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第20話「ゴミ拾い、代償を知る」

 

 宿の小さな部屋に戻ると、俺は扉を閉めるなり机の前へ座った。


 体は疲れている。

 背中には昨日の痛みも残っている。


 だが、今は休む気になれなかった。


 胸の奥が妙に落ち着かない。

 今日の掃除のおかげで、足りなかった残式が一気に増えたからだ。


 俺は最初の3つの構成を《分別(ソート)》する。


―――――

 《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)

 《暴炎・誤式(フレア・エラー)

 《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)

―――――


 昨日まで使っていたこの3つの残式は、部分発動のせいでかなり薄くなっていた。

 

 だが、ここに今日の訓練場で拾った新しい《暴炎・誤式(フレア・エラー)》を入れ直す。


 セラの暴発跡から拾ったものだから、荒れてはいるが、火の勢いだけは前よりずっと強そうだった。


 構成を組んだとき、かちりと噛み合った気がした。


―――――

【スキルツリー】

■《廃式奥義(リクレイム)


・構成残式

 《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)

 《暴炎・誤式(フレア・エラー)》 new

 《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)


・残式消耗度……51%


・成功率……80%


・補助器

 ▶壊れた鞘


・銘……一部判読

 《廃式・(リクレイム)疾焔――(ブラスト――)

―――――


「……いける」


 残式消耗度が下がり、成功率が上がったのを見て、俺は思わず呟いていた。


 壊れた鞘を持つと、急いで近くの広い空き地へ出掛ける。


 周囲に人がいないのを確認してから、そこにあった割れた木箱や廃材を集めて即席の的を作った。


 そして距離を取る。


 思い出せ。

 まず《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)》を鞘の内側へ薄く流す。

 ほんの少しだけ先に走らせて、鞘口から的へ向けた通り道をイメージする。

 次に《暴炎・誤式(フレア・エラー)》を乗せる。

 火は風の後ろを追わせるくらいの量に調整する。

 最後に《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)》をゆっくり流し込む。

 斬撃は風と火と同じ向きに合わせ、熱を刃の形へまとめる。


 順番や入れ方はこれまでとほとんど同じだ。

 違うのは残式を全部押し込まないこと。


 余った術式は後ろへ逃がす。

 壊れた鞘の内側で、三つの残式がぶつからずに並んだ。


「よし、いけ――!」


 鞘の奥で風と炎と斬撃が一つに噛み合った。

 その瞬間、手首ごと持っていかれそうな力が走る。


 壊れた鞘の口が赤く灼け、そこから灼熱の斬撃が噴き出した。


 夜の空き地が一気に明るくなる。


 炎の塊ではない。ただの突風でもない。

 風で加速し、炎をまとった刃が即席の的へ一直線に走る。


 的として積んでいた木箱とや古い板が、まとめて斜めに裂けた。

 音が遅れて来る。

 その断面の奥から赤い火が噴き、斬られた場所そのものが内側から燃え広がった。


 木箱は割れながら炎を吐き、板の束は黒く焦げて崩れ、後ろに立てていた棒は火の粉を散らして砕ける。


 さらにその奥の石壁にまで、灼けた斬撃痕が深く刻まれていた。


 俺の手の中で壊れた鞘がぎしりと軋んだ。

 補強した革紐が焦げ、口金の隙間から白い煙が細く上がる。


 腕が痺れる。

 胸の奥まで熱が返ってくる。


 それでも俺は鞘を離さなかった。

 視界の奥に文字が浮かんでいた。


―――――

【スキルツリー】

廃式奥義(リクレイム)


・銘……確定

廃式・(リクレイム)疾焔刃(ブラストエッジ)


▷風の残具で通り道を作り、暴炎の誤式で熱を乗せ、断斬の欠技で刃へ収束させる奥義。前方へ放たれた灼熱の斬撃は対象を断ち、刃が通った傷口を内側から燃やし尽くす。

―――――


「……成功……した?」


 声が震えた。


 ゴミ。失敗。

 誰にも拾われなかった残り滓。

 それらが今、初めて奥義()になった。


 焦げた匂いが夜の空き地に広がっていく。

 俺は壊れた鞘を握ったまま、しばらく動けなかった。


 割れた木箱も古い板も折れた棒も、全部が斜めに断たれている。

 ただ切れただけではない。

 斬撃が通ったところから内側へ火が入り、木の繊維まで黒く焼け切れていた。


 奥の石壁にも斜めの焦げ跡が残っている。


 ――俺が初めて撃った奥義。


「……本当に⋯⋯出た」


 嬉しさが遅れて胸に込み上げる。


 5年間、ゴミ拾いと笑われてきた。

 役に立たない職業だと言われてきた。

 剣も魔法も魔道具さえもまともに扱えない俺が、初めて自分の力で攻撃を撃てた。


 だが、喜びきる前に手の中の鞘がぎしりと嫌な音を立てた。


「……まずい」


 俺は慌てて鞘を見る。


 親方に補強してもらった革紐がもう焦げている。

 口金の隙間から白い煙がまだ細く上がり、鞘の先端には新しいひびが入っていた。


 壊れているから使える。

 だが、壊れすぎれば――もう器にはならない。


 俺は《廃品収納(ストックヤード)》を開き、さっき使った残式を確認した。


―――――

 《疾風・残具(ゲイル・ジャンク)》……消失

 《暴炎・誤式(フレア・エラー)》……消失

 《断斬・欠技(スラッシュ・ミス)》……消失

―――――


「……消えたか」


 分かっていたことだ。

 成功すれば、構成に使った残式は役目を終える。


 だが、実際に空になった表示を見ると、胸の奥が少し冷えた。

 

 スキルツリーの根が一つ、はっきりした色を得る。


―――――

【スキルツリー】

■《廃式・(リクレイム)疾焔刃(ブラストエッジ)


【構成情報】

疾風・残具(ゲイル・ジャンク)

暴炎・誤式(フレア・エラー)

断斬・欠技(スラッシュ・ミス)

―――――


 伸びて完成した根に触れると、リストが出る。


 残式そのものは消えた。

 だが、どう組み合わせれば《疾焔刃(ブラストエッジ)》》になるのかはスキルツリーの中にしっかり残っている。


 もっと質の良い残式を拾えば、威力や成功率も変わるかもしれない。

 そして、補助器を強くできれば、何度も撃つ反動にも耐えられるはずだ。


 成功したから完成じゃない。

 成功したことで、ようやく次の課題が見えた。


 俺は鞘を手に持ったまま空き地の廃材を片づける。


 焦げた木片を集め、飛び散った破片を《廃品収納(ストックヤード)》へ入れていく。

 誰かに見られる前に、なるべく痕跡を減らしたかった。


 だが、石壁に残った斬撃の痕だけはどうしようもない。

 黒く焼けた斜めの傷。

 そこだけ夜の中で妙にはっきり見える。


「……これ、明日怒られるかもな」


 そう呟いた瞬間、近くの建物の窓が一つ開いた。


「誰だ、こんな夜に何か燃やしたのは!」


「す、すみません! すぐ片づけます!」


 俺は慌てて頭を下げた。


 奥義が出た直後に怒鳴られるあたり、やっぱり俺は英雄にはほど遠いだろう。

 だが、不思議と嫌な気分ではなかった。


 宿へ帰る途中、夜風が焦げた鞘の匂いを少しずつ冷ましていく。

 腕の痺れはまだ残っていた。

 胸の奥にも撃ったときの熱がじんわり返っている。


 威力は申し分ないが、まだ危うい。


 ダンジョンで使うにはまだ怖い。

 人を助けるために撃った後、自分が動けなくなれば意味がない。


 宿の部屋へ入ると、俺は机に壊れた鞘を置いた。


 焦げた革紐。

 開きかけた口金。

 新しく入ったひび。


 そして、空になった残式の枠。


「必要なものは三つだ」


 まず、次に撃つための残式。

 次に、もっと奥義に耐えられる補助器。

 それから、撃った後も動けるだけの俺自身の力。


 俺はリストを開く。

 訓練場で拾った残式はまだある。

 ただし、《廃式・(リクレイム)疾焔刃(ブラストエッジ)》にそのまま使えるものばかりではない。


―――――

 《暴炎・誤式(フレア・エラー)

 《乱水・誤式(アクア・エラー)

 《旋風・誤式(エアロ・エラー)

 《崩土・誤式(アース・エラー)

 《跳雷・誤式(ボルト・エラー)

 《浅斬・欠技(シャロウ・ミス)

 《微光・残具(ライト・ジャンク)

―――――

 

 スキルの失敗(ゴミ)の山。

 でも、もうこれはただのゴミには見えない。


 ここから次の奥義がつくれるかもしれない。

 セラの暴発を直すヒントになるかもしれない。


 だが、俺は焼けて壊れかけている鞘が目に入り、深く息を吐いた。


「こっちが⋯⋯先か。⋯⋯また親方に見せるしかないな」


 こんな短時間で壊れてしまうとは――怒られる気しかしない。

 だが、行くしかなかった。


 ――壊れたまま強くする。

 ――ゴミのまま、役に立つ形に変える。


 それができなければ、俺の奥義はこのまま終わるだろう。

 机の上で焦げ付いた鞘が小さく軋んだ気がした。



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