48 骨霊将、仲間の隠し事を知る
森の匂いが薄くなるにつれ、
フォレストリア王国が近いことを三人は肌で感じていた。
レイセルは歩きながら、
道端に漂う小さな魂たちへ静かに手を伸ばす。
迷い、怯え、彷徨う声。
それらに触れ、整え、送り出す。
そのたびに、胸の奥に微かな温もりが灯り、
魔力が静かに満ちていくのを感じた。
リリはそれを横目で見ながら、
小さく微笑む。
ガオランは、何も言わなかった。
ただ、前を向いたまま歩き続けていた。
その背中に、
薄い影が差していることにレイセルは気づいていた。
夜。
フォレストリア王国の境界付近。
木々の密度が増し、
風の音すら吸い込まれるような静けさが広がる。
三人は焚き火を囲み、
これからどうやって国に入るかを話し合っていた。
〈リリ〉
「やはり影潜りで入るのは、やっぱり危険ですよね」
〈レイセル〉
「ああ。
フォレストリア王国は広く警備も厚い。
影潜りを見破るスキルを持つ者も多いだろう」
〈リリ〉
「無策で入ったら、すぐに囲まれてしまいますね」
レイセルは頷く。
焚き火の火が、
二人の顔を赤く照らした。
ただ一人、
ガオランだけが黙っていた。
腕を組み、
火を見つめたまま動かない。
その沈黙は、
“考えている”というよりも──
“押しつぶされている”ように見えた。
レイセルは静かに口を開く。
〈レイセル〉
「ガオラン」
ガオランの肩がわずかに揺れる。
〈レイセル〉
「ネクロマンサーの力を得てから
俺は“魂”だけじゃなく、
人の“心の色”も見えるようになった」
ガオランは目をそらした。
〈レイセル〉
「お前、何かを隠しているな」
焚き火が小さく弾ける。
〈レイセル〉
「その隠し事がお前自身を苦しめていることも、分かっている」
ガオランの拳が震えた。
リリが不安そうに二人を見つめる。
夜の森は静まり返り、
焚き火の音だけが響いていた。
ガオランはしばらく口を開けずにいた。
焚き火の光が揺れ、その影が彼の表情を曖昧にする。
やがて、
深く、重い息を吐いた。
〈ガオラン〉
「……悪い。
言い出せなくて、ずっと黙ってた。
レイセル、リリ……済まねぇ」
リリが小さく首を振る。
〈リリ〉
「ガオランさん……」
ガオランは火を見つめたまま続けた。
〈ガオラン〉
「フォレストリア王国での獣人の扱い……
ただ人間にやられっぱなしだったわけじゃねぇ。
俺たちも……何もしてなかったわけじゃない」
焚き火がぱち、と弾ける。
〈ガオラン〉
「元々、フォレストリアの国王は獣人だった。
だが……五十年前だ。
ドラガン商会が獣人の奴隷化を始めて……
気づいた時には、国王が“人間”に変わってた」
レイセルとリリが息を呑む。
〈ガオラン〉
「そこからだ。
獣人の扱いは地に落ちた。
捕まれば売られ、働かされ、
抵抗すれば殺される。
……そんな国になっちまった」
ガオランの拳が膝の上で震える。
〈ガオラン〉
「だから俺たちは立ち上がった。
フォレストリアを取り戻すために。
同じ志を持つ仲間が集まって……
“白虎の牙”って組織を作った」
リリが目を見開く。
〈リリ〉
「白虎……?」
ガオランはゆっくりとレイセルを見た。
その瞳には、
迷いと、覚悟と、恐れが混ざっていた。
〈ガオラン〉
「レイセル……
お前に会って、確信したんだ。
獣人を救って、導いて……
誰も傷つけずに前に進もうとするお前なら……」
言葉が震える。
〈ガオラン〉
「白虎の牙の“長”に……会ってほしい」
焚き火の光が、
三人の間に静かに揺れた。
ガオランの告白は、
夜の森に沈むように重く響いた。
レイセルは、
その言葉を静かに受け止めていた。




