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第27話「ゴミ拾い、仲間に打ち明ける」

  

 ダンジョン浅瀬の清掃依頼を受けるなら、まだ足りないものがある。


 今、必要なのはもっと小さく、もっと軽く撃てる《廃式奥義(リクレイム)》だ。


 訓練室では《刺突・欠技(スラスト・ミス)》を大量に拾えた。

 魔術の誤式(エラー)はセラの暴発した炎弾からすでにいくつも拾っている。


 残る問題は魔道具の残式――《残具(ジャンク)》をたくさん拾いたいところだ。


「ルーカさん」


 訓練場の屋内区画を出たところで、隣を歩いていたセラが声をかけてきた。


「これからどうしますか?」


「今日は準備にあてようと思う。まずは壊れた魔道具を見に行きたい」


「壊れた魔道具……ですか?」


「ああ。昨日行った西通りの店なら、何かあるかもしれない」


 そう言うと、セラは少しだけ首を傾げた。


「あの、私も一緒に行ってみてもいいですか?」


「⋯⋯いいのか? 訓練じゃなくて、ほとんど買い物だぞ」


「ダンジョンへ行くなら私も準備が必要ですし、それに……ルーカさんが何を探しているのか知っておきたいです」


 そう言われると、俺はすぐには返せなかった。


 セラと一緒にダンジョンへ行くなら、何も説明しないままでは駄目だ。


 だが、そもそも俺は冒険者ではない。


 臨時補助員として清掃依頼は受けられても、冒険者見習いのセラと正式な形でパーティを組めるかは分からない。

 そこは後でギルドに確認しておく必要がある。


 セラは俺なんかと一緒にダンジョンへ行こうとしてくれている。

 ならば、俺が普段何を見て、何を拾っているのか――全ては言えなくても最低限は伝えておくべきだと思った。


「……分かった。じゃあ歩きながら話そう」


「はい」


 訓練場を出ると、通りには昼前の人通りが増え始めていた。

 屋台から焼いた麦パンの匂いが流れ、荷車の車輪が石畳の上を鳴らしている。


 セラは俺の少し横を歩いていた。

 短い外套の裾が揺れ、肩に落ちた白い髪が光を受けて淡く透ける。


「俺の職業のことは……知ってるよな」


「……はい。一応、見かけたこともありますので」


 セラは言いにくそうに答えた。


「気にしないでいいぞ。俺が『ゴミ拾い』であることは事実だからな」


 俺は少しだけ歩く速度を落とした。


「魔術師のセラなら分かると思うんだが、魔術を使うときには術式が作動しているよな」


 セラは黙って頷く。


「魔術が失敗したとき……その術式はどうなると思う?」


「失敗……したときですか……? そもそも術式は自動で展開されるので、意識したことはありませんでしたが……失敗したら消える――とかでしょうか」


「俺も以前はそう思ってた。だが、違った。失敗した術式は完全には消えない。壊れた形で、その場に残るんだ」


「術式が……残る……?」


「その残った術式のことを、俺は『残式』と呼んでいる。俺にはそれが見えて、拾える」


 セラの足が少しだけ遅れた。

 杖を抱える手が止まり、淡青の目が揺れる。


「その失敗した術式を、拾えるってことですか?」


「ああ。訓練場で初めてセラと会った日、炎弾を見せてもらっただろ」


「はい」


「あのとき、失敗の手がかりを調べるために、勝手ながら暴発した炎弾の跡を拾わせてもらった」


 セラはしばらく黙っていた。

 責めるような顔ではない。むしろ、今まで自分でも見たことがなかったものを、急に別の角度から見せられたような驚いた顔だった。


「……それでさっき気づいて、喜んでくれてたんですね。以前と同じ失敗じゃないって」


「ああ。全部が分かるわけじゃない。だが、暴発の跡を見ることで、あの炎弾が火だけで崩れているんじゃないことや、風の残り方が前と変わっていることには気付けた」


「……そうだったんですね」


 セラは杖を抱え直した。

 その指先にはさっきまでの緊張とは違う力が入っている。


「今まで私の暴発はただ危ないだけでした。人を怖がらせて、パーティにも迷惑をかけて、邪魔だって言われて……」


 そこで一度、言葉が止まる。


「でも、ルーカさんはその失敗を見てくれていたんですね。……直す手がかりがないか、ちゃんと……」


「俺にできるのは、残ったものを見て拾うことだけだからな。昨日練習して、風の暴れ方を変えたのはセラ自身だ」


「……嬉しいです」


 セラは俯き気味だった顔を上げて、こちらを真っ直ぐ見た。


「私の失敗をただの失敗で終わらせないでくれたことが……何よりもとても嬉しいです」


「セラの魔術はすごい。今日見た炎弾は、前よりずっと前に進んでた」


「……はい。ありがとう、ございます……」


 セラの目元が少しだけ潤んでいた。

 だが、その声は前よりも少しだけ明るくなった気がした。


◆♢◆♢◆


 西通りのアネットの魔道具店へ向かう途中、セラは冒険者用品店の前で足を止めた。


「すみません、ルーカさん。少しだけ……見てもいいですか?」


「ああ。もちろんだ」


 店先には、革の匂いがする軽い胸当てや膝当て、指先だけを出せる手袋が所狭しと吊るされていた。


 棚には魔術師用の袖留めや杖紐、小さな魔石ポーチが色別に並び、店の奥の壁には術式紋を銀糸で縫い込んだ外套が何着も掛けられている。


 刃を受けるための防具。

 杖を落とさないための紐。

 魔石をすぐ取り出すための腰袋。


 見ているだけで、これからダンジョンへ入るのだと少し胸が騒ぐ店だった。


 セラはその中から魔術師用の短い外套を一つ手に取って、自分の肩へ合わせる。


「今のが小さくなったので探していました。これ、動きやすそうです」


「うん、いいんじゃないか?」


「デザインはいいのですが……前が閉まらないかもしれません」


「……え?」


 セラは外套を試着してみている。

 肩幅は合っているし、袖の長さも悪くない。


 ただ、前の留め具だけが閉まらない。

 小柄で華奢に見えるのに、そこだけ体に合っていなかった。


「……別のサイズにするか」


「こちらの大きい方にすると、今度は肩が落ちます……」


「難しいな」


「はい……」


 セラは真面目な顔で言った。

 なぜか俺の方が返事に困る。


 店の女店員が慣れた様子で差し出したのは、やや丈の短い外套だった。

 澄んだ水に青を一雫落としたような薄い碧色で、派手ではないのに目を引く。


「あなたならこっちがいいよ。肩で合わせて、前は紐で調整できるから」


「綺麗な色ですね……これにします」


 セラは一瞬見とれたように言ってから、その外套を選んだ。

 俺はなるべく視線を外しながら、手袋と細い袖留めも見る。


 何だかパーティメンバーとダンジョンに潜る前の準備をしているような楽しい時間だった。

 こういう時間は、冒険者になれていたら当たり前にあったのかもしれない。


「ルーカさんは何か買いますか?」


 俺は財布の中身をふと思い出した。


「俺は今日は壊れた魔道具を見るだけ……しかできない」


 セラは何か言いたそうだったが、そこで言葉を飲み込んでいる。


 やがて、俺たちはアネットの店に着いた。


 店先には今日も割れたランプや曲がった金属の輪、ひびの入った箱が並んでいる。

 壊れた魔道具ばかりのはずなのに、俺にはその中のいくつかが、かすかに光って見えた。


 扉を開けると、奥からアネットが顔を出す。


「あれ、早いね。もう鞘が壊れた?」


「壊れてはいない。一発は耐えた」


「一発は……ね」


 アネットは面白そうに笑った。


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