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第6話「ゴミ拾い、器を拾う」


 俺は宿の椅子に座り、《廃品収納(ストックヤード)》の中身を見返す。


―――――

【スキルツリー】

■《廃式奥義(リクレイム)


・構成残式

 《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)

 《暴炎・誤式(フレア・エラー)

 《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)


・残式消耗度⋯⋯3%


・成功率⋯⋯不明


・銘⋯⋯未確定

―――――


 《小物拾い(ピックアップ)》で、普通の人には見えない残式を拾える。

 《廃品収納(ジャンクボックス)》で、本来ならすぐ消えるはずの壊れた術式をしまえる。

 そして《分別(ソート)》で、残った作用を分けて並べられる。


 拾って、しまって、分ける。


 ゴミ拾いの仕事そのものだ。

 ただの外れ職業だと思っていた『ゴミ拾い』は、もしかして――。


 そう思った瞬間、項目が追加された。


―――――

【スキルツリー】

■《廃式奥義(リクレイム)


・構成残式

 《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)

 《暴炎・誤式(フレア・エラー)

 《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)


・残式消耗度⋯⋯3%


・成功率⋯⋯不明

 

・補助器

 ▶不足


・銘⋯⋯未確定

―――――


「補助器……不足?」


 リストの中央辺りに、新たに項目が追加されている。


 この3つを形にするための何か。

 つまり、補助器とやらが不足している。


 壊れた術式を逃がさず、同じ向きへ通すもの。


 俺は3つの残式を見つめた。

 ただの袋ではだめだ。

 広すぎれば風が逃げる。


 箱でもだめだ。

 火が中で暴れて、斬撃がどこへ走るか分からない。


「……通り道がいる」


 硬くて、細くて、3つの力を前へ走らせられるもの。


 俺は3つを《廃品収納(ストックヤード)》へ戻し、回収袋を背負った。



◆♢◆♢◆♢◆



 僕が向かったのは工房通りだ。

 この辺りはゴミが多く、依頼も常に出ている区域。


 いつもの鍛冶場の裏に行くと、曲がった金具や折れた柄、割れた魔道具の枠などが、木箱いっぱいにしまわれていた。


「……ルーカか。いつもの持っていくか?」


 裏口で廃材を仕分けしていた親方が、俺を見るなり木箱を指した。


「そこにあるのはもういいぞ」


「⋯⋯助かります」


「礼を言うほどじゃねえ。ただのゴミだ。いつでも来い」


 親方はそう言って、すぐ奥へ行った。

 俺はその木箱を覗き込む。


 焦げた魔灯の枠。

 ひびの入った杖の飾り。

 折れた短剣の柄。

 歪んだ金具。

 穴の空いた小型の筒。


 筒を手に取って中を覗く。太すぎる。

 ここへ風の残式を入れたら、中で暴れて横へずれそうだった。


 折れた杖の芯もあった。

 だが通り道は途中で潰れている。火を通せばそこで詰まって爆ぜるのが目に見えた。


「違う……これじゃない」


 探している形が、少しずつはっきりしていく。


 細い方が方向が散らない。

 奥へ滑らせるための道が要る。

 そして外へ逃がさず、1つの向きへ流せるもの。


 そのとき、木箱の底に細長く黒い物が埋もれていた。


 引っ張り出すと、古い鞘だった。


 剣はついてない。

 ボロボロの鞘だけがあった。


 表面の革は剥がれ、口金は歪み、先端も少し割れかけている。

 中を覗くと、剣を滑らせるための溝が傷だらけになっていた。

 誰かが剣だけを抜き取り、壊れた鞘は要らないと捨てたのだろう。


 普通なら完全にゴミだ。

 剣のない壊れかけの鞘なんて、持っていても意味がない。


 だが、俺はその空っぽの奥から目が離せなかった。


 ――ここなら、入る。

 そう直感した。


 俺は鞘を握った。


 ——《廃品収納(ストックヤード)》に登録されました。


 視界の端に文字が浮かぶ。

 登録されたということは、この鞘はもう誰の持ち物でもなく、壊れた物として認められたということだ。


 ――早く試してみたい。


 俺は周囲を見てから、工房の裏手にある少し広い空き場へ移動した。


 壊れた鞘を両手で握る。


 昨日は床にこぼれた3つの残式が、偶然同じ向きを向いた結果だった。


――――

疾風・残具(ゲイル・ジャンク)

暴炎・誤式(フレア・エラー)

断斬・欠技(スラッシュ・ミス)

――――

 

 なら、この鞘の中へまとめて入れれば、もう一度同じこと――いや、もっとすごいことが起きるかもしれない。


「……やってみよう」


 俺は《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)》《暴炎・誤式(フレア・エラー)》《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)》を、同時に鞘の中へ流し込んだ。


 瞬間、鞘の中で3つの残式がぶつかった。


 風が横へ逃げようとする。

 火が内側で暴れる。

 斬撃が勝手な向きへ走りかける。


 だが、外へは散らなかった。


 壊れた鞘の内側に沿って、3つの残式が一瞬だけ押し込められる。


「うまく……入った?」


 胸が跳ねた直後、ぎりりり、と嫌な音がした。


 鞘の口金が熱を持ち、割れかけた先端から細い煙が漏れる。

 中で押し込められた3つの残式が、互いに噛み合わないまま暴れていた。


「――まずい!」


 俺は慌てて3つを《廃品収納(ストックヤード)》へ引き戻した。


 鞘の全体が熱い。

 歪んだ口金も、さっきより少し広がっている。


 それでも、壊れ切ってはいなかった。


 俺は息を吐き、手の中の壊れた鞘を見下ろす。


 今のは成功じゃない。

 ただ3つを無理やり押し込めただけだ。

 何かの形になったわけでもない。


 ――ただ、外へ散らなかった。


 袋や木箱ならたぶん一瞬でばらばらになっていた。

 だが、この鞘の中では3つの残りが少しだけそこに留まった。


 その瞬間、視界の奥で職業『ゴミ拾い』のスキルツリーに変化があった。


 灰色の根元が、さらに濃く滲んでいく。


 ——《廃式奥義(リクレイム)》の補助器を検出しました。


 新しい文字が浮かぶ。


―――――

【スキルツリー】

■《廃式奥義(リクレイム)


・構成残式

 《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)

 《暴炎・誤式(フレア・エラー)

 《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)


・残式消耗度⋯⋯10%


・成功率⋯⋯1%


・補助器

 ▶壊れた鞘


・銘……未確定

―――――


 補助器のところへ『壊れた鞘』が追加されている。

 そして、成功率が不明から1%へと変化した。


「補助器を手に入れたから、成功率が出たのか⋯⋯?」


 この壊れた鞘を使えば、3つの残りを一瞬だけ同じ場所に留められる。


 ――あと足りないのは何だろう?



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