第16話「ゴミ拾い、暴発を拾う」
セラは支給品の杖を胸の前で抱えたまま、不安そうにこちらを見ている。
自分がまた何かやってしまったと怯えている顔だった。
「あの……、何か、ありましたか⋯⋯?」
「いや、大丈夫だ」
セラはほっとしたように息を吐いた。
だが、すぐに視線を落とす。
「私、また失敗しました。普通に撃とうとしただけなのに、いつもこうなって……」
その声は小さく、最初から期待することを諦めているように聞こえた。
周りの冒険者たちはもう近づいてこない。
さっきの暴発で散った魔術を警戒しているのか、誰も文句を言いに来ない代わりに、最初からそこにいないものみたいに少しずつ距離を取っている。
その沈黙の方が、かえってきつく見えた。
セラの指が杖をぎゅっと握りしめる。
俺はもう一度、床の焦げ跡へ目を落とした。
普通に見れば、ただの火魔術が爆ぜた跡だ。
石床は黒く焦げ、的の手前には熱で白くなった筋が何本も残っている。
だが、『ゴミ拾い』のスキル――《小物拾い》で見ると違った。
火だけじゃない。
火の奥に、別の残式が細かく絡んでいる。
水の流れは途中で千切れ、風の押し出しは横へ逃げ、土の重さは火の膨らみを潰し、雷の跳ねは術式の端を裂いていた。
それぞれが大きく混ざっているわけではない。
火魔術の中に、ほんの小さな部品みたいに紛れ込んでいる。
だから、外から見れば火の暴発にしか見えないのだろう。
「セラ」
「は、はい」
「今の魔術、火を撃とうとしたんだよな?」
「はい、そうです。基礎の火球魔術です。先生にも、まず制御を安定させろって言われていて……」
「他の魔術を混ぜようとはしてない?」
「そんなこと⋯⋯できません。魔術の属性を混ぜるのは上級魔術師のスキルです。私は⋯⋯一つもまともに撃てないので⋯⋯」
セラは苦しそうに笑った。
その言い方で分かった。
本人は何が暴発の原因なのか本当に知らない。
何度も失敗して、何度も責められて貶されて、それでも原因だけは誰にも見つけてもらえなかったのだ。
俺は周囲の別の焦げ跡の縁に指を近づけてみる。
――《暴炎・誤式》を拾いました。
――《乱水・誤式》を拾いました。
――《旋風・誤式》を拾いました。
――《崩土・誤式》を拾いました。
――《跳雷・誤式》を拾いました。
――《廃品収納》に登録されました。
拾った瞬間、先ほどと同じように焦げ跡の残式が《廃品収納》に一気に入ってきた。
やはりセラの暴発は火の魔術だけの失敗ではないと断定していい。
「……ルーカさん?」
黙り込んだ俺を見て、セラが恐る恐る声をかけてくる。
「何か、変でしたか?」
「変というか……少し気になることがある」
「気になる?」
「今の焦げ跡、火だけじゃないような気がする」
いきなり俺が他の属性が混じっていると言っても、意味がわからないだろうが、伝えてみるしかない。
セラの目が揺れた。
「火だけ⋯⋯じゃない……?」
「ああ。火の失敗の奥に、別の残式が混ざって見えた。俺は魔術師じゃないから正しい言い方は分からないが、焦げ跡からは火だけじゃないように思える」
言いながら、自分でも慎重に言葉を選んだ。
俺に見えるのは、失敗した後に残ったものだけだ。
セラの魔術そのものを直せるわけじゃない。
それでも、この焦げ跡がただの火魔術だけの暴発ではないことだけは分かる。
「……じゃあ、私が⋯⋯制御が下手だからじゃないんですか?」
セラの声が震えた。
その一言に、今まで何度もそう言われてきた重さが乗っていた。
俺はすぐには答えられなかった。
下手じゃない、と簡単には言えない。
それで今すぐ魔術が安定するわけではないからだ。
だが、全部が本人の努力不足みたいに扱われるのも違う。
「少なくとも、今の跡を見る限り、失敗の原因は一つじゃない」
「原因が……一つじゃない……」
「火の中に、別のものが少しずつ混ざっていた。たぶん、外から見ただけじゃ分からないくらい細かく」
セラは杖を抱えたまま、しばらく黙っていた。
訓練場の奥では、剣が的を叩く音と、魔術が石壁へ弾ける音が続いている。
誰もこちらを見ていない。
冒険者たちはそれぞれが別の練習に戻っていた。
その中で、セラだけが足元の焦げ跡を見つめている。
「私、検査では火、水、風、土、雷の5つに反応が出たんです」
ぽつりと、セラが言った。




