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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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新たな年を迎える鐘が鳴り響き、賑やかに祭りが始まっていく。

新年祭を迎えるまでは活気を押さえていたせいか、今年は昨年に比べると、より賑わいを見せているように感じられた。

新王の即位があるため、その祝いも兼ねていることもあって、盛り上げようとしているだけかもしれない。

しかし、新王と新たに任命される宰相への不安は消えたわけではないが、新しい王と宰相に対して若さと言う期待も確かにあるし、無事に新たな年を迎えたことは、やはり人々を明るくさせる。

そんな中、レッドとリベルテはホットワインを飲みながら、その賑わいを一歩離れて見ていた。


「新しい王様か……。新しく任命される宰相様と言い、やっぱり不安はあるな」

「それ、大きな声で言ったら捕まりますよ?」

周囲の喧騒で他の人の耳に届かないだろうことを確認しているし、声もちゃんと抑えているため、注意しつつもリベルテの顔はそこまで心配したものではない。

一応、言っておこうと言う程度であった。

「周囲が何も変わらなかったのなら、誰も不安なんて抱かなかっただろうよ。だが、アクネシアの件があるからな……。それと帝国か。良さそうな変化はグーリンデくらいだ」

グーリンデとは同じ被害を被った国同士として、帝国だけでなく、対アクネシアも考慮して同盟が結ばれるまでに一気に動いた。

お互いに戦い続けてきた時間が長いだけに、安心できるほど友好的になったとは言えないが、共通の敵がいるから手を取り合えたようなものだ。


そんなグーリンデであるが、グーリンデを支えてきたゴーマ将軍が亡くなったという話が王都に入ってきていた。

ゴーマ将軍も高齢であり、先の戦争では対帝国戦に参戦していたそうである。

このゴーマ将軍は、将軍の地位に居る間にオルグラント王国に何度も侵攻をかけてきた将軍であり、反オルグラント王国の筆頭と言っていい人であった。

ただ、オルグラント王国に侵攻しては、オルグラント王国軍に追い返されてきたため、戦争下手な将軍とオルグラントでは言われているのだが、グーリンデでは護国の将軍として強い人気を誇っている。

オルグラントからグーリンデへ攻め込む意思も理由も無いのだが、それでも追撃をと奥に入ったオルグラント兵はゴーマ将軍に追い散らされ、帝国、アクネシアそれぞれがグーリンデにちょっかいを出した際には、全て撃退し続けてきた将軍なのである。

長年、オルグラント王国と戦い続けてきたこともあり、反オルグラント王国の筆頭に位置づけられる人であるため、オルグラント王国との同盟に最後まで賛成しなかった一人である。

それでも、周囲の状況を理解しないほど意固地になっていたわけではないらしく、賛成はしなかったが反対はしなかったと言われている。

実際の所、先の戦争で少しでも兵を助けるために、高齢でありながら殿を務めたそうで、そこで負傷してしまい、療養で大人しくしていただけじゃないかとも思われている。


「元気だったら、同盟反対の抗議をしてたんじゃないかって思えるよな。しっかし、あの爺さんも何やってるんだか……」

レッドたちオルグラント王国からすれば、ゴーマ将軍は厄介な敵の軍人であるが、その守りの強さ、そして自身の国を思う行動は、決して憎み、侮蔑するような相手ではなかった。

有能であったからこそ、グーリンデ王国としては真っ先に逃がすべき人物であるはずなのだが、自身の国を思う老将は殿に残り、自国の兵の背中を守り続け、その戦いで怪我を負ってしまい、それが原因で亡くなったと言われているのだから、なおさら蔑むことなど出来ない人物となっていた。


「あの方も高齢ですから……。その時を見ていないから、ただの推測になりますが、守りたかったんですよ。グーリンデの未来を」

「護国の将、か。グーリンデと交易出来るようになってきたから、会ってみたかったかもな」

レッドはそう言うが、レッドはこの王都からあまり遠出をしたがらないし、グーリンデ王国の重臣でえある将軍が一冒険者に面会してくれるわけも無いため、実際に会える事はなかっただろう。

リベルテもそれはわかっているのだが、そうですね、と口にした。

もしも、レッドとゴーマ将軍が会えたのなら、きっとお互いに考えをぶつけ合って大きな声で罵り合っていただろう。罵り合いながら、きっと一緒に酒を飲むのだ。

リベルテはそんな想像が浮かんでいた。

「……ある意味、似ているかもしれませんね」

リベルテが小さく口にした言葉は、雑踏の音に消されてレッドには届かなかった。

届いていたらきっと大きく顔をしかめたことだろう。


「そういや、タカヒロたちには会えそうにないな」

話題を変えるようにレッドが口を開く。

「仕方ありませんよ。薬師という職は人数が居ても、簡単に休みを取れるような仕事では無いですからね。薬草の世話は欠かせませんし、今日はソレさんの家で祝っていると思いますよ」

「タカヒロもそっちに呼ばれてるってのは本当か?」

「ええ。お願いしちゃいました」

リベルテが手を回しましたと白状する。


薬師は傷薬を作って売るのはもちろんであるが、怪我人、急病人の手当ても行っている。

聖国から聖職者たちが来ており、彼らは治癒の魔法を使えるため、怪我や病気などしても彼らに頼めば容易に治る。

だが、当然ながら多額の治療費が請求される。

命に関わり、余程の覚悟が無ければ、普通の人々が頼みに行ける相手でも無いのだ。

だからこそ、薬師が薬を調合し、治療を行っている。

急な病気や怪我と言うのはいつでも起こりえるもので、この新年を祝う祭りであっても、薬師は自身の家から離れて騒ぐわけには行かないのである。

もっと薬師が増えれば変わるのかもしれないが、王都で働く人の大多数が薬師になっても、それは薬師が競合しあって稼ぎを減らしてしまうだけであり、簡単に薬師を増やせる話でもないのだ。


そんな薬師の見習いとなったマイは、当然、新年祭に出歩いて食べまわることなど出来なく、大人しくソレの家で普段より贅沢な食事を取っていると思われる。

タカヒロにマイのことを護って欲しいと頼んだ手前、リベルテはソレにタカヒロも呼んでもらえるようお願いしていたのだ。

しかし、タカヒロには屋台や出店で大量の食べ物を買ってくると言う条件が付けられていたので、ソレたち薬師も新年祭を楽しみにしているのが良く分かるものとなっていた。

マイがいるのだから、一回買って行ったくらいでは足りないと騒ぐだろうから、無くなる度にタカヒロは買出しに行かされることになるはずだ。

新年初めから、一番大変なの思いをするのはタカヒロかもしれない。


「なんかスープもの買ってくるか」

ワインを飲んでいたが、やはり何か食べたくなってくる。

それにホットワインを飲んでいる最中は良かったのだが、飲み終えると寒さを感じてきてしまったため、暖かいものが欲しくなってきたのだ。

「あまりがつっとしたものだと、朝が辛くなるので、そこは考えないとですね。……私が買ってきます」

レッドだとお腹に溜まるものを、と脂の多い肉ものを買ってきそうだと判断したリベルテがササッと人ごみにまぎれていく。

「さすがに俺もそんなの買わねぇよ……」

夜から騒ぐ祭りであるが、夜通しはさすがに体が厳しい。

新年を迎えたことを祝い、軽く屋台や出店の物を食べたら、後は寝るだけなのだ。

それに……、夜に脂が濃いものはレッドもキツイものを感じ始めてきているのだが、それを伝える相手はもう姿が追えなくなっていた。


ホットワインの容器を返しに行き、人波の邪魔にならないように端に寄る。

これまではリベルテと二人で過ごすことが多く、片方が何かを買いに行けば、はぐれないようにもう片方がその場所で待機する。

そんなことに慣れているはずなのに、酷く一人がつまらないものに感じられてしまい、見上げた夜空に白い息を吐いて遊んでしまう。

「なにやってるんですか?」

あまりにもつまらなく、ただ息を吐いて遊んでいただけのつもりであったが、それなりに時間が過ぎていたようで、リベルテがスープの入った器を持って側に来ていた。

「いや……、なんでもないさ。ありがとうな。あ~……、寒いわ」

もういい年になり、欠くことの出来ない相棒がいるというのに、少し離れただけで寂しさを覚え、つまらないと思ってしまったと言うのが恥ずかしく、ごまかすようにスープを受け取る。

リベルテが買ってきたのは、大量のフェヴが入ったトートのスープだった。

安い素材で嵩を増した一般的な家庭料理。

塩味とトートの酸味、そしてフェヴの甘みが、冷えた身体に沁みこんで行く。

「あ~……。美味いな」

「食べ慣れてるものでありますけど、食べたくなりますよね」

豊穣祭のような各地の料理が並んでいたのであれば手に取らなかったであろうが、新年祭のように寒空の下でゆっくりと迎えた年を祝う祭りであれば、手を伸ばしてしまう。そういったスープであった。

二人は、ゆっくりとスープを口に含んでいく。

じんわりと、体に熱が広がっていくのがわかる。


酒場あたりでは大騒ぎをして警ら隊に連れて行かれる人も見え始め、例年のことであるが、よくもまぁ毎年居るものだ、と二人で笑いながら連れて行かれた人を見送る。

客を一生懸命呼び込む売り子が居れば、もう売り切れたのか片付け始めている人も見えてくる。

このまま変わらない生活を送りたいと思ってしまうし、送っていけるとも思えるほど、穏やかなひと時だった。

しかし、祭り明けのギルドで、早くも変わらないままではいられないことを知ることになる。


「新王の命令で、アクネシアに対して軍事行動を行うこととなった。まぁ、変なモンスターのせいで被害も出始めているし、先の戦争の落とし前をつけにいくって声が強くなっていることもあるだろう……。そこで、俺たち冒険者にも参加依頼がきている。一応、強制ではない。やる気があるやつだけ受けてくれ。死ぬんじゃねぇぞ」

ギルドマスターであるギルザークが、木箱の上に乗って、一段高い所から声を響かせた。

祭り明けで散財したお金を稼ごうと集まった多くの冒険者たちが、あちこちで話し始める。

考えてもいなかった急な話なのである。

チームであれば、仲間と相談しあう時間が必要だ。

そんな中でやる気に溢れている人やチームが、早々と参加の意思を決めて、受付へ向かっていく。


「レッド……。どうしますか?」

カウンターへ向かう波を避けるように壁際に寄る冒険者たちの中に、レッドたちは居た。

レッドは厳しい表情で手続きを済ませていく冒険者たちを見ていた。

「気は乗らないんだが……、参加しないわけにはいかないだろうな。強制ではないってギルマスは言ったが、ほぼ強制だろうさ。即位して最初に大きく触れ込んだのがこれじゃあな……。周りから流れが出来てあがっていることもあるし、受けないとなれば、周囲からどう見られることになるか」

配送であったり、給仕であったりと戦うことの無い仕事しか受けてきていないとか、周りから見ても

明らかに戦いに向かないだろうと思われるような風貌でなければ、周りからの目は厳しいものになるのはすぐ想像できる。

先の戦争で親しい人を亡くした人は多い。

アクネシアに対する敵意も高まっているのだ。

そんな中で、剣を持って戦う力を持っている冒険者が戦おうとしないと言うのは、どんな理由があろうともアクネシアの肩を持つ者と取られかねないものになっていた。

流れが作られていたのだ。

これに逆らうのも乗らないように逃れるのも、大きな代償を必要とする程になっていた。


「あ、居た! レッドさん、なんか大変なことになってますね」

レッドたちを探していたのだろう。タカヒロが走り寄ってきた。

異形のモンスターは小さい体格のばかり見られているが、それ以外もあの戦争では存在しと言われている。

だが、それを忘れているのか、それでも勝てると信じきっているのか。

皆、意気をあげていた。

レッドたちだけは、そんな冒険者たちを冷めて見ていた。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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