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本日も主君が変わりました ~昨日の敵が今日の味方な室町時代~  作者: さかもち
第三部 昨日の味方は、今日の敵です
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不要になった人間は、どちらへ捨てればよいのですか

「これは命令だ」


男は、そう言って書状を突きつけた。


俺は受け取らなかった。


正確に言えば、受け取る前に、もう一度名前を確かめた。


「この三名を、東軍側へ移せということですね」


「そうだ」


「本人たちの希望は?」


「関係ない」


「行き先は?」


「東軍の陣だ」


「向こうは受け入れると?」


男は黙った。


俺は帳面を閉じた。


「では、通せません」


男の頬が引きつった。


「貴様、命令の意味が分からぬのか」


「分かります」


「ならば従え」


「ですが、私どもには人を引き渡す権限がありません」


男は俺を睨んだ。


「旗屋が権限を語るか」


「はい。旗屋ですから」


自分でも、よく分からない返事だった。


だが、今さら取り消す気にもなれなかった。


男は書状を机に叩きつけた。


「明日の朝までに、その三人を通せ」


そして、声を落とした。


「さもなくば、この店がどちらの味方か、はっきりさせてもらう」


男が去った後も、俺はしばらく動けなかった。


店の奥から、父が現れた。


「弥三郎」


「……はい」


「また、厄介な注文を受けたな」


「受けていません」


「相手は、そう思っていないようだぞ」


俺は深いため息をついた。


祖父の代から続くこの店には、さまざまな注文があったという。


旗を作れ。


旗を隠せ。


旗を燃やせ。


敵の旗を味方の旗にしろ。


そして今度は、人を運べ。


父上。


どうして誰も、普通に旗を注文してくださらないのでしょう。


          ◇


応仁二年、1468年。


京では、東軍と西軍の戦が続いていた。


春になっても、町に春らしい穏やかさは戻らなかった。


焼け残った家々の間を、武士が歩く。


食べ物の値は上がり、仕事を失った者たちが増えている。


寺の門前には、故郷へ戻れない人々が身を寄せていた。


そんな町で、俺たちの旗屋は、町人を安全な場所へ通す手伝いを始めていた。


もちろん、戦を止められるわけではない。


東軍と西軍の双方が、その都度認めた場合に限り、決められた道を通す。


ただ、それだけのことだ。


それでも、道を一つ通れるかどうかで、助かる命がある。


俺は、その仕事を続けたいと思っていた。


だが、今、その道を別の目的に使おうとする者が現れた。


西軍の陣から、三人の町人を東軍へ移せという。


しかも、本人たちの意思は関係ないというのだ。


俺は、机に残された書状を見つめた。


そこには、三人の名があった。


嘉兵衛(かへえ)。


お里(おさと)。


徳松(とくまつ)。


名前の横には、三人だけ同じ印が付けられている。


ただの墨の丸だった。


しかし、その丸が何を意味するのか。


俺には、それが恐ろしかった。


          ◇


「親方。どうされますか」


千吉が尋ねた。


俺は書状を見せた。


千吉は、三人の名を読んだ。


「……知っているか」


俺が尋ねると、千吉は首を振った。


「いいえ」


「西軍の陣にいるらしい」


「では、会いに行くんですか」


俺は頷いた。


「まず本人たちと話がしたい」


千吉は、少し考えた。


「私も行きます」


「駄目だ」


「でも……」


「昨日も言っただろう。誰かは店に残らなければならん」


千吉は黙った。


俺は続けた。


「それに、今回はどうも様子がおかしい」


佐吉が静かに口を開いた。


「親方。相手は三人を『不要になった者』と言ったのですね」


「はい」


「……何を意味しているのでしょう」


俺は首を振った。


「分かりません」


父が、縁側から言った。


「なら、確かめるしかないな」


俺は父を見た。


「はい」


父は、しばらく考えてから続けた。


「ただし、相手に聞くだけでは分からんぞ」


「どういうことです?」


「追い出したい者に、追い出す理由を聞いても、都合のよい話しか出てこないことがある」


俺は、静かに頷いた。


父は笑った。


「昔、俺もそれで失敗した」


「どんな失敗ですか」


「長い話になる」


「では、帰ってから聞きます」


「そうしてくれ」


父は、少しだけ寂しそうに笑った。


俺は、その顔を見て、必ず帰ろうと思った。


          ◇


西軍の陣へ向かうと、以前会った三浦頼景殿が迎えてくれた。


「……また来たのか」


俺は頭を下げた。


「はい」


頼景殿は、深くため息をついた。


「今度は何だ」


俺は書状を差し出した。


頼景殿の顔色が変わった。


「……これを、どこで」


「昨日、使者が持ってきました」


頼景殿は、しばらく黙っていた。


そして、小さな声で言った。


「厄介なことになったな」


俺は、息を呑んだ。


「この三人について、ご存じなのですか」


頼景殿は頷いた。


「少しはな」


「どのような方々でしょう」


頼景殿は、周囲を確かめた。


そして俺を陣の隅へ連れていった。


「嘉兵衛は、米を扱う商人だ」


俺は頷いた。


「お里は、その妻」


「では、徳松は?」


「二人の息子だ。まだ十二だという」


俺は、書状を見た。


三人の名前。


同じ墨の丸。


一家族だったのか。


「……なぜ、この方々を東軍へ?」


頼景殿は、しばらく黙った。


そして答えた。


「嘉兵衛が、東軍にも米を売っていたそうだ」


俺は顔を上げた。


「それが理由ですか」


「ああ」


「西軍にも売っていたのでしょう」


頼景殿は頷いた。


「そう聞いている」


俺は、思わず言った。


「それでは、うちと同じではありませんか」


頼景殿は、少し笑った。


「旗屋と米屋では、違うところもあるだろう」


「ですが、商売です」


「そうだな」


頼景殿は、静かに続けた。


「しかし、米は兵を動かす」


俺は黙った。


「食べ物がなければ、軍勢は戦えぬ。敵へ米を売れば、それが敵を助けることになる」


確かに、そうだ。


だが、米は武士だけが食べるものではない。


町人も食べる。


子どもも食べる。


病人も食べる。


俺は、書状を見つめた。


「……だから、一家を追い出すのですか」


頼景殿は首を振った。


「私は、そうしろと命じたわけではない」


「では、誰が」


頼景殿は答えなかった。


その沈黙が、答えだった。


          ◇


嘉兵衛一家と会うことができたのは、昼過ぎだった。


頼景殿が、知り合いの兵を通じて話をつけてくれたのである。


一家は、焼け残った小さな家に身を寄せていた。


嘉兵衛は四十を少し過ぎた頃だろうか。


痩せた顔に、深い疲れが浮かんでいる。


お里は、息子の徳松を隣に座らせていた。


俺が名乗ると、嘉兵衛は深く頭を下げた。


「……旗屋さんが、何の御用で」


俺は、事情を話した。


西軍から、三人を東軍側へ移すよう命じられたこと。


本人たちの意思を確かめたいこと。


そして、勝手に人を引き渡すつもりはないこと。


嘉兵衛は、しばらく黙っていた。


やがて、力なく笑った。


「……そうですか」


お里の顔が青ざめた。


「私たちは、追い出されるのですか」


俺は、静かに答えた。


「まだ、決まっておりません」


嘉兵衛は首を振った。


「いえ。もう、決まっているのでしょう」


俺は何も言えなかった。


嘉兵衛は続けた。


「米を売ったのです」


「はい」


「東軍にも、西軍にも」


俺は頷いた。


「それで、何が悪かったのでしょう」


嘉兵衛の声が震えた。


「米を売らなければ、家族が食べていけません」


俺は黙った。


「西軍だけに売れば、東軍から恨まれる。東軍だけに売れば、西軍から恨まれる」


嘉兵衛は、俺を見た。


「どちらにも売れば、両方から疑われる」


俺は、胸が痛くなった。


まるで、旗屋の帳面を読んでいるようだった。


          ◇


「嘉兵衛殿」


俺は尋ねた。


「東軍側へ移りたいというお気持ちはありますか」


嘉兵衛は、すぐには答えなかった。


お里を見た。


徳松を見た。


そして、小さく頷いた。


「……正直に申せば、どこでもよいのです」


俺は顔を上げた。


嘉兵衛は続けた。


「家族が生きていける場所なら」


お里が、静かに言った。


「でも、東軍の方々が受け入れてくださるのでしょうか」


俺は、首を振った。


「まだ、確かめておりません」


お里は、徳松の肩を抱いた。


少年は、じっと俺を見ていた。


そして、突然尋ねた。


「旗屋さん」


「何だい」


「東軍と西軍って、どっちが悪いんですか」


俺は、言葉に詰まった。


「……難しい質問だな」


徳松は続けた。


「父ちゃんは、どっちにも米を売っただけなのに、悪い人だって言われました」


俺は黙った。


「じゃあ、米を買った人も、悪い人なんですか」


その問いに、俺は答えられなかった。


徳松は、真剣な顔で言った。


「俺、もう分かりません」


俺は、少年の前に膝をついた。


「……俺も、分からないことが多い」


徳松は、少し驚いた顔をした。


「大人なのに?」


俺は笑った。


「ああ。大人なのに」


少年は、初めて少し笑った。


俺は続けた。


「ただ、お前のお父さんが家族を守ろうとしていたことは、分かる」


徳松は、静かに頷いた。


          ◇


帰り道、俺は長い間考えていた。


嘉兵衛一家を東軍側へ通すこと自体は、悪いことではないかもしれない。


本人たちも、安全な場所なら移りたいと言っている。


だが、問題はそこではない。


西軍の一部が一家を不要と判断し、追い出そうとしている。


しかも、受け入れ先を確かめることもなく。


それでは、ただ人を押しつけるだけだ。


俺は、西軍の陣に戻り、三浦頼景殿を訪ねた。


「頼景殿」


「何だ」


「嘉兵衛殿たちと、お話ししました」


頼景殿は頷いた。


「そうか」


「安全な場所なら移りたいそうです」


「ならば、よいではないか」


俺は首を振った。


「東軍が受け入れるか、まだ分かりません」


頼景殿は、しばらく考えた。


「……確かにな」


「それから、家族を引き離さないことも、確認したいのです」


頼景殿は眉を寄せた。


「三人まとめて移す命令だろう」


「はい。ですが、途中で事情が変わるかもしれません」


俺は書状を見せた。


「この丸印が、何を意味するのかも分からないままです」


頼景殿は、しばらく俺を見ていた。


そして、静かに言った。


「……弥三郎。そなたは本当に面倒な男だな」


俺は頭を下げた。


「よく言われます」


頼景殿は、少し笑った。


「だが、言っていることは分かる」


俺は、顔を上げた。


「……では」


「東軍の担当者に確かめよう。受け入れ先がなければ、移送はできぬ」


俺は、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


          ◇


店へ戻ると、父が待っていた。


「弥三郎」


「はい」


「……どうだった」


俺は、今日の出来事を話した。


米屋の嘉兵衛。


妻のお里。


息子の徳松。


東軍にも西軍にも米を売ったため、疑われたこと。


そして、本人たちは安全な場所へ移りたいと思っていること。


父は最後まで黙って聞いていた。


そして言った。


「……そうか」


俺は少し笑った。


「父上は、いつもそれですね」


父も笑った。


だが、すぐに真顔になった。


「弥三郎」


「はい」


「その嘉兵衛という男は、悪いことをしたと思っているのか」


俺は、少し考えた。


「……いいえ」


「では、お前は?」


「私も、悪いことだとは思いません」


父は頷いた。


「なら、まずその考えを忘れるな」


俺は、顔を上げた。


父は続けた。


「戦が長くなると、人は何でも敵味方で考えるようになる」


「はい」


「だが、米を売る者も、布を縫う者も、本来は暮らしのために働いている」


俺は黙った。


「それを忘れると、町そのものが敵になる」


その言葉が、胸に残った。


          ◇


翌日、東軍の担当者から返事が来た。


嘉兵衛一家については、受け入れ先を確かめることができたという。


東軍側にも、米を扱う商人が必要だった。


嘉兵衛は、商売を続けられる可能性がある。


俺は、ようやく息を吐いた。


だが、まだ安心できなかった。


西軍の命令を持ってきた男に、改めて話をしなければならない。


そして、その男が納得するかどうかも分からない。


俺は、書状を持って西軍の陣へ向かった。


          ◇


男は、昨日と同じ場所にいた。


「弥三郎」


俺は頭を下げた。


「はい」


「三人の移送はどうなった」


俺は答えた。


「東軍側で受け入れ先を確かめました」


男は頷いた。


「ならば、すぐに通せ」


俺は、静かに続けた。


「その前に、三人が自分の意思で移ることを確認し、ご家族を引き離さないことを双方で約束していただきたいのです」


男の眉が動いた。


「……何?」


「嘉兵衛殿たちは、移ることを望んでおられます。ただし、安全な場所で家族一緒に暮らしたいと」


男は、しばらく俺を見つめた。


そして、冷たく笑った。


「……そなた、勘違いしておらぬか」


俺は黙った。


「これは、嘉兵衛一家の希望を叶えるための命令ではない」


俺は、息を呑んだ。


男は続けた。


「西軍の陣から、疑わしい者を取り除くための命令だ」


「……しかし」


「本人が望もうと望むまいと、出ていってもらう」


俺は、膝の上で拳を握った。


「……では、受け入れ先がなかった場合は?」


男は、平然と答えた。


「外へ出せばよい」


俺は、何も言えなかった。


男は続けた。


「東軍に入れなければ、どこか別の場所へ行くだろう」


俺は、静かに息を吐いた。


そして、言った。


「……それでは、三人の命が危険です」


男は、俺を見た。


「戦の最中だぞ」


「はい」


「誰の命も、安全ではない」


俺は黙った。


男は、少しだけ声を落とした。


「弥三郎。そなたは、自分が何をしているか分かっているのか」


「……はい」


「西軍の命令に、条件を付けているのだぞ」


俺は、深く頭を下げた。


「承知しております」


男は、長い間俺を睨んでいた。


そして、静かに言った。


「……ならば、こちらにも条件がある」


俺は、顔を上げた。


「何でしょう」


男は、懐からもう一枚の紙を取り出した。


そこには、別の名前が書かれていた。


俺は、目を落とした。


そして、息を呑んだ。


そこに書かれていたのは、嘉兵衛一家ではなかった。


千吉。


俺の店で働く、あの千吉の名だった。


          ◇


「……これは」


俺は、声が震えるのを感じた。


男は、静かに答えた。


「その者は、かつて赤松家に仕えていたそうだな」


俺は黙った。


千吉は、赤松家の騒動から逃れてきた少年だった。


叔父の源六が、命を懸けて逃がした子だ。


今では、俺の店に欠かせない職人になっている。


「……はい」


俺は答えた。


男は続けた。


「赤松家は、かつて将軍を討った家だ」


俺は、静かに頷いた。


「存じております」


「その家に関わる者を、今も雇っている」


「はい」


男は、少し笑った。


「では、その者の素性について、詳しく話してもらおう」


俺は、何も言えなかった。


千吉は、あの事件の時、まだ子どもだった。


何も知らずに逃げてきた。


その後、旗屋で働き、今では立派な職人になった。


なのに、何年も前の家の事情が、今になって問題にされようとしている。


男は、静かに言った。


「弥三郎。嘉兵衛一家のことに、これ以上口を出すなら……」


そこで言葉を切った。


俺は、男を見た。


男は、ゆっくり続けた。


「その千吉という者についても、調べさせてもらう」


俺は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。


これは脅しだ。


嘉兵衛一家を守ろうとすれば、千吉が危険になる。


千吉を守ろうとすれば、嘉兵衛一家を見捨てることになる。


俺は、しばらく何も言えなかった。


そして、ようやく気づいた。


これまで、俺は旗を作る時に、何度も同じことを考えてきた。


誰の味方になるか。


誰を守るか。


何を引き受け、何を断るか。


だが、今回ばかりは違う。


どちらを選んでも、誰かが傷つく。


俺は、ゆっくり息を吐いた。


そして、男を見つめた。


「……少し、考える時間をいただけますか」


男は、冷たく笑った。


「明日の朝までだ」


俺は、深く頭を下げた。


          ◇


店へ戻ると、千吉が迎えてくれた。


「親方。お帰りなさい」


俺は、何も言えなかった。


千吉は、不思議そうな顔をした。


「……どうされました」


俺は、少しだけ笑った。


「いや。何でもない」


千吉は首を傾げた。


「そうですか」


そして、いつものように仕事へ戻っていった。


俺は、その背中を見つめた。


何年も前、まだ少年だった千吉が、初めて店へ来た日のことを思い出す。


震える手で針を持ち、曲がった縫い目を作った。


それを見て、父も佐吉も笑った。


千吉も、少しだけ笑った。


あの日から、千吉はこの店の一員だった。


俺は、静かに息を吐いた。


その時、父が声をかけた。


「弥三郎」


俺は振り返った。


「はい」


父は、俺の顔を見た。


そして、静かに言った。


「……何か、あったな」


俺は、何も答えられなかった。


父は、少しだけ目を細めた。


「話してみろ」


俺は、ゆっくり父の前に座った。


そして、今日の出来事を話した。


嘉兵衛一家のこと。


西軍の命令。


そして、千吉の名前が書かれた紙。


父は、最後まで黙って聞いていた。


話し終えると、長い間、何も言わなかった。


やがて、静かに口を開いた。


「……弥三郎」


「はい」


「お前は、千吉を守りたいか」


俺は即座に頷いた。


「もちろんです」


父は続けた。


「嘉兵衛一家も、守りたいか」


「はい」


父は、静かに頷いた。


「ならば、まだ決めるな」


俺は、顔を上げた。


「……どういうことでしょう」


父は、少し笑った。


「相手が二つの選択肢を出したからといって、その中から選ぶ必要はない」


俺は、息を呑んだ。


父は続けた。


「お前は、旗屋だろう」


「はい」


「ならば、もう一つの道を考えろ」


俺は、父を見つめた。


祖父の代から続く店。


父が守ってきた店。


そして、今、俺が守ろうとしている人々。


俺は、静かに頷いた。


「……分かりました」


父は、少しだけ笑った。


「それでいい」


          ◇


その夜。


俺は帳面を開いた。


嘉兵衛。


お里。


徳松。


そして、千吉。


四人の名前を並べた。


どの者も、武士ではない。


どの者も、自分から戦を始めたわけではない。


ただ、生きようとしているだけだ。


俺は、長い間その名前を見つめた。


そして、筆を取った。


新しい頁に、こう書いた。


『守るべき者、四名』


その下に、もう一行。


『方法、未定』


俺は、筆を置いた。


父上。


お祖父様。


今度ばかりは、見積もりも、代金も、納期もありません。


ただ、守らなければならない人がいます。


そして、明日の朝までに、答えを出さなければなりません。


俺は、静かに目を閉じた。


京の夜には、今日も遠くから戦の音が響いていた。

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