第24話「ゴミ拾い、もう一度揃える」
翌朝、鍛冶場の奥で目を覚ますと、炉にはもう火が入っていた。
親方は作業台の前に立ち、昨日仕上げた鞘を見ている。
鞘口に噛ませた青白い縁金が、朝の光を受けて細く光っていた。
「……起きたか」
「ああ」
「飯はそこに置いてる。早く食え。まずはギルドへ行くぞ」
「分かった」
俺は硬くなったパンを水で流し込み、改良された鞘を手に取った。
少し重くなった気はするが、嫌な重さではない。
焦げた革の上には黒い耐熱板が細く斜めに重ねられている。
鞘口から先まで鞘の形を崩さないまま、片側だけに薄い装甲をまとっているようだ。
青白い縁金だけが黒い外装の中で冷たく光り、捨てられた部品を継ぎ合わせたはずなのに、不思議と一つの武器みたいにまとまっている。
問題は一つだけだ。
昨夜、アネットからもらった壊れた送風具の羽根から《疾風・残具》を拾うことができた。
火は以前、セラの暴発した火球の跡から《暴炎・誤式》は複数拾っている。
残るは技の失敗――《断斬・欠技》だ。
訓練場へ行けば拾える可能性は上がる。
土壇場だが、そこで見つけて、構成通りに組み立てるしかない。
ギルドの訓練場へ着くと、朝から何人かの冒険者たちが剣を振っていた。
木剣がぶつかる音、的に矢が刺さる音、魔術が小さく爆ぜる音が混じっている。
「人が多いな」
親方が訓練場を見渡して顔をしかめた。
「ああ。俺もみんなの前で撃ちたくはない」
「だったら奥の部屋を借りたほうがいい。見物人が寄ってきたら面倒だ」
俺が受付へ向かおうとした時、訓練場の端から声がした。
「ルーカさん……やっと……来ましたね」
振り向くと、セラが杖を両腕に抱えて立っていた。
片側だけを編み込んだ白い髪が胸元へ落ち、抱えた杖にそっとかかっている。
小柄で華奢に見えるのに、外套の前だけはその身長に比べて豊かに膨らんでいるのがわかる。
「……セラ。練習してたのか」
「してました。昨日も一日ずっと」
「昨日も?」
「はい。昨日、来るかと思ってましたので」
淡青の瞳が、まっすぐ俺を見ていた。
頬が少しだけ膨らんでいる気がする。
「ああ……そうか、悪い。昨日は依頼を受けなかったんだ。この鞘のことで、一日潰れた」
「来られないなら、そう言ってくれればよかったです」
「言いたかったけど、俺、通話具を持ってないんだ」
「え……持ってないんですか?」
「俺にとっては高くてな⋯⋯。俺の生活だと、清掃依頼で銅貨を残すのがやっとなんだ」
「あ……すみま、せん⋯⋯」
セラはそこで少し気まずそうに目をそらした。
普通の冒険者なら、短い連絡くらい通話具で済ませる。だが、俺は持っていない。
「……私、勝手に、持っているものだと思って、すみません」
「いや、普通は持ってるものだ。単に俺が持ててないだけだから謝らないでくれ」
「じ、じゃあ、私、今度からギルドの受付に伝言を残します。ルーカさん宛てで」
「助かる。俺も来られない時は受付に伝言を残す」
「ルーカさんも忙しいのに⋯⋯なんか私、すみません」
セラはそう言って、杖を抱え直した。
怒っていたというより、置いていかれたみたいで少し拗ねていたのかもしれない。
親方が横から俺を見る。
「おい、女の子を待たせてたのか」
「そういうわけじゃない」
「――いえ、待ってません」
セラがすぐに被せるように言った。
その後で、杖を握る指に少し力を入れているのがわかる。
「私は昨日ルーカさんから言われたことを試していました。火を無理に押さえるんじゃなくて、最初に暴れる風の向きを見るって」
「それで何か変わったか?」
「まだ成功ではありませんが、前よりましになりました。見てもらえますか?」
「ああ。それならこれから奥の訓練室を借りるから、そこで見せてくれ」
セラは少しだけ目を丸くした。
「私も行っていいんですか?」
「見せてもらうんだから、来てもらわないと困る」
「……分かりました」
そう答えたセラの頬からふてた感じが消えた。
受付へ向かう途中、俺は訓練場の床へ目を走らせた。
古い訓練場だけあって、地面には細かな傷がいくつも刻まれている。
剣を叩きつけたへこみ、踏み込みで削れた跡、的を外した剣先が地面を走ったような傷。
その中の一つだけ、俺の目に薄く光って見えた。
斜めに長く走った傷だ。
剣を振り抜く途中で力の向きがずれ、地面を削った跡。
――探していた残式。
俺は落ちていた木片を拾うふりをして、その傷のそばにしゃがんだ。
「危ないな。これ、結構尖っていた」
誰に言うでもなく呟き、地面の傷へ指先を近づける。
――《断斬・欠技》を拾いました。
――《廃品収納》に登録されました。
―――――
《疾風・残具》
《暴炎・誤式》
《断斬・欠技》
―――――
あの3つの残式がもう一度、廃品収納に揃っていた。
――これで試せる。
俺は黒い鞘を握り直した。
あとは、この鞘が《廃式奥義》に耐えられるかどうかだ。




