは保護されているが、どちらかと言うと隔離、収容に近く、柵で囲った中に集められており、さらにその周囲はオルグラント兵が見張りに立っていた。

「すみません。あちらの人たちと話しても良いですか?」

見張りに声を掛けてみるが、当然ながら良い顔はしていなかった。

「あいつら、アクネシアの人間だぞ? 話をしても本当のことを言うかどうか……。内側から何かする気かもしれんやつらだ。話をするのは構わないが、柵の中には入るなよ」

裏切りと言えるのか、対帝国戦でオルグラント、グーリンデ側に付きながら、アクネシアのせいで押し込まれ、アクネシアによって被害をもたらされたのである。

その報復を掲げて進攻するはずだった敵国の人であれば、見張りの意見はほとんど人たちの総意と言えなくも無かった。


「……わかりました」

レッドは神妙に答え、見張りの近くからアクネシアの人に声を掛ける。

代表として受け答えをする担当なのだろうアクネシア兵の一人が、レッドの呼びかけに近くに来てくれた。

「……何か?」

先ほどの戦いの後であり、オルグラントの指揮官たちと、おそらく何度も質問に答えさせられていたのだろう。かなり疲れているのが見て取れた。

アクネシアからオルグラントへ、この人々を守りながら逃げてきたのだろうことは、先ほどの戦いの中でなんとなくわかっていた。

レッドが聞きたいのは、彼らのことではなかった。


「疲れているのにすまない。一つ教えてくれ。アクネシアの王都はどうなっている?」

ここに居る彼らではなく、アクネシアと言う、国についての質問。

アクネシアの兵は少しだけ目を開いた後、悲しげ俯く。

「……私たちはこちらの国に近いところに居たから、城がどうなっているのか詳しくは知らない。ただ、あの戦争の後、上はバラバラになった……。これからどうするのか決まらなくなっていたんだ。だが、そんな中で一つだけ決まったことは、各地にあのモンスターたちを配属すること。……配属と言ったが、モンスターに乗っとられたと言って良い! あのモンスターは人を食うんだ!! 食われた人はかなりの数になる……。上に何を言っても、モンスターたちが処罰されることも、どこかに移動させられることも無かった。私たちがあのモンスターと戦うことも認められなかった……。なんなんだ!? 何故俺たちが、あんなやつらの食い物にならなければいけない!? あれらはこの世界に居ていいものじゃない!!」

途中から思いのたけを撒き散らすように、大きな声を上げるアクネシアの兵士。

あの戦いでモンスターを呼び出したこと、全てに攻撃を仕掛けたことは、アクネシアの上層部にとって予定外の出来事であったらしい。


『神の玩具』が誰の指示でもなく、好きなように動いたと言うことなのであろうか。

レッドはそのまま、冒険者たちの一軍が集まっている砦の外の一角に向かう。

これからしばらく、偵察に送られた者たちが戻ってくるまで、ここランサナ砦で待機することとなる。

体を休めるのはありがたいが、この待っている時間が不安を募らせる。


数日経って戻ってきた偵察隊は、また多くの非武装の人たちを連れて戻ってくる。

そして、人だけでは無く、より重大な情報も持ち帰ってきていた。

「……アクネシアが滅んだ!?」

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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