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本日も主君が変わりました ~昨日の敵が今日の味方な室町時代~  作者: さかもち
第三部 昨日の味方は、今日の敵です
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42/60

敵陣への配達は、別料金をいただきます

「東軍から西軍へ行くには、どうすればよいでしょう」


俺が尋ねると、新九郎殿は茶を吹き出した。


「何だと?」


「ですから、西軍の陣へ行く方法です」


「死にたいのか」


「いいえ」


「なら、やめておけ」


実に明快な答えだった。


だが、それでは困る。


与平殿の息子、弥助は十六歳。


畠山政長方の軍勢に加わり、戦の後から消息が分からなくなっていた。


昨日、俺たちの店に一つの知らせが届いた。


西軍の陣に、十代半ばの若い武士が保護されているという。


右の肩に傷があり、名前を尋ねても答えないらしい。


それが弥助かどうかは分からない。


ただ、与平殿から聞いた弥助の特徴と、いくつか一致していた。


「新九郎殿。確かめるだけでも……」


「弥三郎」


新九郎殿は珍しく真顔だった。


「東軍の人間が西軍に入れば、間者だと疑われる。西軍の人間が東軍へ来ても同じだ」


「俺は旗屋です」


「今はそれが通じると思うか?」


俺は黙った。


新九郎殿は、窓の外を見た。


「お前は両方に旗を売ってきた。昔なら、それが商売だった。今は、両方に疑われる理由になる」


まったく、その通りだった。


俺は帳面を開いた。


『弥助 十六歳』


『消息不明』


名前の横に、まだ何も書けない空白がある。


俺は、その空白を見つめた。


「……それでも、確かめたいんです」


新九郎殿は長く息を吐いた。


「弥一郎に相談したか」


「いいえ」


「なぜだ」


俺は苦笑した。


「止められると思いまして」


「俺なら止めないと思ったのか!」


その声に、店の奥から父の笑い声が聞こえた。


「ははは……新九郎、お前も苦労するな」


俺は振り返った。


父が、戸口に立っていた。


杖をつき、肩には厚い布を掛けている。


病から回復しつつあったが、まだ顔色はよくない。


「父上! 寝ていてください」


父は首を振った。


「少し座りたいだけだ」


新九郎殿が、父へ椅子を勧めた。


二人の動きは、昔よりずっとゆっくりになっていた。


父は椅子に腰を下ろし、俺を見た。


「弥三郎」


「はい」


「西軍へ行きたいんだな」


「……はい」


父は頷いた。


「なら、まず西軍の誰に会うか決めろ」


俺は、思わず顔を上げた。


「止めないんですか」


「止めたら、やめるのか?」


俺は答えられなかった。


父は少し笑った。


「そういうところは、俺に似たな」


新九郎殿が呆れたように言った。


「二人とも、弥太郎殿に似てるんだよ」


父は、なぜか嬉しそうだった。


俺は少しも嬉しくなかった。


          ◇


翌朝、俺は山名家の使者・重房殿を訪ねた。


以前なら、店へ来て旗を注文し、代金を支払い、時には父と昔話をして帰る客だった。


だが、今は違う。


山名家は西軍の中心にいる。


重房殿に会うことさえ、簡単ではなかった。


俺は知人を通じて使いを送り、ようやく陣の外に設けられた取次ぎの場所で会うことができた。


重房殿は、俺を見るなり眉をひそめた。


「弥三郎殿。こんなところまで、何をしに来た」


「人を捜しております」


俺は弥助のことを話した。


重房殿は、黙って聞いていた。


やがて、低い声で尋ねた。


「畠山政長方の若者だな」


「はい」


「つまり、東軍の兵ではないか」


「そのように聞いております」


「敵の兵を捜して、西軍に来たのか」


俺は頷いた。


「はい」


重房殿は額を押さえた。


「……そなたの店は、相変わらず面倒な仕事ばかり引き受けるな」


「よく言われます」


「褒めておらぬ」


俺は頭を下げた。


重房殿は、しばらく考えていた。


そして言った。


「東軍の兵を保護しているという話は、確かにある」


俺は顔を上げた。


「では!」


「落ち着け」


重房殿は続けた。


「ただし、今は軍勢が入り乱れている。名も分からぬ者が大勢いる」


俺は頷いた。


「その若者が弥助とは限らぬ」


「承知しております」


「仮に見つかっても、勝手に連れ帰れるとは思うな」


俺は、深く息を吐いた。


「……はい」


重房殿は、少しだけ表情を和らげた。


「まず、話だけ確かめてやろう」


俺は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


重房殿は、帰り際に言った。


「弥三郎殿」


「はい」


「これは、そなたの父君への恩返しだ」


俺は、顔を上げた。


「父上への?」


「ああ」


重房殿は、少し笑った。


「昔、息子が病で倒れた時、あの人は仕事より人を優先してくれた」


俺は、静かに頷いた。


重房殿は続けた。


「……今度は、私がそうする番だ」


その言葉が、胸に残った。


          ◇


二日後、重房殿から知らせが届いた。


『若者一名、確認。ただし本人は名を明かさず』


俺は、すぐに与平殿を呼んだ。


与平殿は息を切らしてやって来た。


「弥三郎殿!」


俺は書状を見せた。


与平殿の手が震えた。


「……弥助かもしれぬのですね」


「はい」


与平殿は、書状を何度も読み返した。


そして、静かに言った。


「右肩に傷……」


俺は頷いた。


「弥助殿にも、同じ場所に古い傷が?」


与平殿は首を振った。


「いいえ。戦に出る前にはありませんでした」


俺は、少しだけ目を伏せた。


今回の傷なのだろう。


与平殿は続けた。


「弥助には、左手の小指に古い傷があります」


俺は顔を上げた。


「小指?」


「幼い頃、木刀で遊んでいて怪我をしました」


与平殿は、かすかに笑った。


「私が叱ったのです。武士になるなら、まず道具を大切にしろ、と」


その笑顔が、すぐに消えた。


「……あの時は、こんな日が来るとは思いませんでした」


俺は、何も言えなかった。


与平殿は、深く頭を下げた。


「どうか、確かめていただけませんか」


俺は頷いた。


「必ず、確認をお願いしてみます」


その時、与平殿が懐から小さな包みを出した。


中には銭が入っていた。


「費用にお使いください」


俺は、受け取ろうとしなかった。


「まだ、何もできておりません」


与平殿は首を振った。


「もう十分、していただいております」


俺は、しばらく考えた。


そして、包みを受け取った。


「……では、使った分だけ帳面につけます」


与平殿は、少し笑った。


「弥三郎殿らしい」


俺も、少し笑った。


だが、その笑いは長く続かなかった。


与平殿が、静かに言ったからだ。


「……もし、弥助が見つかったとして」


俺は顔を上げた。


「はい」


「私を、父親だと認めてくれるでしょうか」


その問いに、俺は答えられなかった。


          ◇


与平殿が帰った後、俺は父の部屋を訪ねた。


父は窓際で、古い帳面を読んでいた。


「父上」


「何だ」


「……子どもは、父親を恨むものでしょうか」


父は、顔を上げた。


そして、少し笑った。


「お前は俺を恨んでいるのか」


俺は慌てた。


「違います!」


「なら、なぜそんなことを聞く」


俺は、与平殿の言葉を伝えた。


父は、静かに聞いていた。


やがて、帳面を閉じた。


「……難しいな」


俺は、思わず苦笑した。


「父上は、いつもそうですね」


父も笑った。


「そうだな」


そして、少しだけ目を細めた。


「だが、弥三郎」


「はい」


「親は、子どもに何かを残したいと思うものだ」


俺は頷いた。


「店だったり、家だったり、名前だったりな」


「はい」


「それが、子どものためになると信じている」


俺は黙って聞いた。


父は続けた。


「だが、子どもが欲しいものは、案外違うのかもしれん」


俺は、顔を上げた。


父は、少し笑った。


「お前は、店を継いでくれた」


「はい」


「俺は嬉しかった」


その言葉に、胸が温かくなった。


父は続けた。


「だが、もしお前が嫌だと言ったら、それでも俺は嬉しくなければならなかったんだろうな」


俺は、しばらく父を見つめた。


「……難しいですね」


父は笑った。


「ああ。親になるのは、親方になるより難しい」


俺は、静かに頷いた。


          ◇


さらに三日後。


重房殿から、新たな知らせが届いた。


若者の左手には、小指の古い傷があるという。


俺は、書状を握りしめた。


「……弥助だ」


千吉が、顔を上げた。


「見つかったんですね!」


俺は頷いた。


「ああ。おそらく間違いない」


千吉は、嬉しそうに笑った。


「よかった!」


だが、すぐに表情を曇らせた。


「……連れ帰れるんですか」


俺は首を振った。


「まだ分からん」


千吉は黙った。


俺は書状を読み直した。


『本人、帰還を望まず』


その一行が、妙に重かった。


見つかった。


生きていた。


だが、帰りたくないという。


俺は、しばらく考えた。


そして、もう一度重房殿へ使いを出した。


『本人と話をしたい』


          ◇


数日後、返事が届いた。


重房殿が、軍勢の外れにある寺で面会を取り計らってくれるという。


ただし、俺一人で来ること。


護衛を伴わないこと。


武器を持たないこと。


そして、日暮れ前に帰ること。


俺は、書状を読み終えた。


新九郎殿が、横から覗き込んだ。


「……いよいよ行くのか」


俺は頷いた。


「はい」


「本当に大丈夫か」


「分かりません」


新九郎殿は、深いため息をついた。


「お前も、父親に似てきたな」


俺は、少し笑った。


「最近、よく言われます」


新九郎殿は、杖をついて立ち上がった。


「……弥三郎」


「はい」


「帰ってこいよ」


俺は、顔を上げた。


新九郎殿は、静かに続けた。


「見つけに行ったお前まで、行方知れずになったら困る」


俺は、深く頷いた。


「……はい」


          ◇


寺へ向かう道は、以前の京とは別の町のようだった。


焼けた家。


崩れた塀。


道を塞ぐ柵。


そして、槍を持つ武士たち。


何度も足を止められ、名を尋ねられた。


俺は、そのたびに答えた。


「旗屋弥三郎でございます」


時には通してもらえた。


時には、しばらく待たされた。


そして、一度だけ、武士に笑われた。


「旗屋が、戦場に何の用だ」


俺は答えた。


「人を捜しております」


男は、眉をひそめた。


「人捜しなら、町へ帰れ」


俺は、静かに言った。


「町で見つからなかったので、こちらへ来ました」


男は、しばらく俺を見つめていた。


そして、苦笑した。


「……変わった奴だ」


俺は、少し笑った。


「よく言われます」


通行を許され、俺は歩き出した。


祖父も、父も、何度もこんな道を歩いたのだろうか。


そう思うと、不思議な気持ちになった。


三代目になって初めて、俺は旗を届けるためではなく、人を迎えに行くために戦場の近くを歩いている。


          ◇


寺の一室で、若者は座っていた。


痩せていた。


右肩には布が巻かれ、顔には疲れが見える。


だが、その目は鋭かった。


重房殿が紹介した。


「弥助。こちらが旗屋弥三郎殿だ」


若者は、俺を見た。


「……旗屋?」


俺は頷いた。


「はい」


「何の用ですか」


俺は、少し考えた。


そして言った。


「お父上が、あなたを捜しておられます」


弥助の表情が変わった。


だが、すぐに目を伏せた。


「……帰りません」


俺は、静かに尋ねた。


「なぜですか」


弥助は答えなかった。


重房殿が、俺に小さく頷いた。


俺は、もう一度尋ねた。


「お父上に、無事を知らせてもよいでしょうか」


弥助は、しばらく黙った。


そして、小さく言った。


「……生きていることだけなら」


俺は頷いた。


「承知しました」


弥助は、少し驚いた顔をした。


「……それだけですか」


俺は、首を傾げた。


「何がでしょう」


「帰れと言わないんですか」


俺は、少し考えた。


「お父上は、帰ってきてほしいと願っておられます」


弥助は、顔を曇らせた。


俺は続けた。


「ですが、あなたが帰りたくない理由を知らずに、無理に連れて帰ることはできません」


弥助は、長い間俺を見つめていた。


そして、静かに言った。


「……父上に、会いたくありません」


俺は、何も言わずに待った。


          ◇


やがて、弥助は話し始めた。


「父上は、私に武士になれと言いました」


俺は頷いた。


「はい」


「畠山家のために働けと」


弥助は、膝の上で拳を握った。


「家を守るためだと」


俺は黙った。


「でも、戦になって、私は何もできませんでした」


弥助の声が震えた。


「怖かったんです」


俺は、静かに頷いた。


「……そうですか」


弥助は続けた。


「逃げようとしました」


俺は、顔を上げた。


「その時、仲間が倒れました」


弥助は、目を閉じた。


「助けようとしたんです。でも……」


言葉が途切れた。


しばらくして、弥助は小さく言った。


「……置いてきました」


俺は、何も言えなかった。


弥助は続けた。


「父上に、何と言えばよいのでしょう」


俺は、しばらく考えた。


そして、静かに答えた。


「……本当のことを話せばよいのではありませんか」


弥助は顔を上げた。


「そんなことを言えば、父上は失望します」


俺は首を振った。


「それは、分かりません」


弥助は黙った。


俺は続けた。


「お父上は、あなたを捜しておられます」


「……はい」


「生きていてほしいと、願っておられます」


弥助の目に、涙が浮かんだ。


俺は、ゆっくり言った。


「武士として立派だったかどうかより、息子が生きているかどうかを、今は知りたいのだと思います」


弥助は俯いた。


長い沈黙があった。


          ◇


「弥三郎殿」


弥助が、静かに言った。


「あなたは、武士ではないのですね」


俺は頷いた。


「はい。旗屋です」


弥助は、少しだけ笑った。


「旗屋は、戦が怖くないんですか」


俺は、すぐに答えた。


「怖いです」


弥助は驚いた。


俺は続けた。


「今も、帰れるかどうか心配しています」


弥助は、少し笑った。


俺も笑った。


「ですが、捜している方がいましたので、来ました」


弥助は、静かに俺を見つめた。


そして、ぽつりと言った。


「……父上も、怖かったのでしょうか」


俺は、少し考えた。


「そうかもしれません」


弥助は俯いた。


「父上は、いつも厳しい人でした」


俺は頷いた。


「はい」


「失敗すれば怒られました」


「そうですか」


「だから、帰れなかったんです」


俺は、しばらく黙った。


そして、静かに言った。


「では、今すぐ帰らなくてもよいと思います」


弥助は顔を上げた。


「……え?」


俺は続けた。


「まず、無事を知らせましょう。その上で、どうしたいかを考えればよいのです」


弥助は、長い間黙っていた。


そして、静かに頷いた。


「……はい」


          ◇


店へ戻ったのは、日が傾く頃だった。


千吉が、戸口で待っていた。


「親方!」


「ただいま」


「無事でしたか!」


俺は笑った。


「見れば分かるだろう」


千吉は、ほっとしたように笑った。


その後ろから父が現れた。


「弥三郎」


「はい」


「帰ってきたな」


俺は頷いた。


「はい」


父は、少しだけ笑った。


「……よかった」


その一言が、胸に染みた。


俺は、与平殿を呼んでもらった。


やがて与平殿が来ると、俺は静かに伝えた。


「弥助殿は、生きておられます」


与平殿の顔が変わった。


「……本当ですか」


俺は頷いた。


「はい」


与平殿は、しばらく動かなかった。


そして、膝をついた。


「……よかった」


その声が震えていた。


俺は、静かに続けた。


「ただ、今はまだ帰りたくないそうです」


与平殿は顔を上げた。


「……なぜです」


俺は、少し考えた。


「ご本人の話ですので、詳しくはお伝えしません。ただ、お父上に会うことを怖がっておられるようでした」


与平殿は、長い間黙っていた。


そして、小さく呟いた。


「……私が、怖いのか」


俺は答えなかった。


与平殿は、ゆっくり目を閉じた。


「……そうか」


俺は、静かに言った。


「与平殿」


「はい」


「弥助殿は、生きています」


与平殿は頷いた。


「はい」


「まずは、それを喜んでいただけませんか」


与平殿は、しばらく俺を見つめた。


そして、涙を流しながら笑った。


「……そうですな」


俺も、少しだけ笑った。


          ◇


その夜、俺は帳面を開いた。


『弥助 十六歳』


その下に、新しい一行を書き加えた。


『生存確認』


そして、少し考えてから、


『帰還は本人の意思を確認してから』


と書いた。


筆を置いた。


今までの帳面には、あまりなかった言葉だ。


本人の意思。


祖父は、旗を誰に渡すかを考えた。


父は、旗の下にいる人間のことを考えた。


俺は、旗の下にいる人間が何を望んでいるかまで、考えなければならないのかもしれない。


俺は、静かに息を吐いた。


窓の外では、まだ戦の音が聞こえる。


京の町は、相変わらず戦場だった。


だが、今日は一人の若者が生きていることを確かめられた。


そして、一人の父親に、その知らせを届けられた。


それだけで、十分だった。


          ◇


翌朝。


店の前に、新しい札を掛けた。


『人捜しのご相談、承ります』


その下に、小さく一行。


『ただし、ご本人の意思も大切にいたします』


新九郎殿が、それを読んだ。


そして、少し笑った。


「弥三郎」


「はい」


「お前、本当に旗屋か?」


俺は頷いた。


「はい」


「人捜しまでして、何の商売なんだ」


俺は、少し考えた。


そして答えた。


「……人が帰ってくるための目印を作る商売です」


新九郎殿は、しばらく黙っていた。


その後ろで、父が静かに笑った。


「弥三郎」


「はい」


「よい答えだ」


俺は、少し照れくさくなった。


「ありがとうございます」


父は、店先の古い札を見上げた。


『本日の味方』


『明日は不明』


その下に、祖父の名。


『初代 弥太郎』


父は、少しだけ目を細めた。


「……父上にも、聞かせたかったな」


俺は、静かに頷いた。


その時だった。


店の前に、一人の使者が現れた。


見覚えのある山名家の家人だった。


「旗屋弥三郎殿!」


俺は振り返った。


「はい」


男は、深く頭を下げた。


「重房様より、書状を預かっております」


俺は、受け取った。


封を開く。


そこには、短く書かれていた。


『弥助について、新たに分かったことがある』


俺は、息を呑んだ。


さらに、次の一行を読んだ。


『あの若者が、名を明かさなかった理由は、ほかにもあるようだ』


俺は、しばらく書状を見つめた。


千吉が、心配そうに尋ねた。


「親方。何かありましたか」


俺は、ゆっくり答えた。


「……どうやら、まだ終わっていないらしい」


店先の旗が、風に揺れた。


『人を捜しています』


人は見つかった。


だが、見つかったからといって、すべてが解決するわけではない。


俺は、そのことを初めて知った。

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