ここに人がいます
「まず、刀から手を離していただけませんか」
俺がそう言うと、武士は眉を吊り上げた。
「何だと?」
「刀を抜かれると、布が売れなくなります」
「……布?」
「はい。血がついた布は、なかなかよい値では売れませんので」
背後で千吉が小さく呻いた。
「親方……」
自分でも分かっている。
ひどい言い訳だった。
だが、他に何を言えばよかったのだろう。
店の前には、刀を差した武士が四人。
店の奥には、両親を捜してほしいと願う少年が一人。
俺の横には、年老いた父が立っている。
そして俺は、旗屋である。
刀など持っていない。
持っているのは、裁ち鋏くらいだ。
あれで武士と戦うのは、どう考えても無理だった。
「その小僧を出せ」
武士は繰り返した。
俺は、静かに尋ねた。
「なぜですか」
「西軍の間者だ」
思いがけない言葉だった。
「……この子が?」
「そうだ」
俺は店の奥を見た。
太助は千吉の背後に隠れ、青ざめている。
まだ十二、三歳の少年だ。
もちろん、子どもだから間者ではないとは言い切れない。
戦になれば、子どもを使う者だっている。
だが、決めつけることもできない。
「何か、証拠があるのでしょうか」
武士は俺を睨んだ。
「その小僧は、我らの陣の近くをうろついていた」
「それだけですか」
「火の回った屋敷を調べていた」
「家族を捜していたと聞いております」
武士の目が細くなった。
「そう言っておったのか」
俺は頷いた。
「はい」
武士は鼻で笑った。
「間者は皆、もっともらしい理由をつける」
俺は口を閉じた。
確かに、その通りかもしれない。
だが、それなら何を言っても疑われることになる。
父が、静かに口を開いた。
「その子が間者であると、誰がお決めになったのですか」
武士は父を見た。
「何者だ」
「この店の先代でございます」
「隠居した者は下がっておれ」
父は、少し笑った。
「そうしたいのですが、息子が心配でして」
武士は苛立ったように舌打ちした。
「親子揃って、口の減らぬ旗屋だな」
父は俺を見た。
俺も父を見た。
何となく、少しだけ嬉しかった。
こんな時に喜ぶことではないのだが。
◇
「小僧を渡せば、店には手を出さぬ」
武士の言葉に、俺は黙った。
店を守る。
父から受け継いだ、大切な務めだ。
ここには、家族がいる。
職人がいる。
怪我をした者もいる。
布も、道具も、帳面もある。
太助一人を渡せば、皆を守れるかもしれない。
その考えが、頭をよぎった。
だが、太助を見た時、俺は言葉を失った。
少年は震えていた。
両手を握りしめ、必死に泣くのをこらえている。
この子は、父と母を捜してほしいと言って店へ来た。
その子を、何も確かめずに武士へ渡してよいのだろうか。
俺は、ゆっくり息を吐いた。
「少し、お時間をいただけませんか」
武士は眉をひそめた。
「何のために」
「この子に、話を聞きたいのです」
「そんなもの、我らが聞く」
「それなら、ここでお聞きになればよろしいでしょう」
武士は、俺を睨んだ。
父が、静かに言った。
「どうか。逃げ道のない店でございます」
武士たちは顔を見合わせた。
やがて、先頭の男が言った。
「……よい。ただし、妙な真似をするな」
俺は頭を下げた。
そして、千吉へ合図した。
「太助を、こちらへ」
◇
太助は、震えながら店先へ出てきた。
俺は少年の隣にしゃがんだ。
「太助。正直に話してくれ」
少年は頷いた。
「はい」
「なぜ、東軍の陣の近くへ行ったんだ」
太助は、目に涙を浮かべた。
「……家が、そこにあるからです」
武士が言った。
「ならば、なぜ逃げなかった」
太助は俯いた。
「父ちゃんと母ちゃんが、まだいたから」
「その後は?」
「火が出て……逃げたんです」
「両親は?」
太助は首を振った。
「分かりません」
少年の声が震えた。
「探そうとしたけど、兵隊がいて、近づけなくて……」
俺は、太助の肩に手を置いた。
武士は、しばらく黙っていた。
そして尋ねた。
「家は、どこだ」
太助は、町の場所を答えた。
武士の顔が、わずかに変わった。
「……あそこか」
俺は顔を上げた。
「ご存じですか」
男は頷いた。
「昨日、火が出た辺りだ」
太助が、思わず前へ出た。
「父ちゃんと母ちゃんは!」
武士は、答えなかった。
少年の顔が青ざめた。
俺は、慌てて太助を支えた。
「落ち着け」
「でも!」
武士は、低い声で言った。
「生きているかどうかは、知らぬ」
太助は、泣き始めた。
その姿を見て、武士たちの表情が少しだけ変わった。
◇
俺は、先頭の武士へ尋ねた。
「一つ、お願いがございます」
「何だ」
「この子の両親を捜すため、あの辺りへ入ることはできませんか」
武士は、呆れた顔をした。
「戦場だぞ」
「承知しております」
「危険だ」
「分かっています」
「ならば、なぜ」
俺は、太助を見た。
そして、静かに答えた。
「……この子に、何も分からぬまま諦めろとは言いたくありません」
武士は、しばらく俺を見つめた。
やがて、深く息を吐いた。
「我らも勝手には許せぬ。上の者に確かめねばならん」
俺は頭を下げた。
「それで結構です」
武士は、少し考えた。
「小僧は、ここから出すな」
「はい」
「もし間者であったなら、そなたも責任を問われるぞ」
俺は頷いた。
「承知しました」
武士たちは、ようやく刀から手を離した。
そして、店を後にした。
俺は、しばらくその背中を見送った。
太助は、まだ泣いていた。
千吉が、そっと肩を抱いた。
父は、何も言わなかった。
ただ、長い間、閉じた戸を見つめていた。
◇
その夜、俺は眠れなかった。
店の奥では、太助が眠っている。
時々、寝言のように父と母を呼んでいた。
俺は、帳面を開いた。
『太助 十二、三歳』
『両親の消息不明』
『家屋焼失』
そして、しばらく筆を止めた。
何を書けばよいのだろう。
旗屋の帳面に、こんなことを書く日が来るとは思わなかった。
父が、隣へ来た。
「弥三郎」
「はい」
「まだ起きていたのか」
俺は頷いた。
「はい」
父は、帳面を覗き込んだ。
そして、静かに言った。
「……難しい仕事だな」
俺は苦笑した。
「旗屋の仕事ではありませんね」
父は、しばらく考えた。
「そうとも限らん」
俺は顔を上げた。
父は続けた。
「父上は、昔、誰の旗か分からぬ注文を何度も受けたそうだ」
「はい」
「その度に、誰が使うのかを考えていた」
俺は頷いた。
「父上も、そうでしたね」
「ああ」
父は、少し笑った。
「お前は、とうとう旗の下にいる人間を捜し始めたわけだ」
俺は、しばらく考えた。
「……そうかもしれません」
父は、静かに頷いた。
そして、少しだけ咳き込んだ。
俺は顔を上げた。
「父上」
「大丈夫だ」
だが、咳はなかなか止まらなかった。
俺は父の背中をさすった。
「もう、お休みください」
父は、少しだけ笑った。
「……お前に、そう言われるようになったか」
俺も笑った。
「親方ですから」
父は頷いた。
「そうだな」
だが、立ち上がる時、父の足元が少しふらついた。
俺は、慌てて支えた。
その体が、以前よりずっと軽く感じられた。
◇
翌朝、武士が戻ってきた。
昨日の男だった。
ただし、今度は刀に手をかけていなかった。
「旗屋弥三郎」
「はい」
「小僧の話を、確かめた」
俺は、息を呑んだ。
「……それで?」
武士は、静かに答えた。
「話にあった辺りに、その家はあった」
俺は頷いた。
「はい」
「焼けておる」
「……そうですか」
「だが、近くにいた者から、逃げた者たちの話を聞けた」
俺は、思わず身を乗り出した。
「何か、分かりましたか」
武士は頷いた。
「子どもを捜している夫婦がいたそうだ」
俺は、息を呑んだ。
「……本当ですか」
「ああ。ただ、今どこにいるかまでは分からぬ」
俺は、深く息を吐いた。
少なくとも、希望はある。
太助を呼んだ。
少年は、武士の話を聞くと、目を大きく開いた。
「……父ちゃんと母ちゃんが?」
武士は頷いた。
「同じ夫婦かどうかは、まだ分からん」
太助は、それでも泣きながら笑った。
「生きてるかもしれない!」
俺は、少年の肩に手を置いた。
「ああ。まだ、諦めなくていい」
◇
その日から、俺たちは人を捜し始めた。
といっても、戦の最中だ。
自由に京を歩き回れるわけではない。
東軍の陣。
西軍の陣。
焼けた町。
避難してきた人々が集まる寺。
それぞれの場所に、誰かを捜している者がいる。
俺は、そこで一つのことを思いついた。
「千吉」
「はい」
「太助の旗を、作ろう」
千吉が頷いた。
「『ここに人がいます』ですね」
「いや」
俺は首を振った。
「少し変える」
千吉は、首を傾げた。
「どう変えるんですか」
俺は、紙に文字を書いた。
『人を捜しています』
その下に、小さく、
『行方の分からぬ方の名をお知らせください』
と書いた。
千吉は、しばらく文字を見つめた。
そして、静かに頷いた。
「……なるほど」
俺は続けた。
「店の前に掲げよう。近くの寺にも、許しを得て置いてもらえないか頼んでみる」
千吉は少し笑った。
「旗屋らしい仕事ですね」
俺も笑った。
「ああ」
ただし、すぐに気づいた。
問題がある。
旗を掲げれば、人が集まる。
人が集まれば、武士に疑われるかもしれない。
人を捜していると言って、敵方の消息を探る者も現れるかもしれない。
俺は、しばらく考えた。
そして、決めた。
「名前を集める場所は、店の奥にしよう」
千吉が頷いた。
「はい」
「旗には、細かなことを書かない」
「なぜです?」
「誰がどこにいるかを、勝手に知らせるわけにはいかないからだ」
千吉は、しばらく考えた。
そして、深く頷いた。
「……分かりました」
俺は、帳面を開いた。
新しい頁を作った。
『消息を尋ねる人々』
その最初に、太助の名を書いた。
◇
数日後。
店の前に、一枚の旗が掲げられた。
白い布に、大きな文字。
『人を捜しています』
その下に、
『消息のご相談は、旗屋へ』
と書いた。
最初の客は、年配の女だった。
「息子を捜しております」
俺は、名前を聞いた。
次に来たのは、若い男だった。
「妻と子どもが、逃げたまま戻りません」
俺は、話を聞いた。
その次には、武士が来た。
「家人の一人が、戦の後から戻らぬ」
俺は、名前を書いた。
東軍の者もいた。
西軍の者もいた。
町人もいた。
僧侶もいた。
だが、消息を尋ねる時だけは、皆同じ顔をしていた。
不安そうな顔。
疲れた顔。
そして、わずかな希望を抱いた顔。
俺は、何人もの話を聞いた。
帳面の頁は、すぐに埋まった。
商売の帳面より、ずっと早く。
◇
ある日、細川家の使者・庄兵衛が店へ来た。
旗を見上げ、少し驚いた顔をした。
「弥三郎殿。これは何だ」
俺は、帳面を示した。
「行方の分からぬ方々の消息を集めております」
庄兵衛は、頁をめくった。
そして、静かに言った。
「……ずいぶん多いな」
俺は頷いた。
「はい」
庄兵衛は、しばらく考えた。
「東軍の陣にも、行方の分からぬ家人がいる」
「そうでしょうね」
「西軍の者の名も、書いてあるのか」
俺は頷いた。
「はい」
庄兵衛は、少しだけ眉をひそめた。
「……危ういぞ」
俺は、静かに答えた。
「承知しております」
庄兵衛は、俺を見た。
俺は続けた。
「ただ、誰がどこにいるかを勝手に伝えることはいたしません。本人や家族の確認が取れた時だけ、消息をつなぎたいのです」
庄兵衛は、長い間黙っていた。
そして、静かに頷いた。
「……それなら、我らの陣でも尋ねてみよう」
俺は、思わず顔を上げた。
「よろしいのですか」
庄兵衛は、少し笑った。
「私にも、帰ってこぬ者がいる」
俺は、何も言えなかった。
◇
さらに数日後。
山名家の使者も店へ来た。
年配の重房だった。
重房は旗を読み、苦笑した。
「弥三郎殿。とうとう旗屋が、人捜しまで始めたか」
俺は頭を下げた。
「はい」
重房は帳面を見た。
そして、少しだけ目を細めた。
「東軍の者も、書いてあるな」
俺は頷いた。
「はい」
「危険だぞ」
「承知しております」
重房は、しばらく俺を見つめた。
そして言った。
「……だが、悪いことではない」
俺は、顔を上げた。
重房は続けた。
「西軍にも、家族を捜している者がおる」
「はい」
「名を預けてもよいか」
俺は、深く頷いた。
「もちろんです」
重房は、静かに笑った。
「……妙な旗屋だな」
俺も笑った。
「よく言われます」
◇
ある夕方。
太助が、店の前で旗を見上げていた。
俺は隣に立った。
「どうした」
太助は、静かに言った。
「……父ちゃんと母ちゃん、見つかりますかね」
俺は、しばらく考えた。
「分からん」
太助は俯いた。
俺は続けた。
「でも、捜している人がいると、知らせることはできる」
太助は、顔を上げた。
俺は、旗を見た。
『人を捜しています』
風に揺れる白い布。
武家の紋はない。
将軍家の名もない。
ただ、文字がある。
俺は、静かに言った。
「旗は、誰かを集めるためのものだ」
太助は頷いた。
「はい」
「ならば、戦う人だけでなく、帰りたい人を集めるためにも使えるはずだ」
太助は、少し笑った。
「……そうですね」
俺も笑った。
その時だった。
店の奥から、千吉が駆けてきた。
「親方!」
「どうした」
千吉は、息を切らしていた。
「太助のご両親らしい方が、見つかったそうです!」
俺は、息を呑んだ。
太助が目を見開いた。
「……本当?」
千吉は頷いた。
「近くの寺に、夫婦で身を寄せている方がいるそうです。子どもを捜していると」
太助は、俺を見た。
俺は、静かに頷いた。
「行ってみよう」
太助は、泣きながら笑った。
◇
寺へ向かう道は、まだ危険だった。
崩れた塀。
焼けた家。
道に積まれた瓦礫。
俺たちは、近くの者に道を確かめながら進んだ。
千吉と太助。
そして俺。
寺へ着くと、僧が案内してくれた。
奥の部屋に、夫婦がいた。
女は痩せ、男は片足に布を巻いていた。
太助が、立ち止まった。
俺は、その背中を見つめた。
少年は、震える声で言った。
「……母ちゃん?」
女が顔を上げた。
しばらく、動かなかった。
そして、突然立ち上がった。
「太助!」
少年が駆け寄った。
女は、太助を抱きしめた。
男も、涙を流しながら手を伸ばした。
「……生きていたのか」
太助は、声を上げて泣いた。
俺は、その光景を見つめた。
何も言えなかった。
ただ、胸の奥が熱くなった。
千吉も、隣で涙を拭っていた。
俺は、そっと部屋を出た。
僧が、静かに頭を下げた。
「ありがとうございました」
俺は首を振った。
「……何もしておりません」
僧は、少し笑った。
「いいえ」
そして、静かに言った。
「知らせをつないでくださった」
俺は、何も言えなかった。
◇
店へ戻ると、父が待っていた。
「弥三郎」
「はい」
「見つかったそうだな」
俺は頷いた。
「はい」
父は、静かに笑った。
「よかったな」
俺も笑った。
「はい」
父は、しばらく俺を見ていた。
そして言った。
「……父上にも、見せたかったな」
俺は顔を上げた。
「お祖父様に?」
父は頷いた。
「ああ」
「きっと、喜んでくださったでしょうね」
父は、少し考えた。
そして笑った。
「いや。何か余計なことを言っただろうな」
俺も笑った。
「例えば?」
父は、祖父の口調を真似た。
「『人捜しまで始めたなら、旗屋の看板を変えねばならんな』と」
俺は笑った。
「それは困ります」
父も笑った。
久しぶりに、店の中に明るい笑い声が響いた。
◇
その夜。
俺は帳面を開いた。
『太助』
『父母と再会』
その文字を書いた時、手が止まった。
今まで、帳面には多くの記録を書いてきた。
誰の旗を作ったか。
何枚作ったか。
どこへ届けたか。
代金を受け取ったか。
だが、今日の記録は違う。
誰かが、生きて帰った。
誰かが、家族と再会した。
それを書き留める。
俺は、しばらく帳面を見つめた。
そして、小さく笑った。
「……お祖父様」
静かに呟いた。
「今日の味方は、見つかりましたよ」
窓の外では、まだ遠くの火が燃えている。
京の町は、相変わらず戦場だった。
それでも、今日は一つだけ、よいことがあった。
俺は、帳面を閉じた。
◇
翌朝。
店の前には、長い列ができていた。
行方の分からぬ家族を捜す人々。
消息を伝えに来た人々。
そして、誰かに自分の無事を知らせたい人々。
俺は、驚いた。
「……こんなに」
千吉も、目を丸くした。
「親方。どうしましょう」
俺は、しばらく考えた。
そして、静かに答えた。
「まず、順番に話を聞こう」
千吉が頷いた。
「はい」
俺は、店先の旗を見上げた。
『人を捜しています』
その文字が、朝日に照らされていた。
昨日までは、旗屋の仕事は旗を作ることだと思っていた。
だが、今は少し違う。
旗は、人を集める。
その下で、人は話す。
誰かの名前を呼ぶ。
誰かの無事を祈る。
そして、時には再会する。
俺は、静かに息を吐いた。
その時、店の奥から父の咳が聞こえた。
俺は振り返った。
父が、壁に手をついて立っていた。
「父上!」
俺は駆け寄った。
父は、少し笑った。
「大丈夫だ」
だが、顔色は悪かった。
額には汗が浮かんでいる。
俺は、父の肩を支えた。
「今日は休んでください」
父は、首を振った。
「……店が忙しいだろう」
「俺たちで何とかします」
父は、俺を見た。
そして、静かに言った。
「弥三郎」
「はい」
「……よい店になったな」
俺は、息を呑んだ。
父は、少しだけ笑った。
「父上も、きっと喜ぶ」
俺は、何も言えなかった。
父は、ゆっくり目を閉じた。
そして、俺の腕の中で、力を失った。
「父上!」
俺は声を上げた。
千吉が駆け寄った。
店の外には、行方の分からぬ人を捜す者たちが並んでいる。
そのすぐ内側で、俺は父を抱きかかえていた。
『人を捜しています』
店先の旗が、風に揺れていた。
だが、その時の俺が願ったのは、ただ一つ。
目の前にいる父を、どうか失わずに済みますように。




