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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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普段、騒がしい人も押し黙ったまま、険しい表情でジッと前を向いている。

その先にはオルグラント兵が列をなしており、後ろを振り返れば、少しずつ遠ざかっていく城壁の姿が見えた。

兵たちの目的地は、新たに建造されたランサナ砦。

この村はアクネシアからの工作部隊によって滅ぼされてしまった村であり、この場所に砦を建てたのは立地がちょうど良かったこともあるが、忘れ去られないようにと同じ名前がつけられたのだ。


新たに即位した王の号令で、アクネシアへ戦争に向かっていく軍をレッドたちは見送っていた。

レッドたち冒険者も、そう後ではないうちに続くことになる。

戦力を増やすと言うことで、兵士ではない冒険者たちに依頼が出されたのだ。

ギルマスは強制依頼では無いと言っていたが、王都の雰囲気はアクネシアに対して敵意に溢れていて、この流れに逆らうには、王都から、いや、最悪、オルグラント王国から出て行くことを覚悟しなければならないほどになっていた。


「こう見ると壮観ですよねぇ……。これって、僕らって必要なんですかね?」

進んでいく兵士たちの背を見ながら、タカヒロが軽い口調で疑問を口にする。

タカヒロの口調はこれからのことをあまり実感していないようであり、わかっていないようにも感じられた。

マイと違って戦う力を持っているタカヒロだからなのか、時折、戦うということがどういうことなのか、軽く考えているようにレッドには思えるのだ。


グーリンデ王国と同盟が結ばれたこと上に、グーリンデのオルグラント抗戦派であったゴーマ将軍が亡くなったことが、アクネシアへの開戦を後押ししたらしい。

グーリンデも、オルグラントと同様にアクネシアに敵意を持っている。

オルグラント王国としては、直接面する敵国はアクネシアだけになっているのだ。

だからこそ、動員された兵は、先の帝国との戦争より多いものになっていた。

各方面の貴族領からも派兵されているが、補充された若い兵士たちをレッドたちは冒険者たちの集合場所に向かう途中に目にしている。


「今のオルグラント王国の周りの敵は、アクネシアだけになった、と言えますからね。帝国もわけがわからないアクネシアの方を警戒しているそうですから」

リベルテが離れていく兵に目を送った後、周囲にも目を向ける。

ここに集まっている冒険者もかなりの人数となっていた。


「……なぁ。アクネシアは何がしたかったんだろうな?」

レッドがポツリと言葉をこぼした。

近くにいるリベルテとタカヒロが、その言葉にレッドの方に顔を向ける。

「何が、ですか?」

タカヒロがどういうこと? と質問を返す。

「先の戦争でモンスターを呼び出してけしかけた。それで帝国は追い払われたな。オルグラントもグーリンデも被害は出たが、戦況を覆したわけだ。もしあれを狙っていたなら、あの後なんでどこにも仕掛けなかった? 帝国を追い払えた程だ。そのまま帝国を追撃したなら、帝国領を奪うことも出来たはずだ」

確かに、とリベルテは頷く。


「グーリンデも帝国とモンスターによって兵を失った。一番戦力が弱った国とも言える。グーリンデになだれ込んだら、滅ぼすことだって出来なかったとは言えないだろう。ずっと争っているオルグラントに向かってきても良かったはずだとも思う。備えの兵が残っていたとは言え、帝国兵を蹴散らしたぐらいなんだ、かなりの領土を侵略されていたとしてもおかしな話ではないだろう?」

タカヒロはその状況を想像したのか、かなり嫌そうな顔をする。

「それなのに、だ。今の今まで動いていない。国境近くにモンスターが姿を見せるくらいだ。それでも被害は小さくない。あれを同じように軍として向かわせてきたなら、王都から西はアクネシア領にされてた、と言うのも考えすぎとは言えなさそうだろ?」

レッドがリベルテたちに向きなおる。

その顔はとても真剣であった。


「動けなかった理由があった、と言うことですか? ……それとも、来るのを待っている?」

「ならこれマズイんじゃ!?」

リベルテがアクネシアの動きがない理由を思案し、考えられることを挙げていくとタカヒロが大きく反応する。

「……こちらにとって都合が良い理由なら良いんだが……。だとしても、やはりそう考えても気に入らないな」

確かに長く争ってきている国の一つであり、いろいろと仕掛けてもくるし、先の戦争では共同戦線を張りはしたが、アクネシアのせいで崩れ、そしてモンスターによりアクネシア以外が被害を受けた。

アクネシアに対する戦争意思。

それ自体はずっとオルグラント王国に根付いてしまっている感情であるが、ここに来て一気に高まり、流れが出来あがってしまった。

それがレッドにはどうしても不安で仕方が無かった。

しかし、王都に住まう人々には、レッドと同じような疑問を覚える人は見かけられなかったのだ。


「……タカヒロ。おまえ、今から王都に戻れ」

レッドの言葉にタカヒロは顔を上げて、レッドの目を見る。

「違約金とか掛かりますよね? さすがにそんなお金は無いんですけど。……それに今更それ、出来るんですか?」

タカヒロは別段、この戦争にやる気になどなっていない。

元々、面倒くさがる性格と言うのもあるし、力を持っているが好戦的と言うわけでも無いのだ。

だから、レッドたちはタカヒロたちを信用できた。


「その分は俺が払ってやる。俺が言い出してることだしな」

レッドはタカヒロが気にしていることをサッと打ち消す。

その言葉にタカヒロは胡乱気にレッドを見てしまう。

リベルテも一瞬、目を大きく見開いたが、すぐに元に戻した。

「マイさん、ですか?」

リベルテがそう言うとレッドが頷く。

「リベルテは何か警戒していたな。マイのことを気遣って動いてたんだろ? 王都に戦える力を持っている人はそんなに残っていない。いきなり襲撃してくるような奴らとか、モンスターは居ないと思うが、危険すぎると思う。それと……、もしなんかあった場合に、おまえまで巻き込まれる必要は無い」

「……なんで……」

言葉に詰まるタカヒロ。

別の世界に来た人間であり、この世界の人より強い力を持つ警戒すべき『神の玩具』。

だから、レッドたちはタカヒロたちを側で見てきた。

「なんとなく、そう思った。それだけだ」

レッドは、タカヒロたちが命の危険と隣り合わせの生活とは無縁な生活をしてきたのだろうことを察していた。

しかし、ここでは過ぎた力を持ってしまっているから、無縁なはずの場に向かっていく。

身の丈に合わない力を持ったことで、自分の身の危険に対して意識が希薄であり、そして相手の命を奪うと言うことにも意識が軽いと感じられたのだ。

だからこそ、この世界に馴染もうとしつつ、合っていないと思えた。

だからこそ、この世界に染まらないままで良いのではないかと思えたのだ。

この国の、この世界の生きる者たちが血を流し、憎しみを生み出す戦争の場に居るべきではないし、居て欲しくないと願ってしまうのだ。


タカヒロはリベルテの顔も見るが、リベルテは笑顔でタカヒロを見ていた。

二人の意思を感じ取ったタカヒロは頷いて、この場から離れようとして、ただ一度、レッドたちに振り返る。

「僕はこの世界で、この国で生きていくことを決めてますよ。今の生活も、まぁ気に入って来てるので」

あえて笑顔でそう言って、王都に戻っていく。

一人だけ離れていく姿は目立ち、何事かと騒ぎが起きたが、レッドが冒険者たちの軍を統括をすることになった責任者に事情を説明し、違約金を支払ったことで騒ぎは静まった。

そして、冒険者たちの一団もランサナ砦へと進み始める。

その足音は、先を進んでいった王国軍に比べると不揃いだった。


行軍と言うのは時間が掛かる。

馬車で移動するわけでは無いし、それぞれのペースで進めるものでも無く、周囲に合わせて移動すると言うのは、思いのほか時間が掛かるもので、そして、酷く疲れるものになる。

前を進んでいる王国軍にも、冒険者たちの軍にも輜重隊が付いている。

食べ物を運び、管理している者が居るため、野営地に着くなり、自分で食べ物を集めろ、と言うことが無いことだけが救いであった。


「……ここまで他の人に合わせるってのが、疲れるとは思わなかった」

レッドが地面に座り、ふーっと長く息を吐く。

「冒険者がここまで大人数で移動するなんて、ありませんからね。あっても10人くらい……でしょうか? それでも、それぞれに分かれて動きますし」

リベルテもレッドの側に腰を下ろし、辺りを見回す。

若く体力がある人たちには、幾分か苛立ち始めている人たちが居る様子で、少し年を取っている人たちは思い思いに体を休めていた。

だが、総じて意気は高くあり、やる気に満ちている。

「どこまでやる気なんだろうな」

他の人のように、これからの戦争に意気を高く持っていないレッドは、周りの、そして国の目指すところが気になっていた。

意気が高く続いているうちは良いが、途切れた時、一気に疲れを感じるものだ。

周りにいる人たちは、そして兵たちはどこまで戦う気でいるのか。

なにより、国はアクネシアを滅ぼすまで戦う気でいるのか。

王と話せるでもない、国の中枢にいるわけでもない冒険者には分かりようが無いことだ。

それに、ここにいる人たちの多くは、そんなことまで気にもしていないだろう。

そういったところでは、レッドは変わり者と言えた。


「新しい王として、強さを見せると言う話であれば、アクネシアと戦って蹴散らすと言う所が基準でしょうか。滅ぼすとまでいくと、その後のことを考えれば、止める人が多いでしょうし」

戦争と言うのは軽いものではない。

殺しあうのだから当然、多くの人の血を流すことになる。

それは国の労働力、生産力の低下につながり、戦いで消費していく食料とお金は後々に響く。

そして、占領するとなれば、その土地の建て直しに、さらにお金と資材、そして時間が必要となってしまうのだ。

オルグラント王国は肥沃な土地があるとは言え、その土地で賄い切れなくなるほど人口が多いわけでは無いし、限りある木や鉱石類であれば、いくらでも使えると言うほどあるわけでも無い。

オルグラント王国が専守であるのは、自分たちの国を守ると言う理由はもちろんであるが、攻め取った場合に、その土地に回せる人も資材もお金も足りないと言う理由もあるのだ。

力で奪い取った土地がすぐさま利を生み出せるわけがない。時間が必要なのだ。


レッドたちは砦に着くまでの間、先について考えつつ歩き続ける。

軍はどんどんと進んでいく。

そして、レッドたち冒険者の軍がランサナ砦に着いた頃、すでに先に着いていた兵たちが戦い始めていた。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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