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本日も主君が変わりました ~昨日の敵が今日の味方な室町時代~  作者: さかもち
第三部 昨日の味方は、今日の敵です
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大将が二人とも亡くなったので、戦は終わりですよね?

「山名宗全様が、亡くなられた」


西軍の使者がそう告げた時、俺は最初、何を言われたのか分からなかった。


山名宗全。


西軍の総大将。


赤入道と呼ばれ、京の武士たちから恐れられた人物である。


その宗全殿が、亡くなった。


「……本当ですか」


「本当だ」


「では、西軍は?」


使者は俺を見た。


「何だ」


「……戦は、どうなるのでしょう」


男は、しばらく黙った。


そして答えた。


「続く」


俺は、思わず聞き返した。


「……続く?」


「そうだ」


「総大将が亡くなられたのに?」


男は、少し眉をひそめた。


「山名家には後継がおる」


「そうですか」


「それに、西軍は山名家だけではない」


俺は黙った。


確かに、その通りだ。


畠山義就殿。


大内政弘殿。


斯波家の者たち。


それぞれの事情を抱えた武士たちが、今も西軍にいる。


山名宗全殿が亡くなったからといって、皆が刀を置くわけではない。


俺は深くため息をついた。


「……では、今後の旗のご注文は、どなたのお名前で?」


男は、呆れた顔をした。


「そなた、今それを聞くか」


俺は慌てて頭を下げた。


「申し訳ございません!」


本当に申し訳ない。


だが、旗屋にとっては大切な問題だった。


          ◇


文明五年、1473年三月。


山名宗全殿が亡くなった。


七十歳。


長年にわたり幕府の政治を動かし、多くの国に勢力を広げてきた人物だった。


俺は宗全殿ご本人と深く話したことはない。


だが、山名家の旗なら何度も作った。


大きな旗。


小さな旗。


急ぎの旗。


雨で傷んだ旗。


そして、和睦のために修繕を頼まれた古い旗。


その一枚一枚が、今も記憶に残っている。


宗全殿は、かつて細川勝元殿と親しい間柄だったという。


勝元殿は宗全殿の養女を妻に迎えた。


二人は親族だった。


それが、いつしか政争を重ね、ついには京を二分する戦に至った。


そして、その戦を終わらせられないまま、宗全殿は亡くなった。


俺は帳面を開いた。


『山名宗全殿』


『文明五年三月十八日 死去』


そこまで書いて、筆を止めた。


商売の帳面に、大名の死まで書く必要があるのだろうか。


少し考えてから、隣に小さく記した。


『修繕旗二枚 納品済み』


これなら、旗屋の記録として間違ってはいない。


佐吉が隣から覗き込んだ。


「親方」


「何でしょう」


「……宗全様は、もう新しい旗をご覧になることはないのですね」


俺は、静かに頷いた。


「ああ」


佐吉はしばらく黙った。


そして、再び針を持った。


「では、残った方々の旗を仕上げましょう」


俺も頷いた。


死んだ人がいても、仕事は残る。


父が亡くなった時も、そうだった。


          ◇


宗全殿の死からしばらくして、西軍の使者が訪ねてきた。


今度は山名家の後継者、政豊殿の名で旗を仕立ててほしいという。


「山名政豊様ですね」


「そうだ」


俺は帳面を開いた。


「枚数は?」


「二十枚」


「紋は?」


「これまで通りだ」


「寸法は?」


「これまで通りだ」


俺は、顔を上げた。


「……では、何を変えるのでしょう」


使者は、少し考えた。


「当主が変わった」


「はい」


「だから新しい旗が要る」


俺は、深く息を吐いた。


なるほど。


当主が変われば、旗も新しくする。


武家には、そういう考えがあるらしい。


以前、朝倉家が西軍から東軍へ移った時も同じことがあった。


同じ家紋。


同じ色。


同じ大きさ。


だが、味方が変わったので新しく作る。


今度は、味方はそのままで当主が変わった。


だから、新しく作る。


俺は帳面に書いた。


『山名政豊様 軍旗二十枚』


そして、最後に確認した。


「代金は半金前払いでございます」


使者は少し笑った。


「……そなたの店は、そればかりだな」


俺は頭を下げた。


「当主が変わっても、こちらは変わりませんので」


使者は声を出して笑った。


「ははは! よい。払おう」


俺も、少しだけ笑った。


少なくとも、山名家の代金は無事にいただけそうだった。


          ◇


ところが、その年の五月。


今度は東軍から使者が駆け込んできた。


「旗屋弥三郎殿!」


俺は、顔を上げた。


「はい」


男は、青ざめた顔をしていた。


「……細川勝元様が、亡くなられた」


俺は、筆を落とした。


「……何ですって?」


「本日、亡くなられた」


文明五年五月十一日。


細川勝元殿、死去。


四十四歳だった。


山名宗全殿が亡くなってから、わずか二か月足らず。


東軍と西軍の両総大将が、相次いでこの世を去ったのである。


俺は、しばらく何も言えなかった。


勝元殿とは、一度だけ言葉を交わしたことがある。


和睦のために、古い旗を修繕して届けた時だった。


勝元殿は、戦が終わってほしいかと俺に尋ねた。


俺は、終わってほしいと答えた。


すると勝元殿は笑って、こう言った。


――旗の注文が減るぞ。


あの笑顔を、俺は覚えている。


まだ、ほんの少し前のことだった。


俺は、静かに目を閉じた。


そして、頭を下げた。


          ◇


その日の夕方。


新九郎殿が店にやってきた。


普段なら冗談の一つも言う人だが、今日は静かだった。


「……弥三郎」


「はい」


「勝元殿も、亡くなったそうだな」


俺は頷いた。


「はい」


新九郎殿は、ゆっくり腰を下ろした。


「宗全殿が先に逝き、勝元殿も逝ったか」


俺は、しばらく黙った。


そして尋ねた。


「……これで、戦は終わるのでしょうか」


新九郎殿は、すぐには答えなかった。


俺は続けた。


「東軍の総大将も、西軍の総大将も亡くなりました」


「ああ」


「ならば、もう戦う理由は……」


そこまで言って、俺は口を閉じた。


新九郎殿が、静かに俺を見た。


「……弥三郎」


「はい」


「お前は、畠山義就殿が何のために戦っているか覚えておるか」


俺は頷いた。


「畠山政長殿との家督争いです」


「そうだ」


「……あ」


「それは、宗全殿が亡くなったら終わるのか」


俺は首を振った。


「いいえ」


「勝元殿が亡くなったら?」


「……いいえ」


新九郎殿は頷いた。


「そういうことだ」


俺は、深くため息をついた。


最初は二人の大将が中心だった。


だが、今ではそれぞれの大名が、別々の理由で戦っている。


だから、二人が亡くなっても終わらない。


俺は、静かに呟いた。


「……戦とは、何とも始末の悪いものですね」


新九郎殿は、少し笑った。


「始める時は皆が勇ましい。終わらせる時は、誰も責任を取りたがらぬ」


俺は、父の帳面を思い出した。


そこには、こんな一行があった。


『勝つまで戦う者には、負けた後の話ができぬ』


今なら、少し意味が分かる。


勝つことしか考えていなければ、引き分けで終わらせる方法を思いつかない。


だが、今の京に必要なのは、勝者を決めることより、戦を終わらせることなのかもしれない。


          ◇


翌日。


細川家から、新しい注文が入った。


俺は書状を開いた。


『細川政元様 軍旗十枚』


俺は、目を止めた。


「……政元様?」


使者が頷いた。


「勝元様のご嫡男だ」


俺は、少し考えた。


そして尋ねた。


「……おいくつでいらっしゃいますか」


「八つだ」


俺は黙った。


そして、ゆっくり顔を上げた。


「……八つ?」


「そうだ」


「八歳の方が、細川家を?」


「そういうことだ」


俺は、しばらく考えた。


千吉が隣で小さく言った。


「親方」


「何だ」


「八歳なら、まだ針を持たせてもらえませんね」


俺は頷いた。


「そうだな」


「でも、東軍を率いるお家の当主になるんですか」


「……そうらしい」


千吉は、しばらく黙った。


そして言った。


「旗屋の親方より、大変そうですね」


俺も、静かに頷いた。


本当に、その通りだった。


俺が八歳の頃など、父に叱られながら糸を巻いていた。


祖父の看板を落として、店中を走り回っていた記憶さえある。


それが、細川政元様は八歳で家督を継ぐ。


自分の名で軍旗が作られ、その旗の下で大勢の大人が戦う。


俺は、何とも言えない気持ちになった。


          ◇


しばらくして、俺は細川家の屋敷を訪ねた。


新たな旗の寸法や納品について確認するためだった。


屋敷には、喪の空気が残っていた。


勝元殿が亡くなったばかりなのだから、当然だ。


案内された部屋には、数人の家臣がいた。


そして、その奥に、小さな少年が座っていた。


細川政元殿だった。


俺は深く頭を下げた。


「旗屋弥三郎にございます」


政元殿は、俺を見た。


まだ幼い顔だった。


だが、周囲の大人たちは、その少年に恭しく接している。


俺は、不思議な光景だと思った。


少年は、俺の持参した布を見た。


「それは、何だ」


「旗の見本でございます」


「父上の旗か」


俺は、少し息を呑んだ。


「……はい。勝元様が使われていたものと、同じ意匠でございます」


政元殿は、しばらく布を見つめていた。


そして尋ねた。


「父上は、これを持って戦っていたのか」


俺は頷いた。


「はい」


少年は、少しだけ目を伏せた。


そして、静かに言った。


「……そうか」


それだけだった。


俺は、何も言えなかった。


この少年にとって、勝元殿は東軍の総大将である前に、父親だったのだ。


そのことを、俺はようやく思い出した。


          ◇


政元殿は、もう一度旗を見た。


そして、思いがけないことを尋ねた。


「旗屋」


「はい」


「父上の旗と、私の旗は、違うのか」


俺は、少し考えた。


「基本の紋は、同じでございます」


「ならば、なぜ新しく作る」


俺は、返事に困った。


まったく、その通りだった。


当主が変わった。


だから新しい旗を作る。


それが武家の慣わしなのだろう。


だが、八歳の少年には、納得できないらしい。


俺は、静かに答えた。


「……新しい当主様を迎えるため、と伺っております」


政元殿は、しばらく考えた。


そして言った。


「父上の旗は、もう使えぬのか」


俺は首を振った。


「いえ。修繕すれば、まだ使えるものもございます」


少年は頷いた。


「ならば、残しておけ」


俺は顔を上げた。


政元殿は、静かに続けた。


「父上の旗を、全部捨てるな」


俺は、深く頭を下げた。


「……承知しました」


傍らの家臣が、少し驚いた顔をしていた。


だが、俺はその言葉が嬉しかった。


父の旗を残したい。


それは、八歳の少年にとって自然な願いだったのだろう。


俺にも、よく分かった。


俺だって、父の帳面を捨てられない。


祖父の白い旗を捨てられない。


誰かが亡くなったからといって、その人の残したものまでなくす必要はないのだ。


          ◇


店へ戻ると、千吉が待っていた。


「親方。どうでしたか」


俺は、政元殿の話をした。


八歳で細川家を継いだこと。


父の旗を残したいと言ったこと。


千吉は、静かに聞いていた。


そして、少しだけ笑った。


「……優しい方ですね」


俺は頷いた。


「そうだな」


佐吉も、針を動かしながら言った。


「では、古い旗の修繕も必要になりそうですね」


俺は頷いた。


「はい」


佐吉は、少しだけ笑った。


「親方」


「何でしょう」


「軍旗は、当主が変わるたびにすべて新しくする必要はないのかもしれませんね」


俺は、少し考えた。


そして笑った。


「……旗屋としては、困った話ですね」


佐吉も笑った。


「ですが、大切なことだと思います」


俺は、静かに頷いた。


その通りだった。


          ◇


六月。


京には、奇妙な空気が広がっていた。


山名宗全殿が亡くなった。


細川勝元殿も亡くなった。


東軍と西軍の中心人物が、相次いで世を去った。


そして、それぞれの家には新しい当主が立った。


山名政豊殿。


細川政元殿。


二人の名が、京の町で聞かれるようになった。


だが、戦は続いている。


俺は、ある日、新九郎殿に尋ねた。


「……新九郎殿」


「何だ」


「この戦は、何のために続いているのでしょう」


新九郎殿は、しばらく考えた。


そして答えた。


「それぞれ、違うことのために戦っておるのだろう」


俺は頷いた。


「……そうですね」


「畠山は家督。斯波も家督。大内は自分の立場。ほかにも、それぞれ事情がある」


俺は、深くため息をついた。


「では、皆が納得するまで終わらないのですか」


新九郎殿は首を振った。


「いや」


俺は顔を上げた。


「……違うのですか」


新九郎殿は、少し笑った。


「納得できなくても、戦をやめる者はいる」


俺は、しばらく考えた。


そして頷いた。


確かに。


戦を続ける理由があっても、戦をやめることはできる。


勝つまで戦う必要はない。


それを決められるかどうか。


今の京に必要なのは、そこなのかもしれない。


          ◇


それからしばらくして、今度は将軍家から大きな知らせが届いた。


足利義政様が、将軍職を息子の義尚様へ譲るという。


俺は、思わず顔を上げた。


「……将軍様も、代わられるのですか」


千吉が頷いた。


「はい」


「義尚様は、おいくつだ」


「八歳だそうです」


俺は黙った。


そして、静かに尋ねた。


「……また八歳か」


千吉も黙った。


新九郎殿が、隣で腹を抱えて笑い始めた。


「ははは! 弥三郎!」


俺は、少し困った顔をした。


「何でしょう」


「お前より、よほど若い者たちが、この国を動かすことになったな!」


俺は、深くため息をついた。


「……そうですね」


八歳の細川政元殿。


そして、八歳の足利義尚様。


俺は、しばらく考えた。


「……新九郎殿」


「何だ」


「八歳の将軍様に、戦を終わらせられるのでしょうか」


新九郎殿は、笑うのをやめた。


そして、静かに言った。


「八歳の子に、何でも背負わせるな」


俺は、何も言えなかった。


その通りだった。


父親たちの時代に始まった戦。


その後始末を、子どもたちに任せようとしている。


何とも、気の毒な話だった。


          ◇


文明五年十二月。


足利義尚様が、第九代将軍となった。


正式な将軍の交代である。


京の町には、その知らせが広がった。


新しい将軍。


新しい細川家の当主。


新しい山名家の当主。


俺は、帳面を開いた。


『将軍 足利義尚様』


『細川家 政元様』


『山名家 政豊様』


並べてみると、ずいぶん世代が変わったことが分かる。


俺は、静かに呟いた。


「……一つの時代が、終わったのだな」


すると、佐吉が顔を上げた。


「親方」


「何でしょう」


「戦は、まだ終わっていませんよ」


俺は黙った。


そして、深くため息をついた。


「……そうでした」


どうやら、時代だけが先に進んでしまったらしい。


          ◇


その日の夕方。


店に一人の男が現れた。


山名家の使者だった。


俺は頭を下げた。


「いらっしゃいませ」


男は、少しだけ笑った。


「旗屋弥三郎殿。今日は注文ではない」


俺は、少し驚いた。


「では、何でしょう」


男は、静かに言った。


「細川家との話し合いが、再び始まるかもしれぬ」


俺は、息を呑んだ。


「……和睦ですか」


男は頷いた。


「そうだ」


「宗全様と勝元様が亡くなられた後で?」


「だからこそだ」


俺は、顔を上げた。


男は続けた。


「先代の争いを、次の代まで続ける必要はないと考える者もいる」


俺は、何も言えなかった。


それは、何とも当たり前の話に聞こえた。


だが、今の京では、その当たり前が難しい。


男は、少しだけ笑った。


「政豊様と政元様の間で、和睦の道を探ろうという話だ」


俺は、静かに頷いた。


「……それは、よいことですね」


男も頷いた。


「そう願いたい」


だが、その表情は晴れなかった。


俺は尋ねた。


「何か、問題が?」


男は、しばらく黙った。


そして答えた。


「……山名家と細川家が和睦しても、ほかの者が戦をやめるとは限らぬ」


俺は、深くため息をついた。


また、そこだった。


          ◇


その夜。


俺は、祖父の白い旗を取り出した。


曲がった縫い目。


古い布。


不揃いな糸。


それでも、三代にわたって残っている。


俺は、静かに布を広げた。


祖父・弥太郎。


父・弥一郎。


そして、俺。


三人とも、同じ店を守ってきた。


だが、同じ考え方だったわけではない。


祖父は、無理な注文を面白がった。


父は、商売の仕組みを整えた。


俺は、できるだけ人が困らない方法を考えようとしている。


代が変われば、やり方も変わる。


それでも、店は続いている。


俺は、静かに呟いた。


「……父上」


返事はない。


「細川家も山名家も、代が変わりました」


俺は、少しだけ笑った。


「どうやら、次の代は戦を終わらせたいようです」


そして、白い旗を丁寧に畳んだ。


「……そうなれば、よいですね」


          ◇


翌朝。


俺は店先に、新しい札を掛けた。


『当主が変わっても、旗は修繕できます』


その下に、


『先代の旗も、大切にいたします』


新九郎殿が、それを読んだ。


そして、しばらく黙った。


「弥三郎」


「何でしょう」


「……よい札だな」


俺は、少し驚いた。


「ありがとうございます」


新九郎殿は、静かに頷いた。


「弥一郎も、喜ぶだろう」


俺は、深く頭を下げた。


「……そう思います」


その時だった。


店の外から、慌ただしい足音が聞こえた。


一人の武士が、駆け込んできた。


「旗屋弥三郎殿!」


俺は顔を上げた。


「はい」


男は、静かに言った。


「細川家と山名家の使者が、会うことになった」


俺は、息を呑んだ。


「……和睦のために?」


男は頷いた。


「そうだ」


俺は、思わず笑った。


「それは、よかった!」


だが、男は続けた。


「ただし、問題がある」


俺は、顔を上げた。


「……何でしょう」


男は、少し困った顔をした。


「会談の場に掲げる旗について、意見が合わぬ」


俺は、ゆっくり目を閉じた。


……また旗か。


「細川家は、東軍の旗を掲げたいと言っている」


「はい」


「山名家は、西軍の旗を掲げたいと言っている」


「……はい」


「だが、互いに相手の旗の下へ入るつもりはない」


俺は、深くため息をついた。


なるほど。


戦を終わらせるために集まる。


だが、その場所に掲げる旗で揉めている。


俺は、静かに尋ねた。


「……では、何も掲げなければよろしいのでは?」


男は、俺を見た。


そして、低い声で言った。


「それでは、どちらが主導した和睦か分からぬ」


俺は、何も言えなかった。


ようやく、少し分かってきた。


今の京では、戦を始めるにも旗が必要だった。


そして。


戦を終わらせるにも、旗が必要らしい。


俺は、ゆっくり帳面を開いた。


『細川家・山名家 和睦会談』


『掲示旗 未定』


そして、最後に一行。


『どちらの旗も、下げたくない』


俺は、筆を置いた。


父上。


お祖父様。


どうやら、次の仕事はこれまでで一番難しい旗になりそうです。

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